キノコの山



<オープニング>


 とある村の裏にある小さな山。その山を、村人達は『キノコの山』と呼んでいた。理由は極めて単純で、この時期になると多種多様のキノコが取れるからである。
 春に取れる竹藪のタケノコと並び、秋のキノコは村を支える重要な収入源となっていた。しかし……。

「その『キノコの山』に、凶暴な大猿が住み着いたんだそうだ」
 昼下がりの酒場に、生真面目霊査士・ルーイ(a90228)の声が響きわたる。
「大猿は雑食で、山のキノコを片っ端から食べている。これ以上被害が広がる前に、何とかして欲しいそうだ」
 たかが一匹という無かれ。変異動物である大猿の食欲は凄まじく、この調子で行けばそう遠くないうちに、山のキノコは食べ尽くされてしまう。
「大猿は赤身を帯びた毛並みをしている。全長は並の人間の倍くらいある巨体だ。発見は難しくないだろう。
 その巨体に相応しい力と、巨体に似合わぬ俊敏さを兼ね備えている」
 また、山の木々は太く丈夫なモノが多く、猿はその巨体で樹上を飛び回ることすらあるのだという。
「幸い特殊な攻撃や遠距離攻撃はないが、地の利は完全に向こうにある。山は傾斜が厳しく、太い木々が生い茂っている。色々と戦闘に支障をきたすのは間違いない」
 普通にやっては前衛が後衛を守りきるのは難しいだろう。
「後、気を付けることは、大猿は凶暴であると同時に、危険に敏感だということだ。勝ち目がないとみた時点で、逃亡する。逃亡を許しては、依頼は失敗だ。十分に注意してくれ。
 俺の霊視ではこれが限界だ……すまないが、後はよろしく頼む」
 そう言ってルーイはいつも通り、丁寧に頭を下げるのだった。

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参加者
六風の・ソルトムーン(a00180)
翡翠色のレスキュー戦乙女・ナタク(a00229)
斬魔新聖・シンイチロウ(a26766)
御手先・デン(a39408)
虹色の羅針盤・シェリパ(a60767)
蒼紅の焔・ラキ(a61436)
淡青の青年・ラズロ(a65111)
白花・イクス(a65409)


<リプレイ>

●キノコの山
 道と呼べるほど上等な道もない、小さく険しい山の中を、八人の冒険者達が歩いていた。
 既に初秋と言っても良い季節だというのに、その額には薄く汗が滲んでいる。
「……確かに。あちこちに色んなキノコが生えてますね……村の人達の為にも頑張りましょう」
 歩く道すがら、倒木の下や木の葉の影に多種多様のキノコを見た、不幸吸引体質・ラズロ(a65111)額の汗を拭い、そう呟いた。
「キノコっ♪ キノコ♪ おサルも大好きキ・ノ・コ♪」
 いつの間に摘み取ったのか、大地の鼓動・シェリパ(a60767)は両手にキノコを持ち、楽しげに歌って踊っている。本来なら、村人に断り無くキノコを取るのはマナー違反なのだが、まあ良いだろう。どう考えてもその「薄緑にピンクの水玉模様」のキノコが食用に適しているようには見えない。
「茸を横取りする大猿かぁ……毒茸でポックリ逝ってくれると楽なんだけど、そうは問屋が卸さないだろうなぁ」
 と苦笑するのは、翡翠色のレスキュー戦乙女・ナタク(a00229)だ。まあ、その望みは薄いだろう。事実、先ほどからあちこちにキノコを取って食べた形跡があるが、シェリパが手に持っているようなヤバゲなキノコは、手を着けた形跡もなくまるまる残っているのだから。
「キノコを暴食するお猿さんかぁ……良くキノコばかりで飽きないもんだ。よっぽど好きなのか、この山のキノコは美味しいのか」
「なんにせよ、森の恵みを食い潰すとは、ドリアッドとしては、放っておきたくない話ですね」
「だな。森の幸は皆で分け合うモンだ」
 旧き印・シンイチロウ(a26766)の言葉に、無額白花・イクス(a65409)が答え、さらに、御手先・デン(a39408)が相づちを入れる。
 会話を交わしている間も、足は止まらず、周囲への警戒も怠らない。
 如何に木々の密集した森とはいえ、巨躯を誇る大猿の接近に気づかない可能性は限りなく低いが、万が一の可能性でもゼロにしておいた方が良い。
 途中、木陰のクローバーの群生地で、ラズロはめざとく四つ葉のクローバーを見つけ、それを手に取る。
「今回も皆さんが無事でありますように」
 一部の地域で幸運を呼ぶと呼ばれる四つ葉のクローバーに、ラズロは皆の無事を祈り小さく目を瞑った。
「やはり、ここから先は無理か」
 次第に密集してくる木々に、六風の・ソルトムーン(a00180)は、グランスティードの騎乗に見切りを付け、降りる。
「うん、ちょっと難しいね」
「降りた方が無難だね」
 同じく、グランスティードに跨っていたナタクとシンイチロウも地上に降りた。
 濃い草木をかき分け突き進むことしばし、
最初に反応したのは、神ノ手ヲ振リ払イシ・ラキ(a61436)だった。
「あっ?!」
 微かに獣の遠吠えのようなモノを聞いたラキは反射的に足を止め、紅いガントレットに覆われた手を顔の前にあげ、構える。
「どしたの?」
 敵か? とナタクが問いかけるより早く、
「ウォオオン!」
 今度は聞き間違いようのない大きな吼え声が、急斜面の森に響きわたる。
「来るぞ、陣形を築け!」
 ソルトムーンの声に従い、冒険者達は素早く視界の悪斜面に陣形を形成する。
「よしっ!」
 漆黒の炎をその身に纏うラキの隣に、長杖を両手で構えるラズロが立つ。
 その二人を取り囲むように、前衛の五人が周囲を固めたその時、ガザリと木々の梢が不吉な音を立てた。
「ッ、上だ!」
 それは誰の声だったか、反射的に頭上を見上げたデンの上に、赤い巨影が現れる。
 避けられるタイミングではない。
「クッ!」
 とっさに掲げたシールドの上に、巌の様な拳を叩き卸すようにして、大猿はその姿を現した。

●赤い大猿
 無骨なスーツアーマーに覆われた黒いリザードマンの巨躯が、シールド越しの拳打によって後ろに押し下げられる。
「ッ?!なんて馬鹿力だよ、お前」
 それでも、転倒しなかったのは流石だ。この急勾配の戦場で、転倒は致命的なフォーメーションの乱れを生みかねない。それどころかデンは、そうしながらイクスに鎧聖降臨の守りさえ施していた。
 大猿は足場の悪さなどみじんも感じさせない動きで後ろに下がり、歯をむき出しにして冒険者達を威嚇する。
 そんな猿めがけ、シェリパがまた手に持っていた毒々しい色のキノコを投げつける。
「食べるかなー」
「ギギッ!」
 しかし、猿は予想以上に激しい反応で、大げさにカラフルキノコから身を遠ざけた。
「……シェリパちゃん、それ絶対食べちゃダメだよ」
「というか、捨てろ。可及的速やかに」
「……うん」
 回りの声に、シェリパは逆の手に持っていたもう一つのキノコを遠くに捨てた。
「クギィ!」
 その隙に、大猿は一足飛びに距離を詰め、前面に立つシンイチロウの頭部に、その熊手のような手を振り下ろす。
「このっ!」
 素早くその一撃をかわしたシンイチロウは、大猿の懐に飛び込み、触れた赤い毛皮に、その指を突き立てる。
 堅い剛毛に覆われた大猿の体に、シンイチロウの指が突き刺さる。さらに、
「もひとつッ!」
 悲鳴を上げる大猿の顎に、追撃の蹴りをたきこむ。
「ギャッ!?」
 大猿の巨体が一瞬後ろにのけぞった。
「そこですっ!」
 タイミングを見計らっていたラズロの杖が描き出した光の紋章陣から放たれた光弾が、大猿の分厚い胸板を強かに打つ。
「ギャフッ!」
 悲鳴を上げた大猿の目は、怒りに燃え哮り狂う。
「グルルウウ……」
「バックアップ役は出来れば出番が無い方が嬉しいんだけど……ってわけにもいかないかっ!」
 後衛の横で守りについているナタクがそう呟いた時、大猿はその場で大跳躍を見せ、一瞬視界から消え失せる。
「目で追うな! 仲間のいる方向は仲間に任せ、それ以外の方向に意識を集中させろ!」
 次の瞬間、大木の幹を蹴った大猿は雷雨のごとき勢いで、冒険者達の上に降りてくる。
 その先にいるのは、イクス。
「グワアア!」
「きゃっ!?」
 大猿の拳が、イクスの小さく華奢な体を捉える。
 急勾配に倒れ転がるイクスに追撃せんと、大猿が手を逃す。しかし、
「ッ、させないよっ!」
 一瞬早く割り込んだナタクが、大猿の腕を払いのけた。
「このっ!」
「ギッ!」
 さらにナタクは背伸びをするようにして大猿の頭の毛を鷲掴みにすると、ギュンギュン勢い良く振り回し、
「そっちいくよっ! パスッ!」
 思い切り前方に放り投げた。
「ギャッフッ!」
 急斜面に強かに叩き付けられた大猿に、いつの間にかその背後に回り込んだシェリパが手を伸ばす。
「よーし、トスッ!」
 二、三回バウンドし、まだ上下も定かではない大猿に手をあてがい、シェリパは鋭く小さな踏み込みから強烈な掌底を放つ。
 再び吹き飛ばされた大猿はそのまま傾斜を勢い良く転がっていく。その先には、無骨な斧を構えたデンや徒手で構えを取ったシンイチロウが待ちかまえていた。
「ふんっ!」
 シンイチロウは転がり落ちてきた大猿を片手で受け止めると、ブスリと指を突き刺した。
 その隙にデンは、ラズロに鎧聖降臨を掛けている。
 ぶん投げられ、吹き飛ばされ、指をぶち込まれた大猿は、流石に身の危険を感じたのだろう。
「ギギィィ……」
 凶悪な怒りはなりを潜め、気弱な声を上げ、挙動不審に視線をあちこちに這わせる。
 あっと声を上げる間もなく、
「ギャウッ!」
 大猿はクルリと背を向けた。
「逃がしません!」
 その背に素早く反応したのはイクスだった。
 ラキとラズロのヒーリングウェーブで負傷から癒えたイクスは、自分を叩きふせた大猿の背に、白い術手袋に覆われた両手を向ける。
「木の葉よ、森を荒らす者を捕らえてください!」
 イクスの小さな手に導かれた木の葉の腕が、飛び上がる寸前の大猿の四肢をがっちりと掴み、引きずり卸す。
「ギギィイ!?」
 必死にその馬鹿力で拘束を外そうと暴れるが、アビリティの拘束が力尽くでどうにか出来るはずもない。
「イクス、ナイス!」
 シェリパがその俊敏さを活かし、拘束された大猿の前に回り込む。
「逃がすつもりは毛頭なし! ここで決着をつけさせてもらうー」
 一連の動きから放たれた回し蹴りが、身動きのとれない大猿の顔面に叩き込まれた。
「ギャッ!」
 この機を逃さす、他の者達もある程度フォーメーションを崩し、大猿への攻撃を優先する。
「そこだっ!」
 抜刀一閃、ソルトムーンの腰溜めに構えられた斧槍は、眩い雷光を纏い、大猿の背中に叩き込まれる。
「ギッ!」
 嗚咽に近い悲鳴が、大猿の喉から漏れる。それでもまだ息耐えていないのは、流石は野生の生命力か。
 だが、
「そこだー!」
 後方よりラキのはなった虚無の手が、大猿の身を守る赤い毛皮を無力と化し、
「このーっ!」
 光の軌跡を描くナタクの回し蹴りと、そこから連続する左右の拳打が叩き込まれたとき、ついに大猿が口から小さく断末魔の息をもらし、その動きを完全に停止したのであった。

●静けさの戻った山
「ふー、やっと倒せたかー」
 山歩きは疲れんなぁ、とラキはトントンと疲労した足を地面にぶつけ、深呼吸をする。
 隣ではラズロが今の戦闘で駄目になったキノコがないか、確認をしている。
 だが、どうやらこの辺りのキノコは大猿にほとんど食べ尽くされていたようだ。被害にあったのは先に、シェリパが取っていたような毒々しい色彩のキノコだけだ。
 まあ、アレは「ダメになったキノコ」というより「ダメなキノコ」だから、さほど気にする必要もあるまい。
「お墓を作って埋めてあげよう」
 というシンイチロウの提案に反対する者はいなかった。
 急斜面の鬱蒼とした森という条件は、土を掘るにはかなり難度が高い状況だが、それでも冒険者達は卓越した力で簡単に掘り進め、大猿の巨体がすっぽり治まるだけの穴を掘る。
 死体を穴に入れ、土を盛り、枯れ枝を立てた簡素な墓の前で、イクスは見えない何かを見るような目で呟く。
「……この猿を養分に、また植物が育つんでしょうね」
 それは、当たり前の話、当然の掟。だが、たまにはそのことを自覚することも必要なのかも知れない。
 例え依頼、必要な行為と分かっていても、他者の命を奪った後のはどこか荒涼とした空気が流れる。
 そんな、空気を振り払うかのように、明るい声をあげたのはナタクだった。
「それじゃ、もどろっか。戻ったらキノコ汁なんかにありつけるかな?」
「おお、日が暮れねぇうちにキノコ捜そうぜ〜っ!」
 呼応するラキの声を合図に、冒険者達はキノコの山をゆっくりと時間を掛けて降りていった。


マスター:赤津詩乃 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2007/09/24
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