<リプレイ>
●闇よりも深い闇 地表は一面が乾いた白い砂の海、砂の丘。その中には地面が大きく抉れたような窪地も見える。 「もう少しだけ低く飛ぼうっと」 幼き眩惑の狐姫・セレス(a16159)達は、砂塵を僅かに巻き上げながら地面すれすれを飛行していた。高速飛翔で受ける風圧を逸らすように、セレスは狐耳をぺたっと畳む。 上空には闇色の空と、そこに浮かぶ星のような光の粒。 色彩に欠ける死の世界だ。彼ら有機の存在のみが、ただ豊かな色彩を持っていた。 「――いかん、身を隠せ」 空を往く脅威に逸早く気付いた紺壁の超勇将・フェンリル(a42161)は、点在する奇妙な形状の岩の影に隠れると遥か上空を往くドラゴンをやり過ごす。 だが、辺りに身を隠せる場所はそれくらいのものだ。樹木は勿論、建物さえもここまで見当たらなかった。 偵察で確認されている敵をなるべく避けて迂回していることも理由の一つだろうかと、休まない翼・シルヴィア(a07172)は考える。要するに目立った物は何も無い所を、選んで進んでいるのだ。 「何も無い分、見晴らしは良いけどね」 瑠璃の太公望・アリア(a57701)は遠眼鏡に碧眼を番え、どこまでも代わり映えの無い景色をつまらなそうに見遣る。飛行しながらそれを覗くわけにもいかず、適当な岩陰を見つけては移動を止めて周囲を警戒していた。長いブルーの髪に、黒のボディスーツを帯びたその姿からは、大人びた色気を醸し出す。 「この砂地では一刻もあれば消えてしまいそうじゃのぅ」 確かめるように足許の砂を踏み締めると、黒を基調とした姿に身を変えた氷輪の影・サンタナ(a03094)はその跡を見て呟いた。緩く吹く風がさらさらと砂を流し、少しずつ足跡を埋めていく。 そういう意味では、今のところはドラグナーの痕跡らしきものは見当たらなかった。 「………………行くぞ」 相変わらず剛毅朴訥を地で行く語らずの・ゾアネック(a90300)は、飾り気無い言葉で出発を促す。 そして幸いなことにも、目標の施設に辿り着くまでにこの世界の住人に出会すことはなかった。
●電撃作戦! 彼らに宛われた目標は、組石・列石が集められた暗色の巨石群だった。規模はそれなりのものであったが、冒険者の中には思っていたより大きいと感じる者もいたかもしれない。 「ふむ……興味深いな」 眼鏡の位置を調整するような仕種を見せ、博士・ユル(a32671)はニヤリという言葉がぴったりの笑みを浮かべる。彼の知識を以てしても、この施設の役割は判らない。当のユルと同族の――つまり怪しげな臭いがプンプンするのは間違いないのだが。 低所からの外観では全てを見渡すことは出来ないが、塔や門のような建築物や、同じ大きさの巨石がただ並べられているだけのような場所もあった。その中でも特徴的に映るのは、施設の外周に配置されている三箇所の細い物見塔だ。 「……いますね、ドラグナーが」 塔の窓の中に動く敵の姿を遠眼鏡越しに認める森の吟遊詩人・サリエット(a51460)。とはいえ、金槌のような頭部を持つそれは、見張りとしてはあまり勤勉とは言えない仕事振りに思える。 偵察情報と違わぬことをその目で確認した爆走する玉砕シンガー・グリューヴルム(a59784)は、違和感を覚えて金の髪を弄る。 どこが手薄かを考えるのが馬鹿らしくなる程、ここを守るドラグナーの警備は手薄に見える。偵察では複数のドラゴンがこの施設に近付くのが確認されているが、それも未だ姿を見せることは無い。 「今のうちか……」 ドラゴン界に存在する施設の破壊という冒険者達の目的は、前回の侵攻作戦のそれと全く変わりはない。 決定的な違いは、これが二度目の侵攻であるということだ。 それは冒険者達にとっては前回の経験を頼りに出来ることでもあり……ドラゴン達にとっては襲撃を警戒する理由があるということでもあった。 だからこそ迅速な行動こそが実を結ぶと目していたグリューヴルム達は、一気呵成に攻め立てるための準備を念入りに施すことにした。 「皆、準備はいいか?」 弓の弦を指に掛け、シルヴィアが仲間へと伝心する。 「――3、2、1……撃て!」 脳内に響くシルヴィアの合図に応じ、それぞれ別の物見塔へ接近したアリアとユルもまた、窓に覗くドラグナーに狙いを定めて必殺の一撃を撃ち込んだ。 逸早く到達した闇の矢が、ドラグナーの頭部を寸分違わず貫く。そのドラグナーは直立したままの姿勢で、窓から地面へと墜落していった。 「よし、作戦開始だな!」 待ちきれぬようにグリューヴルムが飛び込み、それに続いて冒険者達は次々に施設の内側へと突入していく。 「こいつは……でかいな!」 フェンリルの眼前には、モニュメントのような大小様々な岩石が組み合わせられている。中には一つでフェンリルの倍の高さはあろうかという大きさの巨石もあった。石にはそれぞれに紋様のような溝が彫り込まれ、鈍く光を放っている。 「非常に壊しがいがある。心置きなく壊させてもらうとするかのぅ!」 心底嬉しそうな表情のフェンリル。きっと、彼の中の何かが疼くのだろう。 木造の建築物を壊すのとは訳が違うはずだが、究極の力を持ってすればそれも容易いことだ。力任せに繰り出された大岩斬の一撃で、フェンリルの斧『ヴォルフバイル』は何の割れ目も無い岩を易々と叩き割った。 「ああ、全くツマラン存在だ……」 紋章から放たれた光線の束は拡散し、ユルが狙い定めた石門の上の、そして石壁の影の異形のドラグナーへと収束して襲い掛かる。施設内部に入り込んで真っ先にユルが発見した二体だ。彼らは反撃しようにも逃亡しようにも、リーチとスピードのアドバンテージを持つユルを前に為す術も無く一方的なダメージを受け続け倒れていった。 とりあえずは視界内に、他のドラグナーの姿は見当たらない。 「それに比べ、やはり……気になりますね」 光が浮かぶ巨石の表面を撫でながら、破壊してしまうことを躊躇う自分を感じるユル。だが、次の瞬間には何の躊躇も無く造り出した業火球を巨石へぶつけていた。めきめきと音を立てて巨石はひび割れていく。 「なるほど、破壊した部分は光が消える、と」 飽く迄、ユルは興味を失うことは忘れなかった。 そんなユルとは別の意味ではあったが、物を破壊するということに抵抗を覚えつつ、やってみたら気持ち良さそうだという衝動にも駆られ、セレスはちょっと複雑な心境だった。だが時間は限られている。やると決めたのだから後は実行するだけだ。 予想していた物とはこの施設の『建設物』は違う物だったが、『倒す』という観点からすればコツは同じである。 「ようは、重心を崩しちゃえば……えいっ!」 横から回した脚は水平に光の弧を描き、石塔へ踵が叩き付けられた。体の動きに合わせて九尾がふわっと宙を巻く。 衝撃で石塔の足場が崩れ、足場を失った塔に積まれた石は鈍い音と共に崩れた。 落ちた石は、尚も鈍い光を放ち続けている。 「にゃはは〜、まるで怪獣になった気分だよ〜♪」 ドラグナーに無粋な邪魔されることもなく、セレスは軽い足取りで次の的を選定するのだった。 「この辺りが脆そうじゃな……」 石塔の真ん中よりやや下側に位置する小型の石塁で出来た部分を目掛けサンタナは飛び上がると、セレスに倣うように斬鉄の脚を蹴込んだ。石塁は積み木のようにごそっと抜け落ち、駄目押しの更なる一撃で支えを無くした石塔はそこからぽっきりと折れて地面へ倒れ落ちていった。 「これを持ち帰ればモルテ殿に視て貰えるかのぅ」 崩れた組石から転がった欠片をサンタナは拾い上げた。 だがその欠片には、実際はランドアースに居る斜陽の霊査士・モルテ(a90043)の霊視が及ばない。世界を跨いでの霊視は出来ないからだ。それは今回の作戦の事前の具体的な情報が乏しかった理由の一つでもある。
ドラグナーが一際良く通る断末魔の叫びを上げて絶命した。 「これが、最後のドラグナーかな?」 一度内部に入ってしまうと、石造りの建築物は自分達だけでなく敵の姿も遮る遮蔽物となる。アリアのブラックフレイムは石を燃やすことは出来なかったが、ドラグナーを焼き尽くすのには充分な効果を上げていた。 「もう、隠れてるのもいないんじゃないか?」 上空から警戒するシルヴィアに確認するように、グリューヴルムは声を掛ける。後は心置きなく施設を破壊し尽くせばいいだけのはずだ。遠くからは、ゾアネックのものだろう。爆発音と共に石が崩れる音が間断なく聞こえて来る。 だが、サリエットは一抹の不安を覚えていた。 こと戦闘に関しては全く手応えらしい手応えがなかったからだ。何せここまで誰も、傷らしい傷を受けた者がいない。ここまで発見し、排除してきたドラグナーの数は十に満たないのだから、ある意味当たり前ではある。
●Psi-trailing そして、不安は的中する。 「いけない……ドラゴンが来ます!」 空の彼方、アリアの視線の先にある米粒のような白い点が、徐々に豆粒ほどの大きさとなる。慌てて冒険者達は石の陰に身を隠す。 現れたのは、この施設全体を覆ってしまうのではと思えるほどの圧倒的な巨体。 「羽虫共が調子に乗りやがって。やってくれたな……糞ッ、役立たずがァ!」 白銀のドラゴンは目に付いたドラグナーの死体を一瞥すると、首を擡げて施設をぐるりと見回した。隠れた冒険者達を捜しているようでもあり、施設の被害状況を確かめているようでもある。 「まだ、居やがるな……出て来いやァ!!」 怒りの咆哮が波となり、アリアはびりびりと肌が痺れるのを感じる。 「そう言われて、素直に出て行くわけないでしょ」 ドラゴンに見つかることは必至だろうとモルテも言っていたが、それは外観から施設が『破壊されている』と判ってしまえば、見回りに訪れたドラゴンに事が露見するのは自明の理だということだったのだろうとサリエットは認識する。 施設の破壊がこれで十分だと言えないのは、誰の目にも明らかだった。その半分ほども壊されてはいないからだ。 だが、どうすれば――? サリエットだけではない。誰もが焦りと迷いとを口に出すことも出来ず、冒険者達は互いの顔を見合わせる。 皮肉にも逆の形で証明される事となった自らの意志。苦虫を噛み潰したような顔で、フェンリルはドラゴンを睨みつける。如何なドラゴンウォリアーといえども、それを凌駕する力を持つドラゴンを相手にして相応の覚悟が無ければ闘えない。それも仲間との絆を伴ってこそ、己一個の覚悟だけで打ち勝てる物ではなかった。 それは、――徹底的にドラゴンとの戦闘を避ける事をまず念頭に置いていた彼らは――やはり持ち合わせてはいないのだった。 ならば取るべき道は一つしかない。 「――ここが引き際です」 サリエットは苦渋の決断を、シルヴィアに告げる。 「……いいんだな?」 「仕方がありません。始めから決めていたことです」 仲間達に撤退の意思が伝えられる。相手はドラゴンだ。これまで以上に迅速な行動が要求された。 「――逃がすかァ!」 施設を脱出するために巨石を縫うように移動していたセレスの後ろに、ドラゴンの拳が振り下ろされる。 「ひゃあ!」 たまたまそこにあったドラグナーの死体が消し飛んだ。そこに全く躊躇いは感じられない。 「皆、早く逃げるんじゃ!」 サンタナのミストフィールドの霧が施設を包み込む。目眩ましの効果はあまり期待できないが、僅かながらでも妨害にはなるかもしれない。 「これが最後の切り札ってね!」 頭上に掲げるようにグリューヴルムは二刀を交差させる。振り下ろした二刀が地面の砂に接すると、同時に上空まで舞い上がった砂礫がドラゴンを襲い、更に視界を遮った。 「あァ!? ……こんな小細工がオレに通用するとでも思っているのか!」 だが激昂したドラゴンはそんな苦し紛れを物ともせず、施設からの脱出を果たした冒険者達に青白い氷雪のブレスを吐き出した。 殿に位置していたゾアネックはそれを避けきれず半身を痛めつけられる。 「…………」 ゾアネックの独白を何の気なしに聞き、サンタナはごくりと息を飲んだ。 「黒炎の怪異よ彼を喰らえ!」 カウンターで放たれたアリアのスキュラフレイムがドラゴンの喉元に喰らいつき、炎が爆散する。 思わぬ反撃を受けたドラゴンは、本拠地のある方向へと全速力で逃げる冒険者達を執拗に追い掛け続けた。だが、たまにシルヴィアらの牽制攻撃があるくらいで、まともに戦おうとはしない冒険者達に有効な決定打を与えることが出来ない。 とうとう冒険者達は目的地をその目で視認する。向かう先に多数の敵があること、そこから自らを迎撃するためであろう者達が多数向かってくるのを察知したドラゴンは、ここで一戦交えることを避けて無念の唸りをあげて身を翻した。
遠からずあの施設は修復され、再びその機能を取り戻すだろう。 それでも修復の手間を掛けさせる効果くらいはあるだろうということが、冒険者達の救いだった。

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参加者:8人
作成日:2007/11/16
得票数:冒険活劇18
ダーク4
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冒険結果:失敗…
重傷者:なし
死亡者:なし
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