宝地図屋グレッグ 〜碧玉の薔薇〜



<オープニング>


 冒険者の酒場の一角。
 呼び集めた仲間達を前にして、闇を斬り裂く守護蒼刃・クロス(a33237)は一枚の地図を広げる。
 宝地図屋で手に入れてきたそれは、とある山中の滝の裏側に隠された洞窟を示すものらしい。
「話によると、その洞窟の中に秘宝が眠っているそうだ」
 詳細は不明だが、洞窟には光苔が群生し、その中に一際耀く何かがあるのだという。
 地図に走り書きされているのは『エメラルド・ローズ』の言葉のみ。
 あるのは花か、鉱石か――いずれにしろ、その光景自体も宝に匹敵するものとなるに違いない。
 皆で探検ということだけでドキドキするものだとクロスは笑みを浮かべる。

 しかし目的の滝へと続く山道はなかなかに険しいようで、古くなった吊り橋や、獣用に仕掛けられたトラップ、まるで落とし穴のように急に窪んでいる地形などを乗り越える必要がある。
 吊り橋は揺れやすく、もし足を踏み外せば、十数メートル下の川まで落ちてしまうかもしれない。
 獣用のトラップは鋸歯状の鋭い刃が仕掛けられているものらしく、冒険者には致命傷にならずとも、踏めば痛い思いをしなくてはならないのは確かだ。
 窪んだ地形に至っては、やたらと草が生い茂り、なかなか見分けもつけづらいのだとか。
 そして目的の滝へ着いてからも、洞窟に入る道が人ひとり分程度の狭い幅しかないようで、身体を乗り出せば、すぐに滝の水流に呑まれかねない。
 木々の葉が色付き始めた山道の景色を楽しみ、季節を感じることもできそうなのだが、うっかり景色に見惚れて油断していると、自然の脅威や罠に嵌まってしまうかもしれない……

「そうそう、途中で冬眠に備えて餌を探す熊とばったり、なんてこともあるかもな」
 今の時季は活発に動いているようだから、注意が必要だろう。
 けれど自然の脅威も野生動物との遭遇も、皆と一緒なら、きっと切り抜けられるはず。
 絆の結束と交流――そして、この冒険が良い想い出となるように。
 彼らは、秘宝の眠る滝の洞窟を目指して出発するのだった。

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参加者
天藍の風・アモウ(a08601)
野良猫・アッシュ(a25816)
天藍の翼・サナ(a25832)
雷神天狐・シーグル(a27031)
鈴花雪・ソア(a32648)
闇を斬り裂く守護蒼刃・クロス(a33237)
月夜に謡う波の調べ・ルルナ(a51112)
柳閃・チキチキータ(a64276)


<リプレイ>

●秘宝を探して
「皆とお出かけ、にゃっほ〜い♪」
 楽しげに小躍りしつつ、笑顔の商人紅蓮の風・チキチキータ(a64276)は被っているハンチングに合わせてお宝ハンタールックに大変身。実は鎧聖降臨でHen-Shinしたものだから短時間しか持たないけれど、そこは気にしちゃいけない。意味はなくとも気分が第一。
「皆、本当によく集まってくれた。礼を言わせてもらうな」
 出発準備を整え、闇を斬り裂く守護蒼刃・クロス(a33237)は仲間達を振り返った。滝の洞窟へ向かうまでには、色々と危険も待っている。しっかりとそれぞれに安全を確認しながら、一行は秋の山道を登り始めた。
「エメラルド・ローズってどんな宝物なのかしら」
 一番後ろをのんびりと付いていきながら、私のばななみるくは世界一・サナ(a25832)が楽しげに考える。
「何かの結晶かな。楽しみで仕方ない」
 な、サナっ、と、奥様のばななみるくに溺れたい・アモウ(a08601)は隣を歩く彼女に笑いかけた。見つかるといいね、とサナも笑い返す。二人で眺められたら、きっと素敵に違いない。
「どんな秘宝なんだろうな? ぜってーに見つけてーよなっ!」
 めいっぱいに楽しげな笑顔で気合いを入れる、雷神天狐・シーグル(a27031)。
 鈴花雪・ソア(a32648)も、あれこれと想像を浮かべて。
「うーん、光る苔に一票……」
「きっと……すごく大きい、食用苔だ……」
 美味しいのかな、と表情を変えないまま呟くのは野良猫・アッシュ(a25816)だった。どうやら食べたい気持ちでいっぱいらしい。
「お花とは違いそうですし、光る石とか……洞窟に差し込む光とか……?」
 どんな宝物が見つかるのか想像するとわくわくするのです、と月夜に謡う波の調べ・ルルナ(a51112)も笑う。見知った彼らと冒険するのは、とても心強くて楽しみもたくさんだ。
「実物を見るのが楽しみですね」
 ふむ、とクロスも考え込む。
「暗いところで見ると輝きが幻想的に見えるような、薔薇のような形状の鉱石なのではなかろうか?」
「あぁ、翠の結晶が薔薇の形ー……とか?」
 きっとそれは、洞窟に差し込んだ光で淡い翠がキラキラと素敵に耀いて――
「って、おぉぉ……いけませんいけません」
 想像した光景にうっかり見惚れかけたソアは、ちゃんと周りを見て歩かねば、と我に返る。用意してきたリボンの束を取り出し、木に巻いたり石を乗せて矢印にしたり、複雑な道でも迷わないようにと目印を作っていく。
「見てアモウ、あそこにリスがいる」
「ホントだ。可愛いな」
 サナの指すほうへと視線を移して笑うアモウ。もちろん景色を楽しみつつ、彼も周囲への警戒は怠らない。呼び出した土塊の下僕を先行するようにもしてある。時間が切れたら呼び直さねばならないけれど、歩いていく下僕が転んだりすれば、そこにはトラップや窪みが待っているというわけだ。
 ルルナも辺りを彩る景色を眺めつつ、ころん、と拾った小石を転がして、危険がないかをしっかり確認。うっかり引っ掛っては大変なのだ。
 アッシュは、手に入れた長い木の枝で前方の草を払いながら歩く。
「気をつけろ……そこ。罠」
 ぽつりと注意して、見つけた獣用の罠を壊し、遠くへ投げ捨てる。窪みも枝で突付きながら行けば、すぐわかるだろう。
 次いで、チキチキータが別の草むらへと視線を注ぐ。
「ここも怪しいにゃっ!」
 ガスン! と大棍棒で草むらを一突き! 手ごたえありだ。
 近寄って確かめてみれば、そこにはひしゃげた鋸歯状の刃が転がっていた。すごいな、と感嘆するアモウ。
 一方で、手にしている棒で足元を突きながら歩くシーグルの視線は、すっかり木々の紅葉へと向けられている。
「やっぱ山奥まで来ると空気が綺麗なせいか、景色も綺麗だなっ」
「油断はせぬようにな、シーグル」
「え? んなこと言われなくてもわかって……」

 ――がくん! と、不意に手ごたえのなくなった棒と共に、シーグルの身体が沈む!

「シーグル!?」
「だぁぁぁぁーーっ!? ぁーっ……ぁーっ……」
 シーグルの声がこだまする。
 とっさに手を伸ばすアモウと、手持ちのロープをつかんで駆け寄るクロス。
「大丈夫かシーグル!?」
「……危ねぇ、危ねぇ。危うく底まで落ちちまうとこだったぜ」
 ふぃー、と息を吐いて、崩しかけた体勢を戻すシーグル。どうにか既のところで踏みとどまったらしい。
「だから油断せぬようにと言ったのだ」
 やれやれ、とクロス達も安堵の息を吐く。
「うぅ……」
 気を取り直して慎重に行こう、とシーグルは棒を握り直した。
「はいはーい、通りますよ〜」
 同じく棒で茂みを探るソアは、後ろを付いて来ているサナが少しでも楽なようにと、長い草を踏み倒し、道を作って先へと進む。とはいえアモウが傍についているのだから、きっと大丈夫とは思うけれど。
「皆さん頑張って!」
 そして当のサナは、アモウに支えられて山道を登りつつ、前を行く仲間達に励ましを送っていた。万一の負傷に備えて、回復の術もきちんと用意してある。もちろん、自分に危険が迫った時には、夫がしっかりと護ってくれるから安心だ。
 どことなく期待した瞳で見つめるサナに、アモウ自身も応えるつもりで微笑み返す。隣を歩く彼女は、少しばかり元気すぎて困ってしまったりもするけれど。
(「……でもそこが好きだ、サナ♪」)
 なんてことを思いながら、一人照れるアモウだった。

●いざ勝負!
 一行は、吊り橋の架かる川へと差し掛かった。見た目にも随分と古く、渡されているロープも足元の板も頼りない。
「まずはフワリン先行が妥当だろう」
 クロスの言葉に肯いて、アモウはフワリンを呼び出すと、サナを抱き上げて背に乗せた。その後ろに自分も乗る。
「フワリン、出発〜♪」
 楽しげに言って、ゆるゆると吊り橋の上を進ませる。
 その間に、こちら側を補強するべく、クロスは近くに立つ木と吊り橋の袂とを手持ちのロープで結ぶ。向こう岸へ着いたアモウも、手前の岸から片端を引っ張ってきたロープを、ぎゅっと手近な木に括った。これで少しは、安全に橋を渡ることができるかもしれない。
「蜘蛛糸でも補強できるでしょうか?」
 ルルナは粘った蜘蛛糸を手に、吊り橋へと巻きつける。蜘蛛糸は時間が経てば消えてしまうけれど、みんなが渡る間くらいなら役に立ってくれるだろう。
「そういえば、チキチキータさんも蜘蛛糸を……」
 言いかけてルルナが振り返ると、
「レスキュゥー! オイラを呼んだかにゃ?」
 びしぃっ! と真っ赤なフルフェイスメットを被ったヒーローっぽい人がそこに!

 ヒーローはカッコよく粘り蜘蛛糸を出すと、ルルナさんをがっちりサポートしてくれたのでした。

 閑話休題。
 吊り橋の補強が終わったところで、一人ずつ順に、ゆっくりと向こう岸へ渡る。
「疲れてないですか?」
 無事に全員が渡りきると、ソアは金平糖を取り出して皆に配った。甘いものを食べると、少し元気が出るものだ。
 そうして再び滝を目指して進み始めた一行の前方で、不意にがさがさと茂みが揺れた。
 足を止めた彼らの前にのそりと姿を現したのは、一頭の大きな熊!
「……餌が欲しいのか?」
 真正面で呟いたアッシュと目が合った途端、熊は唸りながら立ち上がった。けれど一行は逃げ出さない。
「邪魔して悪い、でも、ちょっと手合わせしていかないか……? 俺が勝ってもお前が勝っても、ちょっとだけ分けてやらんこともない……」
 熊に対して素手で構えをとりながら、そう申し出るアッシュ。といっても魅了の歌は用意してきていないので、クロスが代わりに歌った。
『――いいだろう、相手になってやる!』
 了承するなり、熊は鋭い爪を振り下ろす! がつっ、とそれを受け止めて、今度はアッシュが熊の躯を蹴り上げる!
 負けじと爪を振るう熊の後、裂けた頬の血を拭いながらアッシュはいったん距離を取る。
「アッシュ頑張れ〜」
「アッシュ、頑張れよー!」
 その後方では、仲間達の期待に満ちた視線がアッシュを応援していた。
(「うう、注目浴びてるとやりづらい……」)
 ちょっとだけ居心地悪げに尻尾を揺らしてから、再び熊へと拳を叩き込むアッシュ。熊もまだ反撃の手を緩めない!
「は、迫力があるのです! 眠る前の……良い運動でしょうか?」
 同じくアッシュを応援しながら、ぐっと手に汗を握るルルナ。
「アッシュ、虎だ。虎になるのだ」
 行け〜、行け〜アッシュ〜♪ とガッツソングを歌いつつ、クロスも応援を続ける。
「熊も頑張るにゃよ〜♪」
 素手攻撃のみの手合わせではあるが、熊が死んでしまわないよう、チキチキータは熊にもガッツソングを送る。
 それでもアッシュの度重なる拳と蹴りを受けた熊には、次第に傷が増え――やがて、どすん、と仰向けに倒れ込んでしまった。
「――それまでにゃ!」
 慌てて止めに入るチキチキータ。
 クロスは回復の術を持っているアモウとサナを呼び、熊の治療を頼んだ。

『……強えぇな。死ぬかと思ったぜ』
 傷だらけになってしまった熊を癒してやってから、クロスが魅了の歌で謝ると、熊は気が抜けたように唸った。
「ほい、弁当……悪くなる前に食え」
 満足げに尻尾を振りながら、アッシュは持って来たおべんとうを差し出した。
 がつがつとそれを平らげると、さらにクロスの置いた肉や魚をつかんで、ようやく熊も満足したように元来た茂みの奥へと消えていった。

●エメラルド・ローズ
 山道を進むにつれ聞こえ始めた水音は、次第に大きくなっていく。地図に描かれた目的の場所は、もう間近。
「少し足場が悪いようだな。皆、注意だ」
 仲間達を促し、クロスは辺りを確認しながら進んでいく。アモウはサナの手をしっかりと握り、もう一人の女性であるルルナにも、危ないから、とソアが手を引いていく。
「ルルナさん、もうひと頑張りなのです」
「はい、頑張るのです」
 やがて見えた滝は、結構な幅と高さを持って岩壁の上方から流れ落ちていた。
 辿り着いた滝の真横となる足場から、流れ落ちる水の裏側を覗き込んでみれば、確かにそこには、ぽっかりと穴が空いている。あれが、目的の洞窟なのだろう。
 ここからは、一人がやっと通れそうな細い足場が続いているのみ。チキチキータは荒縄を粘り蜘蛛糸で巻き付けて万一に備え、ゆっくりと少しずつ、壁伝いに足場を進む。
「……足元。滑るから気をつけろ、な」
 洞窟へ入っていくクロス、ルルナ、ソアに声をかけ、アッシュも中へ。その後ろを行きかけて、シーグルは「水が掛かるかも」と手持ちのマントをサナに渡した。お礼を言ってそれを羽織ると、サナも手を繋ぐアモウに支えられながら慎重に後へ続く。
 無事に全員が洞窟に入ったことを確認し、それぞれに明かりを灯して洞窟内を見渡せば、そこは三人程度が並んで楽に歩ける程度の広さが奥まで続いていた。
「幻想的な風景ですね……」
 薄暗い洞窟内をゆらゆらと揺れる光と、淡く緑色に発光する苔を見つめて、ルルナは感嘆の息を吐く。アッシュも驚いたように尻尾がぱたぱたと左右に揺れている。それは蛍がたくさんいるかのようで――天井にまで生えている様は、まるで星空のように、綺麗だった。

 そう長く歩くことなく、洞窟は行き止まった。岩の隙間から差し込む光を受けて、より一層、翠に光る苔の群れは、まさしく碧玉を思わせる。そしてそれらに囲まれて、一際目立つ大きな白水晶の華が咲いていた。
「わぁ、綺麗……」
「これが碧玉の薔薇か。綺麗だ……」
 互いに寄り添いながら、サナとアモウはゆっくりとその光景を眺める。
 ソアはランタンの灯りを消し、そっと水晶の表面に手を触れてみた。瞳に映るその光景を、しっかりと心の宝箱に詰めて持って帰ろう。今日ここに来られたこと、それでもう自分の宝は一つ増えたから。
「へぇ、なんか神秘的な感じだな」
 興味深げに、光苔の前でしゃがみ込むシーグル。その後ろでルルナも笑みを浮かべた。
「とても綺麗なのです、素敵な宝物……」
 けれどそれ以上に今日の想い出も、きらきらと耀く宝物だ。
 少しだけ離れて眺めていたチキチキータは、自分の手元へと視線を落とす。そっと取り出したのは、赤い髪をした、大切な少女の笑顔が描かれた絵。
「……君にも見せたかったにゃ」
 見つめて、小さく呟いた。

 洞窟の一番奥まったこの場所は、腰かけられそうな岩も利用すれば、どうにか八人が座って休むくらいはできそうだった。
 皆さんどうぞ、とサナやルルナ、ソアがお菓子を取り出す。飲み物は、紅茶を持って来たけれど――
「もちろん、ばななみるくもありますから遠慮なく言ってくださいね?」
 とっても笑顔で、どん、と置かれるばななみるく。
「こ、今回も大量だな……」
 アモウには、毎日毎朝毎晩欠かさず飲んでいるお馴染みのもの。ここでもやっぱり飲むことになるらしい。「ふむ、やはり必須なのだな」と妙に納得するクロス。ばななみるくを前に気合いを入れるアモウの横では、シーグルが表情を強張らせつつちょっぴり動揺。
「あ、う、うん、もちろんいただくともっ! 兄貴も飲むんだよなっ?」
「ええ、もちろん。はい、あ〜ん」
 やっぱり笑顔で夫にばななみるくを差し出すサナ。仲間の視線を受けて照れつつも、アモウは応えて口を開ける。
「私もいただきますです」
 実はサナのばななみるくがとても気になっていたらしいルルナも、嬉しそうに手を伸ばした。
「ばななみるくもいいけど、栄養価も考えてにゃ?」
 そう言ってチキチキータが配るのは、野菜の入ったカツサンド。
「目的を達成した後の食事は格別だな」
 やはり仲間と共に過ごす楽しい一時が宝だと、クロスは瞳を和らげる。
「今日は楽しかった。クロス、誘ってくれて感謝だ」
「……うん。楽しかった、な」
 アモウの言葉にアッシュも、こくりと肯いて。そう少しだけ、笑った。


マスター:長維梛 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2007/10/05
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