水鏡の鍾乳洞



<オープニング>


●水鏡の鍾乳洞
 チキンレッグ領の辺境に『水鏡』と呼ばれる鍾乳洞がある。
 鍾乳洞の中には上質のクリスタルが眠っているのだが、最近になってモンスターが現れたので採取が不可能になっているらしい。
 このモンスターは水鏡の由来となった地底湖に棲みついており、クリスタルを採取に来た冒険商人を襲っている。
 しかもモンスターは体が透き通っているため、湖の中に逃げられると見分けがつきにくい。
 モンスターは自らの触手を変化させ冒険者の姿を真似るのだが、あきらかに悪意(本物より胸が大きかったり、二枚目だったり)があるので気をつけてくれ。

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参加者
月穿つ豹の爪牙・セリオス(a00623)
決別を呼ぶ吠響・ファウ(a05055)
鋼の樽・ハミルカル(a06059)
銀の剣・ヨハン(a21564)
月夜に舞い降る銀羽・エルス(a30781)
嵐を呼ぶ魔砲少女・ルリィ(a33615)
青雪の狂花・ローザマリア(a60096)
屠龍の刃・ミカ(a60792)
不屈の草魂・レヴァン(a62383)
黒狼・ツバル(a66503)
白銀の双剣士・エメルディアス(a68485)
合金紳士・アロイ(a68853)


<リプレイ>

●水鏡
「……この場所にクリスタルが眠っているのかぁ。クリスタルを採取しなくても、観光名所として人が集められそうな綺麗な場所っぽいね♪ それをモンスターが独り占めなんてダメだよ、いざ奪還☆」
 カンテラを腰に括りつけて光源をしっかり確保しつつ、決別を呼ぶ吠響・ファウ(a05055)が精神を研ぎ澄まして先頭を歩く。
 水鏡の鍾乳洞には大小様々のクリスタルが光を放っており、カンテラの光を浴びてキラキラに輝いている。
「何だか夢の世界にいるみたいだね。不謹慎かもしれないけど、ちょっぴり楽しみなのだ。擬態する敵……、というのも、興味深いね。どんな格好に化けてくれるのかな?」
 警戒した様子で辺りを見回しながら、屠龍の刃・ミカ(a60792)が地底湖をむかう。
 鍾乳洞の中は入り組んでおり迷路のようになっているが、事前にマップを貰っておいたので迷う事はない。
「触手な上に擬態能力……色んな意味でいやらしいモンスターねぇ。特に、あきらかに悪意(本物より胸が大きい)がある擬態が……。触手は嫌いなので、そっこーで殲滅してやるにょ」
 大きな胸を隠すようにして服の下にサラシを巻き、嵐を呼ぶ魔砲少女・ルリィ(a33615)が拳をギュッと握り締める。
 胸を2サイズほど小さく見せているためか、今にもサラシがはち切れそうである。
「……寸の大小で冒険者やるわけじゃねーけどな」
 一通り仲間達を見回した後、不屈の草魂・レヴァン(a62383)がボソリと呟いた。
 水鏡の鍾乳洞に巣食うモンスターは擬態を得意としているのだが、明らかに悪意のある違いがあるので簡単に見分ける事が出来る。
 しかし、本人が偽者を見た時のショックが大きいため、それが原因で無茶な行動をして触手の餌食になる冒険商人も多かったようだ。
「触手が……己と同じ姿、能力にだと……? しかも悪意ある姿に……。ま、まさか! 憧れのあーんな鎧やこーんな鎧に!? そ、そんな……! 芸術の域にまで達した鎧達を……私に破壊する事が出来るのだろうか」
 ハッとした表情を浮かべながら、合金紳士・アロイ(a68853)がダラリと汗を流す。
 だが、ここで後戻りする事も出来ないため、『これは試練だ』と自分自身に言い聞かせた。
「触手を擬態させるモンスターだなんて――きっと生前は自分の姿に自信が持てなかったコンプレックスの塊か、そうでなきゃただの行き過ぎちゃった自己愛者でしょうね。モンスターが幾ら冒険者の成れの果てとは云え、ああはなりたくないモンだわ。せめて、今度こそ安らかに眠って貰うとしましょーか。同じ冒険者の手で、永久にね」
 苦笑いを浮かべながら、青雪の狂花・ローザマリア(a60096)が地底湖に辿り着く。
 地底湖は水晶の光を浴びて眩い光を放ち、まるで水面に宝石が散りばめられたようである。
「ふむ、水鏡か。……なるほど、これなら頷けるな」
 納得した様子で湖を眺め、月穿つ豹の爪牙・セリオス(a00623)が溜息を漏らす。
 しかし、モンスターが潜んでいる可能性があったため、念のため地底湖に小石を投げて来た。
 いまのところ……、反応がない。
「ここ……、キラキラで……綺麗です……。モンスターも綺麗なものが好きなんですね……」
 湖面を這うようにして触手が移動を始めたため、月夜に舞い降る銀羽・エルス(a30781)が仲間達に合図を送る。
 それと同時にモンスターの触手が大きく膨らみ、次第に冒険者達の姿へと変化した。
「クリスタルを採取しようとする冒険商人の邪魔をするモンスターめ。俺達を惑わせようとしても無駄だっ!」
 湖面に浮かんだモンスターに対峙しながら、鋼の樽・ハミルカル(a06059)が拳をギュッと握り締める。
 モンスターと戦うためには擬態した触手を破壊しなければならないため、仲間達の協力なしではマトモに戦う事さえ難しい。
「どこか神秘的な雰囲気のするモンスターですが、このまま放っておくわけにはいきませんね」
 いざと言う時のためにロープを身体に巻きつけ、銀の剣・ヨハン(a21564)がモンスターを睨む。
 モンスター自身も宝石のように美しいため、危うく心を奪われてしまいそうになる。
「随分と変わったモンスターやな。透明な触手が水飴みたいや。もうちっと赤かったら、たこ焼きをするところやったけど……」
 残念そうに溜息をつきながら、知識全くナシのアホ戦士・ツバル(a66503)が地底湖の淵に陣取った。
 湖の中ではモンスターの方が有利になるため、出来るだけ陸地で戦わねばならない。
「水と同化して姿を消す前に、モンスターを倒してしまった方が良さそうですね」
 触手の擬態が完了したのと同時にモンスターが姿を消そうとしたため、白銀蝶・エメルディアス(a68485)がロープを放り投げた。
 しかし、モンスターが湖に潜ってしまったため、ロープだけが虚しく湖面に浮かんでいる。
 そして、擬態したモンスターの触手が、次々と冒険者達に襲いかかっていくのであった。

●悪意の擬態
「こ、これが、アタシ……? 嘘ッ!? アタシはこんなにスイカップオーヴァーじゃないわよっ――なんてね。で、でも、綺麗……」
 モンスターの触手が自分と似たような姿に擬態したため、ローザマリアが驚いた様子でマジマジと見つめる。
 全体的な雰囲気は彼女にソックリなのだが、本物と比べて無駄に色気が漂っており、思わず釘付けになってしまうほどだ。
「す、凄い! 何と言う擬態なんだ。私の理想……。いや、それ以上の素晴らしさ。まさか、こんな場所で最高の鎧に出合う事が出来るとは……。だ、だが、モンスターである以上、倒さねば……」
 唖然とした表情を浮かべて触手を見つめ、アロイが拳をぶるりっと震わせる。
 モンスターを倒せば触手もタダではすまないため、どうしても鎧を持ち帰る事が出来ない。
 既にモンスターの触手が擬態したものである事を忘れているため、何とかして鎧を手にいれる事しか考えていなかった。
「こんな紛い物に騙されるんじゃねえ! しかも、コイツは誰の真似をしているんだ!? スカしやがって腹が立つ。冒険者ってのはなぁ、寸の大小でやってねーんだよ!!」
 激しい怒りに打ち震えながら、レヴァンがバッドラックシュートを放つ。
 しかし、レヴァンに擬態した触手は攻撃を避け、小馬鹿にした様子でニヤリと笑った。
「べ……、別に悔しくなんてないんだからねっ!!」
 挑発的なポーズを取り続ける擬態した触手と対峙しながら、ミカが怒りマークをピコピコとさせる。
 自らの感情に身を任せてレイジングサイクロンを放ったが、勢い余って湖に落下してしまったため、そのまま触手を襲われて悲鳴を上げた。
「クッ……、思ったよりも嫌味なモンスターやったのか。まさかボクにこんなモンを見せて動揺するとでも思ったわけやないやろ?」
 タコのような姿になった自分自身と向かい合い、ツバルが不機嫌な表情を浮かべて斧を振り下ろす。
 その一撃を喰らって擬態した触手が切り裂かれ、水のようにさらりと溶けていく。
「どうやら見た目に騙されたみたいにょ。魔砲少女・まじかるルリリンただいま参上!」
 自分の姿に擬態した触手の胸を確認した後、ルリィが胸に巻いたサラシを解いて鎧聖降臨を発動させる。
 そして、勝ち誇った様子で胸を揺らし、擬態した触手に対抗した。
「だあああああああ! 今度は背が小さいで! 馬鹿にしとるんか!」
 触手に対してツッコミを入れながら、ツバルがソードラッシュを叩き込む。
 怒涛の連続攻撃を喰らって触手が次々と切り刻まれ、湖にポチャポチャと音を立てて沈んでいった。
「私達を敵に回したのが間違いだったにょ。例えどんな姿になったとしても、あなた達が不利な事には変わりないにょ!」
 触手をビシィッと指差しながら、ルリィがエンブレムシャワーを放つ。
 そのため、触手は擬態する暇もなく、ドロドロになって溶けていく。
「てめーの今日の運勢は……、大凶だ! せいぜいいたぶってやるからなー、覚悟しとけよ! オラオラオラ……!!」
 何の躊躇もなしに湖に飛び込み、レヴァンが飛燕連撃を炸裂させた。
 しかし、触手は既に戦意を喪失しているため、戦うどころか逃げ腰になっている。
「正義の名の下に……断・罪ッ!」
 ようやく覚悟が決まって雄叫びを上げ、アロイが触手めがけてホーリースマッシュを叩き込む。
 それと同時に触手が派手に弾け飛び、モンスターの悲鳴が辺りに響く。
「確かに、見事な再現度+アルファだったわ。でも……残念だけど、アタシにはあって、あんたに無い物があるのよ。それはね――オ・リ・ジ・ナ・ル・の・輝・き♪」
 粗方の触手を破壊し終え、ローザマリアがボソリと呟いた。
 ローザマリアの放ったザンダークラッシュによって、触手からブスブスと煙が上がっている。
「いやぁ、つい力が入っちゃったね」
 恥ずかしそうにてへっと笑い、ミカが仲間達のところに駆け寄った。
 だが、肝心の本体がまだ倒されていないため、仲間達の緊張が解かれる事はない。

●水鏡の湖
「せっかくみんなが触手を倒してくれたのに……。透明な体なんて……ずるいです……」
 警戒した様子で黒炎覚醒を発動させ、エルスがモンスターの気配を探る。
 その間に仲間達が湖の淵に陣取り、モンスターの逃げ道を塞ぐ。
「見つけたっ! そこだっ!」
 グランスティードに乗って湖に飛び込み、ハミルカルがモンスターの本体を捉える。
 そのため、モンスターが湖の中に逃げようとしたが、時すでに遅し。
「喰らえっ!」
 すぐさまセリオスがアングリーナパームを放ち、モンスターに怒りのバットステータスを付与した。
 その事によってモンスターが激しい怒りに囚われ、殺気に満ちた表情を浮かべて冒険者達を睨む。
「これで安心してモンスターと戦う事が出来そうだね」
 剣風陣で反応力を加速させ、ファウが電刃居合い斬りを炸裂させる。
 その一撃を喰らってモンスターがブクブクと泡を吐き、ケモノのような唸り声をあげて拳を振り下ろす。
 途端に大量の水飛沫が上がり、ファウの身体がブクブクと沈んでいく。
「水面を乱すのは無粋ですよ!」
 湖の淵から離れてモンスターの様子を窺いながら、ヨハンが武人の極意で攻撃力の上がったブーメランを投げる。
 次の瞬間、モンスターの右肩が傷つき、真っ青な血が噴水のように吹き出した。
「すみませんが、これが運命というものですね……」
 モンスターの事を挑発しながら、エメルディアスがサンダークラッシュを叩き込む。
 狂ったように悲鳴をあげ、水中に逃げるモンスター。
 しかし、怒りの感情が膨らんでいるため、再び姿を現して冒険者達に攻撃を仕掛けてきた。
「……人々を襲っていた報いが跳ね返ってきたんだよ。キミの在るべき姿を……素直に受け入れてね……☆」
 モンスターを引っ張り上げるため、ファウがチェインシュートを打ち込んだ。
 それと同時にモンスターの身体が宙を舞い、派手な音を立てて湖の淵に落下した。
「ここでモンスターを逃がせば面倒な事になる。逃げ道を塞いで一気に叩くぞ!」
 腰に巻いたロープをきつく絞め直し、セリオスがモンスターに鮫牙の矢を放つ。
 その一撃を喰らってモンスターの身体から大量の血が溢れ出し、湖面を真っ青な色に染めていく。
「僕達はまだ朽ちる訳にはいかないのです」
 モンスターがヤケになって攻撃を仕掛けてきたため、エメルディアスが地面を蹴って横に飛ぶ。
 そのため、モンスターは勢い余って、顔から地面に突っ伏した。
「これで……、終わりだあああああああああああ!」
 雄叫びを上げて飛び上がり、ハミルカルがモンスターに大岩斬を叩き込む。
 断末魔をあげて、息絶えるモンスター。
 まるで水のように溶け出し、それっきり動かなくなった。
「これで水晶の発掘も進むと良いですね」
 ホッとした表情を浮かべながら、ヨハンがチキンレッグ領の復興を願う。
 チキンレッグ領の大半は復興し終えているが、辺境地域はまだまだ治安が乱れていた。
「でも、湖が汚れてしまったの。元通りになるのかな?」
 心配した様子で湖を眺め、エルスが深い溜息を漏らす。
 その言葉に応えるようにして湖が澄み始め、少しずつ元通りになっていく。
 どうやらモンスターの血が湖と中和し、水と同じ成分になってしまったようだ。
 完全に元通りになるまでもう少し時間が掛かるかも知れないが、それでも希望の光が輝き始めている事は間違いなかった。


マスター:ゆうきつかさ 紹介ページ
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