奇岩山渓



<オープニング>


「夏の盛りもそろそろ過ぎたけど、まだまだ暑いよねぇ」
 服の胸元と背中の翼をぱたぱたさせながら、エンジェルの霊査士・クロトナ(a90371)が冒険者たちに向けて呟いた。
 暑い中では汗が出るだけに、こまめに水分を補給しないと熱中症の危険がある。
 そんな中で、ある村で水源となっている川が塞き止められてしまったのだという。
 村人だって水がなくては生きていけないし、秋に実る作物が生育するこの時期、長期的な水不足は致命的だ。

「そこで、冒険者に原因を調べてもらった上で解決してもらおう、って話になったらしくてね」
 霊査を行ったクロトナが見たものは、川のずっと上流で水の流れを塞き止める巨大な岩の姿をしたモンスターなのだという。
 ちょっとした屋敷ほどはありそうな大きさで。周囲の渓谷にがっしりと食い込むように居座っているらしい。
 おかげで塞き止められた川はモンスターの手前で溜池のように溢れかえり、広範囲を水の底に沈めてしまっているのだ。
「ああ……これは厄介だね。原因がモンスターじゃ冒険者以外にはどうにもできないし……。
 下手にモンスターを退治しちゃうと、溜まった水が一気に流れ出して下流の村と作物に大打撃、なんてことになるみたいだ」
 嫌な風景が見えたらしく眉をひそめるクロトナ。どうやらモンスター退治の前にそれなりの下準備が必要になりそうだ。

 幸い、モンスターは自分から動くことはないらしい。
「溜まった水が決壊して押し流されるのを待ってるみたいだ。ずぼらなモンスターだよ」
 モンスターが勝手に動き出す――つまり、溜まった水が決壊するまでの猶予は数日。
 それまでに、どれだけ対処が出来るかが真の勝負だね! と、冒険者を送り出すクロトナであった。

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参加者
六風の・ソルトムーン(a00180)
ファイエリィ・シエヌ(a04519)
暁に誓う・アルム(a12387)
日常からの逃亡者・カッセル(a16822)
星夜の翼・リィム(a24691)
斬魔新聖・シンイチロウ(a26766)
闇夜を舞う影・ヒリュウ(a28973)
舞闘家・グロリオーサ(a42376)
漆黒の鎮圧者・クウェル(a46073)
柳緑・ツクモ(a58835)


<リプレイ>

●川底掘りの三段堤
「皆さん、宜しくお願いします。この作業が終われば、命にかえてもモンスターを倒して、村を守りますからね」
 協力を申し出てくれた村人たちを前にして、ぽよ〜ん・シエヌ(a04519)が最初にそんな挨拶を行う。
 これから行う土木作業は、従事するのがたとえ歴戦の冒険者であったとしても、少人数ではいささか行うに難いものだ。
 災害復興など、何でも屋な側面があるとは言え、彼ら全てがこうした作業に慣れ親しんでいる訳でもない。
 ある者は早々に作業用具を肩に担ぎ、ある者はどうすればいいのかと戸惑い途方に暮れそうになる。
 そして岩陰でこっそり涼んでいた星夜の翼・リィム(a24691)は働けよとばかりにスコップで叩かれた。

 具体的な施工内容は事前に村の代表と詰めてあった。その計画に沿って、一同は手早く工事を進めてゆく。
 自ら進んで長柄のシャベルを振るいながら全体の指揮を執るのは六風の・ソルトムーン(a00180)だ。
「支流の溝は長く掘る必要はない。勢いのついた水が勝手に大地を削ってくれる。横に長く掘るよりは堤を作る手前部分を深く掘り、堤に当たる水の勢いを殺す事の方が肝要だ」
「深く掘るってなら、そっちは冒険者に任せた方がよさそうだな。こっちは土嚢作りあたりの細かいところを進めておこう」
 協力して作業にとりかかってくれる村人と言葉を交わしては一掘りの土を背後に放り、快晴が招く暑さに負けぬように作業の士気を盛り上げる。
 作業は順調であった。
 ある村人が暑さにふと土嚢を作る手を止めて周囲を見れば、ほんの少し前の時間とはまるきり様変わりしているのだから。
「戦闘ではないとはいえ、全力で行きますよ」
「岩盤なんかで進めなくなったり、そういったのは任せておきな」
 例えば栖雲如・ツクモ(a58835)が乾いた川縁に一太刀で深く溝を刻み、大勢でそれを広げるように掘り崩していったり。
 掘るのに邪魔な大きめ岩や岩盤があれば、旧き印・シンイチロウ(a26766)が爆砕の拳で細かく砕く。
 そういった役割分担が、作業を円滑に進めてゆく秘訣だ。

 数匹手配できたノソリン、リィムが喚び出したフワリン、暁に誓う・アルム(a12387)らが喚び出した土塊の下僕などは、おもに完成した土嚢を運ぶ役目を担っていた。
 さらに日常からの逃亡者・カッセル(a16822)が、クリスタルインセクトをどうにかして作業の足しに出来ないものかと考えて、それを戦闘・攪乱目的以外で動かしておくには集中が必要であることに思い至って諦めた。最初から自分で動いた方がはるかに効率が高いためだ。
「諸兄ー。それがし、つっかえ棒用の木材を切り出して来たのだが――」
「……運ぶの、手伝おう」
 汗まみれで走ってきた闇夜を舞う影・ヒリュウ(a28973)の報告に、漆黒の鎮圧・クウェル(a46073)がまたがって土嚢を運んでいた召喚獣の馬首を返す。
 ちなみにクウェルは最初、グランスティードの背に土嚢を積み上げて荷運びさせようとしたが、どうにも上手くいかなかった。
 もっとも、グランスティードに跨ったクウェル自身は大量の土嚢を運ぶことができたため、召喚獣が役に立っていることには違いなかった。
 
 急ピッチで作業を進める冒険者と比べ、もともと水不足で困窮していた村人たちのこと。手を休め、腰を下ろして休憩する間隔ははるかに多い。
 そんな村人たちに、リィムが踊りを披露してその疲れと水分不足を癒し補ってゆく。彼らの口の中にはアルムが持ってきていたアメ玉が転がっている。
「冒険者って言っても万能じゃないし、何から何までオレたち任せより、自分たちで村を助けるんだって実感あるだろ?」
 踊りながらそんな言葉を口にするリィムに、村人たちからは同意と声援がひっきりなしに飛んでゆく。

「さあ次の堤だ! どんどん進めてゆくぞ!」
 早くも一つめの防波堤を築き終えると、冒険者と村人はソルトムーンの号令一下、おう! と応えて次の作業現場へと向かってゆく。
 そして繰り返される突貫作業。数日の猶予があると聞いてはいても、その数日のうちに何が起こるかわからない。
 村人にしてみれば、この作業が早く終われば終わるほど、モンスター退治と水不足の解消が早まるのだ。嫌が応にも作業は進む。
 そんな中、ソルトムーンの野太く陽気な歌声が聞こえてくる。

 一つ掘って、二つ掘って、穴を掘る。
 三つ掘って、四つ掘って、穴を掘る。
 さて、掘った穴は何処に繋がっている?
 はて、掘った土は何処に向かっている?
 そりゃもう、明るい明日に決まってるだろう。
 さあ掘れ、やれ掘れ、もう一丁!

「もう一丁!」
「もう一丁!」
 一人、また一人と声を合わせ、やがて作業場はそんな即興歌の大合唱となる。
 石の欠片で切れた頬も、道具の振りすぎで破れた手の皮も、疲れによろけてくじいた足も、すっかり癒えて作業はさらに加速する。
 
 ちなみに冒険者の残る一人、舞闘家・グロリオーサ(a42376)は、モンスターに異変が起きた際にそれをいち早く皆に知らせるため、ずっとモンスターを監視中であった。

●岩雨、岩嵐、岩雪崩
「ああもう、キリがないねっ!」
 そんなグロリオーサの言葉の通り、振るった拳で岩が砕けて、また岩を砕き、さらに岩を砕く砕く砕く、岩を岩砕く岩を岩岩砕く、砕く砕く。
 別に土木作業の続きをしているわけではない。周囲を見回せば、誰もが似たような状況で、降り注ぐ岩の雪崩をくぐり抜けつつ、川を塞き止めているモンスターへ痛撃を加えてゆく冒険者たちがいた。
 三つの川底堤とそれに倍する数の支流を築き上げたあと、村人たちはかねてからの予定通りに避難を行い、冒険者たちは休息を挟んだのちにこうして今ここで戦っていた。

 半数は枯れた川底から接近して攻撃を仕掛け、残る半数が両側に切り立っている崖の上から遠距離攻撃を仕掛ける形を取っていた。
「うわわわわ〜っ!」
 崖上、炎に包まれた無数の木の葉をモンスターに向けて放つと同時に、飛んできた岩に慌てて身を翻すシエヌ。
 自分の身長の半分はある岩が飛んでくるというのは、当たると痛い。だがやはり、当たらなくても恐怖を感じるものである。
 カッセルが喚び出した土塊の下僕やクリスタルインセクトが、崖沿いにモンスターへと取り付く前に岩の直撃や至近弾を受けて粉々に打ち砕かれていた。
「さあ、受けていただこう!」
「……続きます」
「おう、一点突破だ!」
 ヒリュウが紋章の槍を生み出して、崖縁から撃ち下ろすように繰り出す。その着弾を確認後、アルムが空に描き出した紋章から轟炎が飛び出してモンスターへと炸裂する。同時にリィムの無数の気刃がそれらの着弾点を目掛けて降り注いだ。
 微動だにせずそれらを受けるモンスターも負けてはいない。反撃とばかりに撃ち出された岩のいくつかが、回避行動をとる彼らの肩を背を腕を削る軌道をとり、ばしゃりと赤いものを散らしながら地面へと着弾した。
「大丈夫〜?」
「追撃、来てます!」
 すぐさまシエヌが癒しの光を放てば、負った傷の七割ほどは回復する。さらに飛んできた岩は、カッセルがブラックフレイムをぶつけてどうにか打ち落とした。

 崖上はそんな戦況だったが、川底は冒頭の通りさらに強烈な攻勢にさらされていた。
 岩を撃ち上げる必要がある上方への攻撃と、岩を落とすだけで十分な威力を発揮する下方への攻撃。差が出るのは当然とも言えたが、だからといって冒険者が敗色濃厚であるかといえばそうでもない。
 降り注ぐ岩をあるものは避け、あるものは逸らし、時には真正面から打ち砕く。
 岩の暴風という非常識な災害に、冒険者たちはそれ以上の力をもって立ち向かっていた。
「砕けろっ!」
「……続こう……」
 先陣を切るのはシンイチロウとクウェル。輝く足を、衝撃波を、近間から遠間からモンスターの巨体へと叩き込んでゆく。
 必然一番過酷となる敵からの攻撃は、華麗な足捌きでいなし、多少の無茶は承知とばかりに片腕や額で左右へと跳ね飛ばす。
「無理はするな! 不味いと思ったら退くことを忘れるな!」
 中央にソルトムーン。ある時は前衛の二人より前に踏み込み、飛んでくる岩を払い退け、ある時はそのまま手に持ったハルバードをモンスターへと叩きつける。
 後方の二人が仕掛ける際は常に隣につき、思いつく限り最大限のフォローを行う。傷を負った仲間がいれば、力強き歌で彼らの傷を癒やしてゆく。
 岩が降り注ぐこの過酷な環境下にありながら、モンスターと互角以上の攻勢を繰り広げられているのは、彼の力に因るところが大きいだろう。
「……敵からの攻撃が、弱まったでしょうか?」
「だとしたら、もう一息かね」
 最後方――とはいっても、他の面子と比べての話。モンスターとは充分過ぎるほどに近距離に位置するのはツクモとグロリオーサ。
 ソルトムーンのサポートを受ける形で交互に前に出ては、動かないモンスターを相手に有効打となる攻撃を仕掛けてゆく。
 他の面々よりは敵を観察する余裕がある二人が攻勢の緩みを感じたのだ。ほぼ同時に、崖の上からも同様の報告が届いてくる。
 ならばこのままここで戦うのは得策ではない――と、岩を防ぎながら徐々に後退を始める川底組。その間にもモンスターと崖上組の交戦は続いていた。

 崖上に登れる位置まで移動しつつ、飛んでくる岩を避けたり砕いたり。
 モンスターが無節操に降らせた岩で足場は悪い。特に足元に注意していたツクモが一歩退くと、その目前でがくんとクウェルが体勢を崩した。
 岩の直撃を受けたわけではない。が、彼女が念のためにと身につけていた命綱が、半ばで岩の下敷きになっていたらしい。
 慌てて用を為さなくなった命綱を切り捨てる。それと同時に、眼前を塞いでいたひときわ巨大な岩――モンスターの巨体が、岩を放つのを止めて全身にヒビを入れていった。
 崩れるモンスター。流れ出す水。最初こそほんの一筋の流れであったが、砕けたモンスターの残骸を押し流しつつ、あっという間に渓谷に溢れかえり、今まで道を塞がれていた鬱憤を晴らすかのように荒れ狂い始めた。
 急いで崖を駆け上がり始める冒険者たち。だが、その大半の足よりも水かさが増す方がはるかに早い――。

●いつかはきっと砂になる
 結論から言えば、水による被害は実に軽微たるものだった。
 冒険者たちと村人たちが協力して作り上げた堤は、荒れ狂う水の流れを止めいなして崩れ、掘り下げた支流からその大半を痩せた荒れ地に注ぐことに成功。
 三つの堤を破壊した水の流れは、そのまま元の川の流れを取り戻し、川幅をほんの少しだけ広げ、堤に用いたものの残骸をわずかに川縁に打ち上げた程度に留まったのである。

 冒険者はどうなったかというと――。
「いや、一時はどうなることかと思ったな!」
「……助かった……」
「みんな無事で何よりでした」
 グランスティードによる二人乗りの早駆け、さらに崖上から垂らされた縄梯子に捕まるなどして、激流に浚われることはどうにか回避できた。
 流石に水飛沫までは避けきれずにずぶ濡れになったが、それもまた、勲章と思い出の一つであろう。
 さあ、あとは村人の無事を確かめてから事後処理だ、と意気揚々と凱旋の途につく冒険者たちであった。


マスター:磯山公樹 紹介ページ
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参加者:10人
作成日:2007/09/10
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