<リプレイ>
●SALLY 緑から金へ色を変えた瞳で、青い薔薇を捜す者・エリファレット(a06546)が振り返った。 「……武運を」 「うむ。……また後で!」 肩の高さにまで掲げられた手に、饗宴の思索者・アレクサンドラ(a08403)は自らの手をぱちんと音を立てて合わせ、荘厳な白を纏う身体を空中へと預ける。 その背面にすっくと立つのは、機神の如き、真鋼の鎧。 「――汚濁の闇の絶望と、絶対堅固の決意を胸に、この身は尊き刃を纏う――」 唱え、巨大とすら形容できるその鎧が浮かび上がる。厚い装甲が包むのは、旧き印・シンイチロウ(a26766)。どこかギアを彷彿とする巨躯の頭部で、紅い炎の如き鬣が揺らめき、軽々と宙を舞った風に靡く。 群れ集うドラグナーが平坦な土台状の施設の上を、順繰りに巡っている――その数、およそ百。 それが、偵察隊が彼らにもたらした情報。 極低空飛行で、殺風景なドラゴン界を進む。 内へ消えた召喚獣と揃いの紅色に変わった、黒犬・リュウ(a46253)の瞳に映るのは、一色に見えてなだらかに色を変えていく、白の大地。 少しでも、ドラゴンからの発見を逃れる為に。 皆して纏う白っぽいマントは……しかし、僅か数十秒でkm単位を飛翔するドラゴンウォリアーの移動力の前には、大地の色彩は浅い白から眩い白、黒く沈む川に、褐色の岩場と次々に移ろい、とても単一色のみで誤魔化せたものではない。 それでも、黒化したジャケットをそのまま白い大地にさらすよりはいいはずだ。印度人もビッ・クリストファー(a13856)は同じく黒化したバンダナをも隠すように、フードまできっちりと被り、擦り切れたボロマントをはためかせ進む。 本陣を発ち、四方八方に散る仲間達。 段々とその距離が離れ、今進むのは、電光石火・マイト(a49399)と志を共にする十人のみ。 「しっかし……あの竜どもは何を始めようってのかねぇ?」 得体の知れない所業。まぁ、やる事は何も変わりゃしないか。零す言葉に、危ない橋も叩いて渡れ・スバル(a47546)の真紅に染まった瞳が応じる。 「でも、良い報告持って帰ろうや。それが今の俺らがしなきゃいけない事やろ?」 「信頼には応えなくちゃいけないよね」 精一杯頑張るよ! と、髪と同じ色の兎の耳を揺らして頷きを返す、焔宿せし赤光・ヒノト(a53202)。 ……俄に、警戒して顔を上げた先に。 「ドラゴンですなぁ〜ん」 黒く染まった右腕で、墨色導士・コシロ(a31185)が蠢く点を指差す。飛翔していた一団の動きが一斉に止まり、目に止まった岩場の陰へと、二手に別れ潜り込む。 岩の陰から近付く点を見遣る、瑰麗な十日夜の金鏡・ラジシャン(a31988)。確かに彼であるのに、その容貌は何処か曖昧な印象を受ける。 やり過ごせるか、否か…… 静まり返った世界。耳に届くのは、不気味な風音…… 数分が経過した頃、クリストファーの声が、タスクリーダーで届く。 『遠ざかってくれませんね』 邪魔なドラゴンは、近付いてこそこないものの、何かを中心にぐるぐると円を描いて飛び……明らかに、哨戒行動を取っている。 『仕方ない。ギリギリまで近付いて、見つかったら無視して突撃しよか』 同じくタスクリーダーで声を返し、スバルは同じ岩陰に身を潜める班の皆に目配せる。 円運動で、ドラゴンが遠ざかるのに合わせ、二班は一斉に低空飛行で距離を詰めていった。
●ASSAULT 「そーっとそーっと……お、見つけた」 ぐるぐると動き回るドラゴンの向こう、マイトは目標とされた儀式の場と、その付近に蠢く幾つもの人影に目を凝らす。 ……この距離、ドラゴンならもう気付いていてもおかしくない。 『罠かも知れん』 注意を促すスバルの声に、俄に走る緊張。 どこかに増援が居るかも知れない。各々が、方々の空へと視線をなげ、待機する影がないかに執拗に目を凝らす。 「……居ないようだ」 遠眼鏡を下げ、エリファレットがクリストファーに目配せする。クリストファーはその言葉をタスクリーダーに乗せ、片割れたスバルの班へ届けると、施設のある先へ視線を固定する。 応答する二人の声が、幾度か響く。 俄に、黒い影……その首だけが、こちらをぐるりと振り返った。 その口腔には青白い光! 『……来ますよ!』 一拍遅かった、そんなニュアンスを含んだ鋭い声色で、クリストファーがタスクリーダーに声を乗せる。 その声を合図にして、皆は一斉に岩場から飛び出した。 だが、地を蹴った瞬間、凍て付く様に鋭く肌を刺し貫く白いブレスが、まだ散会しきらないドラゴンウォリアー達に襲い掛かる! それでも、ブレスの洗礼を潜りぬけたドラゴンウォリアー達は、五と五の二陣に別れ、ドラゴン舞う空を挟撃ですり抜ける。 「やっぱ来やがったか!」 好戦的に変わったその精神面を表すかのような鋼の翼が、潜伏の為に纏っていた白いマントを跳ね上げて、マイトの背で大きく開く。 通り過ぎたブレスの中から飛び出して歌う、ガッツソング。 徐々に消えていく痛み。 もう一瞬だけこちらの動きが早ければ、この痛みすら掻き消せたものを……鎧進化で更に強固さを増しながら、リュウもまたマントの下から覗く黒い翼で天を舞う。 そんな彼らが、ドラゴンに対し取ると決めた方法は…… 無視。 そして、その方針にもっとも忠実に動くのは、アレクサンドラとコシロ。 二人場合はもう、ガン無視といっていいレベル。 無論、相手の強さを考えれば、その位置取りを把握することは重要だ。だが、それ以上のことには、努めて無視。 何か言ってるが無視。 とにかく無視。 ドラゴンかわいそう。 「残念ですが貴方のお相手をしている暇は無いんでね!」 言い捨て、クリストファーはタスクリーダーの応答の為に若干遅れた初動を早駆けで補い、先に飛び出した仲間へと追いつく。 その反対側では、周辺にトライバルタトゥーの浮かび上がった右目ですかした視線を投げながら、すり抜け様に吐き捨てて挑発するスバル。 「……お前なんか後回しや、虫ケラ野郎」 どうやら、ドラゴン側もそれに応じる気配はないが……巨躯を翻して迫るその姿を尻目に、シンイチロウは紅い鬣をなびく真鋼の鎧の中からガッツソングを響かせ、共に飛ぶ仲間の傷を即座に癒す。 「……厄介だけど遣り甲斐はある」 「増援も居ません……今の内に出来るだけの事を」 水晶に煌く透明な翼で風を斬り、ラジシャンは遂に目の前に迫るドラグナーの群れへ視線を投げる。 先のブレスで、既に何者かの接近が予見されているのだろう、祈るような仕草をしていたドラグナー達の多くがそれを中断し、天や地を見渡している。 いたぞ! と、群集のなかから上がる声と共に、ドラグナー達が一斉にこちらを向くのを、エリファレットは黒炎を纏いながら見た。 だが、それらは次の瞬間に、抉り取られるように弾け飛ぶ。 白い翼を閃かせ、ヒノトが上空から振るう流水撃。 ドラゴンウォリアーの力によって十倍の射程を得た斬撃は、濁流のような衝撃波の塊の中へドラグナーを引きずり込んでいった。
●DISSOLVE 百通りの形容で蠢き、迎撃の姿勢をとる群れの頭上に声が降る。 「おはよう古代の御先祖達、今日は、さよならの挨拶に来たよ!」 真下からの迎撃は、この高さまで届かない。そして、シンイチロウの挑発に返ってくるはずの声は、その身体から迸って吹き荒れる嵐の猛威によって、掻き消されていった。 デンジャラスタイフーンに掻き乱される、ドラグナーの群れ。 その嵐の隙間から、今度は漆黒の雨が降り注ぐ。 何処か妖しげな雰囲気すら纏い差し伸べた、エリファレットの黒を纏う腕の先に、黒炎が雨雲のように立ち込める。 禍々しい暗雲がもたらしたのは、針の雨。 視界に映る全てを打ち抜く、ニードルスピア。濁流に揉まれ、嵐に揉まれ、それでもようやっと耐え凌いでいたドラグナー達が、遂に事切れ倒れ伏す。 纏まっていれば一網打尽にされると判っているのだろう。散り散りに成ろうとするドラグナーに、そうはさせまいと、スバルが半透明の蝶の羽を翻し、手から獲物を捕らえる粘ついた糸を投げ落とす。 体内に同化する召喚獣のもたらす強固な束縛の力。粘り蜘蛛糸は壇上から降りたドラグナーと後続を捉え、全体の動きを堰き止める。舞台の端に、俄に引き越される停滞。 そして、その頭上へとスバルが二閃目の流水撃を撃ち放つ。 喧騒は、それだけではない。 挟み込むような布陣、真っ黒く染まったコシロの腕を更に黒く沈ませる黒炎が、渦を巻いて集う。 ……視界の端に、迫りくるドラゴンと、その口腔に灯る青い光が見える。 けれど、今するべきことは。 コシロの回りに散った黒が、小さな球となり、そしてそれは、尖った雨となって、ドラグナーの頭上へ降り注ぐ。 もう一つ。 ニードルスピアとは色彩を違える、虹色の光。 それは、内部に溶け込む召喚獣の力が宿った証。 神々しくさえある白を纏い、手にした白を翳し。アレクサンドラが描き出した紋章から、断罪の雨が降り注ぐ。 『視界内の全ての敵』へ。 混じり合い、それこそ隙間無く降り注ぐ、エンブレムシャワーとニードルスピア。 間隔を広げつつあるドラグナーを限界まで視界に押し込み、容赦なく敵を撃ち据える二色の雨。 耐久力に乏しい者はその一瞬に命尽き、物言わぬ塊となって倒れ伏す。 その屍を越え、反撃を繰り出さんとする者もあれば、防御に徹し生き延びる術を模索する者もある。 そんな様子を見下ろしつつ、マイトは今までの鬱憤を晴らすかのようにして、握る刃を思う様に振り回す。 「随分楽しそうじゃねぇか。俺も混ぜても、ら、おう、かっ!」 地面ごと抉り取るようにして、太刀筋に沿って流れる衝撃波。 かと思えば、もう一閃、マイトとは逆の方向から、同じく濁流のような衝撃が交差するようにドラグナー達を襲う。 それは、クリストファーの繰り出した流水撃。うねる波のように地上を蹂躙する二つの衝撃の波に、黒と虹の雨を生き残った者の大半は、薙ぎ倒されたそのまま二度と起き上がってこなかった。 その頭上が、俄に翳る。 それは、迎撃に別れた二陣のど真ん中を横切って飛ぶ、ドラゴンの影。 ……決して、ドラグナー達を守る為ではない。 自身を無視したドラゴンウォリアー達の目的を薄々と察知し、その阻害の為に現れたのだ。 「お前の相手なんかしてられるかよっ」 位置取りだけを確認し、リュウは討ち漏れて散り散りになろうとするドラグナーへ向け、眩い光を解き放った。 神経を撹乱する、スーパースポットライトの光。 硬直したように動きを止めたドラグナー。 そんな彼らに降り注いだのは……無慈悲な青。 咄嗟に、ラジシャンがヒーリングウェーブで辺りを包む。 邪魔はさせぬ。その言葉だけを発し、ドラゴンが今一度、凍て付く吐息を撒き散らした。
●REMOVE 容赦なく叩き付けられる青。 厄介なのは、その威力だけではない。 直撃という憂い目に遭った折には、弾けた氷の棘が身体に纏わりつき、その動きを阻害する。 自由に舞う事が叶わなくなった身体に待ち受けるのは、ドラゴンの巨大な尾による洗礼。 吹き飛ばされて真下へ叩き落された者を見下ろし、ドラゴンは絞りカス共に告げるのだ。バラバラにしてしまえ、と。 もう二度と飛び立たせはすまいとするかのように、闇雲に覆い被さるドラグナー達。頼みの綱は、自身の運と……ラジシャンから届けられる、高らかな凱歌のみ。 だが、それも、総数にして6回。あっという間に使い切られた後に待っているのは、予想以上の劣勢。 とはいえ、ドラゴンウォリアー達とて唯で転びはしない。常にドラグナーの頭上を舞い、ドラゴンのブレスに生き残りを巻き込むように、縦横無尽に舞台上空を飛び回る。 青い光が、我が身を通り過ぎていく。 押さえつけてくるドラグナーを跳ねのけ、アレクサンドラが自ら行使したヒーリングウェーブで痛む傷を揉み消す。続いて、曖昧な身体漂わせるラジシャンから届けられた淡い光に、失われた力が取り戻されていくのが判る。 ……その回復も、もう残り少ない。 上から降る、コシロのニードルスピア弾幕に周囲のドラグナーが排除されていく。マイトは言う事を効かなくなった身体に舌を打ち、今だ在り続ける巨影を見上げる。 少し離れた位置では、同じように氷に苛まれそのまま飛び立つこと叶わなくなったヒノトと、エリファレット。幸いなのは、最早皆に取り付けるドラグナーが残っていないことだろうか。 完遂間近。 その思いを胸に、ほうほうの体で壇上から退こうとするドラグナーを、リュウの繰り出したミラージュアタックの一閃が打ち抜く。 その時だった。 耳元でスバルの声が響いたのは。 『撤退する! 二体目が来た!』 それすらをも掻き消すように、ドラゴンはなおも凍て付く息を吐き散らす。 救出に早駆けで降下した体に氷が纏わりつき、クリストファーは勢いを殺しきれず、壇上に墜落、数mの引き摺り痕を残して止まる。 「こんなときに……!」 「動ける者は救出を!」 ヒーリングウェーブと共に、叫ぶように檄を飛ばすラジシャン。その脇を高速で降下、シンイチロウの纏う分厚い鎧の腕が、ヒノトとエリファレットを掴み上げ急上昇。 最後まで無視を決め込みながら、コシロはクリストファーの伸ばした腕を掴み、交差するように飛ぶリュウがマイトを抱えて飛び上がる。 それを押し留めるべく、ドラゴンの口腔にまた光が灯った。 「……負けない、貴様らなんかに」 突き刺さる痛みを背に受け、スバルが強い眼差しを返す。氷に巻かれ、がくりと落ちたラジシャンの身体を空中で攫い、シンイチロウのガッツソングを頼りに全力で本陣への逃避行を開始する。 増援の影が、横合いから視界に映る。 けれども、やるべきことはただ一つ。 ひたすらに飛ぶこと。 本陣に向けて! 仲間を抱え、時には抱えられ。 一目散という形容が相応しい彼らの高速離脱は、やがて状態異常と、もう一体現れたドラゴンの進路妨害に更なる犠牲者を出しながらも、それらをなんとか潜り抜ける。 地平に見える本陣。 喧騒すら聞こえるその在り様を目にして、ドラゴンウォリアー達は達成感に似た感情が湧くのを感じる。 ドラゴンは既に身を翻し、迎撃の陣に加わろうとしている。 その背に向け、マイトは思いっきり中指を立ててやる。 「ご協力ありがとう諸君! ではまた会おう! はーっはっはっはっはっはっは!」 高らかに響き渡るその声と共に、任務を果たした十名の姿は、本陣の中へと紛れていった。

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参加者:10人
作成日:2007/11/16
得票数:冒険活劇19
戦闘5
ダーク2
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冒険結果:成功!
重傷者:朽葉・エリファレット(a06546)
饗宴の思索者・アレクサンドラ(a08403)
電光石火・マイト(a49399)
焔宿せし赤光・ヒノト(a53202)
死亡者:なし
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