壷を取り戻してください



<オープニング>


●あの壷はいいものだから
「ある町に、お金持ちのお嬢様に恋する若き壷職人が住んでいるといいます」
 真実求む霊査士・ゼロ(a90250)の話に冒険者たちも視線を向ける。まるで世間話のような内容だが、彼が話すからには依頼なのだろう。
「その若き職人マクベールさんは、恋するお嬢様にプレゼントするために日々壷を作っていたといいます。そして遂に完成させた自慢の壷をプレゼントしようとお嬢様の家に向かったのですが……道中でグドンに遭遇し、慌てて逃げるうちに壷の入った箱を奪われてしまったのだといいます」
 現れたグドンは犬グドンであり、道中の森で現れたのだという。
「霊査によれば犬グドンたちはその森を拠点に増え始めており、数は30ほどでしょう」
 そこでゼロは犬グドンの退治と、マクベールさんの壷の奪還を依頼したいのだという。
「壷の入った箱は犬グドンたちが森の奥へと持ち去ってしまいましたが、食料ではないので特に手出しはされていないようです。しかし箱には簡単に紙を丸めたものを緩衝材としていれている程度らしく、大きな衝撃を与えてしまうと簡単に割れてしまうでしょう」
 また作ればいいのかもしれないが、気持ちのこもったあの壷を壊されてはマクベールさんもがっかりしてしまうだろうとゼロは言う。
「なんとか犬グドンを退治し、壷を奪還してマクベールさんに届けてあげるようお願いします」
 ゼロはそう言って、冒険者たちに一礼を送るのだった。

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参加者
暁月夜の幻影・ルシエル(a36207)
甘い香雪蘭・フリージア(a40585)
深淵の流れに願う・カラシャ(a41931)
裏山の百鬼夜行・タクミ(a52755)
飛翔白雲・キクロ(a57373)
灰影・ハヤテ(a59487)
夜天光・ネヴィル(a64549)
癒しのそよ風・ナティル(a65912)
微睡みの天使・レナート(a67883)



<リプレイ>

●とりあえず焼いてみよう
「グドンを放って置けば更に被害者が増える可能性もあるし、何よりも壷を取り返してあげたい……だから、退治しなきゃ」
 言いながら火を起こす準備に取り掛かるのは微睡みの天使・レナート(a67883)を始めとした何人かの冒険者たちだった。奪われた壷を奪還すべく、犬グドンたちを引き付けて倒そうという作戦なのである。
「壷を奪うのは許せないけど、割られてないだけマシ……かな」
 暁月夜の幻影・ルシエル(a36207)は土塊の下僕を召喚し、肉を焼くよう指示を出していた。土塊の下僕はあまり難しいことは出来ないのだが、適当に火の上に肉を置いてゆけばそれでいいので、さほど困難でもなさそうだ。グドンを誘き出すための焼き肉なら、多少焦げたりしても問題は無いだろう。
「がんばろうな、俺がいれば大丈夫だって」
 仲間達へ言い放ち、飛翔白雲・キクロ(a57373)は身を隠す場所を探していた。グドンが集まってくるまでの間、どこかに隠れているつもりらしい。
「大事な工芸品……しっかり取り戻してあげなくちゃです」
 依頼人の想いがつまった大事なものだからと意気込む癒しのそよ風・ナティル(a65912)。そうして冒険者たちは土塊の下僕に焼き肉を任せ、各々が身を隠してゆく。
 それからしばらく、香ばしい香りが辺りに広がり……焦げたり……土塊の下僕の効果が切れたので再び召喚したりして、しばらくの時間が流れた。
 がさがさ
 茂みを割って現れる何匹かの犬グドンたち。土塊の下僕を蹴飛ばし殴り打ち砕いて、焼き肉や用意して置いていた材料の肉を奪ってゆく。
 ざざっ!
「どうやら上手く誘き寄せられましたね」
 身を隠していた木上から降り立ち、深淵の流れに願う・カラシャ(a41931)は放蕩の香りを発動させた。辺りに広がる淫靡な香りの紫煙に、犬グドンたちの注目が集まる。気の短い者は地を蹴って飛びかかってきた!
「おっと!」
 裏山の百鬼夜行・タクミ(a52755)から粘り蜘蛛糸が放たれ、降り掛かる白い糸が犬グドンたちの動きを絡め取ってゆく。そうして冒険者たちは誘き寄せた犬グドンを退治すべく、武器を握り次々に飛び出すのであった。

●壷を見つけて取り戻せ
 一方では奪われた壷を取り戻すべく、甘い香雪蘭・フリージア(a40585)を始めとした冒険者たちは犬グドンたちが拠点にしている場所を探していた。壷の安全が確保できるまでは激しい戦闘にならないよう、発見されないように身を隠しながら探索を続けていた。
 がざがざがざ
 ちょうどその時、何匹かの犬グドンたちが駆け抜けて行くのが発見できた。何とか身を隠してそれをやり過ごし、奴らがやってきた方向へと向かう。しばらく進むと岩の崖が屋根になり、多少の雨風を防げるようになっている場所が見えてきた。洞窟という程ではないが……岩に守られたその場所を犬グドンは拠点としているらしく、数匹の犬グドンも確認できる。
 仲間達の誘き寄せ作戦が成功したのか、この場に残っている犬グドンは僅かだ。動くなら今のうちだと冒険者たちは視線を交わし、一つ頷く。
「マクベール殿の愛を取り戻すんじゃー!」
 開口一番、風皇殿を守りし銀の猫・ハヤテ(a59487)が粘り蜘蛛糸を投げ放つ! 不意打ちに犬グドンたちがざわめく中、夜天光・ネヴィル(a64549)は魔道書から『心』の衝撃波を繰り出して攻撃する。奪還すべき壷の位置が確認できるまでは、全力で戦闘する訳にはいかないのである。巻き込まれて割れたりしては、依頼人がガッカリしてしまうのだから。
「どこにあるのかなぁ〜ん?」
 だが犬グドンたちがその間を待ってくれる訳は無い。護りの天使達を召喚し、フリージアは急いで壷の入った箱が無いか探していた。ちょうどその時、粘り蜘蛛糸から逃れたグドンが剣を振り上げ突っ込んでくる!
 じゃっ!
 ふわふわした守護天使が砕け、グドンの剣がフリージアの腕を掠める。急いでハヤテがその援護に向かい、ブラッディエッジで切り伏せた。
「む? あの壁際にある箱はどうじゃ?」
 ちょうどその時、ハヤテの視界に小さな箱が写っていた。声に応えてフリージアがそちらに向かうが、その前に犬グドンが立ち塞がる。
「邪魔はさせません」
 ネヴィルが『心』の衝撃波を叩き付ける。この一撃にはキルドレッドブルーの力が宿っており、受けたグドンを魔氷で固め、魔炎が立ち昇っていった。
「……これは……間違い無いなぁ〜ん!」
 そうして箱に到達したフリージアが中身を確認し、声を上げる。壷をゲットして下がるフリージアの位置を確認し、ネヴィルは無数の針を虚空に生み出す。
「もう手加減する理由はありませんね」
 がががががっ!
 降り注ぐニードルスピアがグドンたちを貫き、穿つ。離脱しようと移動するフリージアの元を目指し、ハヤテも駆けていた。
「とにかく壷の安全が第一じゃ、離脱するゾイ」
 邪魔な犬グドンたち目掛け、ハヤテはナパームアローの力を込めた鋼糸を振り下ろす。ずどん! と爆炎が犬グドンたちを包み、吹き散らす。壷には被害が出ないよう、フリージアがしっかりと抱えていた。
「よし、これで……」
 フリージアの元へハヤテが到達し、駆け出そうとした……その時、
「待って……!」
 止めたのはネヴィルだった。見ればその場のグドンは全滅しており、急いで逃げる必要が無くなっていたのである。
「これなら、気をつけてみんなが来るのを待つなぁ〜ん」
 こうして壷を回収した冒険者たちは、仲間達が残りの犬グドンたちを退治して合流するまで壷をしっかり守ろうと頷くのだった。

●退治完了
 放蕩の香りの効果があってか、動ける犬グドンたちはカラシャの方へと集まってくる。その攻撃を掻い潜り、カラシャはじゃらりと連珠『鴬語花舞』を掲げる。
「いきますよ」
 ちっ
 グドンの剣が頬を掠める。だがカラシャは構わずにニードルスピアを生み出し、解き放つ。
 ががががっ!
 無数の針が犬グドンたちに突き刺さる。
「この身に纏うは、闇より深き漆黒の衣――」
 その間にルシエルは黒炎覚醒を発動させ、邪竜の力を黒き炎として身に纏い立ち昇らせてゆく。
「よーし、こっからは手加減なしだぁっ!」
 タクミが地を蹴る。粘り蜘蛛糸に掛かっていないグドンを狙い、ブラッディエッジを振り抜いた。
 ざっ!
 太刀『燕凩』の刃が閃き、グドンの体が斬り裂かれる。
「犬共! 涎垂らして見るんじゃねぇ!」
 言い放ち、キクロは薔薇の剣戟を繰り出す。アビリティによって生まれた花弁が舞い散り、グドンの体を刻み倒していった。
 がきん!
 別のグドンが飛びかかってくるも、キクロはそれを太刀で受け、振り払う。粘り蜘蛛糸から抜け出しているグドンも何匹か居る様子だった。
「相手は『わんこ』じゃなくて『犬グドン』なんですから!」
 ナティルはディバインヒールを発動させ、ルシエルの両手杖に力を託してゆく。
「わたしの歌……聴いてくれる?」
 その間、動き始めた犬グドンたちの動きはレナートの眠りの歌が抑えていった。
「解き放つ力、万物を貫く紋章の閃光」
 ルシエルが両手杖『冥境礼賛・ケイオス』で紋章を描き出し、エンブレムシャワーを解き放つ。繰り出される光が雨となって、ミレナリィドールと融合し、黒炎覚醒とディバインヒールによって高められた威力でグドンたちをことごとく貫き打ち倒してゆく。
 この攻撃によってほとんどのグドンが倒れ、生き残りは運良く射程外に居た二匹のみ。だがそちらには既にキクロとタクミが向かっていた。
「グドンは一匹残らず退治だ!」
 キクロの太刀と――、
「これで最後っ!」
 タクミの太刀の斬撃が戦いを終わらせる。この場に集まってきたグドンたちの全滅を確認し、冒険者たちはひとまず安堵の息を吐く。
 そうして壷の回収は上手くいっただろうかなどと話しながら、合流すべく移動を開始するのだった。

●壷を届けてくれよ
「私、きれいなもの大好きなんです……!」
「壷無事だったかな、見せて見せて!」
 それから冒険者たちは合流を果たし、奪還した壷を依頼人のマクベールさんの元へと届けに向かっていた。
 噂の壷、これぞ入魂の一作という壷を眺め、フリージアも「すっごく綺麗な壷なぁ〜ん」と感嘆の声を漏らす。
「これならきっとカノジョも心を動かされるなぁ〜ん」
 マクベールさんはこの壷を憧れのお嬢様にプレゼントするのだという。それを知って冒険者たちも応援の言葉を送ったりしていた。
「喜んでもらえるといいんだけど……応援してるよ」
 ぽんと肩を叩くルシエルに、カラシャも「諦めない気持ちがあれば、きっと実ると思います」と告げる。
「さぁ、そなたも男じゃ、これを持って思いの丈をぶつけて来るんじゃー!」
 発破を掛けるハヤテに後押しされ、マクベールは意気込んで出掛けていった。冒険者たちはもその背を見送り、恋の成就を胸中で応援する。

 その後、マクベールの恋がどうなるかは先の話だが、壷が戻ったことで気持ちを伝えることはできただろう。
 冒険者たちが知っているのはそこまで。そしてあの壷が……いいものだ。ということだけなのであった。

 (おわり) 


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作成日:2007/09/09
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