<リプレイ>
●シェルシェの森 「お互いの健闘を祈るよ」 こんな機会は久し振りなのだから帰りには合流して一杯飲もう、と笑い掛けてアリューダは森に入った。彼女を見送ったシリウスは途端に疾走する。殺伐とした世の中にも、血の繋がりよりも強く暖かな繋がりが存在すると教えてくれた彼女に、愛情を篭めて仄かに輝く幻煌石を贈りたかったのだ。 菓子を代価に同行して貰えないかとエルスは申し出たが、甘い物は苦手なものですから、とエテルノは微笑んで辞退する。足元に気をつけてと見送られ、森の動物たちも寝静まっているのだろうから絶対に泣かぬと心を決め、彼女は祈るように森に入った。精一杯の口調で、アテカも彼に呼び掛ける。自分が此処に居ると月に伝えられるのだ、と生まれた森の話もすれば、月明かりが届かぬ森になど入らず外に居てやれば如何かと微笑まれた。 リューは王女の手を取り木々の間に誘う。ベアトリーチェは柔らかな表情を浮かべては居たけれど、時折ふと垣間見える憂いのようなものが今日は濃いように思われて彼は唇を引き結んだ。夜の森は何処か懐かしく、携えた剣もまた過去を呼び起こす。自分の心が捉え切れずに、導を求めるような心地でセルフィは道無き道を進んでいた。 星も見えない森をひとりきりで歩いて行く。自分の手は未来に何を掴むだろうか、とリナリーは静かに自問した。永き歳月に渡り多様な生命を育んで来た森を前にすれば、意識出来ぬ驕りさえ抜け落ちて行くようだ。ラングは足を止め、耳を澄ました。遠くから微かに、川のせせらぎが聞こえて来る。 アキュティリスは闇を目指していた。風が運ぶ香りを手繰るように目を伏せ、朽ちた木々に手を添え、戻ることなど求めず無心に進み行く。存在すら確かで無いものを、当て所無く探し求めていた。待っているのは誰なのか、と己が心を振り返る。 何を想えば良いのかと胸中を探るも、巡り合った覚えの無い「良いこと」などメリルには浮かばない。だから、納得出来ないまま終わらないよう、森を行く今のように彷徨い続けるのだろう。一瞬一瞬を理想を目指す打算に費やし、自分の遣り方で冒険者として生き続けようとアスゥは独り考える。森は、在るがままに在ることで確かに何かを成しているのだろう。 エンは、苦しさを拭う証を求めた。心の中で責め続けてしまうのでは、と案じ続けていた想いさえ届かないように思える。探しているものは此処に在るような気がして歩き続け、オリエは心に浮かぶひとつの煌きに目を落とした。認めてしまえば自分すら壊れるような、強い恐れが渦巻いている。 突然、燐光が瞬いた。 「……綺麗」 枝から飛び立つ小鳥のように、脈絡無く彼女の前を蝶が舞う。 目を背けるのは仕舞いだと、燈った光は消さずに生きると、想いは既に決められていた。
●さがしもの 朽ちた枝が、靴裏で湿った音を立て折れる。 眠る動物たちを驚かせては居ないかと、ユーリィカは確かめるように周囲を見回した。動くもの鳴くものは無く、安堵と共に次を踏み出す。取り留めの無い思考を重ね、結局は選択なのだと自嘲的な笑みを浮かべた。アオイは目を閉じれば思い浮かぶ、蒼の輝きを探している。逢えれば何より嬉しいだろうが、と今はただ先を望んだ。 大切な人に纏わる喪失の記憶は、深くヴァイスに刻まれている。けれど自身が冒険者である意味を見失うことは無い。自身の心を映すと言うなら、幻煌石はどのような色を宿しているのか。示されたものに従うばかりでは無く、自分自身で目的を見出すことは出来ないのかとシュンは自問する。悲しみを塗り替える煌きは、映したように真紅だろうか。偽りの無い自らの住まう胸元に軽く手を当てて、ソフィアは過分な幸せに応えたいと願った。 ミレイナは歩き続けながら、多くの出会いを思い返していた。寛大な自然に囲まれた世界が辿る未来を見届けたいと歩む道を意識する。濃い緑の空気を、ニコは胸一杯に吸い込んだ。夜の森は冷たくも優しい。懐かしさは約束を振り返らせ、故郷を想えば抱く決意が新たになる。明かりには頼らず、エルは心の支えを求めていた。蝶の光を見出せば、足をそちらに向けてみる。 笑顔を護ることが出来るのか、と不安ばかりが湧いた。誓いを果たせているのかと、不甲斐無さも覚える。けれどジェネシスは、黙々と前に進み続けた。強い想いの無い自分には見出せまいと諦めながら、欲しくも無い幻煌石をエルサイドは目指す。人に会えば逃げようと思うのに、闇に見出す光が誰かの瞳であればと矛盾した期待を抱いていた。 「なぁんななぁ〜ん♪ ……なぁ〜ん」 カナリーは不意に足を止める。如何すればと尋ねるように舞い飛ぶ蝶へ手を伸ばした。 「……寂しいの、なぁ〜ん」 時には限りがある。けれど、失われ行くことが怖い。答えは、胸の中にある。 大樹に凭れ、フェレンは想いを確かめていた。安穏とした暗闇に心が落ち着けば、漂う空気の清涼さを感じる。望み得た「冒険者」ならば、険しさを全て乗り越えることが出来るだろう。様々な世界の美しさを知りたいと、望む想いが届くか否か尋ねる心地で、彼は再び歩き出す。朝までに戻り、暖かな紅茶を皆と楽しめたのなら、それは幸いに違いない。 夢を見れぬまま溜息を吐き、求めるものも知らぬまま、イドゥナは淡い蝶の輝きに足を止めた。導かれたかと手近な木の根に腰を下ろし、微かな光が樹海に消え行く様を見届けて、彼方を探り目蓋を閉じる。荊棘の霊査士・ロザリー(a90151)は見つけた影に近付いて、しゃがみ込んでから首を傾げ、何も言わずに暫く其の侭で居た。
●蝶の舞う水辺 暗い夜の森それ自体が、心を映しているように思う。 進み方など判らず、ともすれば躓いてしまう闇の中で、バーミリオンは誰かの言葉を反芻した。迂回し、引き返す道程にも恐れは無い。光が背を押してくれたから、前にだけは進み続ける。ガルスタは死を恐れ、逃げた過去を思い出していた。冒険者となった後には護るために死にたいと再び逃げ道を探し、そして出逢いに救われたのだ。護るために生き、強くなると誓った心を意識する。 ロザリーを見つけたユーティスは、彼女の希望を確かめた後、少しばかり話をした。廻り何れは還るのだろうと告げれば彼女は僅かに俯いて、今は未だ良いなんて思えないのだと小さく洩らす。 道に迷ってしまえば良い、と手放しな思いが湧く理由にも心当たりがある。結局のところ何をすれば良いのかだけ、エリスには判らない。ぼんやりしていると、ベアトリーチェに声を掛けられた。偶然、方角が重なったのだろうか。御久し振りです、と王女は笑顔で挨拶するに留めた。 「蝶ってさ、何だか見てると悲しくなるんだよね」 綺麗だけれど儚く、ふわふわ飛び去ってしまいそう。不変のものは無いと知りつつ、ショーティは停滞すら願えるのだと戯れに吐いた。微笑む王女に、御自身と民を信じてください、とルニアが言う。王女は僅かに笑みを深め、わたくしは貴方に如何見られているのかしら、と瞳を細めた。 暁過ぎの淡い青空を思わせる幻想的な煌きを追う。 未熟を言い訳にせず努めて来たのに、未熟さを欠点と抑えつけられたことが悔しかった。差を埋めたいけれど、過ぎた力は欲しくない。苦しむレミールが目に留めた蝶の輝きは、胸に燈った誇りを強く感じさせる。抱えていた不安は暖かな眼差しで勇気に変わった、とソウジュは蝶に小さな声で語りかけながら舞い遊ぶ蝶の道行きに沿った。 眠る森を脅かしてしまわないよう、リィフィアは鏡のような川の水面に手を伸ばす。緩く広がる波紋は人の想う心のようだ。世界は苦しいことばかりで出来ているのでは無いと、彼女は既に知っている。例え儚くとも大事に出来るものなら大切にしたい、と呟きながらイリアは蝶を目で追った。ユヴェールは少し照れたように、私の大事な煌きは貴女の笑顔だと彼女に微笑む。 闇に踊る蝶の輝きが映り込む黒い水鏡を見遣ったエフェメラは、伺うようにハワードへ視線を移した。お前がいつもより綺麗に見えると囁いて身を寄せた彼に、馬鹿者、と彼女は淡く苦笑して返す。カムイは微笑みながら少女の手を取り、彼女を水辺へ導いた。歩む時間さえ掛け替えの無い今日の想い出に変わると確信し、ロードから向けられた言葉の温もりに幸福を感じる。いつも誘って頂いてとても嬉しいと彼女が礼を述べれば、彼は愛しげに目を細めてそっと肩を抱き寄せた。 柔らかな髪を指で梳くように優しく撫で、大人びた貴女はとても美しい、とケネスは変化を受け入れる。これで納得が得られようかと尋ねれば、不安になってごめんなさいとフラジィルは素直に謝罪した。春の日の誓いに重ね、夏の夜に彼は再び、指輪の嵌められた左手の甲へそっと静かに口付ける。
●深い闇の奥で 閉じられていた灰の瞳は闇を見据えた。 ささやかに梢の鳴る音のみが鼓膜を震わせる森の奥、グレイはゆっくりと歩き出す。世界へ借りを返すため戦う生き方は変わらず、ただ如何な色で煌くのか確かめたいと望んで森を進んだ。捜し求めずに見つかる筈は無いと知っているから、ヒヅキは足を止めずに居る。己の心が洩らす声を聞き取るように胸に手を当て、大切なものが零れるものばかりの掌に届くものはあるのだろうかと目を伏せた。 戦いを経れば想いも増し、目指すものは曖昧なまま焦りが募る。幻と称される石にすら手を伸ばす理由は、存在すると言う可能性を欲しているからだ。アクエリアスは思考を振り切ると探索を再開する。想いを映すものならば大切な恋人に渡したいものだ、とラキは小さく笑みを浮かべた。強く直向きな彼女の傷つき易さは知っているから、難しくとも共に肩を並べたいと願う。 森の闇は何処か優しく、恐れを感じはしない。風が運んで来る清らかな水の匂いが鼻先を掠めた。澄んだ石ならば美しい空気に包まれているのだろうとロスクヴァは思う。光が欲しい。手を伸ばして掴み取りたい。確かな光は、この森にあるのだろうか。 煌きは必ずしも応えてくれると限らないのだ、とラジシャンは良く理解していた。無いに等しいものでも確かにあるのだ、とその存在をも知っている。見つけても指先を擦り抜けて行くような、奇跡にも似た輝きを探し、木の洞で羽根を休める蝶の光に目を細めた。嗚呼、確かに光は此処にある。 行く宛ては無く、意思は断固にゼットは己を顧みた。頼りもせず頼られもせず生きて来た自分にも護るものが出来ている。希望の光が齎した、燃えるような真紅の想いは忘れられない。炎を絶やさず生きようと決めた己の手には、既に求める輝きがあるのでは無いか。 黒いノソリンに変じたレジェンダは、霊査士の姿を見つけて慰めるように身を寄せた。なぁ〜ん、と鳴く彼女の首を撫で、違うのよ、とロザリーは少しばかり微笑んで囁く。漸く見つけたとルーツァは彼女に駆け寄って、昔は苦手だった夜も、今は綺麗に思えると水辺に蝶の舞い飛ぶ軌跡を示した。 「恐ろしかったものさえも、心を癒すものになるのかも知れません」 その言葉に霊査士は緩く目を見開くも、今が花盛りですもの、と微笑まれれば僅かばかりの困惑を滲ませ眉を寄せる。随分早くに彼女を見つけていたのだけれど、機を窺っていたディーンはそんな素振りを欠片も見せず、気さくに霊査士へ声を掛けた。 「久し振り。相変わらず綺麗だな」 彼女は目を瞬いて小首を傾げ、息を吐きながら小さく零す。 「……そんなこと言われるなんて、思ってなかった」 応えてくれたかと彼は笑って、掲げた指先に容易く煌く蝶を留めれば、広がる森に心が落ち着くと語った。荘厳な森の静けさに、太古よりすべてを見守り続けていたかのような優しさを感じるのだ。 太陽が昇る頃には、冒険者は森を出、帰るべき場所へ戻らねばならない。 朝までの僅かな時間を慈しみ、涼やかな水際の樹に添って過ごそう。

|
|
参加者:52人
作成日:2007/09/03
得票数:恋愛5
ほのぼの43
|
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
|
|
あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
|
|
|
シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|
|
 |
|
|