夏のごっすん祭り



<オープニング>


 夏、真っ盛り。猛暑という暑さを超えて酷暑と呼ばれる夏の日、夜闇の霊査士・ミッドナー(a90283)はダレていた。
「あれ、ミッドナーは?」
「……さっき、暑いとか呻きながらフラフラしてたが」
 トレジャーハンター・アルカナ(a90042)の問いかけに、酒場の隅で置物のようにじっとしていた緑の影・デスト(a90337)が答える。
 彼の前に置かれた古びたカップの側には大きなデカンタが置かれているが、もう中身が無くなって随分たつのだろう。水滴の一粒すらついてはいなかった。
 その机の側に空の樽が転がっている所を見ると、こっちのデカンタはデストの分なのだろう。念の為樽の中を覗いてみるが、その中にはミッドナーはいないようだった。
「んーと……」
 その辺の涼しそうな隅っこには同じようにダレた冒険者達が転がっているが、ミッドナーは居ない。
「ここかな……?」
 積んである樽の上にも居ない。
「となれば……」
 樽を1つ1つノックしてみると、ワインの詰まった音とは明らかに違う音が1つ返ってくる。
 その樽を開けてみると、いつもに増してやる気の欠片も見えない霊査士が転がり出てくる。
「……うー、今日はお休みです。お休みなさい」
「あー、もう! 夏でもそんなスーツ着てるからなんだよ!」
 アルカナは無理矢理ミッドナーを樽ごと転がすと、そのままテーブルの前まで連れて行く。
「樽詰めミッドナー入りましたー」
「……そうか。それは旨そうだ」
 どうやら、デストのほうもダレているらしい。明らかに適当な相槌を返している。
「じゃあ、2人とも。出かける準備するんだよ」
「断る」
「嫌です」
「拒否権なんか無いんだよ」
 一瞬の攻防で勝敗が決まる。この酷暑の季節においては、ダレていない人間のほうが遥かに強い。
 いつもの光景といえばいつもの光景ではあるのだが、「出かける」という言葉に反応して何人かの冒険者達が集まってくる。
「暑気払いのお祭りをやってる村があるんだよ。皆ダレてるみたいだし、丁度いいでしょ?」
 そのお祭りとは、この暑さに耐えかねた「ゴッスン村」の村人達が今年から開始した「ごっすん祭り」。
 一年を通して採れる特産の「ごっすん」という果物を頭に載せて、棒で互いの「ごっすん」を砕くという遊びである。
 この「ごっすん」という果物は大きさに似合わない大量の果汁が特徴で、割ると赤い果汁が大量に出てくるのである。
 故に、勝てば暑さを忘れられるし、負けても頭から「ごっすん」の果汁をたっぷり浴びて涼しいかもしれない……というわけである。
「じゃ、決まりなんだよ。ねえねえ、皆も行くでしょ?」
 アルカナはそう言うと、集まっていた冒険者達に元気に笑いかけるのだった。

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参加者
NPC:夜闇の霊査士・ミッドナー(a90283)



<リプレイ>

「ボクはこういうのを待ってた!」
 真夏の太陽の下でシグルド流護法闘士・ガラン(a66761)は叫ぶ。
 此処はゴッスン村。「ごっすん祭り」が行われる会場である。
 入り口にはすでにブロンズのごっすん像に扮した漢・アナボリック(a00210)が陣取っており、トレジャーハンター・アルカナ(a90042)が不振そうな目で見つめている。
「正直溶けるよね、この暑さ……」
「そうですね……この辺りだと木陰も見当たりませんしね」
 歩く太陽・ミサオ(a67444)に、白翼の詩人・ライナ(a66736)は恋人の身を案じて木陰を探すが、辺りの木陰は村人達がすでに溜まってしまっている。
「今年の夏最後の思い出だーっ!! すっげぇ楽しそうで、わくわくだぞっ」
「オレもとっても楽しみだ。体動かすのは好きなんだ」
「だよなあーっ!?」
 そう言って笑いあい、開始を今か今かと待つのは緋天影の漆風・ナオ(a32775)と深紅の疾風・ヒイロ(a67550)。
 どうやら、参加者達のテンションは主に3つのレベルに分かれているらしい。
 すなわち、ガランやナオ、ヒイロ達のようにテンションが絶好調のタイプ。
「こういう勝負は勝っても負けても恨みっこ無しだよね〜♪」
「まあ、やるからには俺達も当然最後まで生き残るつもりだけどな」
「暇を持て余してた分、思いっきりな」
 こうして初対面の人間とも簡単に打ち解けてしまう「夏を味方につけた」タイプは、非常に強いと言えるだろう。
 そして、ミサオやライナ達のような、少々ダレているかダレていないかギリギリの、普通のタイプ。
「目指すは優勝、それだけじゃな」
「ボクも優勝目指してがんばるなぁ〜ん」
「ごっすん祭、やるからには勝ちたいなぁ〜ん!」
 とはいえ、光纏う黄金の刃・プラチナ(a41265)や森羅万象の野獣・グリュウ(a39510)の様子を見れば分かるように闘争心は失っていないし。
「グリュウと二人で協力して目指せ優勝なのなぁ〜ん!」
 この二つ目のタイプの場合、あなたを照らす光になりたい・ライト(a47587)のようなテンションの非常に高い相棒を連れている場合もある。
 この場合には、総合戦力としては一つ目のタイプにも引けはとらなくなってくる。
 なおかつ、テンションだけではない冷静な目を持てるのも二つ目のタイプの特徴といえる。
「あつい……私、帰っていいですか……」
「……不運だと思って諦めろ」
 そして、夜闇の霊査士・ミッドナー(a90283)や緑の影・デスト(a90337)のように完全にダレている三つ目のタイプ。
 このタイプはすでに勝利を捨てており、会場を見渡してもそんなのは、この二人だけである。
「よぉっし、最後まで残ってミッドナーさんに頭なでなでしてもらおう!」
 そんな溌剌と舞う銀焔・ディート(a66461)の言葉にも、ヒラヒラと手を振るばかり。
「ミッドナーもせっかくだから参加すればいいのに」
「……私の分も頑張ってきてください。凄いですよ、2人分のパワーです。もう怖いものないですね」
「暑さでダメになってるなあ、こりゃ……」
 彩雲追月・ユーセシル(a38825)の言葉にも何だかよく分からない返事を返すミッドナーの様子に、笑う世間は鬼ばかり・エルゲス(a12525)は思わず頭を掻く。
 これは放っておいたほうがいいかもしれない。
 空気読まない・ゼソラ(a27083)に思い切り抱きしめられているが、暑いと呻くばかりで抵抗する様子すらない。
「さあー、お集まりの皆様、お待たせ致しました! ごっすん祭りを開催いたしますよー!」
「うふふ……絶対負けてなるものですかっ!」
「元気いっぱい走り回って楽しむんだよ♪」
 硝華・シャナ(a52080)や仔狐・エミリオ(a56971)が早速走っていき、そのエミリオの後を追うかのように踊る黒い猫・レイオール(a52500)が走っていく。
 そう、いよいよごっすん祭り……平和にして過酷なバトルロワイヤルが始まるのだ。
「よっしゃ、いくぜっ!」
 自分の頭より大きな「ごっすん」を乗せた黒き炎を身に纏い・アニヒタ(a52875)が叫び。
「……暑いのって苦手なんだけど……まぁ、やるからには全力で行こうか」
 少々やる気の無いように見える憂切策要・ヒノエ(a64878)は棒を軽く素振りする。
「まあ、上手く立ち回らせてもらうか」
 透色・レシルカ(a64761)は、仕方なさそうにゆっくりと歩いてくるデストを見て、適当な挨拶をする。
「……やあ」
「……ああ」
 アルカナに早く歩けと蹴られている姿が何とも微笑ましいような痛々しいような。するべき会話が浮かばなかったというのが本音であった。
「それでは……スタート! 再度私がファイト、と叫んだら交戦を開始してくださいませ!」
 そんな監視員の言葉に、選手達はダッシュで答える。
「自分のごっすんを守れれば勝ち……速く動いて、速攻を決めるからね〜♪」
 リザードマンの翔剣士・レイト(a67181)はそう呟いて、ダッシュをかける。
 確かな勝利には、有利な陣地から。全ての戦法に通ずる基本であった。
「では……ファイト!」
 その宣言と同時、エミリオとガランが早速打ち合いを始める。
「もっちもっち♪」
「ぬっ、この……とりゃあっ!」
 二人の実力は拮抗……いや、ガランが少し有利だろうか。
 その様子をレイオールは見守っているが、突然気配を感じて棒を振り上げる。
 ちなみにこの大会、基本的には自分の資質に頼らざるを得ない。
 レイオールの磨き上げた「技」が、相手の練り上げた作戦に僅かに勝ったということか。ギリギリのところでレイオールのごっすんは襲撃者から守られる。
「……む、やるね。完全に不意打ちだったはずなんだけど」
「いや、今のは危なかったよ」
 互いに健闘を褒め合うレイオールとユーセシル。奇襲に失敗したユーセシルは早くも逃げの姿勢だが、それもまた作戦である。
 何しろ、戦っているのは彼等だけではない。先程からゼソラが二人の隙を伺っているし、何処かに隠れたのかレシルカの姿が見えない。
「攻撃は最大の防御なぁ〜ん」
「……む」
 早速グリュウに追い詰められているデストの後ろでは、その後ろに隠れていたシャナが、背後からデストのごっすんを叩き割ろうとしていたライトと対峙している。
「私のごっすんは! 絶対に! 潰されないのですわー!」
「でも、あと一歩下がると落とし穴があるなぁ〜ん」
 思わず足元を見たシャナは、すでにライトの策にハマっている。
「ウソなぁ〜ん!」
 パキャッ、と軽い音を立ててシャナのごっすんが割れて果汁が飛び出す。
 まるで大量の血か何かのように真っ赤なごっすんの果汁だが、どうにも「実」というものがありそうにない果汁の量だ。
「さすがライトなぁ〜ん!」
 デストの棒を弾き飛ばしたグリュウがデストのごっすんを割り、グリュウとライトのコンビは一番乗りで勝ち星をあげる。
 とはいえ、これはバトルロワイヤル。まだまだこれから勝ち抜かなければならない。
「目がくらんでしまえ!」
 太陽を背にしてヒイロと打ち合うミサオだが、冒険者の目はそう簡単に眩まない。
 多少正気を取り戻したらしいミッドナーの提案で攻撃・状態異常アビリティは禁止されてしまったが、まだ運は向いている。
 ナオと打ち合っている所にゼソラが走ってくる。彼女の意識をナオに向ける事が出来れば、あるいは。
「むむ、これはちょっとマズいかもなあ」
 無論、ナオとてそれは理解している。どうするべきか戦略を練っているのは間違いない。
 素早さでは僅かにヒイロに敵わないとみたミサオは力押しに切り替え、これがかなり拮抗してしまっている。
 所謂「千日手」では、バトルロワイヤルには勝てない。
 ゼソラはエルゲスと打ち合いを始めてしまい、こちらもまた拮抗している。
「賞品をゲットするのは俺だぁ!」
「むむ、もっと地味にいくつもりだったんですけどねー」
 最終的にどちらが勝利を収めるかは分からないが、おそらくは勝利者がこちらの戦線に突っ込んでくるだろう。
 ならば引き際を見極めて最終的な勝利を狙うべきか。緻密な計算か、単純な力か、鍛錬された技か。
 全てが拮抗するごっすん祭りは、意外にもこういったものが鍛えられる競技なのかもしれなかった。
「……暑いですねえ」
「そうだね……」
 ダレているミッドナーと熱中症寸前で担ぎ出されたヒノエは屋根の下でネコのように横たわり。
「せめてごっすんでも飲んで涼みなよ」
 ごっすんに管を刺して果汁を飲むユーセシルは、すでに負けており。
「うん……なんと言うか童心に返ったみたいで、こういうのも悪くないな」
 そんなユーセシルと相打ちしたものの、思い切り健康的な汗をかいたレイオールもまた、ごっすんに管を刺す。
 夏、まっさかり。ごっすん祭りは参加者達の体力の低下とともに佳境を迎えていく。
「ぶえっ、鼻に入った!?」
 ごっすんの大量の果汁を頭から浴びたアニヒタが叫ぶ。
 ここにきてハイドインシャドウで機会をうかがっていたレシルカが参戦してきたのだ。
 これまで体力を温存してきたレシルカであればこそ、体力の減ったアニヒタに正攻法で勝利できた。これこそ頭脳の勝利と言える。
「そうそう面白いお酒を見つけた故、ミッドナー殿如何かの」
 プラチナの言葉が聞こえているんだが聞こえていないんだか分からないミッドナーをもっと涼しげな奥に押しやりつつ、エミリオとアルカナは楽しそうに談笑する。
「なんだか楽しいね♪」
「うん、負けちゃったけど満足なんだよ」
 選手の残り人数も充分に減り、いよいよ佳境であった。
「ふえぇ、負けちゃったかぁ」
 負けて戻ってきていたディードの頭を、やっと復活したミッドナーが軽く撫でる。
 まだボーっとしているようには見えるが、それはいつもの事だ。
「うーん、ヒイロと最後に一騎打ち……ってわけにはいかなかったかー」
「ま、勝負ってのはそんなもんだろ」
 最後に残ったのは、ナオとエルゲスの二人。
 互いに棒を構え、少しずつ間合いを測る。
「ま、互いに余力もないし……真っ向勝負か」
「だな。楽しくやれたし、ここまで来たら勝たせて貰うぜ」
 そうして、互いの棒が交錯し……最後に無事な「ごっすん」を頭に載せていたのは。
「優勝は……エルゲス・ロード選手! 準優勝はナオ・ヒュウガ選手!」
 高らかに、勝利者の名が叫ばれて。
「惜しくも勝利を逃した皆さんも、素晴らしい試合でした! 皆さん、惜しみのない拍手を!」
 こうして、夏のごっすん祭りは幕を閉じ……参加者達は、互いの健闘を称えながら帰路につくのだった。


マスター:じぇい 紹介ページ
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参加者:20人
作成日:2007/09/01
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