モンスター、その愛



<オープニング>


「彼は愛されているようです」
 食淫に耽り艶笑する霊査士・ユラ(a90261)は至極まじめに言った。
「食べちゃいたいぐらいに、想ってます。私もその気持ちはとてもとてもよくわかります。ええ、子供の柔らかいお肉はおいしいのです。ましてや、こんな霜降りの上肉……」
「霊査しているうちに、ユラはモンスター視点にどっぷり浸かっているみたいだな?」
「いや、この人の場合、これは素なんじゃ……」
 居合わせた酒場の冒険者たちの呆れた声音に、ユラははっと我に返った。
「いけないいけない。我を忘れてしまいました。とにかく、要はとある村の少年を守って欲しいということです」
 その少年はモンスターに、ストーキングされていた。追い回されていた。マーキングされているといっていい。
 まだ、レロリっと長い舌で顔をなめられたぐらいですんでいるが、ぺろりと食われるのは時間の問題と思われた。
「なんですぐに食べないんだろうね?」
 王子様は絶対いるもん・リア(a90285)は不思議に思った。
「それはもちろん、冬目前まで待った方が脂肪ののりがよくなりますからね。愛されてますね」
 当然のように恐ろしいことを言うユラ。
「食べ物として愛されるのって、きっと嫌だと思うよ。もう、冬までそんなに時間ないんじゃないかな」
「ええ。だから、容赦なく退治してください。敵は色っぽい女性の姿をしています。だから最近まで、村人たちも、それがモンスターだとは思わなかったらしくて。防御力はさしてないですが、気配を消したり、霧を出してまぎれてきたり、あの手この手で目当ての少年のところに出没します」
 リアは首をかしげた。
「よく、その女の人がモンスターってわかったね?」
「後頭部に大きな口と真っ赤な舌が踊っているのを見れば、モンスター以外の何ものでもないでしょうから。口を閉じているときは、気がつかなかったみたいですが、それが舌なめずりするところを村人数名が目撃したのです。皆様、少年の安全を第一に考えてください。このモンスター、食い道楽のためには命を惜しまないタイプのようです」
 冒険者たちは空恐ろしい気持ちになった。
 そのモンスター、目の前の悪食霊査士と性格が似てないか?

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参加者
自然と昼寝愛好家・ファンバス(a01913)
朱の蛇・アトリ(a29374)
月のラメント・レム(a35189)
ふわふわ綿毛のヒヨコ・ネック(a48213)
繊月・マヒナ(a48535)
真夏の夜の夢・ティターニア(a64330)
沈く花・フィリカ(a64343)
樹霊・シフィル(a64372)
NPC:王子様は絶対いるもん・リア(a90285)



<リプレイ>

●おいしそうな少年たち
 狙われた少年がいる村は野原のど真ん中にあった。
 寒くなったため、その『野』の部分はほぼ枯れていて、砂利の灰色ばかりが目立っている。
 村が見渡せる距離までくれば、村の中央に大きめの建物があるほかは、こじんまりした家々があまり離れず建ち並び、子供でもたやすくよじ登れそうな柵をほどこして、庭の境目を作ってあるのが見て取れる。
 一同はざっと見てみて、戦いやすそうな場所として、村の外を選んだ。
 正直、このあたりは砂利が多くて足元を若干不確かにするのだが、村の中で柵や家の壁に邪魔をされたり、村人に被害が出ないように気遣うのであれば、見晴らしのよい外の方がよい。
「わたくし……モンスターに追い回されている少年よりも、リア様とネック様の御身が心配で心配で」
 ノースポールの花を緑の髪に宿している少女は、仲間であるチキンレッグの年少者二人に言葉通りの心配そうなまなざしを注いだ。樹霊・シフィル(a64372)である。
 その言葉にほかの仲間たちも激しく同意した。
 きっとモンスターにしてみたら、この二人はかなり美味そうな存在だろう。
 ふわふわ綿毛のヒヨコ・ネック(a48213)は種族としての勘で嫌な感じを受けてどうにも落ち着かない。
「飛んで火に入る丸々ヒヨコ……じゃなかった夏の虫、って」
 不安を紛らわせるために言った冗談が、しゃれにならない。十一歳にして肥満体型。
 細身で少年期も後半戦突入の、荊棘路人・フィリカ(a64343)は「丸っこくて、脂ののった、じゃなあ……。俺は思いっきり範囲外だわ」と、まったりと言い、王子様は絶対いるもん・リア(a90285)の漆黒の羽毛の生えた頭をわふわふっと触った。彼はこの手の丸っこくてふわもこで可愛らしいものが、大好きであった。リアとネックはストライクゾーン。
 村の中に入ってすぐに、やつれた中年の女性が冒険者に気がついて、少年のところまで案内してくれた。彼の母親だった。モンスターに我が子が狙われているので、心配と恐怖ですっかり憔悴してしまったのだ。
 食道楽のモンスターがこよなく愛している少年は、十二歳の、腕がまるでハムのようにむちむちした、丸くて柔らかそうな少年であった。しかも、農業のお手伝いをしているから、ほどよく筋肉も発達しているので、ますます美味そうな。
「確かに、ユラ様の言った通りの上霜降り肉そうな……いえいえいえいえっ!」
 おのが失言を頭を激しく横に振ることで、セルフつっこみし、
「食い道楽の果ての愛情だなんて、片思いもいいところ。私も食べるの大好きですがね!
ですが、だからこそ食べる対象への感謝を忘れるような存在は許しません」
 苺大福をこよなく愛している白髪の少女、光風霽月・レム(a35189)がきっぱりと言った。
「怖い女の人は、夕方近くになると来るんだよ」
 と、少年は少しばかりおどおどしながら言った。
 ねらわれている当人より、母親の方が取り乱し気味。
「うちの子をどうか助けてくださいっ。ああ、代われるのならあたしが食べられるのに」
 と、涙混じりの懇願。
 母の愛に一同はじーんっとした。
「大丈夫、安心して? 皆とーっても強い人達ばかりなのなぁ〜ん。相手が出てきたらすぐやっつけちゃうんだからなぁ〜ん!」
 食道楽モンスターの好みからはずれている、細身の少女、晦冥なる月・マヒナ(a48535)は力強く母と子に言った。
 少年を囮に使いにくい空気だったが、どうせモンスターは少年のところにきてしまうのである。ならば戦いやすいところに、敵を誘導したい。
 赤毛のエルフの女性、真夏の夜の夢・ティターニア(a64330)は母と子を見ながら思った。
(「囮にしてまうけど無事に帰したわー」)

●待ち伏せ
「色っぽい女に別の意味で食われんのはいーが、モンスターに肉として食われンのは勘弁だよな?」
 敵の食欲をそそらない体躯の、エルフの少年、朱の蛇・アトリ(a29374)は言った。
 少年はネックの来ていた鉄製の胸当てを与えられ、それを着け、自然と昼寝愛好家・ファンバス(a01913)から説明を受けていた。
「俺が声を掛けたら硬くてとげとげした物を想像してね」
 少年を中央に、冒険者たちが円を作る。
 準備は整った。
「んじゃま、ストーカー撃退といきやすかぁ!」
 と、みんなで村の外へと向かった。
 モンスターの出没する時刻が近づいていた。
 村の外へ出ると、おのおのがざっと自分の足場をならす。衝撃波で小石を散らしたり、足で踏み固めたり。
「何もしないよりかはマシ。……うん」
 フィリカが地面をなぎ払いながらつぶやく。
 この時期の日暮れは早いが、幸い木々もなく山の中でもないため、空が開けている。月と星は明るいだろう。
そうこうしているうちに、深い霧が出た。自然発生の霧ではなかった。
 霧の上に姿を消す、ということをされたら、非常に見つけにくい。当然、月光は遮られて、闇が深くなる。
 夜に目が利くアトリがいち早く、敵に気がついた。が、そのときには、すでにかなり近くまできていた。少年まで、あと五歩あるかないか。
 確かにそれは、女の姿。後ろに口があるという事前情報を得ていて、後頭部に注目しなければ、見分けがつかなかった。食べる喜びを体現した、後ろの巨大な口が舌なめずりをした。真っ赤な舌が踊る。
 服らしきものを着ているが、肉体の一部のようだ。胸のあいた、そして深いスリットの入った、身体にぴっちりの衣服は汚れがなかった。
 普通の顔の方はとまどっていた。
 彼女の目には少年が見えなくなっていたのだ。だって、そこにあったのは、海育ちには「ウニ」に見えたろうし、山育ちだと「栗」を連想する代物だった。
 霧が出た時点で、ファンバスは少年に鎧聖降臨をかけたのだった。そしてとげとげした姿に鎧は変化した。
 彼女の目には、もはやそれは食べ物に見えなかった。だが、おいしそうなものが二人ばかりいるので、せめてそちらを囓っていくことにした。獲物に選ばれたのは、リアとネックである。ちなみに、ネックの方が、彼女の好みによくあっていた。
 美味しそうだと涎をじゅりと飲み込み、彼女が目的を切り替えるのは一瞬だった。
 ちなみに、装備の一部を少年に貸したことにより、ネックは仲間の中でも一段と無防備。上半身裸である。本当に、飛んで火にいるなんとやら……。
 ネックに飛びかかろうとした彼女の身をアトリの放ったスキュラフレイムがかすめる。足場は少しならしておいたものの、大技は若干コントロールが狂う。
「道楽は身ぃ滅ぼす元になるっつーが、命惜しまねーってどんだけ食い意地はってんだっ。
ま、心行くまで食らって頂きやしょか、……攻撃をな!」
 彼女は即座に霧の中に身を紛れさせた。が、逃げる気はなさそうだ。
「静かになぁ〜ん。後ろにゆっくり下がるなぁ〜ん」
 マヒナはとげとげの少年にふれないようにしながら、待避を促した。火力の強い攻撃もあるので、一般人がこの場にいるのは危険だ。『彼女』がこちらに向かってくるようなら、即座に影縫いの矢を放てるようにしながら、そろりと下がる。
 リアもまた、「大丈夫、君を守るためにこんなにたくさん集まったんだよ」と優しく声をかけながら、一緒にこの場を下がった。
 レムは仲間の位置に気をつけながら、囮役のネックにいつでもヒーリングがかけられるように場所を少しずつ移動する。
 ネックが純白の守護天使をアビリティーで作り出していると、『彼女』が現れた。
「わぁぁっっ」
 肩のあたりをかじりっと後ろ頭の大きな口で噛みつかれた。幸いだったのは、この敵は防御力や攻撃力が乏しい。骨までがぶりともっていかれることはなかった。
 彼女の後ろの口は血まみれで、にたりと笑った。
「なんやっけ、口が二つあって大食漢な悪食なお化けっておったなー。なんや、昔話で読んだ気がするわー」
 やはり夜目の利くティターニアもまた敵を早めに目視し、長剣を持って打ちかかった。霧が出た時点で、血の覚醒を施しているため、重い一撃になるはずだったが、手にはかすかな感触しかなかった。
「のらくらとしてはるなぁ……」
 紙一重で、致命的な攻撃をよけていく『彼女』。だが、刃にわずかに血が付いているから、少量でもダメージは与えたはず。
 フィリカはといえば、自分の身を軽くしていた。足場が悪くても、これで安定した攻撃が出せる。何より、のらくらと逃げては攻撃してくる『彼女』と渡り合うには速度も必要だった。
 威力よりも、たった一太刀、深く入れば勝負がつく敵だった。そして、だからこそ、避けるのがうまい。
 彼女の生み出した霧が薄くなり、月の恩恵が届くようになってきた。
「あっ、妖怪二口、発見でございます。悪霊退散! でございますわ!」
 シフィルの緑の縛撃が巧く当たった。
 甲高い悲鳴が上がった。
 即死させることはできなかったが、アビリティの葉で、彼女を拘束できた。
 そして、少年の方からも悲鳴が上がった。
 冒険者たちは一斉に、ついそちらを見てしまった。
 少年はいつも真正面から彼女に接していたため、後ろの化け物そのものな口を見たのが初めてだったのだ。霧が薄くなり、地面を苦しみ転がる彼女を目撃してしまったのだった。
 マヒナはあわてた。少年を村の中の彼の家まで急いで連れていこうとしたが、当の少年は足がすくんで動けない。
「安全な所に避難しようね。絶対に守るから、安心して」
 と、そばにいたファンバスはトゲに気をつけながら、少年を担ぎ上げた。手や顔に当たるとさすがにちくちくと痛がゆいし、どうにもトゲがじゃまで抱えにくい。
 それでも、少年は戦場から速やかに連れ出された。
 人型の存在を子供の前で殺すのは抵抗があったのでその場にいる者たちから安堵の息が漏れた。
 その一連の騒ぎのどさまぎに、『彼女』は姿を消そうとしていた。
「逃がさないっ!」
 が、めざとくフィリカは気がつき、ミラージュアタックを食らわせた。
 もろにその背中に一撃を受け、激しい断末魔を上げたモンスターは、それでも最後に長い爪の生えた手を、ネックへと伸ばし……力尽きた。
 最後の最後、死ぬ瞬間まで。
「迷惑以外の何物でもない食欲、でしたわ」
 動かなくなった『彼女』を見下ろして、レムは感心半分呆れ半分につぶやいた。

「皆さん大丈夫でしたかなぁ〜ん? ちょびっとだけ食べられたりしてませんかなぁ〜ん?!」
 戻ってきたマヒナが心配して聞いたが、その心配は大当たりで。
 ネックは潤んだ目で。
「ちょびっとだけ」
 と返した。リアとレムに癒してもらったので、傷は完全に治っていた。
「さすがに人型のモンスターほっぽりだすのは気が引けるし、どっか埋めとこかー」
 と、ティターニアが言い出した。死体をどうしようか、とても気にしていたらしい。
「……そうだな。このまま野ざらしっていうのは……嫌だよね」
 ファンバスは賛成した。村の外はどこまでも野っ原なので埋められる場所にはことかかない。
「こういう時って、埋めようとしたら実は生きてて襲い掛かってくるって本とかでよくあるわなー」
 いいだしっぺが洗えない冗談を言い、掘った穴に『彼女』を引きずっていこうとしていたアトリとフィリカはちょっぴり頬を引きつらせた。

●酒場。
 モンスターと戦うときに、そばに一般人がいると非常に疲れるものだった。神経を倍使う。
 村で母親に何度もお礼を言われて、少年の方はモンスターの本性を間近で見たせいか、待避後に寝込んでしまった。
(「あんなものに狙われた、なんてわかったらやっぱり……怖いよねぇ。あの子の心の傷が早く癒えますように」)
 と、ファンバスは願った。
 一同は酒場にたどり着くと、何ともいえない安心感を得た。
「お疲れ様」
 ユラがねぎらう。珍しく、チキンの照り焼きという無難なものを食べていた。
「……おなかすきました」
 と、レム。敵の食欲に振り回され、終わったら急に空腹を覚えた。酒場は常に食べ物のいい香りがしていたのでよけいにだ。
 リアはこれこれこうでと報告をし、一同はめいめい席について食べたいものを注文したりしていた。
「でね、最初肩をかじっただけだったの。なんでネックを一気に食べなかったんだろう?」
 リアが不思議に思って食道楽の霊査士に聞いた。
 ユラは微笑んだ。
「恐怖を与えてから殺すと、肉が大変柔らかくなるそうですから。年老いて肉が堅くなった鶏などにこの方法を用いることがあるそうです」
(「相変わらず、さらりと物騒なこと言うぜ」)
 と、アトリは心中つぶやき。そして一同はついつい、ユラの皿を見た。……まさか、そんな、えげつない調理は、ねぇ?


マスター:無夜 紹介ページ
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