嵐を呼ぶ漢女!



<オープニング>


「夏もそろそろ終わりかなー? って思ったときに限って暑くなるよね」
 エンジェルの霊査士・クロトナ(a90371)がシャツの胸元をぱたぱたと引っ張りながら冒険者たちにそう語りかけた。
 全員が席についたことを確認すると、うんと一つ伸びをしてから依頼内容を説明し始める。

「ある場所に人型のモンスターが現れたの。女の子――というにはちょっと大きいぐらいの美形の女性型だね。強烈な雨と風を巻き起こす能力を持っているらしくて、直接の襲撃を受けたわけでもない周囲の村々の被害がもう甚大」
 まあ、直撃したらその村は間違いなく全壊全滅なんだけどさ、と言い添えるクロトナ。
「外見は半裸で、布状の――なんていうんだろう。巻く布が足りないミイラ状態。自分で起こした大風で、黒い長髪と巻き付けた布の端がいつもばさばさとたなびいている感じ」
 そんな見た目でも、能力はやはり手強いモンスターのものに違いないのだという。
 振るう細腕は木々を容易に折り砕き、しなやかな肢体は冒険者達の攻撃の直撃を幾度も耐え得るという。
 かと思えば肉弾戦一辺倒でもなく、多彩な範囲攻撃を繰り出してくるのだ。巻き起こす大嵐と相まって、その破壊力は尋常なものではない。

「このモンスターの嵐が過ぎれば天気も良くなるみたいだから、周囲に住む人と美味しい作物のためにも頑張って退治してね!」

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参加者
六風の・ソルトムーン(a00180)
剣難女難・シリュウ(a01390)
光と影の輪舞曲・アディルード(a09456)
子煩悩な愛妻家・クルド(a11701)
聖骸探索者・ルミリア(a18506)
碧風の翼・レン(a25007)
月夜に舞い降る銀羽・エルス(a30781)
銀の翼に望みを乗せて・カグラ(a31332)
碧眼の野良狐・ユーイ(a43269)
千篇挽歌・テラ(a48288)
謡うは聖なる伝承・エンヤ(a64562)
灼槍の狂戦士・アスラ(a65123)


<リプレイ>

●戦場暴風圏
 敢えて表現するなら『水桶をひっくり返したような雨』が、ほぼ真横から際限なく叩きつけられている。
 喉の奥に飛び込む雨滴を意に介さず、堅き岩塊を穿つ矛・アスラ(a65123)は腹の底から吼えるように歌を唱う。
「……皆、無事か!」
 風雨の音が激しすぎて、ほんの少しの意思伝達も、叫ばなければ届きはしない。
 応! という返事が雨幕の帳向こうから返ってきたことにひとまず胸を撫で下ろしつつ、油断無く敵の様子を窺う。
 この大嵐にそぐわないむき出しの白い肌と、それよりも白い薄布に身を包んだように見える美女の姿が、ぶれるように数を増してゆく。
「ううん……目移りしてしまうなぁん」
 眉をひそめつつ謡うは聖なる伝承・エンヤ(a64562)が呟く。モンスターが残像を伴った近接範囲攻撃を終え、一体に戻るタイミングを見極めて黒炎を放つ。
 絶えず耳に飛び込んでくる風雨の音の合間に、風切り音がほんのわずかな粘ついた飛沫の音と苦悶の声を伴って耳に届く。
 モンスターが振るった腕。それが光と影の輪舞曲・アディルード(a09456)の肩口をかすめただけで銀糸で織られた衣服が裂け、そこを起点に巻き起こった小旋風が、彼女の柔肌を切り裂いて紅に染めた。
 傷口に叩きつけられる豪雨の中、それでもステップの足は緩めない。歯を食いしばって痛みをこらえ、さらにぬかるみの度合いを増して行く足場の中を舞うように間合いを詰めてゆく。
「次は、貴方の血で薔薇の花を咲かせてあげるわ」
 風を裂く音と共に、銀糸が雨滴を弾きながらモンスターへと襲いかかる。光の軌跡を描きながら狙い違わず目標へと到達したそれは、薔薇の花片を散らしながら敵の肌を深く切り裂いた。
 そのまま手許に戻るはずの糸が、思わぬところで抵抗に合った。モンスターの身体の一部を構成する薄布状の部位(衣類ではない)が銀糸を絡め取ったのである。
 まずいと思った瞬間、その糸を思い切り引っ張られた。敵を斬り裂く細さを持ちながら容易には絶てないその強靱さが仇となり、手を離す間もなく引きずられた身体が空を泳ぐ。
「させるか!」
「こちらを向いてもらいましょう!」
 泥を蹴立てて駆け寄った剣難女難・シリュウ(a01390)が、今にもアディルードに向けて致命打を放たんとするモンスターに横合いから雷の刃を振るう。
 その一撃を真正面から片腕で防いだ隙に、碧風の紡ぎ手・レン(a25007)が死角から蹴りを放つ。風を伴ったその一撃は、頑強なモンスターの上体をわずかに揺らがせ、絡め取っていた糸を離させる。
 人間であれば延髄にあたる位置に叩き込んだ蹴り足を軸に、逆足で同じくこめかみに当たる部分を蹴り抜く。反動で間合いを放し、蜻蛉を切って泥中に着地する。叫ぶ。
「……ソルトムーンさん!」
「応ォォ!」
 万事承知とばかりに、騎乗状態で高々と飛び上がった六風の・ソルトムーン(a00180)がモンスターに向けてさらなる追撃を加えんとする。
 大きく振りかぶられた長柄の斧刃が、一撃で胴体を両断せんとばかりの気勢を伴って振り下ろされる。
 真正面から受け止めようと態勢を整えたモンスターの顔に、横合いから虚無の黒い手が伸びた。月夜に舞い降る銀羽・エルス(a30781)の繰り出したそれを、弾き飛ばすように振りほどく。
 だがそのわずかな動きが、間近に迫る重い一撃に適切な対処をする余裕を奪っていた。雷気を帯びた厚刃の鉄塊は、防ごうとするモンスターの腕をすり抜けて、その細い首に叩き込まれた。
 確かな手応えはあった。が、必殺の勢いで叩き込まれたハルバードは、次の瞬間には逆に大きく弾き返されていた。
「そら、こいつもくれてやる」
 千篇挽歌・テラ(a48288)が直後、がら空きの背後に一撃を繰り出すも、モンスターの腰周りから跳ね上がった薄布に剣先を弾かれる。
 それを横目に反動に逆らわず、後方に着地して馬首を巡らせて仕切り直すソルトムーン。敵の頑強さと行動の的確さに舌を巻くが、有効打を与えたのには違いない。
 舌打ちをしながら間合いを広げるテラ。追撃を仕掛けようとするモンスターの鎖骨周辺を、空は我我は空・カグラ(a31332)の射た逆棘状の矢が抉ってその出足を押し止めた。

 一見すると冒険者たちの圧倒的優勢に見えるが、よくよく見るとそうでもない。
 モンスターを遠巻きに囲う前衛を見れば、雨でわかりにくいが大半が袖口や鎧の隙間から足下に血の雫を零している。服や鎧で見えない部分には打撲による内出血も無数にあるだろう。
 聖戦の・ルミリア(a18506)が癒しの波動を放つことでそれらの傷は大方が癒えたものの、全員が完治とまではいかない。
 降りしきる雨と吹き付ける風も、数名がおしたままの重傷をしくりと痛ませている。最初にこの領域の解消を幾度か試みるも、いずれも上書きには至らなかった。
 先ほどの攻撃で前衛たちから外れた守護天使を、碧眼の野良狐・ユーイ(a43269)がふたたび喚び出してとりつかせる。これがなければ被害はさらに深刻になるだろうことは想像に難くない。
「…………」
 仲間の態勢が整ったのを見計らい、禁忌に魅入られし反逆者・クルド(a11701)が牽制とばかりに光の紋章を撃ち出した。
 小声での詠唱が聞こえるはずもない豪雨の中にも関わらず、敵はそれを大きく飛び退いて避けた。と同時に、再び前衛が一斉に間合いを詰め始めた。

●空の涙が枯れるとき
 モンスターが大きく腕を広げると、ひときわ大きな風切り音と共に、巨大な円盤状の衝撃波が唸りを上げて回転を始める。
 降り注ぐ雨粒が衝撃波に巻き込まれると、まるで霧のように微細な飛沫を吹き上げる。おかげでその円盤が白く浮き上がって悪視界の中でもよく見えるが、あまり慰めにもならない。
 厚みで40cm、直径2mにも及ぼうかというその巨大な衝撃波を、さながらフリスビーのように大きく振りかぶる。
「……来るぞ!」
 シリュウの警告の声。その衝撃波を見た時点で冒険者たちはみな左右にばらけていたが、それでも完全にばらけられるほどの時間的余裕は与えられていない。
 真正面から放たれた衝撃波を、最前列の翔剣士が仰向けに倒れ込むようにして避けた。彼の顔すれすれをかすめた衝撃波が、前髪一房の金髪を一本だけ断ち切り、粉々に砕いてゆく。
 次いで伏せるのが難しいと見たテラが横飛びにそれを避ける。だが、避けきれずに巻き込まれた片足が裂かれながら高々と弾かれ、そのまま泥濘の中へ逆さまに落下する。
 なんとかその勢いを削げないものかと射込まれたカグラの矢が呑み込まれるように消滅した。
 後方に控えていたエルスも避けきれない。恐らくは彼女を第一の標的に放たれたのだろうその円盤は、とっさに身を翻したエルスの肩口から脇腹にかけて、羽を抜き散らしながら袈裟懸けに突き抜けていった。
「くうっ……なんですのよ、この……」
 ずたずたにされた皮鎧に悪態を吐きかけたところで、がくりと膝から崩れ落ちる。無意識に抑えた口元からこぷりと血があふれた。
 近くのルミリアからすぐさま回復が飛ぶが、それでもなんとか立ち上がるのがやっとであった。状況を察知し、隣の班から真っ先にカグラが走り出した。

 ――戦闘不能者一人、フォローお願い!

 心の中で仲間に向けて放たれた言葉が、阻害されることもなく一瞬で全員に伝わる。
 とどめの追撃を仕掛けようとでもいうのか、再度巨大な円盤を生成し始めているモンスターに、より一層の攻勢が仕掛けられた。
「私と遊んでもらうわよ!」
「……ま、そういうことだな」
 アディルードの放った衝撃波とシリュウの放った稲妻が、前後からモンスターに撃ち込まれる。
 円盤を作ったまま、横に踏み出してそれらを避けようとしたモンスターに、その動きを読み切ったクルドの放った火球がカウンター気味に直撃する。ぐらりと揺れるモンスター。
 そこに横からハルバードの一撃を加えつつ、ソルトムーンが泥土を蹴立ててモンスターの行動を阻害せんとするも、蹴り返されて逆に泥水を全身に浴びてしまう。
 さらにテラが前に突っ込みながら振るった剣は弾かれるが、そのまま体当たり気味に盾を叩き込んで、ほんのわずかにモンスターを後ろに押し込むことに成功する。

 ――よし、安全圏に離脱したよ! すぐ戻るね!

 再び響くカグラの声。冒険者たち全員がよしと内心で快哉を叫ぶが、次の瞬間に凍り付いた。
 エルスを無事に逃がすべく、多少の無理をしてモンスターを抑え込んだ影響で、陣形がやや崩れていた。
 第一目標を失ったモンスターが、すぐさま第二目標を定めて踏み込み、振り向きざまに衝撃波を放ったのである。
「しくじったか!」
「ぐふっ……しまった!」
「なぁん!?」
 円盤はテラ、ソルトムーンとエンヤを突き抜け、なんとか射軸から身をかわせたアスラをかすめて切り裂いてゆく。
 噴き出してすぐ雨に流れ落ちてゆく紅。半身を血に染めながら、癒えきらない重傷の身でなんとか持ちこたえた。そして、歌う。
「我は生きて帰る。……それだけだ」
 高らかに響く歌声。己と仲間たちの傷を癒すその歌は、絶対に死ぬものかと足掻く、多少不格好だとしても揺るがぬ信念を持った者たちの力強い歌だ。
 
 残像を伴った範囲攻撃による肘を受けたレンの額が割れるが、お返しとばかりに己の武技に暴風を加えた連撃を叩き込んだ。
 最後の力を振り絞って守護天使を仲間に宿し、続けざまに円盤を食らったユーイが力尽きた。
 掴み掛かってくるモンスターの手を飛び退いて避けたソルトムーンが、そのまま上空から強烈な雷撃を放った。
 嵐を伴った再度の円盤による一撃に、次いでアスラが膝を屈した。
 ルミリアの治癒が、戦闘不能者をかばって背後から深傷を負ったカグラとエンヤの傷を癒した。
 そして、クルドが円盤を食らうと同時に放った火球が、この長い戦いに決着をつけ、モンスターへとどめを刺した。

 雨が止む。
 火に包まれたまま、ほどけてゆくモンスター。
 薄布状の部位だけではない。爪から髪から肌から、宙にほどけて消えてゆく。
 やがてその姿が完全に消え去ったとき。
 風もまた、止んだ。


マスター:磯山公樹 紹介ページ
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死亡者:なし
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