<リプレイ>
●鑑賞 「へぇ……ストレスを解消する村か、面白そうじゃねぇか♪ 俺も色々と鬱憤がたまってっからね!」 「お皿を投げて割る村ですか……。おもしろいことをするんですね」 翠幻皇石の双騎士・リカルツェン(a69462)、想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)らは村を歩く。 「見たところ、ふつうの村だな」 「でも、煙が各地であがってますよ。煙の数だけ窯があるのですよね?」 ラジスラヴァが指し示す先に、リカルツェンは緑の瞳を向けた。 「割るための窯が密集しているってわけか」 「身も蓋もない言いざまだけど……、そうですね」
2人は工房の中核に足を踏み入れる。 「ずいぶん抱えてきたものだな」 リカルツェンの言葉に、新米店長・アリュナス(a05791)は小さな笑みを返す。 「最近、いろいろと雑念を溜めこんでしまったようなので、技の切れを取り戻すための――いわば、修行です」 「道理で落ち着いた雰囲気の皿ばかりなんですね」 「華美な装飾は心を乱しますし……、どうせ割るわけですから」 ラジスラヴァにそう答え、アリュナスは一礼し、歩き出す。 「そうでした」 アリュナスは振り返ると、2人に告げた。 「わたしは向こうで修行をします。危ないので近づかないでくださいね。村人だけでなく、冒険者でも高速で飛び散る破片は危険ですから。皆さんにもそう伝えておいてください」 この言葉を残し、アリュナスは去っていった。
「真っ赤な珠だね。これも割るのかな?」 いざないの赤・エル(a69304)がチェックの服を着たおじさんに問いかけた。周囲には最終チェック待ちの陶器が山をなしている。 「これでは駄目じゃあ」 おじさんは叫び声を上げ、砂のついた珠を両手で振り上げた。 「遅れたうえに、焼けてない砂がついたままなんでっせ。こんな品質じゃ、割ってもらうわけにゃいかんのでっす」 「……ええと、ボクたちが割れないのに、おじさんなら割っていいの?」 「この『生の』砂が音を乱すのでっす。こんな乱れた音を披露できませんっす」 「でも、おじさんが割っていい理由にはならないと思うけれどなぁ」 おじさんは気にせず動いた。赤く鈍い光を放つ珠は、無造作に床に叩きつけられた。 エルにはその割れた音が乱れているようには感じられなかったのだが。
皿を中心とした陶器が、床いっぱいに並べられていた。 「『さらわれる』って声が聞こえたから、誘拐の救出依頼だと思って参加したのにまさか『攫われる』じゃなくて『皿割れる』だとは思わなかった……」 翡翠色のレスキュー戦乙女・ナタク(a00229)のぼやきに、苦笑いが答える。 「そりゃぁ、せっかちというもんじゃねぇか」 「ナタクさんはああ言ってるけど、ほんとは……ね」 爆走する玉砕シンガー・グリューヴルム(a59784)、愛の戦士・タリム(a68968)が笑いを止め、ささやきあう。 「……あのー、お二方、聞こえてるんですけどー。 ただでさえ『破壊乙女』とか有難くない異名があるんだから、今回は大人しくしておくけど……」 ナタクの憮然とした表情に、苦笑いが漏れ出す。その声はナタクも含めたやがて朗らかな笑い声へと変わっていった。 「まぁ、冗談はともかく、こうして皿を眺めるのもおつなものだなぁ」 「この柄、綺麗だなぁ」 「でも、割るためのお皿なのにここまで装飾に凝る必要があるのかしら?」 「さぁ、どうしてなのかな? ボクはかまわず、お皿を磨くのって精神鍛錬にはもってこいと、心を込めて色々なお皿をピカピカに磨き上げることにするけどね♪」 ナタクは座り込むと、せっせと磨きはじめる。布巾を握る音がきしきしと響く様子に、タリムは握り割ろうとしているのかと邪推してしまったとか。
「お皿を割り放題ですかぁ、勿体無いです。でも……」 猫的幻想曲・ティセ(a68887)の服のお尻部分がちょいと揺れ動く。それにあわせて、ティセの口からちっちゃな笑い声が漏れかける。 「な、なにをなさってるんです?」 ティセの青い瞳には、体の大部分を皿に隠したナタクの姿が映っている。 「亀!」 ナタクの様子に、ティセは思わず握っていた棒から手を離してしまった。鈍い音を立て床に落ちる。 「むー、漁師さん助けて〜、悪い子が亀をいじめるよ〜」 頭と手足を引っ込めたナタクは冗談っぽく、こんなことをつぶやくのだった。 その隙に、ティセは年末皿回し用の皿を探すのだった。 「お皿さん見っけぽ〜こぺ♪」 ティセが拾い集めたのは、装飾はバラバラだったが、似たような形の、同じような重さのバランスのお皿である。
「ふーん、これが割るために作ってる皿かー。結構良い品だよねー。 割るためだけにこれだけの品を作るなんて、流石はミュントスって感じだねー。割るだけなんてもったいないなー。これならランドアースに持っていっても……って、割るためだけにこれだけの品を作るなら、観賞用とかにはもっと凄い品があるってことだよねー。 ねねね、ちょーっと話を訊きたいんだけど良いかなー♪」 着ぐるみ疑惑・ガルーラ(a39452)が案内してくれてる村人に継続的な、大量買い付けを持ちかけてみた。 「むむ、これはなかなかの装飾――やけど、ふつうよりも割れやすく作られてるようやな」 未来の豪商・ナルヤ(a37402)が皿を置いて、考え込む。 「この村では実用性を気にせず、ただただ割りやすく、よりお求めの音をたてられる陶器作りを目指しております。ですから、日用品、装飾品としてお求めになられては困ります。 個人的に持ち帰られるくらいでしたらかまいませんが、ガルーラ様、ナルヤ様のご提案には力になれません」 「割れやすいんじゃ、運ぶのも難しそうだしねー。うーん、残念だなー」 ガルーラは頬をふくらませ、不機嫌そうな表情でそう呟いた。隣のナルヤには、丸い肉体が平べったくなったように見えていた。
●修行 「どんなことして遊ぼうか、て考えてみたけど……」 エルの提案にナルヤはダイナミックにうなずいてみせる。 「うちも時間制の皿割りとか考えておったんや。ここは協力してばしっと派手に盛り上げてやろか?」 「そうと決まれば、準備だね〜」 ナルヤ、エルはダッシュで動き出した。
アリュナスの拳が動く。その動きに従い、次々と皿は破片になっていく。修行をはじめてから時間がたったのだろう、彼の周囲には破片が散乱している。 「だっ」 爪先で皿を投げあげた。その足が大地に戻るやいなや、残るもう一方の足で脇に生える木の幹を蹴り、その反動で我が身を浮かべ、投げあげた皿に追いついた。 皿は空中で新たに破片の仲間入りを果たす。
「空中でお皿を割るのって難しいけど、アリュナスさんなら大丈夫だよね♪ ティセさんも、一見の価値があるよ?」 大皿を背負い、小皿を頭上に載せたナタクが、着地したばかりのアリュナスに中皿を5枚ほど放り投げる。中皿はきゅうりのような軌跡を描いて、アリュナスに迫る。 「くっ、かっ」 アリュナスの口から鋭く息が漏れる。息に合わせ、拳がふるわれ、次々と皿を撃墜する。 「くっ、だから言ったのに」 アリュナスはぼやくとともに駆け出す。 「すごーいです」 と喝采をあげるティセに迫る皿の破片を追いかける。 しかし、破片のすべてをとらえることはできなかった。 「かっぱばりあー」 謎の奇声をあげ、ナタクが残りの破片を拳や体で受け止めた。落ちた破片を何となく踏みつける。 「……かっぱ、ふみふみ?」 かばわれたティセの口からそんな言葉がこぼれ落ちた。 「かっぱ……って、なんです?」 平常心を取り戻しかけたアリュナスの問いかけに、答えはなかった。
「いつもより多く回っております、これでさらにめでたい……って、なかなか難しいです」 ティセの周りに破片が増えていく。 持参した3m級の棒では、一朝一夕に皿回しができそうもない。村人にもっと短めの棒を借り、簡単そうなところから練習するのだが、なかなかうまくいかない。 「もっとがんばらなくっちゃ。アリュナスさんだけじゃなく、タリムさんもがんばってるみたいですし」 ティセが額の汗をぬぐう。その見つめる先には、木々の向こうに村人を左右に従えたタリムの姿があった。
「とにかくストレス解消と行きますか♪ それじゃ、よろしくね♪」 タリムの合図により、左右の村人が皿を投げはじめる。 「えぃ!」 「やぁっ!」 タリムの大鎌が皿を的確に捉えていく。 「はっ!」 返す刃が反対からの皿を打ち砕く。 「なんだか気分が乗ってきたわ! この際だからまとめて投げて頂戴!」 村人がちょっと不安そうに、十数枚の皿を放った。 「はぁ〜〜〜〜〜!!!」 タリムの大鎌が横薙ぎにふるわれた。皿が連鎖的に砕かれる。 まとめ投げは続き、『流水撃奥義』が30半ば振るわれた。 「これが最後の1枚ね……」 タリムが周囲の破片に視線を走らせ、自らの行いを振り返る。 「我ながらここまで割れたものだわ」 村人たちからは割りっぷりを称える声が浴びせられる。 「これでぇ、ラストォォォォォ!!!」 ナタクの背負ったものよりも大きい、2m級の皿が転がされてくる。さすがにこれを放り投げることはできなかったらしい。 大鎌が綺麗な軌跡を描く。 「ハァハァ……、終わったぁ」 砕ききったタリムはその場に座り込むのだった。 「あ〜、スッとした♪」 村人たちがそんなタリムに扇で風を送っている。
●皿割り 「たとえば遠投で誰が一番の飛距離を出せるか競う、とか、的当てで皿を割って割れた数で勝ち負けを決める!! とか、ゲーム形式だと面白く割れると思うんだ♪」 「と、いうわけで、いくつか支度をしてもらったんや。どうやろか?」 エル、ナルヤの指し示した先には、工房の壁や幹に的が描かれたりしていた。 「的にうまくぶつけて割った人には、このナルヤセレクションのお皿をプレゼントや」 なんとなく歌作りも一段落つき、ラジスラヴァも皿に向かう。 「……ライホウさん、忙しいからってもっと一緒にいたいです〜〜っ! あんまりかまってくれないなら、浮気しちゃいますよ〜〜〜っ!!」 「見事や、綺麗に幹の的をとらえたやな」 ナルヤが皿を渡す。 「あー、的ごと壁が壊れちゃったけど、こういう場合はプレゼントもらえるのかな?」 ナタクの屈託ない笑顔に、ナルヤはため息を漏らして見せる。おもむろに皿に「破壊乙女様専用皿」と書いて手渡す。そのパフォーマンスにナタクもため息を漏らした。 「ボクは四足で走るのが好きだから、ワンちゃんみたいにソーサーを投げたり取ったりして遊ぶのも面白いだろうなー。誰かお皿を投げて♪」 四つんばいで、犬のしっぽを揺らしまわし、赤茶色の瞳で見上げられ、ティセはなんだかほんわかしてしまう。そのほんわかパワーに体を委ね、軽く皿を放り投げた。 「あー、この村の皿は割れやすいんだった……。うまくくわえられないよー」 エルはティセの放る皿の先にうまく回るのだが、噛むと同時に皿が割れていく。破片で口の中が気持ち悪いというか、わりとじゃりじゃり痛い。
「と、余興はともかく」 ナルヤは皿を目前のタルの上に置く。 「大声で叫んでたたき割るのが作法なんやな」 頭上から手刀を下へやった。 「いつか同盟で一番の商人になってやるんやぁ〜!」「商売繁盛〜〜!」
「じゃ、せっかく来たんだし、何か割ってみよー。 ……と、その前に確認しておきたいんだけど、これ割った後で、法外な請求をされたりしないよね? ね?」 ガルーラに問いかけられた村人は怪訝そうな表情を浮かべていたが、羊皮紙になんだか大きな数を書いてみせる。 「……割った分のお礼をしないといけないの? えー」 「いえ、請求される『プレイ』をお求めかと思いまして」 「むー、ミュントスの人って、芸が細かいんだねー。 では、気を取り直して」 それじゃー、マルコ君のバカー!」 犬の置物が叩き割れた。ガルーラによく襲いかかってくる飼い犬らしい。 「ミケランジェロのスットコドッコーイ! 面と向かって言えないからねー、ちょっとスッキリ」 ちなみに、ガルーラに(中略)飼い猫らしい。
「誰が魔法少年じゃぁああ!!」 リカルツェンはティーポットを地面に叩きつける。 「だれがツンデレ好きだぁああ!!!」 皿を投げ『チェインシュート』で打ち出した対の長剣で砕く。 「だぁれが女装好きじゃぁああ!!!!」 拳で叩き割る。 「肌の手入れして何が悪いんだぁああ!!!!」 『流水撃奥義』が無数の皿を砕く。 「海のバカ野郎ぉおお!!!」 カップを蹴り割ったリカルツェンは顔を赤らめ、猛烈な勢いで珠を叩き割った。
「ええいっ、芸術的な割りかたってのはこうするんだよっ」 こういって割ったグリューヴルムに、タリムが口を挟む。 「あたしには違いはわかんないけれどねぇ」 「いいや、ここだけの話、皿ってのは皿を割るポイントで音色が変わるんだそうだ」 周囲に設置した皿を、棒でリズミカルに割っていく。 「どうだい? 聞こえてくるだろう? 皿の奏でるシンフォニーが」 グリューヴルムの言葉に、タリムは艶やかに笑みを浮かべるばかりだ。 「……え? 聞こえない? お、おかしいなぁ……。 ええいっ、こうなれば瓦割りならぬ、皿割りだっ」 村人が十数枚の皿を運んできた。 「とおりゃあああ!!」 グリューヴルムの踏み込んだ足が、先ほど割った破片につまづく。 「確かに、今回は音が違うね」 頭で皿の半分ほどを割ったかたちのグリューヴルムは、破片のなかで力尽きた。 「こ、こんなはずでは……っ」
そんな彼らの出した破片をアリュナスが必死に『デンジャラスタイフーン奥義』でさらに砕いて回っていた。 「こうすれば、これがまた皿の原材料になるはずなので……」 「後始末を手伝ってもらうなんて、畏れ多いことでして」 村人たちに恐縮されても、アリュナスは手を休めなかった。 「割った者として後片付けは当然のことですから」 アリュナスはさわやかに笑って見せた。

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参加者:10人
作成日:2007/11/19
得票数:ほのぼの7
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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