<リプレイ>
●子猫の魅惑 依頼は霊査士から子猫たちを受け取った瞬間から始まった。 「いってらっしゃい」 とりあえず、猫用の餌も一緒にもらえたので、一同は安堵した。ミルクの粉と鶏のささみ。半日分よりやや多めにもらえた。 子猫二匹は黒髪の少女、オーディーンの槍・カミュ(a49200)が抱えていたのだが、ちっともおとなしくしていない。 酒場を出た途端、腕から降りたがって暴れている。 「おなかがすいているのでしょうか?」 カミュが魅了の歌でささやくと。 「あっちあっち」 「動くの〜」 白い猫は木の葉が動くのに気をつられているらしい。黒い猫は白い猫のぴくぴく動く耳やらしっぽに飛びかかりたい様子で、せわしない。 「おぉぉうろちょろと……。元気なのは…頼もしいコトです。うん。この子達もきっと立派な番人になるのです」 と、白髪の少年、鈴花雪・ソア(a32648)。彼の持つ猫の尾と、白い子猫のしっぽがよく似ていて、「白毛モフモフお揃いですーv」と相好を崩し、もはやめろめろ。 「倉庫を守る猫だなんて、まるで絵本の話だよな。想像するだになんて可愛らしい……」 地獄の鐘の・エッシ(a65329)、赤茶色の鱗の青年は無類の猫好きである。倉庫を番している猫たちの姿を想像して、感極まって身震いするほどに。 狐の尾を持つ青年、正義のガンマン・シャドウ(a67510)も、それにうなずいて。 「それを十六年か。長いよな。ホントにご苦労さんだったな。その老猫の苦労を無駄にせん為にも、無事にこの子猫達を送り届けようぜ」 と、熱い決意を固める。 翼を外套の中にしまい込んでいる少年が、猫に触りたそうにしていた。独翼・レヴァ(a69276)である。バスケットの中をのぞき込んでいたが、なで回しすぎて疲れさせないように、とわざわざ釘を打たれているのでなんとか我慢しているが、「……名前をつけてはダメかな。暫定的に青目をソラ、緑目をワカバとか。……名前つけてしまうと愛着がわいて離れ難くなるかな」と、目線を猫から離せないでいる。 このままでは先に進めないので、白衣姿の、気紛れな魔女・シラユキ(a24719)は、猫たちを落ち着かせるために眠りの歌を歌った。 ちび猫たちは睡魔が襲ってくると、あっさりと眠った。 「今のうちに、子猫たちをバスケットの中に入れておきましょう」 通気性のよい、弁当などを入れる大きめのバスケットを手に入れてきて、毛布を敷き詰め、猫を寝かせる。 眠っているちび猫の姿は格段に愛らしかった。 ちょっと遠巻きにしていた灰色の髪の青年、黒鎧の重騎士・アウク(a68796)も、その姿に思わず、「可愛いなぁ〜ん」と目を細めた。本当はなでたいのだが、一生懸命その気持ちを押し殺していた。 猫好き、動物好きが多いのは、依頼の内容からして当然ではあるが、そのためある種の拷問ではあった。 触りたいけれど、触っちゃだめ、という。理性的にその理由を納得するが、でも感情は……。 だから、バスケットに入れるのは、猫の姿が見えなくなるから、猫を守るのと冒険者一同が猫の魅力の前に我を忘れずにすむ、という一石二鳥であった。 その喧噪というか、仲間たちの猫熱っぷりを冷ややかに見ているのは、翼を持った細身の少女、硝子の棘・シャルロ(a69057)。 (「……馬鹿みたい。なんでこの依頼を請けてるのかしら……? 猫が好きだから……? ……可愛い女を演出してるみたいで、嫌気がさすわ……」) と、心中で自分に激しく毒づく。実は動物好きの、複雑な寂しがり屋であった。
●山に住む犬たち 山の中にはいくつかの野犬の群れがあった。なわばりが決まっているので、冒険者たちが使うルートに出没するのは七匹で行動する群れだった。 そいつらはかぎつけた。 甘いミルクの匂いを。軽くゆでられた鳥肉の匂いも。当然、そちらに向かって走り出した。
シャドウとレヴァは輸送班よりやや先行し、つゆ払いしていく。のどかな秋の日。霊査情報によれば、犬が出る程度といっていただけあり、道は平穏そのもの。まだ日も高い。風は冷たいが、日向ならば暖かかった。 シャドウは幾度も背後を振りかえり、輸送班から離れないように気遣う。 猫輸送班。カミュが猫入りバスケットを両手に抱え、いつでも眠りの歌の準備オッケーのシラユキが猫のフォローに横についている。ソアとエッシもそばにいるが、彼らは野犬警戒要員だった。 後方警備にはシャルロとアウク。 生き物の諸事情で、一同は一時間半に一回ほど立ち止まらざるおえず、二度目の休憩タイムになっていた。 眠らせても猫たちは一時間ぐらいで目を覚ましてしまい、かまって欲しいと鳴いたり、おなか空いた、喉かわいたと訴える。それらはまあ、バスケット内でなんとかなるのだが、食ったら出るので、さすがにそれはお外でしてもらわねばならず……。 外へ出たら当然、ちび猫たちは遊びたい。 いいよね、ちょっとぐらいなら。 と、なんとはなしに仲間たちも集まっていた。 「これ、どう? こっちは?」 ソアが入れておいたぬいぐるみや猫じゃらしで少し遊んであげて。ちょっとばかり、みんなで猫に気を取られすぎた。 たくさんの人間たちに襲いかかるほど馬鹿ではない犬たちは、そんな休憩タイムに、そっとそっと近づいていた。それはそれは見事な、匍匐前進。頭を低くして、草むらに隠れるように気配を消して。 「あ」 仲間たちと距離をおいていたシャルロが気がついたときには、猫用の餌とか冒険者たちのおやつとかの入っている袋を間違えずに、ぱくっとくわえた。 だって犬たちはおなかを空かしているのだから、餌が手に入りさえすればいいのだ。 餌が手に入ったので脱兎のごとく逃げ出す犬たち。 シャルロは粘り蜘蛛糸を放った。が、それが絡め取ったのは、餌をくわえていない犬の方だった。 アウクもなんとか反応し、そいつらの逃走する前方に立ちふさがったが、犬たちは道をそれて木立の茂る藪へと姿を消してしまった。 「にげられたなぁ〜んっ」 複数の、ホーリライトが、木立の暗がりを照らすように乱舞する。 それの光に驚くちび猫たち。 シャドウは持ち場を維持するか、犬を追うか迷う。 追いかけようとかけだす仲間たちに、カミュが己の懐からミルクの入った瓶を取り出して言った。 「子猫たちの餌は、まだ少しならとってありますから」 自前の品である。 餌があるならば無理して追いかけるまでもなかった。 あの痩せた犬たちから餌を取り上げるのもなんだか可哀想だ。 捕まえた犬に、幸せの運び手を披露して、飢えを満たしてからシャルロは放してやった。 犬は仲間のいる方向へと飛び跳ねるように逃げていった。 「せめて、人は襲わないで……狩られてしまうから……」 逃がす間際にシャルロは犬に魅了の歌でささやいていて聞かせたが、理解したかどうかは怪しかった。 子猫たちはびっくりした様子で、毛を逆立てていたが、魅了の歌でカミュが優しく慰め、落ち着いたところを、シラユキが再び眠らせた。 (「『なんか今日はやけに眠いなおい』とかこのチビさんたち思っていそう……」)
●到着 餌が乏しくなってしまったので、一行は急ぎ足で山を上った。その間、幾度か犬たちは迫ってきた。どちらかというと、襲うと言うより後方を少し離れてついてきた感じで、あわよくば何か落としてくれないか、という雰囲気。アウクが立ち止まって道にしばらく立っていると、追跡してくるのをやがてあきらめて姿を消した。 村にたどり着いたときには、夕暮れ時を過ぎていた。もう空気はすっかり冷たかった。 子猫たちを迎えた村人たちの吐く息も、白い。 「無事に届けてくれてありがとうよ」 と、村長。 しばらくは昼間の暖かい時間だけ倉庫にいさせて、夜は村長さん宅で眠らせるという。 ネズミは夜行性だろう。猫も夜行性である。 微妙に、本末転倒っぽい村人たちの気配をかぎ取りつつ。 (「仔猫さん達をちゃんと大事にしてくれる、ということですよね?」) と、ソアは思うことにした。 「これからは鼠さんと追いかけっこですね。元気に頑張ってね」 猫たちはまどろみから醒めたばかりだった。 さっき怖い目にあったのは、もはや記憶にないらしかった。 みゃんっと愛らしく鳴いて、村人から鈴付きの首輪をつけてもらっていた。
●先代の墓参り 「戦い続けた勇者の墓だ。十六年前つったら俺なんてほんのクソガキだぜ? 是非とも墓参りしなけりゃ」 と、エッシは尊敬の念をこめて言った。超猫狂いの彼は、村人に墓の場所を聞いた。 「あ、待って。私も行くよ。ほかのみんなはどーする?」 シラユキも墓参りにいくことにして、一緒に来た者に聞いてみた。 俺も俺もと、仲間たちのほとんどが墓参りに行くことになった。 その先代猫の墓は人の墓と同じところに、ちょこんと置かれていた。さすがに墓石は小さいが、日当たりがよく、小さなマタタビの木が横に植えられている。その猫だけでなく、もう何匹か入っていることを示して、名前がいくつか石に彫られていた。 「会った事はないが十六年間ご苦労さんよ。お前さんの仕事は新しく来た子猫達が立派に引き継ぐだろうから安心してゆっくり休みな」 と、シャドウは墓石をなでた。 「元気な仔猫さんが来てくれたからもう安心ですよ? ゆっくり、お空で休んでくださいね」 と、ソアは毛糸の猫じゃらしを供え、その横で静かにカミュは手を合わせた。
そして仲間たちが先代の墓参りにでかけたのを確認して、シャルロはふっと肩の力を抜いて、そろりと子猫たちのそばに寄った。 「今日はお疲れ様。これからはお仕事、頑張ってね…? でも無理はしちゃ駄目よ……」 と、魅了の歌を使って優しく語りかけ、ごろごろと気持ちよさそうに喉をなでさせてくれる子猫たちから名残惜しげに手を離し、ふっと振り返った。 「……っ!」 シャルロと同じ目的(つまり猫をなでるため)で、こっそり居残っていたレヴァが背後に。 あんまりな場面を見られて硬直するシャルロと、人付き合いが苦手なために、彼女の狼狽に気がつかないレヴァ。 「……いつか、この猫たちがたくさんこどもを産んだら……1匹、もらえたりしないかな。無理かな……」 彼は超マイペースな発言をいつもの低調子で言うのだった。 「しっ、しらないわよっ」 恥ずかしさとその他もろもろの感情をもてあまし、苛立ち混じりの言葉をレヴァにたたきつけて、その場を去ったシャルロ。 残されたレヴァは手で軽く、猫のおなかをなでてやって、首をかしげた。 「……なぜ、怒ったのかな?」
何はともあれ、子猫たちはこの村で、元気に倉庫番をしていくことだろう。

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参加者:8人
作成日:2007/11/06
得票数:ほのぼの13
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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