<リプレイ>
●蜘蛛と穴 崩れやすい乾いた土の続く険しい道を、冒険者達は足早に登っていった。もとより植物の少ない地帯のようだが、少しだけでも、積もる落ち葉には足を取られそうになることもある。それでも誰一人として速度を落とすことなく、目的の場所まで急いでいた。 (「それにしても、運の悪い御仁だな……」) 思いながら、同時に守護者・ガルスタ(a32308)は危惧する。予定日から3日も帰らないと解った後に出された依頼、キィモ氏の容態が思わしくないのは容易に想像がつく。その上、唯一の出入り口には化け物のような蜘蛛が巣を張った。それは生きた心地がしないだろうと白雲の軌を辿る・タム(a53576)は慮る。 「でも、どうしてこんな所に来たのかなぁ〜ん?」 転がる岩を避けながら、お昼寝大好き・シャンテ(a14001)は小さな疑問を口にした。足場が悪く、蜘蛛出現の噂もあるような場所なのに、そうまでして自分の目で確かめたかったもの――だとすれば尚更、今は口惜しい思いをしているのだろうか。 「……あっ、何か居た! みんな、止まって」 目の端に黒い何かを見つけたエメルディール・リリィ(a50411)がそう告げると、皆はそれに従い歩を止めて指差す方向を見る。すぐに、大きく陥没した地面とそこに煌く蜘蛛の糸、その主人たる黒一色の大柄な蜘蛛達の姿が認められた。同盟一の嗜虐兼弄殺主義者・ジョセフ(a28557)が素早く付近の状況に目を走らせ、穴以外には注意するべき障害物がないことを確認すると、テンペストフィールドを展開する。 戦いの風が戦場に満ちる。蜘蛛と、時間との戦いが幕を開けた。
●穴と巣 「動かずに、自爆する……ナンともヘンな生き物ですねぇ」 感心とも呆れとも付かぬ声音でそう言葉を漏らしながら、朽濁楔・タケマル(a00447)は補助・回復に努めるという自分の役割を理解した上で、蜘蛛の動きを観察していた。闖入者に気が付いた蜘蛛は、体の方向を変えて、8つの眼をぎょろぎょろと動かしている。ガルスタと真白の歌い手・クィリム(a62068)は、片方を牽制しておく為に、右側に居た蜘蛛へ狙いを決めた。残念ながら、どちらがどう狙うのかという詳細を決める時間は無さそうだったが、この際、気にしては居られない。 「お邪魔なクモ、燃えてなくなっちゃえ、なぁ〜ん!」 クィリムが放った黒い炎は獣の頭を模して、蜘蛛の背に喰らいついた。派手な爆発音が辺りに木霊する。それに腹を立てたのか、お返しといわんばかりに蜘蛛が消化液を吐き出す。狙いはガルスタにあったが、熟練の士、更に鎧進化で上がっている防ぐ力は、そう易々とダメージを通さなかった。 「キィモさん、お迎えに来たなぁ〜ん」 もう少し待っていて欲しい、と穴の奥へ届くように声を張り上げながら、シャンテは闘気を開放し、空気の渦を蜘蛛達へとぶつける。細い毛が千切れ飛んで空に散り、風が収まった後には裂傷を刻まれた蜘蛛の姿が見える。ガルスタの無骨な、だが戦いに特化した美しさを持つ蛮刀に護りの天使が宿った。振るわれた一撃はまさしく痛打となり、後退るように僅か、蜘蛛が蠢く。 「自爆するなんて変わってるよなー?」 タケマルと同じような感想を抱きながら、黒い炎を纏った神ノ手ヲ振リ払イシ・ラキ(a61436)は針の雨を降らせ、それは蜘蛛の体を脚を穿っていく。リリィが放った真紅の矢が怒りを与えた。じり、と僅かに蜘蛛が前進する。マカロンの放った矢が蜘蛛の足元に着弾して爆発し、勇猛なかけ声と共に叩き込まれたタムの連撃は、軽くない傷を蜘蛛に負わせる。 『…………』 蜘蛛は拘束の糸を吐こうとしたが、狙いのリリィは射程外。動けないままに、ジョセフの冥刀から迸った雷撃に撃たれて、脚を吹き飛ばされる。畳み掛けるように荒れ狂った風は、シャンテのデンジャラスタイフーンだ。 「ガンガン行くよー!」 ラキのニードルスピアと、リリィのナパームアローが同時に炸裂した。追撃が加わり、1体は動きがぐらつき始める。 「んでは、おやすみなさい」 タケマルが撃ち込んだ無数の針に、主に攻撃を受けていた1体が倒れた。一瞬、まさかそのまま穴の底へ転げ落ちないかとひやりとしたが、柔軟性のある巣の糸のお陰でその場に留まる。残りは、1体。 「こちらも、手早く片付けてしまうことにしよう」 ガルスタのホーリースマッシュがもう片方の蜘蛛に痛打を浴びせる。全体攻撃で、こちらも相当疲弊している様子が見て取れた。自爆までの残り時間も半分を切ろうとしている。クィリムが突きつけた宝剣から漆黒の焔が撃ち出され、更に追い討ちをかけた。 「さっさと倒れなッ!」 「退くなぁ〜ん!」 「こいつでおしまい……かっ?!」 一気呵成の猛攻は、蜘蛛に手出しさせる間も無く体力を削り、ラキの放ったエンブレムノヴァが、トドメとその体を焼き尽くした。
●巣と救出 後は肝心の救出だ。蜘蛛の死骸を動かし、巣を切り払う。それぞれが持ち寄ったロープを合わせれば、穴の底へは容易に届くだけの長さと、人を引き上げるに充分な丈夫さが得られた。 「間に合ったなぁ〜ん、急いで救出なぁ〜ん」 「うわ、こりゃ結構な深さですね。ご無事ですかー!」 穴の底に降りる役目は、タムが買って出た。タケマルが声をかけてみたが、こちらにはっきり届くような反応は解らなかった。それだけ衰弱しているという事か、と一同の顔に不安が過ぎる。ロープを結びつけて、下手に崩してしまわぬよう少しずつ、だが迅速に降りていく。 ロープのもう片端を持つのはシャンテとガルスタだ。ほんの少しの、だが長く感じる静寂。冒険者達が息を詰めて見つめる中、死角に消えていたタムの姿が現れる。その背には、男――キィモ氏がいた。タムが身振りで無事だと告げると、冒険者達の間には安堵が広がる。 「引き上げるよ、気を付けてね!」 「せーのっ、なぁ〜ん!」 リリィがそう声をかける。最後の最後でぶつけてしまわぬように、ロープが引かれた。無事に地上への帰還を果たしたキィモ氏は、穴の底で施された処置のお陰で大分楽そうではある。しかし表情に疲労は色濃く、また傷口も痛々しかった。一度その場に寝かされ、高らかな凱歌とガッツソングが響く。 「無事か……?」 「……う、……!」 ジョセフの呼びかけに、ゆるりと瞼が開いた。最初は朧気だった焦点が合うと、驚いたように男は目を丸くする。 「これ、は。冒険者の皆様、ですか……」 「あっ、無理しちゃダメなぁ〜ん!」 「水を。飲めるだろうか?」 暫く、その場でガルスタの用意した水や食料、クィリムの幸せの運び手で体力を少しでも回復できるように努める。最初は辛そうな呼吸を繰り返すばかりだったキィモ氏は、冒険者達の努力の甲斐あって、会話が普通に成立する程には回復した。 「本当に、お世話ばかりおかけします」 「お世話をかけられるのが俺達の仕事だからな。動けそうか?」 ラキの問いに、立ち上がる程度なら、と頷く。背負うのは引き続きタムが請け負うことになり、一行は日が暮れる前にと山を下り始めた。
●救出と帰還 「ところで、一体何を探してたのなぁ〜ん?」 「あ、それ、俺も気になってた」 町に下りて医者に見てもらい――驚くべきことに、そのまま帰宅許可が出た自宅までの帰り道。処方された痛み止めも利いているのか、冒険者達の質問にも朗らかに答えていた。 「企業秘密、という事で、申し訳ありません」 ただ、ずっと探していた物だった、と語る辺り、思い入れの深いものだったのは伺える。しかし、これだけ助けて貰っておいて完全黙秘は流石に、と思ったか、それをお披露目する会には、必ずや皆様をご招待しますと約束した。珍らかな石の話が聞きたい、というリリィのリクエストには、持ち主に幸せを齎す蒼い宝石の話や、ガラスのように透き通った美しい石の話を語った。ガルスタから奥方が心配していたと聞けば、やはりそうでしたか、と、複雑な面持ちで答える。
日も暮れた町。やっと自宅まで辿り着くと、外灯にぼんやりと照らされる門の前に人影。依頼主、ヴィーヴァの姿があった。負われて帰ってきた夫を見るなり、大粒の涙を零して良かった、と心の底からの声で呟く。 「皆さん、本当に……本当に、ありがとうございました……!」 「私からも、改めてお礼を。助かりました。本当に、もうダメかと」 けれど、あの時口にした祈りが確かに届いた事が、奇跡のようで。どうか今宵は都合の付く限りもてなされて行って欲しいと、礼と共に告げた。 そして冒険者達は、夜が明けた後、深々と頭を下げる石屋夫婦に見送られて帰路を辿ったのであった。

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参加者:8人
作成日:2007/12/03
得票数:冒険活劇7
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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