知識を求めて……古書市場



<オープニング>


 世の中には自分の知らない知識が沢山ある。
 それらの知識を後世に伝える、あるいは自己の記憶を補完するために残すために本というものは存在している。
 しかし、本に記されたものは全てが真実であるとは限らない。
 それは空想であったり、子供に言い聞かせるために生まれた童話であったりもする。
 そんな本が一堂に会する場所。
 それが古本市であった。

「というわけで、古本市に出かけようと思います」
 百聞の霊査士・レグリア(a90376)はいつも通りに唐突にそう言った。
「古本市には町の人達が読まなくなった本や写本、日記や料理のレシピといったものが主に並ぶようですね。放っておいても朽ち果てる物なら誰かの役に立てばと持ち込まれた本の中には色々変わったものも並ぶようなので一度見てみたかったんですよ」
 そう言うレグリアの目はキラキラと子供のように輝いていた。
「皆さんも一緒に来て見ますか?」

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参加者
NPC:百聞の霊査士・レグリア(a90376)



<リプレイ>

 穏やかな日差しの中、本特有の香りがそこには広がっていた。
「はう〜、やっぱり本はいいですねえ」
 百聞の霊査士・レグリア(a90376)は、ぽかぽか陽気の中、珍しく朝早くから起きて、市場に来ていた。
「レグリア殿はじめましてタケルと申します」
「レグリアさん、今日は宜しくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ」
 凪・タケル(a06416)と蒼翠弓・ハジ(a26881)の二人がレグリアを見かけると恭しく礼をする。レグリアもつられてぺこりと頭を下げた。
 その横を蒼銀の風謳い・ラティメリア(a42336)が歴史書を片手に通り過ぎる。
「んー秋晴れってこういう日の事を言うのね。少し寒いけれど、部屋で読む本を探すには良い日ですわねぇ」
 靴音を軽やかに響かせながら、蠱塚・チグユーノ(a27747)はきょろきょろと本を探して先へと進んでいく。
「レグリアさんは何の本を探しているのですか?」
「ん〜、適当? そっちは?」
 書を追い読み求める者・キール(a58679)の質問に思いっきり大雑把に答え、質問を返す。
「グリモアに関する本……ご存知ありませんか? 神が与えたもうグリモアですけどいろいろ謎が多いですよね。古書と現存の言い伝えの差というのを調べてみようかと思いまして……古ければ古いほど今言われているものと違うのか興味があるのです」
 謎が多い分だけヒトが書き連ねた書物も当てにならないんだろうなと思いつつ、レグリアはキールと笑顔で別れ、歴史書のコーナーへと足を進めた。

●色々な歴史
「複数の時代の、複数の知識が集まる場所……あの人が生きてたら、きっとここに来てたでしょうね」
 緑薔薇さま・エレナ(a06559)は一瞬寂しげな表情を浮かべ、呟いた。エレナは踊りの歴史に関する本を諦めて、東方の歴史書を選んだようだ。
 レグリアは『ランドアース歴代の謎』と書かれた本に興味を惹かれ、手に取って開いた。その内容は一種のなぞなぞ集、古典的なよく見かけるなぞなぞが書かれた本だった。
 その本を戻し、次の本を手にとって読みふける。
「あ、この本の装丁とか題名が気になる。歴史検証本の類……か? とにかく買ってみよう」
 表紙とタイトルだけ見て紅炎の紋商術士・クィンクラウド(a04748)が先ほどのなぞなぞ集を手にしていた。
 違うと教えようかとも思ったが、今手にしている伝統行事の本を読んでいるうちに購入し終わっていた。
 守護者・ガルスタ(a32308)にその本を譲り、再び散策を続ける。
「しっかりと見極めて、最良の物を手に入れなければ……!」
 そういいながら立ち読みしまくる哉生明・シャオリィ(a39596)に並んでレグリアも立ち読み……店主が少し迷惑そうにしている。
「妖術師たる僕が狡猾マキシマムに生きる為にも、先人の知恵が必要不可欠だと思うのです」
「その本鍵がないから読めないよ?」
 店主にそう言われても悪の妖術師・クーカ(a42976)は引き下がらなかった。
「決して、格好良さそうだから欲しいと思ってる訳ではないのですよ?」
 多分それが本音なんだろうなと思いながらレグリアは歴史書のコーナーを後にした。

●語り継がれる童話達
「ラスたんはナンパ指南書でも探せば良いと思うよ」
「ルシエルは子育ての本でも探すのか? 頑張れよ」
「子育ての本って、ここで買ってもあんまり役に立たないような」
 そんな会話をしながら、暁月夜の幻影・ルシエル(a36207)と僕はもう疲れたよ・ラス(a52420)の二人が軽く蹴りあいながら横を通り過ぎる。
「……仲が良いんだか悪いんだか」
 そんなことを思いながら周囲を見回すと子供が沢山いた。どうやら童話や絵本のコーナーに迷い込んだようだ。
 子供達が駆け回る中、茶色の表紙に金の字で題名が書かれた本を手に月想竜焦静嗤者・ファルアニール(a14238)が喜びのオーラを全身から漂わせていたりもする。冒険者はいつまでも子供の心を忘れていないということなのだろうか。
「せりはっちとお出かけは久しぶりですよねー♪」
「そういえば集めていると言う本、何処かで読んだ気がするのですよねぇ……」
 透檻花・フィー(a02072)と八葉蓮華・セリハ(a46146)の二人のような冒険者の姿もちらほらと見られる。二人は探していた本……セリハにとっては以前別の場所で出合った本との奇跡のような偶然の再会に驚きながらも喜んでいた。
 近くにあった本を読んでみると、童話といっても元になった文学作品も含めているようだ。そう言った本を扱っている店には子供の姿が少ないからすぐにわかる。
 周りを見渡すと先ほどなぞなぞ集を購入したウィンクラウドの姿もあった。どうやら期待していた内容と違ったので脱力していたが……。
「その本もクィンさんに出会えて幸せね」
 隣の月蝶宝華・レイン(a35749)に肩を叩かれて励まされ、元気を取り戻したようだ。
「静かで幻想的な世界ですね。これに惹かれたので購入させて戴きたいのですが」
 書庫の月暈・アーズ(a42310)が店主とそんなやり取りをして本を購入している。
 店主の方も大事にしてくれそうなヒトに渡るのなら喜んでと、その本をアーズに手渡した。
「……うん、やっぱりうちの愛猫が一番可愛い」
 猫の表紙の挿絵がとても可愛らしい絵本を手に猫と紅茶がお好き・ファリアス(a43674)はそう言った。
「ところで何やねん、その怪しげな本は」
 宵闇に散る花音・オリヴィエ(a54096)はファリアスが小脇に抱えている『女性の心理が良く解る本』を見て胡乱気にそう聞いた。
「おいちゃん、恋人寂しがらせちゃってるみたいだから……」
「何やっとんねん」
 ファリアスが言い終わるより早く、オリヴィエは隣で動物寓話集を手にしていた飄風・カーツェット(a52858)に裏拳をびしっと、容赦なく当てた。
「手先以外は基本不器用なんだ、俺だって気にしてるんだから」
 と、裏拳が当たったところをさするカーツェット。
「ま、本は本やさかい。気ばりや? 応援しとるんやからな」
「仲がいいなぁ」
 なんだかんだで楽しそうだなオリヴィエ達の掛け合いを見ながらタケルが通り過ぎた。
「どうやら良い本との出会いも沢山あったようですね」
 レグリアは色々と盛り上がっている童話コーナーを後にした。

●戦術と戦略と……
「なるほど、そのようなアプローチの方法もあるのか……」
 そのコーナーの入り口でピースメーカー・ナサローク(a58851)が本の内容に驚き、そこに記された知識、先人の知恵に感嘆していた。
 レグリアは近くにあった本を手にとってぱらぱらとめくる。
 どうやらここは戦術や武術などの指南書を扱っているところのようだ。ある意味もっとも冒険者向きのところかもしれない。
 先ほどまで歴史コーナーにいた冒険者の姿もちらほらと見かける。ドラゴンに対し、歴史的見地と戦術、戦略的見地から迫ろうというのだろうか。
「あいつのプレゼントにいい本ねえかな。できれば先人の創作や研究を記した……しかも絶版の本!」
 あいつというのが誰なのかはわからないが、黒曜の邪竜導士・デスペル(a28255)がレグリアの脇を通り過ぎ……少し先でふと足を止めた。どうやら適当な本を見つけたようだ。
「すまないな。私が今探しているものとは少々異なるのだ」
 反対側の店で店主に呼び止められた闇を斬り裂く守護蒼刃・クロス(a33237)が丁寧に謝罪して店を後にする。また次の店で訪ねては、と繰り返しているようだ。
「まあ、探し物が中々見つからないことも良くありますよね」
 レグリアは心の中で応援しつつ、そう呟いた。特に本というものはほとんどが量産されていない。目的の本の写本だけでも手に入れるのは難しいと言われているほどだ。
 幽霊通りの刺客・サラ(a65060)はソルレオンの残した武芸所を見つけて店主と交渉していた。こちらは幸いなことに出合うべき本には出合えたようだ。
「本ってのは巡り合うものだよな……」
 そう言いながら悪鬼羅刹・テンユウ(a32534)が横を通り過ぎ、山のような数の本をばら撒いた。
 どうやら兵法の資料らしいが、その数が半端ではない。もしかしたら100冊くらいあるんじゃないだろうか。
 持って帰ることを考えずに購入したのか、ふらふら歩いてはぼとぼと落とし、また拾ってはふらふらと繰り返して市場を後にする。
「流石にアレは真似できませんね」
 苦笑しながらレグリアは次のコーナーへ向かった。

●資料や図鑑
「ふふっ良いものが手に入ったのです」
 レグリアの脇をチグユーノがアゲハチョウの表紙の図鑑を手に駆けていった。そっとし合わせそうに拍子を撫でる姿から察するによほど気に入る本と出合えたのだろう。
 入り口付近ではハジが鉱石の図鑑に熱中していた。
「先人達から受け継いでゆく、僕らの歴史の一欠片なのさー」
 大声で夕染影草・イク(a60414)が通り過ぎていく。その手には良く見知ったノソリンの表紙の図鑑があった。
 どうやらここは図鑑や資料集などのコーナーのようだ。
「さて、買うべきか否か……」
 薬草に関する図鑑を前に宵闇の邪眼使い・エルキア(a68566)が悩んでいたが、店主と少し話をして面白そうだと思ったらすぐに購入を決めていた。
「あ、レグリアさん」
 その辺の店で資料集に目を通していたレグリアに東雲を護る宵藍の星・アルタイル(a37072)が声をかけてきた。
「いい本は見つかりましたか?」
「かなりの量の本は読んできたと自負してるけど……でもまだまだ興味をそそられる本は山ほどあるんだよね」
 レグリアの問いにアルタイルが答える。レグリアも本を大量に読んではいるが、まだまだ知りたいと思うことは沢山……むしろ、知らなかったことを知った分だけ増えたとすら思っている。
「本の内容が重要なんだけど、気に入った内容で装丁が綺麗だったりするともっと嬉しくなるんだ」
 そう言ったアルタイルの手には繊細な細工の施された重厚な装丁の本があった。
 どうやらすでにその綺麗で気に入る内容の本と出合えているようだ。

●市場の裏側
 アルタイルと別れ、その辺りをふらふらとうろついてみる。
 自分に今必要な本は何なんだろうか……レグリアがそんな考え事をしていると人ごみから離れたところに出た。人通りこそないが、こんなところにも本は並んでいる。
「これ……貰えるか?」
 その一角で氷鏡に映らぬ銀影・レン(a42516)が『医』とだけ表紙に書かれた本を手にし、睨みつけるような鋭い視線を店主に向けていた。
 一瞬、揉め事でもあったのかと思ったが、どうやら違うらしい。
 よほどの決意を持ってその本を手にしたのだろう。レグリアに気付くこともなくレンは去っていった。
 変わった本が多いがここも興味深い本が沢山あった。
 先ほど見かけた依頼依存症・ノリス(a42975)が手にしていた本も表紙こそ筋肉質な男……マッシブな漢、と店主は言っていた……だったが、内容はまともな肉体鍛錬法だった。
 他にも種をまく人・ウィルカナ(a44130)が購入していた『とってもよくわかるオフクロの味辞典』などのようなレシピ集や導き手・カナ(a59024)の『読書の雑誌・増刊号』といったものまで幅広く扱われていた。
「こっ! これは! かの小説の鬼才と呼ばれた伝説の作家の最後の名作、『死の冠と少女』!?」
 そう言いながら灼炎をまといし銀狼・レヴィアス(a66563)は店主とマニアックな話に花を咲かせている。
 ジャンルに捕らわれない本達の行き着いた先がここなのだろう。
 めざせ鉄壁ノソリン・ニノン(a64531)がお姫様と王子様の出てくる物語の解説本に見入っていたり、知識の泉・ジェイル(a68340)は恋愛指南書を手に、凄く恥ずかしそうにしていたりした。
 若いな……などと思いながら、レグリアも一つ一つじっくりと見ていく。表と違ってここではジャンル分けがされていないために全て目を通しても飽きがきそうになかった。
「探すのを手伝って戴けて?」
 そんなレグリアに舞姫・エフェメラ(a59545)が小首を傾げてお願いしてきた。
 話を聞くとオペラの台本を探しているらしい。
「先ほどそこの角を右に曲がったところのでオペラ関係の本を扱っていましたからそちらで聞いてみるといいかもしれませんよ」
 百聞の霊査士の二つ名、本領発揮といわんばかりに正確にその本を見た記憶を引き出し、即座に答え、エフェメラと分かれた。
「世の中変わったお話の本もあったものですわ、フフ……」
 唐突に横から聞こえた声に驚いてそちらを見ると旅の女重騎士・ニーナ(a48946)が変わった表紙の本を手にして歩き去っていった。
 ふと周りを見るともうすでに日が暮れ始めていた。
「そろそろ……お開きなんでしょうね」
 誰に言うでもなく呟く。レグリアはまだ一冊も購入していない。
「私の知らない考えを知りたいからです」
 そんなレグリアの耳に声が聞こえた。
「ちょっと他人の考え知りたいなんて欲張りな私ですね」
「そんなことはないですよ」
 露天で店主に語りかけていたハニカ・ミヤクサ(a33619)にレグリアは思わずそう言っていた。それは自分の求めている物でもあったからだ。
「誰もが誰かに伝えたいと願い。誰もが誰かのことを知りたいと願う。時間も空間も越えて多くのヒトに伝え、知らせることが出来る。だからこそ本が必要なのですから……」
 レグリアはそこにあった一冊の本を手に、幕を下ろす古書市場を後にした。


マスター:草根胡丹 紹介ページ
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参加者:38人
作成日:2007/11/04
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