<リプレイ>
●或る日の午後 高い鉄の柵門を抜け、石畳を進む。その先には、白塗りの豪邸。 「――やあ、君達。今回は、本当に良くやってくれた」 一同が何度か足を運び、すっかり見慣れた場所である。その日、態々広い玄関ホールまでやって来て、冒険者達十四人を出迎えたのは、屋敷の主であるドノバンだった。 恰幅の良い彼は、この街――商都ルルナの顔役に当たる大商。一連の事件に苦悩し、苦心していた彼だったが、この日ばかりは、深い皺をその顔から失せさせ、満面の安堵の色を貼り付けていた。 普段、客の応対を秘書に任せている筈の彼が、ここに居るのがそれなりに一同を驚かせる。 応接間に通され、ソファを勧められる。使用人が、手際よくテーブルに紅茶を湛えた白いカップを並べていく。 「既に聞いているようだが、もう――この街が『彼』に怯える事は無いだろう」 ややあって、閃光の射手・イオリ(a43829)は、言う。 彼女等、今日ここにある冒険者の多くが手がけた『暗黒螺旋事件』は、この商都ルルナを長く脅かした、キマイラによる連続猟奇殺人事件である。一連の防戦と、調査の末、その犯人を或る劇団の団長であると断定したパーティは、その舞台に悪魔を追い詰めた。 結果、彼を殺害せしめるに到ったのだが……話は、それで終わらなかった。キマイラは、敗れればモンスターと成る。此の世に怨嗟と、呪いを抱いた『それ』は、再びルルナを目指し…… 此度と、その前、二度に渡る対決と相成ったのであった。 「全ての悪意は断たれ、決着はついた……でな」 「この日を、本当に待っておったよ。漸くこれで、救われる――流石だ、本当に!」 万感篭った赤髭重騎士・ウィンストン(a53335)の言葉に、全身で感謝の感情を表したドノバンに、風塵乱舞の・ヤチヨ(a14410)は小さく微笑む。 「……ん、おおきに」 冒険者達にとっても、今回の仕事は少し特別なモノとなっていた。 手がけた時間も長く、噛んだ痛みも、苦味も多い。 「そう――これで、終わったんですよね」 静かに言った明け空の瞳の・サリヤ(a56330)の胸にも、言わぬ何かが去来する。 今、こうして全てを終えても――それが、手放しで喜べる結果なのかどうかは、分からなかった。 「取り敢えず、報告は、そういう事だ」 嘆息を一つして、黒き戒の傀儡・リキア(a41587)は告げる。 穏やかな午後。もう、戦いの気配も、禍の気配も無い。そんな昼下がり。 カップを手に取り傾けながら、彼は思う。やはり、覚めない悪夢等無かった――と。 「そう言えば」 不意に、鱗はお茶の味・オルフェ(a32786)が、口を開く。 「『あの』秘書さんは、どうしたの?」 よくよく見れば、この場に居るべき人物の姿が無いではないか。パーティとは違う切り口で、彼等を支え、事件の解決に尽力した人物が。ルルナのハイライトに常に姿を見せていた人物が―― 「……ああ、それなんだが……」 ドノバンは、笑顔を少しの渋面に変えて、棚の上のカードを手に取った。そして、それをテーブルの上――冒険者達の前に投げ出した。 「丁度、例の対決の日に来たモノだ」 ドノバンが、それから投げた視線の先――応接間の壁には、額縁の跡がある。 白い洒落たカードには、気取った字でこうあった。
――予告状。
●最後の対決 「別に、報われたいとは思わへん。 せやけど、悲劇が繰り返されんよう終止符を打ちたいんや――」 ヤチヨの言葉。 (「残るは私の誇りのみ。負ける気はしません。だって、負けられませんから」) 光風霽月・レム(a35189)の決意。 敗れる訳には行かぬ――そんな戦いが、そこにはあった。 「カンピアー……さ、ラストの幕、開けるのオチよ」 言葉程は気楽無く、そう狂気が乱舞の赤ペンギン・ヒナタ(a40516)が宣告した。 それは、始まり。 悪魔との二度目の邂逅。気まぐれな運命に、今一度だけ与えられた最後のチャンス。遮蔽物の無い草原――今度は、絶好のスポットで、パーティは、悪霧との対決の。 「螺旋事件……その幕引きに立ち会えて光栄です。 以前の討伐で削られているとは言え危険な相手。油断はいたしませんよ」 クスと笑い、嘯く月夜の風戯・ヨキ(a28161)も、言葉まで。 そこには、一分の迷いも、油断も無い。 既に種割れ、傷付いた相手であろうとも、やはり『悪霧』は、『悪夢』なのだから。 「任せておけ」 「此方も――」 「万物に宿る精霊の加護があらんことを――」 カトレヤ、オルーガ、デューン等が、まずは手早く鎧聖の付与を配っている。まず敵の弱みから撃ち抜こうとする敵の狙いを阻むかのように、レムの指示で動いた三人は、パーティの隙を埋めていく。 「そう、まずは――多角度から攻撃を」 悪霧を囲むように戦力を展開したパーティに、敵より十分に距離を取ったイオリの声が飛んだ。宵闇の中、夜を支配した悪霧さえ、この白日の下では、余りに無防備。 その姿、最早見失う筈も、見誤る筈も無く――パーティは、言葉に苛烈な攻勢を開始する。 「望まなかったアンコールだけど――悪霧が舞台に立つなら、とことんつきあうよ!」 途端にざわ、と広がった厭な気配に、ふわふわ綿毛のヒヨコ・ネック(a48213)の静謐な祈りが立ち向かう。そして、その対抗は、彼だけに留まらない。 「この、決着を――」 ルミリアの声が唱和し、 「何時までも、あなたを倒せずにいるなんて御免なんですから」 レムの展開した領域が、一時の不吉を中和する。 パーティの備えは、十重二十重。二度は、敗れまいと。力を減じた、この悪霧には。 (「ここでとどめを刺さないと、ダメだよね」) オルフェは、回復役の一人として十分に距離を取り、敵の動向を窺った。 目の前の暗黒が、何時螺旋を巻くか――それが、勝負の瞬間。決着への早道。ひりつく空気とプレッシャーは、初対面ながら彼に十分敵の脅威を教えていたが……その瞬間に到る為に、今更怯む筈も無い。 「いくでっ!」 放たれたヤチヨの黒いカードと共に、 「くぁ! わたしと勝負するのオチ」 ヒナタが、誰より前に出る。その得物で殲術を構え、表情無き黒霧をねめつける。 「良くも悪くも、これが最後」 その背後から、リキアが、その身に纏った黒炎を力とし、撃ち放った。 「カーテンコールのこの機会、得たからには決して逃さず――」 間合いを焦がした黒い焔を追うかのように、ウィンストンが走る。 「――今度こそ目にも見せてくれようぞ!」 サリヤが、続く。 (「今度こそ、と一体何回願ってきたのか。 でも、今度こそこれで最後――仲間を信じ、自分の力を信じて……全てに、決着を!」) 裂帛の気合が、力に変わる。 踏み込みより放たれた一閃は、真っ直ぐに霧を揺らめかせた。 「――っはぁ――」 濃密に香る『死』さえ構わず。彼女は、束の間。この一戦に忘我する――
●悪夢喰らわば やはり、戦場の――時刻の利点は、小さくない。 悪霧に対して、十全な準備と戦略を整えたパーティは、確かな優位を築いていた。 この悪魔とて、パーティを散々に苦しめたその能力を此度も発揮しているのである。だが、戦意高く、特別にその対抗策を用意したパーティは、これに耐え続ける。 「今、回復するよっ!」 手厚く、ネックが守る。彼が祈りを止めようとも、祈りの声が途絶える事は無い。 状況が、元より悪霧不利の消耗戦である。追加に四人の戦力をも用意したパーティは、焦れる展開の先に、徐々に手数と体力で悪霧を押しつつあった。 「皆っ、絶対に――逃がさんようにっ!」 ヤチヨの声に、パーティは、頷く。 「ええ、逃げ道は与えませんともっ!」 移動をしかかった悪霧の進路を塞ぐように、レムが立ちはだかった。 彼女の凛とした双眸が、真っ直ぐに『ランドアースの染み』を射抜いていた。悪意の塊。不幸を呼ぶ霧。生前も、死しても何を生む事もしようとはしなかった、下衆の亡霊。 「ここで――終わるんや!」 ヤチヨの強い言葉は、幾度目か。 「くぁ……焼き、消えろのオチ!」 ヒナタの一閃は、炎熱を纏い黒霧を裂く。 「勿論、その心算ですよ」 更に応えるのは、ヨキだった。彼は、既にその消耗を隠せぬ。だが、それでも断言する。 「この舞台……これ以上続けてもくどいだけですからね!」 漆黒の杖の展開した紋章術の力が、纏めて合わさり火玉を作る。敵を、目標を灼く意思の一撃を。
――――♪
オルフェの歌は、戦場に勇壮と響き。 「……霧なのだから、焔に焼かれて消えてしまえばいい」 リキアが攻め、 「この一撃にて、その悪意断たれるが良かろう!」 ウィンストンの斬撃が炎を纏う。サリヤの刃は、青白く――そう、彼女の怒気であるかのように輝き。染みに、光の軌跡を刻み込んだ。 防御の付与を終えたカトレヤ、オルーガ、デューンも攻めにかかる。 ルミリアが、戦線を支えながら、最後に到る好機を作り出していく。 苛烈な攻めの中――先に焦れたのが、悪霧であったのは、偶然では無い。 「来るよっ!」 この時を、待っていた。 敵の最大の攻撃は、同時に最大の隙を生む。悪霧の膨張に、オルフェが声を張り上げた。 「分かっているっ!」 イオリの指先が、ぐいと神雷の強弓を引き絞る。 (「カンピアーよ。一体何処で道を誤ったのであろうな?」) 見据えた敵に心中のみで語りかけ。彼は、自身の乾坤一擲を、極限にまで引き絞る。 膨張した闇が、収束した。次に来るのは、破滅の呼び声。呪いの拡散。 「これで、終幕だ――!」 させじと、青く閃光が間合いを疾(はし)った。 「グッバイ・カンピアー……今度こそ、本当に」
●貴方が愛したファム・ファタール そこは、ルルナの外れ――幾つもの花の供えられた墓地の前。 「……全て終わったんやな」 戦いの時間を思い出したヤチヨは、その光景を追い払おうと小さく頭を振った。 「暗黒の螺旋を抜けたルルナに、永久の平穏が訪れる事を願います」 ヨキは、ふぅと一つ息を吐いた。 彼の眼前の墓標には、『ファゼット・ラルーシュ』の名が刻まれている。享年は、二十四。 ドノバンへの報告を終え、その場を辞した一同は、誰からとも無くこの場所に足を向けていた。今回の事件の、もう一人の主役(ヒロイン)。救えなかった彼女の場所に。 「……この終わりは、如何だったのだろうね」 リキアが、ぽつりと呟いた。 他人(ひと)の気持ちは、誰も完全に知らないから。 真の意味で、カンピアーが何を望み、ファゼットが何を望んだか。彼等が、正解を得る術は無い。 (「カンピアー……本当に、これは、あなたの脚本通りの終演でしたか?」) 目を閉じたレムは、あの美しい男と歪んだ熱情――愛情にも似たそれ――を、思い出す。 赦すべきではない悪。 唾棄すべき悪。 だが、あの悪の。あの嘘吐きの、その言葉の全てが、果たして正しく本心だったのだろうか――? 『彼女』は、あの『彼』にとっても、運命の女と言えたのでは無いだろうか? 「……………」 レムは、止め処無く詮無い思考を追い払う。 「ねぇ」 サリヤは、不意に呼びかけた。 「ファゼットさん。貴女の望んだ結末は、なんだったのでしょうね?」 彼女の声に、墓標は、黙して答えない。 「彼女があの世で待っててくれるなんて、最期までずるいよねぇ〜」 代わりに、ネックが言って、天を仰いだ。 空は青く澄み渡り、憂鬱な事件の事など忘れてしまったかのよう。 吹き抜けた風は、夏の事件の終わりを告げ。秋の訪れを教えていた。 螺旋は、もう二度と巡らない。幻のように消え失せて――もう、二度と巡らない。

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参加者:10人
作成日:2007/09/20
得票数:ミステリ16
ダーク2
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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