イナバの丘で捕まえて



<オープニング>


 イナバの丘。そう呼ばれる丘がある。
 近くにイナバ村という「イナバダンゴ」というお菓子を名産に持つ村があり、秋になるとイナバの丘にて、とあるイベントが催される。
「月見……か」
「ええ、どうせ暇なんでしょう?」
 緑の影・デスト(a90337)に容赦の無い事を言うのは、夜闇の霊査士・ミッドナー(a90283)だ。
「いや、暇というわけでは……」
「丁度引率の人が欲しかったんですよね。宜しくお願いします」
「いや、俺の言うことを……」
「楽しいですよ?」
「……分かった。行く事にしよう」
「そうですか」
 どうにもミッドナーには逆らえないらしい。デストは渋々頷くと、ミッドナーの渡した地図を見る。
 あまり近い場所ではないが、遠い場所でもない。
「そこで月見パーティを行うのですが、ちょっとした恒例行事もありまして」
 イナバの丘には、イナバウサギとも呼ばれる白兎がたくさん生息している。
 月に映える立派な毛並みと多種多様な性格が特徴であり、一年に一回、イナバの丘で大量繁殖するのだという。
 そのイナバウサギの大量繁殖期が丁度月見パーティと重なっており、月見に来る人達とイナバウサギの子ウサギ達の、所謂「お見合いパーティ」の側面もある。
 付近を通る一般人の旅人達の旅のお供としても静かな人気のイナバウサギと出会える月見イベントは毎年好評らしく、その子ウサギ達と一緒にお月見をするというのも中々に風流であるといえるだろう。
「まあ、そんなわけでして。子ウサギと一緒に皆さんで気楽に楽しんできてください」
「いや、俺は……」
「可愛いですよ?」
「……そうか」
 月見にイナバウサギ。それぞれの思いを胸に秘め、冒険者達はイナバの丘での月見イベントへ出発する準備を始めるのだった。

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参加者
NPC:放浪剣士・デスト(a90337)



<リプレイ>

「月見か……」
 守護者・ガルスタ(a32308)は呟いて、イナバダンゴを口にする。
 目の前では、2人の男達が何やら妙な会話を繰り広げている。
「イナバの丘のイナバウサギ。真っ白なんだとか。僕ぁ、三度の飯より白兎が大好きでね。ここはほっとけない! だからといって食べたりはしないよ!」
「そうだな」
 今にも思いっきり匿名で家庭の悩みを語る女性とかの悩みを聞きだしそうなテンションで語る空を望む者・シエルリード(a02850)。
 近くにいた放浪剣士・デスト(a90337)とは対照的である。
「……いい加減疲れない? 私達も月見しません? 綺麗ですよ」
 烏珠の剣・ヒースクリフ(a34207)が自分の手に届く距離をからかうかのように飛んで回るウサギを追いかけているのを見て、シエルリードはまだ見ぬ自分のウサギを想う。
 腰を下ろしたヒースクリフの元にあっさりとやってきたウサギを見て、感慨深げに頷く。
「あ、ミッドナー殿は参加しておるのかの?」
「……仕事があるそうだ」
「残念じゃのう」
 光纏う黄金の刃・プラチナ(a41265)と言葉を交わしたデストは、プラチナの後を追いかけていく子ウサギを見て、やはり感慨深げに頷く。
 デストとシエルリードの肩にはすでにウサギが載っているのだが、互いに全く気づいていない。
「あ、デストさん。好きな食べ物とかあります?」
「食えるもの」
 知識全くナシのアホ戦士・ツバル(a66503)の言葉にデストはアバウトな答えを返すが、本人は真面目である。
「大きなお月様ですね〜」
 晴天陽光・メリーナ(a10320)は仲間達と一緒に月を眺めていた。
「もう秋だったんだー……月を見上げると何故だか吠えたくなっちゃうんだよねー」
「月見酒にはもってこい、といったところかしら?」
 空ノ蒼色・イオ(a21905)が灰十字・セザリア(a21213)にお酒を注ぐと、注いだお酒に月が映る。
「風流ね……イオも成人したんだから一杯どう?」
 そう言ってセザリアはイオを見るが、メリーナと一緒に口一杯にイナバダンゴを頬張って幸せそうな顔をしているのを見ると、軽く微笑を浮かべる。
 いつの間にか、彼女達の元には子ウサギ達がやってきていて。
「随分人に慣れてるんだべなー」
 イナバダンゴを飲み込んだ種をまく人・ウィルカナ(a44130)が一匹の子ウサギの前に白ウズラのプーシカを出すと、鼻を動かして目を細める。
 やがてプーシカがウサギの頭に乗ったのを見届けると、そのウサギは出来るだけ頭を動かさないようにウィルカナの膝に乗る。
「……こうしてのんびり出来る時間が一番幸せ」
「そうね。落ち着いたらまた来てみたいわね」
 仲良く寄り添う2人を見守るメリーナとウィルカナ。そしてウサギにウズラ達。
「こうしていると……とても心が安らぐな……」
 月見に集った人々の中心から離れた場所で、深緋の蛇焔・フォーティス(a16800)は子ウサギの背を撫ぜていた。
 腕の中で静かに寝ている子ウサギは、彼が持ってきたキャベツの香りに反応して鼻を動かし。
 フォーティスもまた、ウサギにキャベツの葉を食べさせつつ、一緒に月を見上げる。
「このひと時を、魂に残る思い出に」
 夜明けの閃き・シンクロウ(a30974)が音頭をとるのは、光の扉の面々の集まりだ。
「かんぱーい♪」
 寒月の舞・エミス(a20226)を皮切りに乾杯の声が広がる。
「今日はいいお月見日和ですねぇ」
「あ、ありがとうございます。お団子、大好きです♪」
 イナバダンゴを配って歩くお袋の味は一流の男の証・セルター(a20216)に、大樹の名を継ぐ女神の子・レルヴァ(a53286)が笑って礼をする。
 それぞれの膝には子ウサギ達が乗っており、この面々だけでもかなり個性の違うウサギが集まった事が伺えた。
「こうやって月見ができるのも、母上達が命を賭して守ってくれたから、なんですよね……」
「……空の上から同じ月を眺めているでしょうか?」
 時空を彷徨う・ルシファ(a59028)はレルヴァに答えるようにして月を見上げ、シンクロウとセルファ達もまた、先の戦で命を落とした大切な人の事を想う。
 エミスから始まった歌が、遙か先の大切な人へ、届くように祈りながら、ただ空を見上げる。
「お久しぶりですー、ニニさん!」
「……久しぶり。月も綺麗で、今日が晴れてよかった……」
 名探偵・ラピファ(a20668)と空を映す水鏡・ニニ(a35982)。久しぶりにあった友人2人は、子ウサギを抱えて座布団に腰を下ろす。
「……ふわふわ、暖かい……」
「ウサギさん、可愛いですね〜♪」
 ニニの用意したお茶はダンゴにとっても良くあっていて。2人は、互いのウサギに名前をつけあう。
「ヒューイくんが誘ってくれるなんて珍しいなぁ」
「勘違いされると困るから一応言っておくけど、クリフが暇そうにしてたから声掛けただけだぞ」
 終焉デッドライン・クリフ(a66105)にそんな事を言う幸福アンチテーゼ・ヒューイ(a66093)。
「クリフ、お腹すいた」
「お団子買ってくるから待っててね」
 実にツンデレな友情風景である。
「……コッチ来ますか?」
 愛妻家・ブラッド(a26313)は、自分の足元に寄ってきた子ウサギに手を伸ばす。
 その手にピョン、と飛び乗るウサギに思わず表情を崩す。
「……かわうい……持ち帰っても良いのでしょうかっ」
「え、あ、はい。勿論ですよっ!」
 話しかけられたチキンレッグの邪竜導士・エイジ(a26534)は反射的にそう返し、ブラッドは嬉しそうにウサギを撫ぜる。
「エイジさんもお団子、どうですか?」
 ウサギの数を数えるのを早々と諦めたエイジはブラッドにイナバダンゴを差し出し、ブラッドもそれを嬉しそうに受け取る。
 2人と2匹のウサギの元にも月の光は優しく降り注いでいく。
「こら、ウサギ。俺のダンゴ取るんじゃねーよ。手癖ワリィヤツだな」
「お団子、まだたくさんありますから……」
 白き螺旋の花婿・ロヴィリス(a36968)と黒き疾風の花嫁・マーシャ(a26614)は、2人でイナバダンゴを食べていたのだが。
 どうやらロヴィリスのウサギは少々、食いしん坊なようだった。
「うわぁ、ウサギのくせに目つき悪ィなー。……なんか黒い気配感じるし」
 またダンゴをとられるロヴィリス。彼とウサギの追いかけっこをマーシャは楽しそうに見守る。
「あの、アルティール様、お団子でも如何ですか?」
 緊張したような口調の無垢なる茉莉花・ユリーシャ(a26814)は、踊る黒い猫・レイオール(a52500)に声をかける。
 緊張の理由は、1つである。これがデートではないか、という事に気づいたからだ。
 レイオールもそれに気づいたのか、自分の肩のウサギを軽く胸の手前に持ち上げる。
「どうしたウサ? ボクのおなかをもふもふするウサ?」
 子ウサギの方は少し迷惑そうではあったが、特に抵抗はしない。そんな様子を見てユリーシャは軽く笑い出し、レイオールも頭を掻く。
 静かな場所で飛・レン(a29140)は、静かに月を見上げていた。
 永遠を生きるが故の孤独という感傷。昔から変わらない月を見上げると、レンはふとそんな感情に囚われる。
「……感傷だな……」
 自嘲したレンの目の前に、ダンゴが差し出される。
 何も言わずダンゴを差し出した睡郷・ユル(a46502)を見て、レンは無言でダンゴを口にする。
 そんなレンの頭を軽くポンポン、と叩くユルもまた、無言。
 言葉は無いが、語り合わずとも分かり合える事もある。
 レンが引率してきた「とおりみち」の面々は、非常にのんびりとしていた。
「てかさすがに多いねウサギ! ここまで集まってるのって初めて見たよオレ!」
「私もこんなにたくさんなのは初めてなのです!」
 子ウサギの鼻に鼻を押し付けている皓天・ミツキ(a33553)の横では、ウサギと同じくらい道端の名も無き花・レモン(a33576)がべったりとくっついている。
 更にレモンにはウサギが張り付いており、何とも面白い図が出来上がっている。
 久々にミツキと外に遊びに行けたのが嬉しいらしく、蒼月夜・ラートゥルヤ(a36929)やえこなん・エコナ(a51844)などは、邪魔しないように離れた場所で絵を描いている。
「色もたくさんあるですよ。えこなん、どれか使うですか?」
「ありがとうなぁ〜ん♪ ボク頑張って上手に皆さんを描くのですなぁ〜ん!」
 どうやらクレヨンを忘れてきたらしいエコナはラートゥルヤのお絵かきセットから色を借り絵を楽しそうに描く。
 そんな彼等の様子を見守る白華遊夜・アッシュ(a41845)はレンやユル達の様子を見て柔らかく目を細める。
 そんなアッシュの横に、そっとイナバダンゴが差し出される。
「オダンゴ、これ、アッシュの分なのです」
 それは、プーカの忍び・クロウ(a59525)だった。何やら緊張している様子が見て取れる。
 友達になろう。その一言を言いたいだけなのに、何と難しい事か。
 その台詞を言うまでに、どのような階段をどれだけ積み重ねればいいのか。
 クロウはまず、その一歩を踏み出したのだ。
「月と言えばやっぱりこれっしょ♪」
 宵闇を歩く者・ギィ(a30700)はそう言って、持参した酒を終夜の幻影・エンド(a34108)のお猪口に注ぐ。
 エンドは返礼にギィのお猪口に酒を注ぐ。
「この静かな時間が、なんだか気持ちが良いですね」
「ああ、静かな酒もいいね」
 2人はそう言って、静かに笑う。月の下で、とても楽しげに。
「ふと思ったけど、絶対にウサギの着ぐるみやバニーガールが居そうだよねー」
「……お前って凝りねーのな」
 キョロキョロと探す僕はもう疲れたよ・ラス(a52420)と、呆れ顔の碧眼の野良狐・ユーイ(a43269)。
「んで、ユーイはどんなのが好みだ? 俺は……しっかりしているのが良いなぁ。例えば、甘えん坊で餌は自分で如何にかして野犬をキックで追い返してクマとライバルになれるのが良いかな?」
「んー? 大人しくて懐っこいのが良いかな。癒してくれるような子を渇望してます、結構真面目に」
 ラスのはウサギのレベルではないが、突っ込みは入らない。
「一人は寂しいのでお暇でしたら、デストさん。ご一緒にお団子いかがですか? 美味しいですよ? はいあーん♪」
 雲乃流・チヨヒメ(a48881)がデストに団子を食べさせていると、振り向いた場所には少し目つきの悪い子ウサギの姿。どうやら彼女と一緒に行きたいらしい。
「あなたの名前は、「コケモモ」にしましょう」
「旨そうな名前だな」
 だが、その横では、ガラクタを集める者・トリン(a55783)の手により、やはり旨そうな名前がつけられていたりした。
「あなた……とっても美味しそうですなぁ〜ん♪ 名前はだいふくにしましょうなぁ〜ん」
 コケモモにだいふく。実に美味しそうな名前である。
「君の名前は、ケーキ」
 更にその近くでは、両手を埋める花束・ザクロ(a66425)がウサギに名前をつける。
 少し溜息をつくデストの服の裾を、七色天使・アイリン(a56124)が引っ張る。
「あ……あの、デストお兄様……この子の名前付けてくれませんか?」
「レアチーズ」
 緊張で真っ赤になってワタワタするアイリンの頭をデストがポンと叩き、ウサギ達は実に楽しそうに追いかけっこを始める。
「みんな、見てみて〜! ほら、ソル君のお嫁さん♪」
 響く星を抱く陽光の鞘・ルミナ(a49139)の言葉に有罪の声域・コルフォ(a64678)達が振り向くと、何やらルミナの頭と腕の中にウサギが居る、
 片方はルミナの飼っていたソル君のようだが、もう1匹はどうやら新しいウサギのようだ。
 お嫁さん、というからにはメスなのだろう。臨兵闘者・ジュド(a62796)が納得すると、近くに居るドリアッドの邪竜導士・レェテ(a67180)から声がかかる。
「ちょいとジュド! あたしにもお酒わけとくれよ」
「おう。こういう時ァそれなりに落ち着いた、大人同士の静かな酒と行きてェもんだ」
 ジュドとレェテは互いにグラスを交わし、乾杯する。
 視線の向こうではコルフォと荒野の復讐者・リネット(a57940)が、何やら会話を交わしている。
「この子はチリエージョって言うんだ。桜って言う意味だから、ね」
「桜の花がお好きなんですね。楓華の方は、春に桜の花を楽しむそうですが……」
 どうやら、桜にかけた意味にリネットは気づかなかったのかもしれない。コルフォはリネットの髪の桜を眺め、気づかれぬように溜息をつく。
 独特の時間を過ごす4人の周りをルミナがウサギ達と共にクルクルと回っていく。
 静かに、彼等の時間に水をささないように。月は静かに彼等を照らす。
「お月見と言えば、やっぱりダンゴだ!」
 苦痛を抱き闇に束縛されし蒼狐・ミーノス(a53551)と夜昼ノ徒然狐・カナエ(a52217)の膝にはすでに子ウサギが乗っており、寝息を立てている。
「ふふ……もふもふしてますね」
 会釈して通り過ぎる硝華・シャナ(a52080)に軽く手を振ると、カナエはウサギを撫ぜた。
「……ふわふわ……」
「ふかふか……これは……良い」
「……だな」
 小さな風の舞姫兎・ユキ(a50587)と黒荊の扉・インドア(a52717)も混ざり、ミーノスと合わせて3人でウサギをモフモフし始める。
 そんな光景を見て、カナエはクスリと笑う。実に平和であった。
「どうしよう、どっちをだきゅしようか迷ってしまうよ」
「二兎追うものは一兎も得ずだよ?」
 ウサギと夢見る雫姫・セイカ(a61244)のどちらを抱きしめようか迷う清風明月・レナータ(a62039)に、風浪の蒼き人・レナート(a57461)の突っ込みが入る。
 デートを邪魔された感のあるレナートの恨みは深いが、彼にもしっかりウサギは付いてきている。
「小さくってふかふかな動物さんは大好きなのです……」
 セイカの言葉に、レナータは迷わずセイカを抱きしめた。
「ふふ、小さくて可愛いな〜」
 お腹の上に載っていたウサギに手を伸ばすと、自分らしく輝いて・ラトレイア(a63887)は姫椿の鐘楼守・ウィズ(a65326)がウサギに突撃している光景を目にする。
「姐さん好っごふっ! 最後まで言わせもがーっ!」
 ウサギに強烈なカウンターをくらっている所を見ると、可愛いだけではないのも居るようだが。
「月、綺麗ですね……」
「はい……いいお月見ができそうです」
 幻想徨求・カナト(a65324)と静かなる風の音色・シェリル(a53427)の近くでは鈴虫の声が聞こえ、凛とした清涼な雰囲気が漂う。
 叢からガサリと出て膝に飛び乗るウサギを見て、2人は思わず笑顔をこぼした。
「本当に綺麗なお月様だよね〜」
 元気印のひだまり娘・ユーニア(a61676)は爆走する玉砕シンガー・グリューヴルム(a59784)に寄り添い、月を見上げる。
 そう、空には丸くて大きなお月様。
 遙か昔から、ずっと変わらずにある月を見上げ、人は様々な事を想う。
 ある者は愛を、ある者は想い出を。
 月は、いつも変わらずに地上の一瞬を照らし続ける。
「ん、今夜は絶好の月見日和だなっ」
 そう、まさに今夜は月見日和。イナバの丘で、静かに夜はふけていく。


マスター:じぇい 紹介ページ
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参加者:60人
作成日:2007/09/23
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