サーファーきどりセイレーンの彼



<オープニング>


「諸君らは波乗りについて知っているかね」
 紺碧の子爵・ロラン(a90363)の問いに、海風の追人・モーリ(a90365)はうっそりと頷いた。
 木製の板に乗って波の上を渡るという遊びで、海辺に住まうものたちの中には、これをよくするものがいる。
「さて、とあるセイレーンの貴族に、その波乗りをこよなく愛する方がおられる。ゆえに領民からは『波乗り男爵』と呼ばれているそうだが。……困ったことに、男爵がいつも波乗りを楽しんでいる海岸に、巨大なクラゲの集団があらわれてね。これを退治してほしいという依頼なのだよ。そして――」
 クラゲのせいでここしばらく波乗りができないので、男爵はそうとう、うずうずしているらしい。なので冒険者に同行して、浜で待っているというのだ。
「クラゲは遠距離の攻撃などは行わないので、男爵が海に入らなければ危険はないだろう。とはいえ、万一のことがあってはいけないので、男爵の身の安全は厳に確保してもらいたい。まあ、熟練の冒険者諸君には難しい仕事ではないだろう。男爵は特別に、冒険者諸君にも浜辺で遊ぶのを許すと仰っている。もう夏も終わりだ。海へ行けるのも最後かもしれないから、せいぜい楽しんでくるといい」
 そう言って、ロランは微笑むのだった。

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参加者
影葉・リーファ(a06043)
荒野の復讐者・リネット(a57940)
青雪の狂花・ローザマリア(a60096)
春陽の・セラ(a60790)
白森の護人・ディッカ(a62274)
玄鼠・セン(a63819)
樹霊・シフィル(a64372)
有罪の声域・コルフォ(a64678)
NPC:海風の追人・モーリ(a90365)



<リプレイ>

●晩夏の海へ
 そういえば、今年は一度も泳いでいなかった。そう気づいて黒の鼠・セン(a63819)は愕然とする。時の流れは速いもの。ドラゴン襲来をはじめとする大事件や、日々の雑事に追われているうちに、あっという間に夏もおわりだ。だからこそ――
「よしっ、今日は今までのぶんも遊ぶぞーっ!」
 と誓うセンであった。
 だがそれにはまず、与えられた仕事を終えねばなるまい。
「この季節は海は荒れがちです。波乗りには良きことかとは存じますが……余計なものまで運んできたというわけですわね」
 樹霊・シフィル(a64372)の緑の瞳が、晩夏の海を見渡す。
 波間のそこかしこにうかぶ、白っぽい半透明の塊は、大人ほどもある巨大なクラゲであった。
「アタシの波乗り納めを邪魔しようなんざ、塩漬けにしてオードブルで喰っても飽き足らない大した不届きものよねー」
 ざっ、と力強く砂浜に立つ翠聖劍姫・ローザマリア(a60096)。傍らに駆け抜ける者・ディッカ(a62274)を従え、鬼気迫るほどの気迫が放たれている。いつのまにか、クラゲ退治の目的が『アタシの波乗り』にすりかわっていることからもわかるように、今日はサーフィンする気満々でいるらしい。
 波乗りとは、それほどまでに人を惹きつけてやまないものなのだろうか、と藍色の医術士・セラ(a60790)は思う。
 ここはセイレーン貴族の私有地であるから、大クラゲが出ても捨て置けないわけではない。退治依頼が出されたのはひとえに、領主たる『波乗り男爵』が波乗りしたいがゆえなのだ。
 ちょうど、かのセイレーン貴族が、やってきたところであった。
 上背のある、壮年のセイレーンは……、すでに水着であった。もちろん(?)水着はブーメラン。泳ぎで鍛えたか、歳のわりには見苦しくない身体は褐色に焼け、そのうえに金のチェーンが光る。小脇にサーフボードを抱え、今にも波打ち際に走りだしてしまいそうな様子である。
「きみたちが、紺碧の子爵がよこした冒険者かね。早くあの厄介なやつらをどうにかしてくれたまえ」
「おまかせください」
 にこりと微笑む影葉・リーファ(a06043)はメイド姿。
 なぜメイドか、といえば、貴族の前に出るからである。
 貴族の前には違いないが、海に入らねばならないのだが……そこはそれ。
 一方、ローザマリアやシフィルは身体にぴたりとした水中活動に適したいでたちである。シフィルいわく「水着は特別製でございますわ。水温もだいぶ低うなりましたでしょうし」とのこと。
「ともかくも、男爵様はどうかご見物なさっていてくださいませ」
 荒野の復讐者・リネット(a57940)が男爵に告げた。
「退屈なさらないように、ここでわたくしどものくらげ退治をしばしお楽しみください」
 とセラ。
「ほほう、そうか。ではお手並み拝見」
 冒険者の戦いを間近で見れるなど、そうある機会ではないから、男爵は嬉しそうである。
「ボートの用意ができたが」
 海風の追人・モーリ(a90365)が言うと、冒険者たちは仕事にかかりはじめた。
 ボートには有罪の声域・コルフォ(a64678)とディッカが乗り込む。ふたりへはリネットから鎧聖降臨、そしてセラから護りの天使達が施された。
「お気をつけて」
 リネットに送られて、ボートは波間へと漕ぎ出してゆくのだった。

●クラゲ退治
「意外と重労働だな」
 オールを漕ぎながら、コルフォは思う。
 とはいえ、他の女性冒険者にその重労働を任せるわけにもいかない、と彼は考えるのだ。
「海辺のバカンスの準備運動にしては、ちょっとハードだね」
「……仕事は片づけて、波乗り男爵に楽しく波に乗ってもらえるようにしよう」
 ディッカが応えた。
 彼の身体を、黒炎覚醒の力が包み込む。
 波乗りに適した海というだけあって、海面はうねっている。その中を、ぷかぷかとただよう大きなクラゲたち。
 海面を乱すボートの接近に気づいたか、ふよふよとディッカたちのほうへ近づいてくるようだ。
 それを待って、ディッカの頭上にスーパースポットライトの輝きが灯った。
「よし、浜へ」
 言われるまでもなく、コルフォは漕ぎ出している。ここまでとは逆に、まっすぐ浜へ戻っていく。追いつかれぬよう、かといって引き離し過ぎぬよう、クラゲを連れて仲間たちのもとへ戻らねばならない。
 しかし、波があるぶん帰りはいくぶん楽になったか。
 たくさんいるクラゲたちが、ディッカの光をめざしてざわざわと寄ってくるのはなかなか不気味な光景だ。やがてふたりのボートは波打ち際の浅い場所へと――。
「二人ともお疲れ様っ!」
 センが叫んだ。
 波打ち際には仲間たちが待ち構えていた。
「さてと、こっからが本番なんだよな」
 セラとリーファは、近づいてきたクラゲたちに向かって粘り蜘蛛糸を放った。
 糸でからめて浜にひきずりあげられればこちらのものだ。
「なんだか漁みたい。……獲ったぞ〜っ――って、アレ?」
「だめですね〜」
 ふたりの投げかけた糸はたしかに絡みつきはするが、相手に放った場合、蜘蛛糸は手を離れて敵を束縛するので、こちらに引き寄せるのは無理のようだ。致し方ない。だがおかげで、敵の大半は波間で自由を奪われている。
 リネットとモーリが、グランスティードで波を蹴散らし、駆けた。
 リネットは臆せず海に入って、手近なクラゲに薙刀を振り下ろす。兜割りの重い一撃が、ゼリー質のクラゲの笠をぐしゃりと割った。
 モーリはクラゲからは間合いをとりつつ、デンジャラスタイフーンで攻撃を加える。
 ディッカとシフィルがエンブレムシャワーの雨を降らせると、波しぶきが高く上がった。
 早くも、いくつかのクラゲは骸になって、あわれ、波間に飲み込まれてゆく。
 まだ健在な個体にも、ローザマリアが渾身のワイルドキャノンを叩き込めばひとたまりもないようだった。

「おお、これは見事、見事」
 そんな様子を、文字通り、高みの見物としゃれこんでいるのが波乗り男爵。
 無邪気に拍手喝采する姿に、セラは微笑む。齢のわりには、子どものような笑顔をする男だ。サーフィンができずにうずうずしてこんなところまで出てきてしまったり、案外、かわいいところのある人物なのかもしれなかった。
 ところが。
「あ、男爵。こちらにいらして下さい」
 男爵は冒険者たちの戦いぶりに興味を引かれたのか、勝手に砂浜をずかずかと、海のほうへ歩きだすではないか。
「なに、もっと近くで見たいだけだ」
「いけませんわ、男爵――」
 セラは危ないからこちらにいてください、と言いかけて……かわりに、そっと、男爵の腕にふれた。
「つれないお方ですこと」
「……」
 その声音に、はっと振り向く波乗り男爵。
「わたくしと、お話していてくださいませ。よろしければ……この海のお話、拝聴したいのですけれど」
 北風と太陽の寓話ではないが、無理に引き止めるよりこのほうがよさそうだと踏んだのだが……、セラは男爵の目がにんまりと細められるのに、たしかに正解だったが、言うんじゃなかった、と内心で思った。普段は決して言わないような言葉に恥ずかしさがこみあげてくる。
「そうかね? そう……なにから話せばよいかな。ふむ、我輩がこの海で波乗りをはじめたのはそもそも――」
 さりげなく肩に手がふれてくる。
 もう、セイレーンの男のひとってこれだから、とセラが思ったとか思わなかったとか。

 ざぶん、とシフィルはためらいもなく、その身を海中に沈める。
 こんなときに役に立つ素潜り用の装備を用意してきたのだ。水中メガネを通して、波の下の風景を、彼女は見通すことができた。案の定――、海面に漂うばかりでなく、その下に身を隠すようにして泳ぐクラゲたちがいる。
「海の中にもおりますわ!」
 海面から顔を出して、仲間たちに警告する。
 モーリが海中へ駒を進めた。
 ややあって、海面に半身を出す。その身体に半透明の触手がからみついていた。
「大丈夫!?」
 コルフォから高らかな凱歌が届くと、触手がもたらすマヒを解かれたモーリは力まかせにクラゲを海面へ持ち上げ、そのまま波間に叩きつけた。
 剛鬼投げのきまったクラゲへは、センが蛇毒刃でとどめを刺す。
 リーファも飛燕連撃で離れたところに浮かぶクラゲを仕留めていく。
 ディッカからは容赦なくエンブレムシャワー。
 大クラゲたちがすべて駆逐されるのに、そう時間はかからなかった。

●短い夏の終わりに
「そう、そのとき! 我輩の眼の前には、見たこともないような大波が――」
 波乗り男爵の熱弁。
 感極まって――なのかどうか知らないが、またもやその手がセラの肩にふれようとしたが、するりと、彼女はそれをかわした。
「ご高覧いただきましてさいわいです」
 優雅に一礼、そしてにっこりと微笑む。
「……ん」
 クラゲ退治が完了したことを、依頼人は知る。

「海のお掃除です〜」
 リーファが蛇腹剣を器用につかって、波間にただようクラゲの死骸を集めている。
 そのままでは見栄えも悪いし、波乗りの邪魔にもなるだろうと、片付けるつもりなのだ。
 モーリが、無言で海に歩みを進めた。言葉はないが、手伝うつもりのようだ。

「さあ、アタシの本番はここからよ!」
 ローザマリアのテンションはいやがうえにも盛り上がる。
 まるでそれに誘われたように、それまでいかにも夏の終わりといった感じだった曇天がにわかに日が差しはじめるではないか。
「男爵様? 私、波乗りは心得がありますの。こちらは私の弟のディッカと申します。ともども、ご同伴をお許しいただければさいわいですわ」
「ローザの弟のディッカです。ご一緒させてもらえると嬉しいです」
 ボードを携え、礼を尽くすローザマリアと、その傍らで、たどたどしくも挨拶をするディッカ。
 波乗り男爵の眉がぴん、と跳ねた。
「ほほう、同盟諸国の冒険者にも波乗りをたしなむものがいるか。ならばともに参ろう。夏は短い。存分に、楽しもうではないか!」
 ニカっと笑えば、日焼けした顔に白い歯がまぶしい。
 どこからか、男爵の召使とおぼしき人々がうやうやしく彼のサーフボードを運んできた。
「ゆくぞ!」
 待ちに待ったといった風情で、駆けだす男爵。ローザマリアとディッカが、それに遅れず、後を追った。

「日が照ってきてよかった。でも水は冷たそうだね。……もっと盛りの夏なら最高だったのにな。これだけ素敵な女性がいるのだから」
 コルフォが笑った。
 浜辺にデッキチェアをしつらえ、身体を伸ばす。日光浴にはちょうどよい。
 と、そんなコルフォに近づく人影。
 ふと顔を上げれば、立っていたのがリネットである。
「おや」
 旅団で知る普段の彼女とは違う装いに、コルフォは目を細めた。
 彼女は豹柄のビキニの水着であった。
「大変、ご無礼なお願いかと思いますが」
 そしてちいさな瓶を差し出す。
「日焼け止めを塗っていただけますか?」
「もちろんいいとも」
 コルフォは笑った。リネットは真顔のまま、彼に背中を向ける。日焼け止めクリームをリネットの肌にていねいに塗り広げながら、コルフォはうしろから囁くように言った。
「その水着、素敵だね」
 それをどうとってか、リネットは間髪入れずに、
「借りものです」
 と答える。
「……これをキッカケに、もっときみと親密になってみたいな」
「……」
 塗り終える。リネットは瓶を受け取ると、
「もう十分、親密なのではないですか? ……ありがとうございました。コルフォさんもいかがですか」
「……。……じゃあ、頼もうか」
 交替しつつ、人知れず苦笑を浮かべるコルフォ。
「……ま、こういうところが可愛いところなんだよね」
 というちいさな呟きに、気づいたものがいたかどうか。

「さすがにうまいな……」
 センが、感心して、息を漏らした。
 波乗り男爵は波の上を魔法のように板一枚で滑っていく。
 そのあとにはローザマリアが続いた。彼女のボードさばきも男爵にひけをとらない。巧みにバランスをとり、ビッグウェーブの上に遊ぶ。
 男爵が、ボードの上からサムズアップを送った。それに応えるローザ。
 さらにディッカが、ふたりを追う。
 ふたりほどではないが、案外、様になっている。……実をいうと、ここに至るまでには姉ローザによるかなり本気の特訓につぐ特訓があったのだがその辛く苦しい日々も、爽快に波を駆ければすべて良い思い出! これがサーフィンだ!
「これが今年の泳ぎ納めとなりましょうか」
 シフィルが言った。
 せっかくだからと、シフィルとセンも波乗りに挑戦だ。
 ボードに乗って沖へ泳ぎ、波のうねりが迫ってきたら、その上へ――
「って、うわっ! 冷て〜っ」
「あらら……思ったより難しゅう……」
 ざぶん、としぶきをあげて波に呑まれる。
 先のものたちがすいすいと波に乗る姿を見ていると、造作もなくできてしまいそうな気がするが、未経験者がすぐにできるようになるものではないようだ。
 しかし、この姿がローザマリアに火をつけてしまい、時ならぬスパルタサーフィン教室がはじまったのはそのすぐ後のこと――。

 セラは靴を脱ぎ、スカートの裾をつまみあげて、波打ち際を散歩する。
 素足が砂に埋まり、波に洗われる感触が心地よい。
 沖合から騒がしい声がする。
「そう、今よ!」
「このタイミングが肝要でございますのね」
「の、乗れた! 乗れたぞ! ひゃっほ〜っ――うわわわっ!!」
 いつのまにか、傍に立つモーリ。
「焚き火を起こしておいたほうがよさそうだな」
 沖でサーフィン特訓中の面々に目を遣り、そう言うと、浜へ。
 砂浜では、ピンクのスカート付き水着のリーファが砂の城づくりに精を出している。
 ほう、と一息、彼女は、夏の終わりの水平線を眺めた。
 来年はおねーちゃんとこれるといいなあ、と呟く。

 今夏最後の海を、思い思い楽しむ冒険者たちを、吹きわたる海風が、やさしく撫ぜた。


マスター:彼方星一 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2007/10/01
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