みんなで仕留めろ!どでカボチャ



<オープニング>


 冒険者の酒場は今日も賑やか。
 何せやたら楽しそうな冒険者が一人いるのだから。
「あ、ね、さんっ! 見てみてでっかい南瓜〜」
 でかい南瓜をごろごろと転がしながら、セイレーンの冒険者レンは満面の笑みを浮かべる。
 見止め、エルフの霊査士フィルも、感心するようにかすかな笑みを浮かべた。
「ふむ。確かにたいした大きさだな」
「でしょでしょ〜。だからさ、これでなんかお菓子作ってみんなで食べようよ♪」
「それはいいな。だがこれを一人二人で調理するのは……流石に無理だろう」
 少しだけ想像して……やめた。あまりにも重労働だったのだ。
 だが、レンはふふりと笑い、びしっ、と指を頭上高く掲げて、どどんと告げる。
「そこはもう、集めるしかないでしょ♪ てなわけで、第一回『みんなで仕留めろ!どでカボチャ』開催〜」
「何だそのネーミングは」
「参加する人この指とーまれ♪」
 聞いちゃいねぇ。
 うきうきと参加を募りだしたレンの背を、やれやれと、半ば呆れながら、それでも微笑ましげに見つめていたフィル。
 だが、その目は次の瞬間、見事に丸くなる。
「参加者には漏れなく俺とサザと姐さんの『すてきこらぼれーしょんすいーつ』をプレゼント!」
「は?」
「へ?」
 通りすがりのエルフ、サザをずびしっ、と指差し指名して、レンはくるり、振り返ると。
「そーゆーわけだから、俺準備してくるねっ☆」
 それだけを告げて。嵐は、去った。
 見送ったエルフ二人は、呆気にとられたような顔をしている。
「……元気ねー……」
「永遠の18才だからな……」
 それでも楽しげなのは、気のせいだろうか……。

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参加者
NPC:スマイリー・レン(a90276)



<リプレイ>

●とりあえずご挨拶?
「レンレンこないだはお疲れ様ー。サザさんもフィルさんもお久しぶりだよぅ」
「依頼成功のお祝いも兼ねて、私達がとっておきのパンプキンパイを作ってあげるよ♪」
「わぁ。楽しみ♪ 俺が手伝えることは遠慮なく言ってねー」
 先の依頼で共に戦った踊る蒲公英・イーシア(a11866)、轟然たる竜の鼓動・ラスティ(a20452)に満面の笑みを返すのは、本日の主催、もとい言いだしっぺ、スマイリー・レン(a90276)。
 大変だったねー。などと思い出話をしている彼女らのほんのちょっと後ろで、同じく依頼繋がりのハロー・エヴリィ(a32715)は指を咥えて、しゅんとしていた。
「え、なに、作るところから始めるの? も、もう胃が受け入れ準備万端なんだけど……」
 イーシアから食べるイベントがあると聞いて喜び勇んできたのに、と、些か恨めしげにカボチャを見やるエヴリィ。
 と。
「そんなえったんにはこれっ」
 ずずい。どこからともなく取り出された、皿。レンが手にするそれに乗っているのは、何かを揚げたようなもののようだ。
 首を傾げる三人娘に、レンはにっこりすまいるを浮かべる。
「カボチャの皮だよー。薄切りにして揚げたの。おつまみ用だって、姐さんがくれたの」
 さすが霊査士。(関係ない)
 準備がいいなぁ、などと思いつつ、パクリ、一つだけ口にして。
 さぁそろそろ、戦闘――調理開始だ。

●いざ、掻っ捌け!
 調理場にどどんとおかれたどでかいカボチャ、略してどでカボチャ。見上げた参加者一同は、流石に呆気にとられていた。
「……なんだかにぎやかだったからつい参加しちまったが……幾らなんでもあのカボチャでかすぎだろオイ!?」
「どうやったらこんな風に育つのかな。切るのもタイヘンそうだよ」
 深緑宝石の傭兵・リカルツェン(a69462)の一先ずの突っ込みに、銀星の射撃手・ユイ(a00086)もまた、ぺたぺたとカボチャに触れてみていた。
「まずは切り分けることになるのかな。そのほうが火が通しやすいしな」
「切るのなら、サザさんも苦手じゃないよね?」
「そうねぇ。私、『斬る』のなら得意分野よ?」
「さ、サザさん……流石に鎌は駄目ですよ〜」
 ふむ、と呟くようにカボチャを見やった守護者・ガルスタ(a32308)に続け、サザを振り返るユイ。
 そして大鎌を構えてにっこりと微笑むサザを、内気な半人前看護士・ナミキ(a01952)が慌てて止めた。
 「冗談よ〜」と笑って包丁に持ち替えたサザではあるが、果たしてどこまで冗談だったのだろう。
 とにもかくにも。各自刃物を手に、カボチャへと立ち向かうのであった。

●進め、消費部隊!
「働かざるもの食うべからず。ですよね。愛情込めて作れば、少しくらいアレでもなんとかな…る」
 なる。なります。なるよね?
「なるなる〜♪」
 小さく呟いていた光風霽月・レム(a35189)の背後から、響く陽気なレンの声。
「ほら……味より思い出、みんなが楽しめればそれが一番です」
 それに続くように、ドリアッドの紋章術士・オルファナ(a67121)もぐぐっと握り拳一つ作る勢いで頷いた。
「難しいものを作る必要はないしな。味を見て、普通のお菓子に砂糖を混ぜる感覚で足せば、十分な甘みになる」
 さらに続くガルスタの言葉はもっともで。事実、このどでカボチャ、かなりの甘さを持っているのだ。混ぜて焼くだけ、でも、お菓子としては十分だろう。
 いきなりで驚きつつも、彼等を振り返ったレムは、手にしたクッキーやらスープやらのレシピに目を落とし、微笑んだ。
「そうですね。頑張ります。ですので…何かやらかしそうになったら言ってくださいませね?」
「うん、まっかせて♪ でさぁ、早速だけど……」
 苦笑がちに言ったレムの手元を指差し、つられたように苦笑して。
「それ、塩だよ」
 言いながら、砂糖の瓶を手渡した。
 ……先行きに不安が見えたような気がするのは、きっと気のせいだ。

 一方では。依頼依存症・ノリス(a42975)が、パイ生地を薄く延ばす作業に勤しんでいた。
 どうやら、カボチャのフィリングと重ねてパイを作るつもりらしい。
「伸ばす重労働は筋肉の見せ所。可能な限り薄く、厚く!!」

 うおおおおぉぉっ!

 実に熱い。その勢いに応えるように、生地は綺麗に伸ばされていく。
 これは、出来上がりが楽しみだ。
「うふふふっ。たまの気分転換には丁度いですわね」
「あら、勝負だということも、忘れないようになさいまし」
 さらに一方ではステビアとペパーミントの葉っぱをすりつぶしながら、ほのぼのとした笑みをこぼす翠色の魔術師・ウェンデル(a47704)に対し。
 カボチャの種ばかりを集めていた碧色の魔術師・グロリア(a50775)は、どこか挑発するかのような雰囲気で告げる。
 そうだ。これは勝負なのだ。
 いままでも数々の勝負によってお互いを高めあってきた、良きライバルとして。
 一戦一戦が真剣勝負。負けるわけにはいかないのだ!
「燃えてるわねー」
「ですね……」
「なんだか楽しそうですけどね」
 ナミキとともにカボチャの裏ごし作業を手伝いながら、のほほんと呟くサザに、雨下に踊る白刃・ロカ(a63753)もまた、和やかに答える。
 そうして、目の前置かれたカボチャを見やり、うーん。と首を傾げる。
 とりあえず大きな塊を確保してみたが、何を作ろうか悩んでいるのだ。
 もう一度、うーん。と呟いてから、ふと、何かを思いついたかのように、二人を見て。
「これだけあれば色々作れそうですけど、何か食べたいお菓子はありますか?」
「そうねぇ……私はパイとか好きよ。ナミキさんはどう?」
「私は……プリンですかねー」
 小首を傾げての問いかけ。それぞれの返答に、なるほど。と頷くと。ロカはにっこり、微笑んだ。
「だったら、両方作っちゃいましょうか」
「わぁ。いいんですか?」
「言ってみるものねぇ♪」
 ぱっと顔を明るくする二人に、満足、と言うよりは、嬉しそうに。ロカもまた、微笑んだ。
 やはり、作るならその時食べたいものの方がいい。
 何故ならその方が……。
「皆いい笑顔だよなー」
 ペースト状のカボチャに牛乳と水飴を混ぜ、ぐつぐつと火にかけながら。リカルツェンはふわり、口許を綻ばせた。
 今回の面子の中には料理が得意でない者も多い。彼自身も、その一人だ。悪戦苦闘しながら作ってみたクッキーは、他と比べれば、見劣りもしよう。
 だが、上手い下手に関わらず、誰もがこのお菓子作りを楽しんでいる。
 勿論、後にある食べる楽しみも、含まれているだろうが。
 いずれにせよ、和気藹々と作り、美味しいものを食べれば、こんなにもいい笑顔を見ることが出来るのだ。
「大勢で作ると、一層楽しいんでしょうね」
「そうだな。さぁって……俺も気合入れてつくらねぇとな!」
 想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)の、笑みを交えた呟きに、リカルツェンもまた、笑顔を湛えて調理再開だ。

「よっしゃ、ここまできたらあとはデコレーションだけやね」
 ふぅ、と一息。いい汗かいたというように額を拭う朱陰の皓月・カガリ(a01401)と、しっかりと三角巾を装着した温・ファオ(a05259)は、目の前に出来上がった作品を見つめ、満足げに頷きあった。
 カボチャを練りこんだスポンジ。甘さ控えめカボチャのクリーム。勿論種まで使用して。
 できるだけ沢山のカボチャを消費しようと、二人協力体制で仕上げたカボチャケーキは、それはそれは見事な大きさになっていた。
「流石に、圧巻ですね……」
 飾るのも一苦労だろうな、と、ほんの少しだけ気圧され気味になりながら、ファオはエプロンの紐を、きゅっ、と結びなおして気合を入れる。
 ここからは個人作業。それぞれのデコレーションがどのようなものなのかは、出来上がってからのお楽しみだ。

●仕留められたカボチャ
「この時の為に生きてきました…!」
 ほわん。目の前のお菓子の山をうっとりと見つめるレム。
 自作のクッキーもそれなりの味になったし。皆からおすそ分けも貰ったし。
「あぁ……幸せです」
「飲み物もどうぞ。甘いものにも合いますし、疲れも取れますよ」
 執事宜しく優雅な仕草で差し出されるカップ。またしてもの突然に驚きながらも、レムは振り返り、微笑んだロカからそれを受け取る。
 ありがとう、と告げる代わりに微笑を返し、それから、改めてその場を見渡せば。
「本当に、沢山のお菓子が出来ましたね」
「皆で頑張りましたからね……あ、これ、良かったらどうぞ」
 パイとプリンを皿に乗せて。やっぱりどこか優雅な仕草で、差し出すロカであったそうな。

「ううっ、美味しすぎる……レンくんももっと食べないと損だよ!」
 パクパクもぐもぐ。ほわん、と幸せそうな笑みを浮かべ、エヴリィは出来上がったお菓子を頬張っていた。
 うんうん、と相槌を返しながら、レンもまた、満足げにお菓子を食べている。
 と。
「これ、ふたりが作ったんだって〜」
 差し出されるはパイ(らしきもの)。
 見た目はアレだが、エヴリィは美味しそうに頂いている。
 だが、そのパイには隠された秘密があった。
 時を遡ること数分。
「えいもこー」
 と気合十分に調理を進めたイーシアだが、悲しいかな、かなりの料理音痴の彼女が仕上げたものは……。

 な、ナンダコリャー。(ラスティ心の声)

 イーシアには気付かれないように、『奥義・完成品はこちらっ』でラスティ作のものとすりかえられて今に至る。
 つまりは失敗作なのだ。
「わーいいただきまーす♪」
 そうとは知らないレンは、わくわくと胸躍らせてはむり。

 もぐもぐも……ごふっ!

「あ、レンレン、それ……!」
「どしたの?」
 噴出して初めて気がついたラスティは慌てたように。やっぱり何も知らないエヴリィは不思議そうに。それぞれにレンの様子を窺えば。
「いや……うん……す、ごく……おいし……い、よっ!」
 ぐっ。親指立ててにっこり笑顔。
 腐ってもセイレーンですから。
 何とか飲み込むに至ったレンに、そっと差し出されるカップ。見上げれば、苦笑を浮かべたノリスと目が合う。
「同盟冒険者の特権は各地の品を自力で集められることだとおもうけど、どうかな」
 持参した茶葉で淹れられたお茶は、いまのレンには最適だ。固まったままの笑顔で受け取ると、こくり、喉を潤して。
 ほぅ。と息をついた。
「うん、美味しい。お菓子にはやっぱりお茶だねー。ありがと、ノリス♪」
「どういたしましてっと。ついでに、南瓜味のぱりぱりパイは如何」
 甘さは控えめ。お好みでコンフィチュールをつけて召し上がれ。
 差し出された皿を、今度こそ、満面の笑みで受け取るレン。
「レンはん、うちらのも食べてナー!」
 そこへ、呼ぶ声。振り返れば、カガリとファオが巨大なケーキを目の前に手招いていた。
 一つはカガリ作。たっぷりのクリームで包まれたスポンジの上に、甘く煮たカボチャのお化けたちが楽しそうに飾られている。
 もう一方はファオ作。コスモスと金木犀を模した飴細工とともに、白餡を混ぜ、柚子型に丸められたカボチャの餡が乗せられていた。
「カガリさんには柚子のイメージが強いので……」
「すごーい! 皮の部分で綺麗な形作ってある。細かい作業だよねー。あれ。この葉っぱのトコ、種? アイディア賞だよ〜」
 ぐるぐると。大きなケーキを四方から眺めては感嘆したように声を上げるレン。
 それを見て、互いの顔も見比べて。
「お疲れ様やねー」
「はい、楽しかったです」
 にこぱ。と笑みを浮かべあう、二人であった。

「まぁ……大きいわねぇ……」
 呆気。その二文字が似つかわしそうな表情で、サザはオルフィナの前に出来上がったプディングを見つめた。
「蒸すのにも一苦労しました」
「そうよねぇ。でも、これだけあると食べ応えもありそうよね」
 ふふ、と笑みをこぼし、改めてまじまじと見つめていると。
「やりましたわ。今回も勝ったわよ!」
「ふぅ〜 疲れましたわ……」
 背後から、クッキーの入った器を掲げて嬉しそうに言うグロリアの傍ら、少し残念そうに、自作のクッキーを摘むウェンデル。
 というのも、完成したお菓子――双方クッキーだった――を手に、とりあえず主催らしいレンを捕まえ、どちらが上手くできているかの判定をさせたところ……。
「んー。カボチャ使ってるからグロリア……かな?」
 という返答によって今に至る。
 ちなみにレン曰く、味はどっちも美味しかったよー。だそうな。

 少しだけ、遠巻きに。和やかな空気を見守るように眺めて。
「始めはどうなることかと思ったが……上手くいったようだな」
 フィルは、苦笑を交えながらも、どこか嬉しそうに呟く。
 そこへ、ひょこり、現れたユイは、綺麗に包んだクッキーを手に、ニコリ、微笑んだ。
「フィルさんも、すてきこらぼれーしょんすいーつ作り、お疲れ様。コレ、僕からのお土産だよ〜。あ。向こうにケーキもあるから、一緒に食べない? 結構豪華なのが出来たんだよ〜♪」
「そうだな……まぁ、コラボレーションといっても、あの二人は他を手伝うことがメインだったようだがな」
「サザさんには一杯手伝って貰ったよ〜」
 にこにこにこ。満足げな笑顔を見せられては、文句など言うわけにも行くまい。
 苦笑じみた笑みをこぼし、包みを受け取ると。
「……楽しかったなら、それでいい」

 楽しく仲良く和気藹々。
 冷え込み始める秋の一時。暖かな時間を、ご堪能あれ……。


マスター:聖京 紹介ページ
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