【読書の時間?】二百五十六角館の殺人



<オープニング>


「『256の部屋と256名の住人、正256角形の外貌を持つ256角館が殺人鬼に狙われた。

 極度の偶数恐怖症であるこの殺人鬼は館の住人を次々に惨殺していったが、ある時点で非常に限の良い人数を殺したことに気づいたため、満足して殺すのを止めた。

 味を占めた殺人鬼は近所にある66角館や300角館でも同じだけの人数を殺したが、48角館や94角館、144角館ではやらなかった。

 やがて殺人鬼は自分の身体の各部も偶数個あることに思い当たってしまい、恐怖のあまり自分を壁に塗り込めて死んだ』

 ……偶数忌避の偏執狂にキリが良いと思わせる数ですか」
「例によって、その暗号はある古城に隠された宝物庫の在り処を示すことが霊視で判明しました」
「古城には256の部屋がある?」
「流石にそんなにはありませんが、部屋は108号室まであります。各部屋に1から108までの番号がふってあるんですね。
 城は荒れ果て、敵が巣食っています。奴等を駆除して財宝を見つけて下さい。発見の暁には好きな財宝をひとつずつ持ち帰って構いません」
「敵とは?」
 カロリナの問いに、イストファーネは辺りを憚るように見回した後、そっと奴等の名を囁く。
 どうか食事中の人がこの名前を聞きませんように。

「ゴキブリです。突然変異で体長二メートルまで巨大化した凶暴なものが十匹、巨ゴキに統率される一般ゴキは無数にいます」
「ゴキブリの種類は何です?」
「一般家庭にもいる普通の奴ですが、それが何か?」
「いえ、種類によってはあれでしょう?」
「……では、お任せしましたよ」
 どれなのか感づいたイストファーネは耳を塞いで聞かなかったことにした。

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参加者
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
北落師門・ラト(a14693)
緩やかな爽風・パルミス(a16452)
雷獣・テルル(a24625)
樹冠の月・ニコ(a29692)
幸せを呼ぶ黒猫・ニャコ(a31704)
緑風に舞う白銀の羽根・フェニール(a33093)
寵深花風なリリムの姫宮・ルイ(a52425)
NPC:次のページへ・カロリナ(a90108)



<リプレイ>

●正解
「なぞなぞさん♪ なぞなぞ♪ なぞなぞ♪ 謎なの〜♪」
 寵深花風なリリムの姫宮・ルイ(a52425)は意気揚々と謎に立ち向かおうとしている……しているだけで、何も分かっていない。おやつのバスケットとジュースの水筒を持って、「えいえいお〜♪」と楽しそうにしていた。

 他の者は古城へと向かう道中、暗号の答えについて思い思いのことを言い合う。
「29か? ……いまいち確信が持てんな」
 北落師門・ラト(a14693)が無表情に言った。
「こういうの、初めてです。99……かな?」
 樹冠の月・ニコ(a29692)が途切れがちな声をあげた。
「49です〜」
 緩やかな爽風・パルミス(a16452)は間延びした喋り方で解説する。
「49(死苦)って語感が〜、殺人鬼さん的に気に入ったんだと思います〜。引いた後の数字が〜、素数になるのもポイントだと思います〜。
 66-49=17と〜、300-49=251は素数ですけど〜、48からは引けませんし〜、94-49=45と〜、144-49=95は〜、素数じゃないです〜」
 ここまで言って、少し首を捻る。
「でも〜、偶数じゃないですから〜、ひょっとして関係ないかも知れませんね〜。
 ただ〜、最初は〜、数字の中に偶数が入らない数と考えたんですけど〜、66以上は引けませんから〜、300がどうしもて200台になるので〜、この線は無いと思うんです〜。
 なので〜、財宝がある部屋は〜、49号室か〜、108-49の59号室ですね〜」

 さて、残る四人の意見は一致していた。
「ニャコちゃん謎解けたにゃ!」
 幸せを呼ぶ黒猫・ニャコ(a31704)が目を輝かせた。
「限の良い数とは何か考えてみるのにゃ。限る数にゃ。1とその数に限って割れる数にゃ」
 人差し指をぴっと立てて講義する。
「それは素数にゃ。パルミスちゃんも素数に注目していたけど、惜しかったのにゃ」
「256から、殺人犯の好きな奇数でしかも割り切れない素数でもある数を引いて、答えも奇素数になる……ってこと、かな。それが一番限が良い」
 雷獣・テルル(a24625)がニャコの跡を継いだ。更に、想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)が続ける。
「256から59を引くと197、素数になるわ。同じように66、300から59を引くと7、241になって全部素数。
 48から59は引けないし、94、144から59を引くと35、85で、素数にならない」
「他に条件に当てはまる数はありませんから、宝物庫に通じる部屋は59号室です〜。Q.E.D.」
 緑風に舞う白銀の羽根・フェニール(a33093)が綺麗に纏めた。

「256角館……って、何だか、前本で読んだ……何だっけ。『何とかィンダロスの猟犬』とかが出そうだよなぁ。まぁ実際にあるわけじゃないけど……そういう話なのかな。この暗号の殺人鬼って」
「256人中59人を一人で殺すんですから、ただごとではないですよね。私としては、実は館の住人達は素数狂信団体で、殺人鬼に丁度良い人数だけ殺されるのが儀式の一環だったとか……」
「でもまぁ、暗号に意味なんてないか。うん」
「それを言ったらお終いですね」
 テルルとカロリナがどうでもいい雑談を繰り広げている間に、やっと古城に到着した。

●彼の名をみだりに口にあぐべからず
 覚えているだろうか? 折に触れ、祖母が語ってくれた言葉達を。想像もつかない年月の深みに、信じ難い物語に、私達の心は畏れ、原初の恐怖を呼び起こす……。

 一匹の存在が、その背後に潜む百匹を証明する。音なうことなく来たり、暗闇に融和し飛翔する。この世の滅びが訪れた後に、彼等こそが生き延びて支配者となる……。

 そんなようなことを、ニコは祖母から聞いていたらしい。
「……と、お祖母さまが、言ってました。……虫は、平気ですが、あれは……」 
「で、でも宝物の場所は分かってるから、大きなGには逢わなくてすむにゃ。……え? 大きなGは倒すのにゃ?」
 さあっと、ニャコの顔から血の気が引く。ちなみにGはゴキブリの略称である。
「ダッダイジョウブデスニャ。Gナンテコワクナイデスニャ」
 何だかカクカクした喋り方になってしまった。
「本当に大丈夫ですかね〜」
 ニャコを心配して着いて来た形のフェニールが、ちょっと困った顔で言った。

「扉を開けたら大冒険の始まりなの!」
 ルイが宝探しの興奮に目を輝かせながら、城門をくぐり城館の扉を開け放つ。
 城館のホールは、黒一色に埋め尽くされていた。微風にそよぐ無数の触覚で、侵入者を脅す壁の意匠などではなく、本物のGだと分かる。
「……別に苦手でなくても『大量にいる』というのは意外と生理的なダメージがあるな」
 ラトが冷静に呟いた。
「あわわ、あわわ」
 ルイはふらふらとラジスラヴァの後ろに隠れ、その服をぎゅっと掴んだ。眠りの歌を歌おうとするが、恐怖のあまり上手く集中できない。ちなみにラジスラヴァは隙間のない厚手の服にフードを着用し、他の者はラトが用意していたマントで頭と身体を覆っている。

 Gの塊としか言いようのないものが、わさわさと近寄って来た。
「きゃぁ〜! いやなの〜!」
 ルイは悲鳴をあげてぱたぱた逃げ出し、何もない地面で転ぶ。
「大丈夫ですか。ヒーリングウェーブを」
 ニコが少し離れた木陰から駆け寄って、ルイの擦り剥いた膝を治した。カロリナは感心する。
「何時の間にかあんな遠くまで逃げているなんて、足が速いんですね、ニコさん」
「ええと、その……」
 そんなことを言っている間に、Gの塊は冒険者達の眼前まで来ていた。ばっ、と弾けると中から翅を開いた巨大Gが現れる。どうやら巨大Gの体表に一般G達が張り付いていたらしい。
 一般Gのみに対してアビリティを使っていたら、いざという時にアビリティ切れを起こすかも知れない。そう思って攻撃を我慢していたラジスラヴァだったが、巨大Gも一緒ならばアビリティを使うべき時である。ファナティックソングをホールに響き渡らせた。
 ぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちっ、ぐしょぐしょぐしょぐしょぐしょぐしょぐしょぐしょぐしょぐしょっ。
 体液を噴出し、巨大Gも一般Gも無残に潰れて床に降り積もっていく。ファナティックソングの射程外だったものはカサカサと城の奥へ逃げていった。
「うふふ、ふふ……」
 使った本人は恍惚状態になって難を逃れたようだが、仲間の一部は涙目になっている。平気な者が死骸を掃除して道を作った。
「衛生的な観点において大いに問題がある。止めておけよ」
「そうですよ〜。お弁当ありますから〜、これで我慢してください〜」
「ラトさん、パルミスさん、私のことをそんな風に思っていたんですか?」
 掃除をしながら釘を刺してくる二人に、カロリナは反論する。
「こんな焼いたらほとんど食べる所が無くなりそうな生き物に大事な燃料を使うほど、私は無計画じゃありません。もっと大きい種類じゃないと……」
 ようやくホールを通過して、城の廊下に入る。

「せ、せめて、気分だけでも、明るくしましょう……!」
 ニコが色とりどりのホーリーライトで辺りを照らした。廊下を駆け抜けていく一般G達の翅も色とりどりにてらてら光る。
「こ、こういうのは男の仕事だしな」
 テルルは心の中で泣きつつ最前線を歩む。
(「しないで済むにこしたことないけど」)
「苦手な者を矢面に立てるわけにもいくまい」
 テルルと並んで歩くラトが言った。時々ホーリーライトに向かって突っ込んで来るGをマントで防ぐ。剣風陣は特に効果がなかった。
「私は隊列の中心で仲間が傷ついてもすぐ回復出来るよう……って、なんで前の方に押し出されてるんでしょう?」
「ニャコチャンGナンテコワクナイニャ」
 フェニールを前に押し出し、ニャコはその影に隠れて進む。ニャコの影にはぶるぶる震えるルイが続いた。
 前方のテルル、ラト、フェニールに対してパルミスとカロリナが後方につき、ラジスラヴァ、ニコ、ニャコ、ルイを中央に庇う形で進んでいく。

「皆さんは下がっていて下さい〜」
 遭遇した二体目の巨大Gに対し、パルミスがトラップフィールドを展開した。一般G達は降ってくるタライで瀕死になり、巨大Gだけが顎を広げて飛びかかってくる。身を躱して粘り蜘蛛糸で拘束し、蛇毒刃で止めを刺した。

「寄るにゃぁ触るにゃぁ近寄るにゃぁぁぁ」
 大量に上から滑空してきたG達にパニックを起こしたニャコがデンジャラスタイフーンを放った。空気の渦に触れた一般G達が悉くバラバラにされていく。
「ニャコちゃん、落ち着いて〜」
「……にゃっ!」
 フェニールの声が、ニャコに正気を取り戻させた。タイフーンに耐えた三体目の巨大Gに、気を収束させた両腕で狙いをつける。撃ち出された気の大砲で、巨大Gは粉々になった。

 その後も次々に現れる巨大Gをラトのニードルスピアやテルルの電刃衝が倒し、
「こ……来ないでくださいー!」
 ニコのブラックフレイムで最後の巨大Gが炭化した。倒した敵の為に、ニコは手を組み膝をつき祈る。
「く……黒光りの魂に、永遠の安らぎを……」
「律儀なんですね、ニコさん」
 カロリナがまた感心した。巨大Gがいなくなった後は襲われることもなく、冒険者達は59号室の扉を開く。

●宝物
 59号室は変哲のない物置に見えた。しかし四人の答えが一致した以上、暗号の謎解きは間違っていないはずである。
「『自分を壁に塗り込めて死んだ』って事だから、壁の中かにゃ」
「え、え〜と、このへんでしょうか〜」
 フェニールが壁を叩き、反響の違う一帯を見つける。ニャコが爆砕拳で壁を壊すと、大きな宝箱や立派な武具の並ぶ宝物庫が広がっていた。丁寧に塗り込めてあったらしく、害虫の姿はない。
「やりましたの。宝物ですの♪」
「良かった、ですね」
 素直な喜びを表現しつつ、一同は宝を漁る。
「何をもらおうか……そうだ。こう虫が沸きやすい場所なら……」
 テルルは虫除けの香を、
「あ、これかわいいかもです〜」
 フェニールはぬいぐるみを、
「これは、この城の主かしら?」
 ラジスラヴァは肖像画を手に入れた。
 カロリナは見つけた書物をニャコとラトにも分ける。
「やはり書物は全人類的財宝ですね。ちゃんと置いてありました」
「ふむ」
「にゃ……!?」

 それぞれ目当てのものを手に入れた冒険者達は、入ってきた城門を逆方向にくぐる。巨大な支配者が滅びた以上、早晩消滅し人間に地所を明け渡すであろう、黒いものどもの楽園に思いを馳せたり馳せなかったりしながら、家路に就いた。


マスター:魚通河 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2007/09/19
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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雷獣・テルル(a24625)  2009年09月12日 17時  通報
俺にも謎が解けたよ!やったよカロリナさん!!(ぉ)