<リプレイ>
「♪我をいざなえ〜 南国のその地へ〜」 即興の歌を歌いながら饗宴の思索者・アレクサンドラはデーリーの町に到着した。成る程、スパイスを使った文化が盛んなだけあって、スパイスの香りが漂ってくる。 町に招待したターバンの男性・シェフのインディを先頭にカレー食べ尽くしツアー一行はぞろぞろと通りを歩む。 「色んなカレーがあるんだよね。実に楽しみだよ」 清麗なる空牙の娘・オリエはそう言ってお手製の旗をパタパタ振った。まるで旅行ガイドさん。翡翠の霊査士・レィズはそんな彼女に頷きながら道歩む。 「暑いとこでは辛いものを食べて暑さ凌ぐって聞いたことありますが」 天使の微笑み・ルミエールは首傾げてインディに問う。 「デーリーの町でもそうなのですか?」 「ハイ。辛いのは食欲沸き立たせマスね。スパイスは栄養イッパーイ。多種多様のスパイスは薬草にでもありマス」 ターメリックは整腸作用に優れたり、とか。色んな効果の植物の実や根や葉がスパイスの原料。それを独自の調合で混ぜ合わせ、料理に用いるのだ。 その話を聞いたルミエールは感心して頷き、ニッコリ笑った。 「普通のカレーライスみたいなものしか食べた事ないので楽しみです。出来立てのナンってきっと美味しいのでしょうね」 「ライスとも合うケド、ナンとの相性はバッチリでス。ホッペ落ちますデスよ」 インディは人懐っこい微笑みでそう答えたのだった。 さて、集団の中でも最も目立つ一群がある。カレーな王子様・ロスト率いるカレー部の面々だ。 「久し振りの集会だな! 俺はこの日を待っていたぁ!! 「カレー、カレー♪ ロストちん達と一緒にカレー部結成で本格カレーを食べまくるのだ♪」 トマトなお姫様・ロザリンドもノリノリで銀のスプーン握りしめ、ロストは銀の皿を構えて叫ぶ。デーリーでは銀や鉄などの金属食器を浄なる器としているそうな。 「ルデ子の犠牲者……もとい下僕ももりもり参加してるぜっ!!」 「誰が誰の下僕だってゆーのよ」 ばこっ。白金蛇の巫・ルディリアの拳がロストの頭に降り注いだ。陽黄の騎士・クリストファーはそんな部長に南無と呟きつつ、同行面子に視線向けた。 「さて、やって来ましたデーリーの町。今回はナンカレーが食べられると聞いてきました……が。きっとロクな事がないんだろうなぁ……」 「まぁ……普通にカレーを食って終わ――れば良いんだけどな……」 冴月凍牙・エルトも同様に深い溜息を付いたのだった。 「カレーの道は一皿にして成らず! 世界中のカレーを食べ尽くして初めてカレーを語れるものなのだ♪」 「カレーの魅力を世の中に知らしめてやるぜ!」 気合い、入りすぎ。
● インディ経営のレストランは本日貸し切り。 その一角にて、壁に地図をでかでかと貼り付けて弁舌を振るう漢がいた。 「インディさんの故郷であるデーリーの町ではヨーグルトをベースにしたカレーで、具材は主に鶏が使われます。ここからさらに北に行ったスタンの町では……」 料理と酒の蘊蓄は既に浄火の紋章術師・グレイの特技である。 「反対に南に行ったムバイの町では豆とバターを使ったカレーなどが主食とされ、さらに南のリランカは――」 長いので略。 厨房では地元のシェフが実演披露しながら調理をしている。大きな鍋に沢山の刻んだ玉葱入れて炒める者、どろどろに溶けた玉葱と調合したスパイスとを混ぜ合わせる者、そして秘伝の生地を秘伝の技で大きく広げて形作る者……。 その様子をメモにとりながら斬魔将・カインはインディに問う。 「ベースとなるものは一緒なのか……スパイスの作り方を教えて貰う事は……?」 「ノンノン、それは秘密デス。ごめんなチャイ」 互いに残念そうな表情。商売人故に企業秘密と言う奴らしい。 その頃、紅迅万丈・ソフィアは硝子越しに見えるタンドリー窯での調理風景に夢中。何度も硝子に張り付いては熱いと離れる始末。 「壁に貼り付けて焼き上げるのですね!」 目をキラキラさせて見つめる。広げた生地を手際よく壺の内側に貼り付けて蓋をし、数分経った頃に空けて取り出すと香ばしい薫りと共に大きく膨らんだナンが姿を見せた。 「肉も焼けるのですね!」 金串刺さった鶏や羊の肉。カリカリな表面、詰まった肉汁。美味しいサイドディッシュが出てくる事だろう。 「お、ナンだけじゃなくプーリーもあるのか」 黒衣の閃迅・レオニードは揚げパンらしき物を作っている様子を見て嬉しそうに笑む。 「知ってるデスか、デーリー風の揚げパンデスを。通ですネ」 「まさかこいつを食えるとは思わなかったな」 そしていよいよ多種多様のカレーが一つ一つ器に盛られて皆の集まる大食堂に運ばれていく。 トマト風味の物からほうれん草入りの緑色をした物。具材も鶏・豚・羊・豆・魚介・野菜と様々。辛さも様々。 「おお……これだけの種類のカレーを目の前にするのは初めてだ! 壮観。感激。アレキサンドラは目を輝かせて各カレーの説明に耳を傾ける。 華麗なるカレーの食卓。カレーにナンにサイドディッシュが並び、いよいよカレーパーティの始まり!
● 小さめの更に盛られたカレー。辛さを示す小さな札を付け、それぞれ千切ったナンを好きなカレーに付けて食べられる様にした。食べ比べには良いだろう。ちょっとした立食パーティスタイルだ。勿論個別に注文した自分専用の皿も供される。 「ここまで、本格的となると、辛さも尋常じゃなさそうですね……」 熱っ、とナンを千切りながら旅人の篝火・マイトは良い香り放つカレーを見つめる。バターたっぷり塗られたナンの香りも香ばしい。 「それが、そうでも無いんやわ」 レィズはそう言いながら自分が食したカレーをマイトに指し示す。『3』と数字振られたカレー。食べてみると程々の辛味の中に、素材の甘味が広がった。 「数字が大きくなる程辛くなるんや。5より上は素人にはお勧め出来んけどな」 2で中辛、3〜4で辛口くらいとして。 ……この『20』ってどんな辛さ。 「このタンドリーと豆入りのを頂きましょうか。辛さ20倍くらいならOKですよ」 挑む勇者出現。生命実る緑風・ヴァリアはナンにカレーを付けて、インディに小さく問いかけた。 「……ちゃんと食べれるものでしょうね?」 「辛さに負けなキャ平気」 即ちそれ真理。軽く火を吹いた気もするが、美味しく頂いた彼はさて、と持参した羊乳酒を披露し大人達に勧めた。 「軽いお酒で栄養価も高いですよ。皆さんで美味しく頂きましょう」 「ラッシーなども辛さを中和させるのに良いと聞きますね」 ストローで頂きながらマイトが言う。ラッシーとはヨーグルトで作った飲料。乳飲料は胃袋を襲う刺激のダメージを減ずる効果があると地元シェフは語る。 逆に、水を飲むのは逆効果らしい、とも伺った。 「ひぃぃっ、か、からーいっ!」 ソフィアが叫ぶ。しかし辛くても我慢。それが本格カレーの道。スパイス効いたライスと激辛カシミールカレーとの相性はバッチリだ! アレクサンドラも辛さに汗しつつスプーン掲げ二人で叫ぶ。 「ナチュラル☆」 「ハーイ★」 辛さで思考がトンでる気がしないでもない。
また別のテーブルではインディが二人の女性を前に困った表情をしていた。 「カツカレー、デスか?」 「ええ、シークカバブをカツカレーで表現した――」 「普通のラムカレー、注文1ネ!」 インディさん、深藍の魔術師・レベッカの注文をスルーした。本格デーリーカリーを、それを真似してアレンジした一般カレーと一緒にして欲しくないらしい。 一般カレーとは違う、デーリー風料理を味わって欲しかっただけに――。 「チャイを頂きたいですわ。ストレートティーが好みですわね」 深緑の魔術師・メリッサに、レィズは耳を疑った。そんなカフェラテのミルク抜きみたいな、と。 「……チャイはミルクティーの一種や言うた筈やねん……ノーマル紅茶のオーダーでエエわ」 最初に話をした筈なのに、と彼は肩を竦めた。招待された趣旨を理解してから来る方が今後楽しい筈だ。そうレィズは二人に告げた。 一方、趣旨を充分すぎる程解っているヒトノソコンビも居た。 「ナンもカレーもいっぱいあって目移りしちゃいますなぁ〜ん」 「ナンナンはカレーにはちょっとうるさいですのなぁ〜んよ?」 淡雪ノ円舞曲・リッカとナン屋の・ナンナン。ナンナンは実はナンの屋台を引いているという、正にナンの使徒ですなぁ〜ん。 「で、お味の方は(もぐもぐ)」 「(もぐもぐ)ナンの焼き具合は絶妙ですしカレーも悪くないですのなぁ〜ん」 リッカは肉嫌いのナンナンの皿からお肉つまんでもぐもぐ。ナンナンは初めてのほうれん草カレーについメモメモ。 「幸せですなぁ〜ん……♪」 ラッシー飲みつつ夢うつつのリッカ。そんな顔見てナンナンは思う。皆が笑顔で美味しいと言ってくれるのが一番好きだと。インディは笑って彼女に言う。 「美味しい笑顔が一番デス。ナンナンさん、私も応援しマス」 「なぁ〜ん♪ 屋台頑張りますのなぁ〜ん♪」
不羈の剣・ドライザムに連れられてきた玄の情熱・レジェンダはキーマカレーでナンを食べながら、ふと首傾げた。 「そういえばナンてなぁ〜んでナンて言うなぁ〜ん?」 「うむ、それはな……」
『ナンはナーンとも言い、その由来はノソリンの肌に由来する。 その昔ノソリンを愛して止まぬ漢がその肌と質感を再現せんと試行錯誤した末に生まれた。 完成したその料理を、ノソリンの鳴き声よりナーンとした。(「民の明るい料理の歴史」より)』
うそこけ。それを聞いていたルディはドライザムの嘘八百を聞いて心の中で突っ込む。 「博識ですごいなぁ〜んね〜♪ ねぇ、ルディリアさんもそう思わないかなぁ〜ん?」 「え、ええ」 信じ切ってるその夢を壊せない。曖昧に彼女は頷いた。 「ちなみに達人の作ったナーンはひじょーにノソリン肌そっくりらしいな」 「ノソリンの顔にもそっくりデス」 持ってこられたナンはノソリンの真正面輪郭にも見えた。
さて、一番盛り上がっているのは後にも先にもカレー部の面々。 「俺はカレー一筋、十何年とんヶ月! ベジタブル、チキン、キーマ……食うぞ!」 「トマトジュースと一緒だと格別なのだ。カレーの大人な刺激とトマトの初恋のような甘酸っぱさのハーモニーが広がるのだ♪」 「カレー部連中にも大判振る舞いじゃーみんな、腹の覚悟は良いか?」 部長ロストと副官ロザリンドが激しく盛り上がり中。この様子だとロストが部員の食事代負担してくれる気がする。 「いえーい! カレー大好きなぁ〜ん! 特にナンで食べる豆カレーは格別なぁ〜ん!」 なんなん言いながら、ワイルドファイアコーリング・ジャニスは首傾げた。 「うう、洒落になっちゃうなぁ〜ん。腹立たしいなぁん!」 ヒトノソだから仕方ないですなぁ〜ん。 「ぁー……やっぱナンカレーはいいねぇ」 エルトは大騒ぎの皆を余所にまったり食す。羊メインにチャイを優雅に啜りながら。 その数m横ではクリストファーが100倍カレーに挑戦前。 スプーンを握るクリストファー。目の前にある赤き魔物。エターナル激辛カレー。食べたら死ぬ。 ……俺が。 「ふぎゅぬおぁああぁっ!!」 形容しがたい悲鳴で、彼はトンだ。 「適度な辛さが一番なぁん。まろやかで大好きなぁ〜ん♪」 頬に手を当ててもきゅもきゅ食すジャニス。不意にロザリンドはナンを見て呟いた。 「ナンはパンの親戚みたいなモノかな?」 「ええ、そうらしいわね」 「そいえばルデ子ちんはノーパ――」 その先の言葉は途切れた。ルディがロザリンドの代わりにロストの顔をカレー皿に突っ込んだのを見てしまったから。
「スパイスに負けない様、腰の強いフルボディの赤ワインをお持ちいたしました」 ソムリエの様に解説しながらグレイがグラスにワインを注ぐ。紅い液体がゆらゆら揺れるのを見つめながら、オリエは紅き柘榴の翼剣・キィルスの隣陣取って彼が食べていたカレーに自分のナンを入れつついた。 「と……?」 「ふふ、少し貰うよ。その代わりお裾分けするから」 にっこり笑って彼女は自分の皿を指し示した。 「わたしは焼きたてのナンを食べてみたかったんだ。だってすごく美味しいって聞いた事あるし」 「百聞は一見に何とやら。いや、この場合は見るじゃなくて食うか」 くくっと笑うキィルス。己で注文した皿は気付いたら皆でつつきあっているし。ルミエールも自分の食べていたチキンココナツカレーを差し出し、その代わり他の人のを少しづつ頂く。 「色んな味、食べてみたいですよね」 ふわふわナンを口に入れてもふもふしながら彼女は微笑んだ。その視線の先にはレオニードの食すカレー。ヨーグルトベースのチキンカレーに、フライドオニオン入り。横にはサイドディッシュのタンドリーラムチョップがとても良い香り。 「トマトベースのも美味いんだが、このヨーグルトとオニオンのコンビネーションは独特で美味いんだよな……なかなか食える機会が少ないのが残念だ。……む?」 気が付いたら皆の視線が集中。 「何だその物欲しそうな目は! 食いたいなら交換だ。自分の分を持ってこい」 自分の好きで注文した物を一方的に食われては悔しい。 「大体、女性になら兎も角、お前等男連中にタダで食わす分は無い」 きっぱり言い放ったその後ろから伸びる手。ルディ、こっそり試食。もぐもぐ。 「美味しい〜。今度エルルやラクウェルにお勧めしたい味かも」 「あ」 ちゃっかり食われてます。 「どんなにお腹一杯でも手を伸ばさずに居られない、魔性のあんちくしょうですねー♪」 そんなルディの行動を一部始終見ていた真昼の月・シュリは隣に座るレィズにそう微笑み言う。大好きな人の隣と言う特等席ってだけで嬉しくて仕方ない。 辛目のチキンカレーを焼きたてナンで頂く。何と幸せな事か。 「チャイのおかわりは如何かな?」 「はーい、貰いますっ」 「オリエ、オレにも頂ける?」 シナモンやスパイスの良い香りが口から鼻孔を通り抜ける感覚。ミルクが辛さを和らげてくれる。 「……ん?」 「ううん、何でもないです、よ?」 「……ああ、欲しいのん?」 レィズはシュリの視線先、シークカバブをつまむとひょいと彼女の口に放り込んだ。 「!?――んがぐぐ」 喉詰まらせた。そんな様子に皆ケラケラ笑う。 そこに運ばれてきたビール。インディは地ビールの試飲をどうぞ、と勧めてきた。 「じゃ、乾杯しようか」 誰かが言った。 美味しいカレーに感謝し、デーリーの町の発展願って。 「あと」 「ええ」 オリエとシュリは顔見合わせてキィルスを見つめる。誰かさんの近づく三十路プラスアルファをこっそり祝して。 「……?」 彼は知らない。数日後、誕生祝いに酷い目に遭う事を。
美味しいカレーとナンを再び食べに来れる日を祈って。 この華麗なるカレーの食卓に――乾杯!!

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参加者:22人
作成日:2007/09/24
得票数:ほのぼの14
コメディ2
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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