夏の海辺のアツイ奴!



<オープニング>


 連日続いた猛暑もようやく治まる気配を感じさせる晩夏の浜辺。
 はっきりとは聞き取れないが風に乗って聞こえるハーモニー。
 低く遠く伸びるその歌に呼ばれる様に、潮騒の打ち寄せる岩肌を覗かせた浜辺に足を向けた。
 パシャンっ。足音が聞こえたのか、歌声が止み、背後の海に何かが飛び込む。
「誰だ………」
 足場の悪い岩場を慎重に進む。
 そっと海面を伺うと身の丈ほどの大きな影が見えた。
 青く長い髪が藻の様に広がる。鮮やかな赤に染まる大きな尾びれが海中を舞う蝶の様にひらひらと楽しげに泳ぐ。
 あれはまさか……御伽噺に出てくるにん………
「ギョーっ!?」
 驚く顔をそのままに、男は海水に濡れた太い逞しい腕に引きずられた。
 最後の記憶は、太い首のドンっと、座った巨大な鯛の頭。
(「……詐欺だ……」)
 逞しい野郎の肉体の下半身と頭は鯛。夢もへったくれもあったもんじゃない。
 普通人魚といったら……美人でナイスばでーなお姉ちゃんだろ。
 確かに肉体は、人の範疇に入れれば申し分ない……と、いうか男性として羨ましいくらい鍛えられていて黒光り。
 悔しいかな男の意識は其処までであった。

 賑やかに騒いでいたセミの声も何時しか少なくなり、ちらほらと草むらの虫の音が聞こえるころ。
 酒場のカウンターで物思いに暮れ、昏の霊査士・ユノ(a90341)が香草茶の湯気を顎に当てていた。
「どうした?」
 何時になくセンチメンタルな空気を背負って?
「少し厄介なモンスターが出た」
「仕事だな」
 待ってました。と、ばかりに数人が霊査士の周りに集まってくる。
「海辺で男ばかりが襲われているらしい」
 最初は酒によって海に落ちたのかと思われていたが……。
 1人、2人と姿を消し、見つかるときは全て素っ裸という事が続いた為に、真相が明らかになったという。
「海中に潜むモンスター………歌が得意……吟遊詩人の力を持っているな」
 歌というよりもそれは魂の迸り。
「ん、まぁ! お魚さんですの?」
 横から頭をつっこんできた歌漢女・ラートリ(a90355)が歓声をあげる。
「魚というか……人魚というか………まぁ、おかしな風体をしているモンスターな事は確かだ」
 奇怪な外見を説明する言葉に選んでいた霊査士は、得心を得たように一つ頷く。
 後は自分の目で確かめろ。
「場所が場所だから慎重にな」
 海域でどのようにモンスターと対峙するかが鍵になりそうであった。

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参加者
魔戒の疾風・ワスプ(a08884)
白鴉・シルヴァ(a13552)
黒焔の執行者・レグルス(a20725)
紅夜に舞う漆黒の狗・ヤガミ(a42631)
陰陽拳士・ルナード(a45764)
タヌキ・カゲル(a49643)
乙女風鬼百合・ジョニー(a56975)
氷華の剣姫・セレティア(a65531)
NPC:歌漢女無双・ラートリ(a90355)



<リプレイ>

●潮風に抱かれて
 モンスターが出るという岩場の程近く。集まった冒険者達が、今は未だ静かに日差しを乱反射させ寄せては帰す漣の音を聞いていた。
「逞しい野郎の肉体の下半身と頭は鯛……これで尾が付いてたら……」
 『鯛の尾頭付き』だったのに、なんて半端な野郎だッ! 許せねぇ!!
 縁起が良いのか悪いのか、はた迷惑な外見のモンスターに魔戒の疾風・ワスプ(a08884)が大いに憤慨の声を漏らす。
「美人なおねーさんな人魚だったら良いのに反則過ぎだろ」
 太い腕! 逞しい大胸筋! 在るのか如何か不明な立派な臑毛!
 色々な意味でアウトだろう。
 全裸で放っぽり出された哀れな犠牲者の無念もついでに晴らす! それが此処に集まった漢達にかせれらた崇高かつ絶対の使命であった。
 野郎好きなナマモノなんて……存在自体が悪……正に存在悪。
「美しい女性の人魚なら喜んで引きずり込まれるのに」
 黒焔の執行者・レグルス(a20725)と白鴉・シルヴァ(a13552)が同じような悩みの前に顔を見合わせ略同時のタイミングでため息を付いた。
 海といえば綺麗で素敵なお姉さんと相場が決まっているのに……何が悲しくて……
「鯛の頭に黒光りした男の……うっ……」
 想像するだけで雪白の舞姫・セレティア(a65531)の胸にアツイ何かがこみ上げてくる。
「ど、どうでもいいけど、『海』と言う場所にも変なのはいるのね……」
 ……地上ってやっぱりよく解らない所だわ……空の上の故郷ではあまりお目にかかれない未知の体験。
「海に住んでいるクセに、ぜんぜん涼しげでも爽やかでもないですね」
 せめて顔だけでもイイ男だったら良かったけれど……それはそれで倒し難いから良かったのかも?
 タヌキ・カゲル(a49643)の乙女心は複雑だ。
「……ねぇ、ユノくんは言わなかったけど魚男さん……ちゃんとパンツ履いてるんでしょうね?」
 ほんのり頬を染めた牙剥く鬼百合・ジョニー(a56975)が可愛く首をかしげる。
 霊査士が酒場で告げた下半身の言葉が耳にこびり付き、気になって仕方がない。
「確かに……気になりますわね」
 歌漢女・ラートリ(a90355)もちょっと期待を込めた眼差しを海へ向けた。
「どのみち倒すんだけど、履いてなかったりしたら……許さないわよぉ?」
 ちょっとドスの効いた声を未だ見ぬ敵に投げかける。
 小さな疑問も確かめないと気になって仕方が無い。如何に見事な肉体をしていようとも……倒す敵にはかわりは無い。
「しかし色んな意味で嫌なモンスターだな」
 妙な事に闘志を燃やす女言葉の仲間2人に、モンスターが出るより前にげっそりとした様子の陰陽拳士・ルナード(a45764)が視線を水平線の向こうへ投げる。
 潮風はまだ変わりなく平穏な風を皆の下へ運んでいた。
「人魚というより……魚人?」
 それだ!!
 今まで全員の胸につかえていたもやもやを、紅夜に舞う漆黒の狗・ヤガミ(a42631)の一言が振り払った。
 かくして、人魚もとい……魚人型モンスター退治が幕を開けるのであった。

●渚に叫ぶエトセトラ
 岩場は見た感じ確かに足場が悪そうに見えたが、浪打際まで降りて降りれないことはなさそうであった。
「海だー!」
「モンスターのバカヤロー!!」
「叩っ斬って刺身にしてやる!!!」
 食わないけどな。
 広々と眼前に広がった、大海を前にすると何故か叫びたくなる。
 深いところまで見通せる透通ったエメラルドグリーンの水面の下。足元で泳ぐ小魚達に手が届きそうだ。
 シルヴァ、ルナード、レグルス以上三名が今回の餌……ではなく、ちょっとアレなモンスターをおびき寄せる囮を買って出た勇者であった。
「青春ねっ」
「素敵ですわね☆」
 囮となった面々が海に向って吼えている様子を伺いながらのんびりと待つ。
 綺麗な海辺どうせだったら好きな子と来れたらさぞ素敵な事だろう。
「……と、いうかあの寄せたり帰ったりしてるの、何?」
 ザザァァン……ザザァァン……
 初めて耳にする潮騒の音が何処か心地よく、寄せては帰す波の飛沫の踊る様子にセレティアがカクンと小首をかしげた
 モンスターが出る岩場から少し離れた浜辺。白砂が眩しい足元近くまで、波が打ち寄せる。
 絶え間なく繰り返されるそれが物珍しい。
「これは波ですよ」
「月に引かれて満ちたり引いたりもするんだぜ」
 ランドアースの海を始めて見る少女に、得心がいった仲間達が説明してやる。
「波……?」
 ホワイトガーデンの周りにある海とは違う、不思議な香りが漂う水が満ちたそれに興味を引かれしゃがみこむ。
「面白いもんか?」
「……だって、海は始めてみるんだもん。ホワイトガーデンには、こんなに水、ないわ」
 ザァァン……ザザァン………
 ぷぅっと可愛らしく頬を膨らませる間も、波は静かに打ち寄せていた。
「人魚に誤れ!」
「俺たちの幸せをかえせ」
 哺乳類なのか魚類なのか……ハッキリしやがれ。
 召喚獣達に待機を命じた為、心なしか心細く感じる己の背中に叱咤し。出来ればこんな場所さっさとおさらばしたい両足が怖気づかないように渇を入れ。囮となった男達は周囲を見回す。
 岩場が広がる海はそれ程浅くは無いが、見た感じ急に深さを増しているところはなさそうであった。
「勢いれば良いという性質のものではないのは承知しているが……」
 モンスターは男性ばかりを狙うというが……果たしてこんなみえみえの囮に引っかかるのであろうか……?
 動きが無かったら囮に混じるか……と、ヤガミが重い腰を上げた時であった。
 囮の面々の叫びが止まった。
 海面が不自然に泡立つ。ボコボコと大きな音をたて弾ける泡は並々ならぬ、敵の存在を予感させた。

『ハッイィィィィ――――!』
 ドバァァァ。謎のポージングを決めた巨体が踊り出る。
 黒々とした肉体に弾ける飛沫はまるで油の上の水滴の様。
 ギョロッとしたまん丸な目玉がくりりっと岸壁に並ぶ男達を見て、ありえないことにその口元が不敵にニヤリと笑みを刻んだ。
 体格は後方でエールを送っていたジョニーと同じか其れよりも少し大柄。
 聞いていたのと実際に目にするのとでは全く違う。
「出た」
 ホントニキタヨ。
「魚だ」
 見事な肉体の上に鎮座する鯛の頭、夢に出てきそうで怖すぎる。
「アリエネー」
 びちびちと海面を跳ねる様は悪夢以外の何者でもなかった。
『ハイっハイィィィ―――』
 何か鼻息が荒いんですけど……魚の鼻って何処だったっけ?
 背筋を冷たい物が伝う。
 一回二回と、腕をクロスさせ。ハグしてやるぜっと言う勢いが見えるモンスターの様子に現実が遠くなる。
「下がれ!」
 転進、転進。退却に在らず。ゆっくりとすり足気味に後退する。
 こんな太い腕に抱きしめられたら、骨が折れること間違いない。怪我をするより前に体制を立て直すが勝ち。
『ハイッハイッハイッッッ!!』
 岩を砕く声の衝撃に追いたてられるように、3人が一目散に海辺から離れ駆け出した。
「「「こんな化けもん相手にできるかぁぁあ!?」」」
 冗談じゃねぇ!
 憤激より前に足を動かす方が先であった。

●夏の海辺のアツイ奴!
『ハイィィィィイッ!』
 下半身の鱗が陽光の下に煌く。
「う………」
 逃げる足が鈍る。全てを投げ出してもその声に身を委ねたくなる禁断の誘惑。
『うふふふv 私を捕まえてごらんなさ〜いvv』
 キラキラと光る光の乱反射が眩しい。
 儚い幻が逃げる面子とモンスターの間に生まれたように見えた。
 濁声なのに……何故、こんなに心を引き付けて止まないのか……幻想を生むほどに逃れがたい歌声。
「歌なら負けませんわよ〜♪」
「……でも、あんなのに魅了されるのもどうかと思うわ」
 歌声に惹かれ海に飛び込もうとした漢達を更なる歌声と心地よい風が包みこむ。
「ぞっとしない外見ですね」
 どちらかと言うとマッチョな男より爽やかな美男子が好みで、益して魚臭い上に立体的な肉体をしているよーなヤツには手加減は無用か……と、カゲルが次々に番えた矢を放つ。
 最も手加減など端から出来ないのだけれど……と心の中で舌を出して見せながら。
「……モンスターとかいう以前に、貴様に抱きつかれたいとは……思わん!」
 狂気を孕む歌声に耐え。済んでのところで正気に帰ったヤガミが愛剣を握りなおす。
「魚に釣られるなんて、冗談じゃないって!」
 魚に誘惑されかかった過去を振り払うようにルナードが浪打際を駆ける。膝上まで水に浸かるのも気にせず、狙うはモンスターの死角。
(「わたしとラートリさんの時代が来ますようにー」)
 胸の前で両の手を組み合わせ、ジョニーが何とも物騒な祈りを込める。
「手前なんか魚人で十分だ!」
 シルヴァの裂帛の気合が波を割る勢いで迸る。
「お前みたいなおめでたくない奴には不幸がお似合いだぜ」
『ハイっ!?』
 縛りあげる所までは至らなかったが一瞬の躊躇。其れだけで十分だった。
 ワスプが焼いて真っ赤になった魚人の絵柄の何とも微妙な絵柄のカードを投げつける。
「逃がすか」
「銀狼ちゃんっ噛み付いちゃって!」
 大体ねぇ、合意なく海でアレやコレしようなんて根性がいけないわっ。ズバリこれって天誅よー?
 その隙を逃すまいと畳み掛けるように攻撃が繰り出される。
『ハイィィ〜イ♪ ハイッ!!』
 謎のポーズを決め。身を捩りながら、微妙なテンポの歌声が鍛え抜かれた肉体に穿たれた傷を癒す。
『ハイっ!』
 ふんぬっと太い腕を振り上げて海面を滑るように近づいたルナードに迫る。
 男ならば一度は憧れる鍛え抜かれた肉体……が、鯛の頭の前には興ざめでしかない。
 避けるか……受けるか………究極の二者択一。
 そのまま行けばタックルかラリアート。ちょっと遠慮したいシチュエーションになる事は間違いなかった。
「くんなー!」
 寄るな触るなあっち行け!! 迫るぶっとい二の腕に頬を引きつらせルナードが衝掌を突き出す。
『ハイーッ』
 重い音と波飛沫をあげ、モンスターの体が海中を飛び出しびっちびちと宙を舞う。
「囮の人! 当たったらごめんなさーい!!」
「飛んでけぇーーーっ♪」
 お友達になりたくない外見であんまり近くに行きたくもない。近づくだけで、自分の中の大切な何かが失われてしまいそうだ。
 前衛の中間達を巻き込んでしまうかも? 脳裏を過ぎった予感を、見なかったことにして渾身のアビリティを放つ。
 数人がモンスターと一緒に仲良く吹き飛ばされていたようだが、気にしない。
 大儀の前の小事など気にしたら負けである。
「その目玉も下の脳もの骨の髄まで砕きて屠れ」
 生み出された虚無の手が跳ね上げられた巨体を器用に掴み。握りつぶすように、拳を握る。
『ハー………イィィ…………』
 遠くか細く響く断末魔が、潮騒と相成って不思議なメロディーを奏でていた。

「死ぬかと思った……」
 何とは言わない。味方のはずの後方から雨霰の様に攻撃が飛んできたり、抱擁の筈が首を絞められかけ窒息しそうになったり。
「全くだ……」
 無事で地を踏んでいるのが奇跡の様な戦いであった。
 何ともいえない外見のモンスターは、息の根を止めた事を確認してそっと海に流し。
 これでここも平和が訪れるであろう。
「結局はいてなかったのよねぇ?」
 鱗に覆われた魚の尾であったから、何も身につけていなくても違和感は感じなかったが……何かはいていて欲しかったかも?
 小首をかしげ、モンスターが去った岩場を改めてみわたす。
「怪我もなく何よりですね」
「お詫びに膝枕かしら?」
 いろいろやってしまった気がするので、ちょっとだけ巻き添えを食った面々に気を使う。
「いや結構」
 膝枕の筈がヘッドロックになったりしたら笑えない。
 ちょっと幸せな申し出であったが、丁重に辞退する。
「うむ、非常に目の毒だった!」
 後世に語り次がせたくないくらいに……実に破壊力のある外見のモンスターであった。
 全身を襲う予想以上の脱力感が雄弁にその破壊力を物語っている。
 悲しいかな、これが最初でも最後でもないとは思うけれど……全員が取り戻した一先ずの平穏を今は感じていたかった。


マスター:青輝龍 紹介ページ
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