団栗とグラタン



<オープニング>


●かくれんぼ
 ――とある田舎の村に、幼い双子の兄妹がいました。
 二人はとても仲良しで、いつでもどこでも一緒に行動しています。
 今日も二人は朝ごはんを食べ終えると、出掛ける準備を始めていました。
「今日は何処へ出掛けるんだい?」
 玄関口で、おばあさんが尋ねてきます。
『うーんとね、東の森で団栗拾い!』
「そう。今夜はグラタンだから、遅くならないようにね」
 おばあさんの言葉に、二人は目を輝かせました。
『わーぃ、やったぁ! おばあちゃんのグラタン、だーぃすき!』
 そう言って、出掛ける二人をおばあちゃんは笑顔で見送ります。
 でも、その日、二人が戻ってくることはありませんでした――。

「とある村外れの森で双子の兄妹が行方不明になっちゃったの……」
 心配顔でそう言うのは、ストライダーの霊査士・ルラルである。
 彼女は集まってきた冒険者を見上げると、懇願するように説明を開始していた。
「二人は森へ団栗拾いに行って、そのまま行方不明になったみたい。どうやら、その森には最近になってピルグリムグドンの姿が目撃されていたらしく、二人はピルグリムグドンに追われて森の奥へと入っちゃったらしいの」
 ルラルの霊査によると、二人は何処かに隠れていて、今の所無事らしい。
 しかし、幼い子供のことである。
 いつまでも隠れていられないだろう。
「ピルグリムグドンは一匹だけで森の中を彷徨ってるの……どうやら、仲間から爪弾きにされてるみたい。森の中にはグドンの集落もあるけど、こちらから刺激しない限り、何もしてこないかな」
 どうするかはみんなに任せるけど、と彼女は付け加える。
 いずれにしても、残された時間は少ない。
「二人は団栗を食べたりして飢えを凌いでるけど、逃げる途中でこぼしちゃって、そんなに残ってないの。だから、お願い……」
 言いながら、ルラルは瞳を潤ませる。
「……二人をピルグリムグドンの魔手から守って、おうちに帰してあげて。きっと、おばあさんのグラタンを恋しがってるから」
 言葉を締め括り、彼女は冒険者を送り出す。
 落ち葉の降り積もる森の中、双子の兄妹の大捜索が始まろうとしていた――。

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参加者
赤黒眼の狂戦士・マサト(a28804)
孤独を映す鏡・シルク(a50758)
元気印のひだまり娘・ユーニア(a61676)
真夏の夜の夢・ティターニア(a64330)
樹霊・シフィル(a64372)
蒼き厄札使い黒き黒炎遣い・ファサルト(a64858)
正義の銃神・シャドウ(a67510)
彷徨う食欲魔人・シャンドライ(a69497)


<リプレイ>

●双子の兄妹を捜索せよ!
 冬の到来も間近な晩秋の季節、森の木々は夕景のように紅く色付き、舞い落ちる木の葉は大地に赤い絨毯を敷き詰めている。
 迷子になった双子の兄妹を捜索するため森へと踏み込んだ冒険者一行は、早速、2班に分かれると手分けして捜索を開始していた。
「ふむ……、あまり時間も無さそうでござるな……」
 ピルグリムグドンの足跡がないか調べながら、蒼き衣を纏いし忍者・ファサルト(a64858)は森の奥へ奥へと分け入っていく。
「絶対無事に連れて帰って、二人におばあさんのグラタンを食べさせてあげるぞー!」
 と意気込んでいるのは、元気印のひだまり娘・ユーニア(a61676)だった。
 彼女は子供達の安否を気遣いながら、足跡を探っている。
 しかし、舞い落ちる木の葉が足跡を掻き消しているため、手掛かりに乏しい。
「あ〜。おばあさんのグラタンを持ってくりゃ〜、匂いにつられて出て来るかも知れなかったよな〜」
 彷徨う流れ星・シャンドライ(a69497)も、そんなことを言いながらも捜索を行っているが、実際にやっていたらピルグリムグドンだけではなく、関係のないグドンまで呼び寄せてしまったかも知れないだろう。
 一方、孤独を映す鏡・シルク(a50758)は声を出しながら捜索していたが、子供達からの返事もなく、捜索は行き詰まっていた。
「どこにいるのでしょう……」
 さすがに、返事も出来ないほど衰弱しているとは思いたくないが、子供達の体力が何処までもつか、拭いきれない不安はある。
 それでも、冒険者が必死に捜索を続行していると、やがて、大きな生き物が通ったような痕跡を見付けていた。
 はたして、ピルグリムグドンの残した物だろうか。
 木の幹に刻まれた傷跡は熊の爪痕のようでもあるが、聞いた話によると、この辺りに熊はいないらしい。
 すると、やはり、ピルグリムグドンの爪痕だろう。
 極めて鋭利な刃物で削り取ったような痕跡は、ピルグリムグドンの強靱な腕力を物語っている。
 冒険者ならまだしも、幼い子供が襲われれば、ひとたまりもないだろう。
「どうか無事でいて……」
 それを確認し、心配そうな表情を浮かべるユーニアだったが、立ち止まっていても仕方がない。
 爪痕の真新しさからすると、それほど遠くへは行っていないだろう。
 ファサルトが周囲を丹念に調べると、ピルグリムグドンの物らしき足跡を発見する。
「行こう!」
 シャンドライの言葉に応じるように、森の奥へと続く足跡を追跡しながら、冒険者は子供達の無事を祈るのだった。

 乾いた風に吹き飛ばされ、木の葉が狂ったように舞い上がる。
 子供達が寒さの中で震えていないか心配だが、今は確実に情報を集めていくしかない。
「どうやら、奥の方に行ったみたいやねー」
 冬眠の準備に勤しむリスから魅了の歌で子供達の情報を聞き出しながら、真夏の夜の夢・ティターニア(a64330)は仲間に報告している。
 すると、用が済んだのを確認し、リスは団栗を頬袋に詰め込み樹上へと登っていった。
 彼等はリスにお礼を言うと、森の奥へと歩き始める。
「待っていろ二人とも、今助けに行ってやるからな!」
 意気込みながらも、正義のガンマン・シャドウ(a67510)は木の陰や木の穴など、子供達が隠れられそうな場所を念入りに確認するが、簡単には見付からない。
 ティターニアも再度動物から情報を聞き出そうとするが、冬を間近に控えた森では小動物を発見するのも容易ではなかった。
「ピルグリムグドンより先に、ご兄妹を見付けませんと……」
 そう言いながら、樹霊・シフィル(a64372)は足元を探る。
 そこには、落ち葉に紛れて幾つかの団栗が転がっているが、特に変わったところは……。
「……!? ちょっと待った!」
 シャドウの呼び掛けに、何事かと皆の歩が止まる。
 彼は周囲の木々を見上げながら、何やら考え込んでいたが……やがて、一つの結論を下していた。
「この辺にクヌギの木は生えていない……そこに、団栗が落ちていると言うことは……」
 言いつつも、マサトは落ちている団栗が指し示す方向を目で追いながら、推測を確信に変える。
「間違いない、双子の兄妹はこの先にいる!」
「急ごう!」
 それを聞き、赤黒眼の狂戦士・マサト(a28804)が駆け出していく。
 そうして、彼等は双子の兄妹の元へと急ぐのだった。

●クヌギの森の戦い
 森を徘徊する大柄なピルグリムグドンは、独り、獲物を求めて彷徨い歩く。
 前日の夕方に人間の子供を見付けたが、ちょこまかと動き回る彼等を追い掛けているうち、いつの間にか見失ってしまった。
 最近まともな獲物を捕ったのは何時だろうか。
 ただでさえ大柄なのに、耐え難い飢えと渇きが責め苛む。
 それは、肉体だけではなく、ピルグリムグドンの精神をもささくれ立たせていた。
 その力で、立ち木に八つ当たりもしたが、そんなことをしても飢えを紛らわすどころか、無駄な体力を消費するだけでしかない。
 それでも、生きる本能だけは確実に身体を衝き動かしている。
 そんな時、遠くから誰かの呼び声が聞こえてきた。

 双子の兄妹を捜索していたシルク達は、不穏な気配を感じて足を止める。
 張り詰めた空気には、独特の殺気が満ちていた。
「何か……来ます!」
 言い終わらぬうちに、茂みの中から何かが飛び出してくる。
 全身に白い甲殻と無数の触手、強靱な爪を備えた姿は、間違いなくピルグリムグドンのもの。
 ホワイトガーデンから舞い落ちた災禍は、今、冒険者の目の前に迫っていた。
「危ない!」
 ユーニアが警告を発するも、シャンドライは咄嗟に反応出来ない。
「……っ!」
 打ち付ける拳は重く、咄嗟に庇った防御の上からもズシリとした手応えが伝わってくる。
 地面に叩き付けられ、落ち葉を撒き散らしながらも彼は何とか立ち上がると、自らに森羅点穴を施すが、万全とはいかない。
 ユーニアが慌てて癒しの波動を飛ばすと、残された傷口が見る間に塞がっていた。
「この巨体が! じっとしているでござるよ!」
 ファサルトが放った粘り蜘蛛糸が、ピルグリムグドンに覆い被さる。
 ペインヴァイパーの力によって強化された拘束は、そう簡単には振りほどけない。
「今でござる!」
「さぁ、開幕ですっ♪ 準備はいかがでしょうっ」
 言いながら、繰り出されるシルクのスパイラルジェイドがピルグリムグドンの巨体を捉えると、白い甲殻を突き破り深々と傷を刻み込む。
「そこだっ!」
 そこに、立ち直ったシャンドライがすかさず烈地蹴を叩き込むと、ピルグリムグドンは苦痛に顔を歪ませていた。

 樹上の梢で羽根を休ませていた数羽の椋鳥が、何かの気配を感じて慌てて飛び立っていく。
「…………?」
 しかし、双子の兄妹の捜索を続行する冒険者には、立ち止まっている余裕はなかった。
「どうしました?」
「……いや」
 シフィルの怪訝な言葉に、マサトは捜索に意識を戻す。
 連絡手段がないため迅速な情報伝達が出来なかったのは痛いが、双子の兄妹の捜索も後回しには出来ない。
 落ちている団栗を追跡していた冒険者だが、やがて、それも見付からなくなる。
 しかし、近くにいるのは間違いないだろう。
「おーい、助けに来たぞー!」
 シャドウが大声で呼び掛けるも、子供達からの反応はない。
 それでも念入りに周囲を捜索していると、大きな木の根元にある穴蔵に子供達が隠れているのを発見していた。
「いた……!」
「おお、本当やー」
 双子の兄妹は穴蔵の中で微動だにしなかったが、静かに寝息を立てているのを確認し、冒険者はホッと胸を撫で下ろす。
 どうやら、泣き疲れて眠っているらしい。
 穴蔵の中から子供達を引き出しながら、彼等の頬に涙の跡があるのを確認し、シフィルは優しく拭ってやる。
 早くおばあさんの元へ連れ帰りたいところだが、まだ、ピルグリムグドンの問題が片付いていなかった。
 その時、彼等の近くにある茂みが大きく揺れる。
 何事かと身構える冒険者の前に、傷付いたピルグリムグドンが飛び出していた。

●おばあさんのグラタン
 時は少し遡る。
 ピルグリムグドンとの交戦を開始したファサルト達であるが、ピルグリムグドンの抵抗は凄まじく、ふとした瞬間に取り逃がしていた。
 グランスティードに騎乗したシャンドライが慌てて追い掛けるが、彼一人では心許ない。
「……っ、逃がすか!」
 それでも、茂みを掻き分け突き進むと、急に視界が開け、双子の兄妹を確保したマサト達と鉢合わせしていた。
「二人を後ろへ! 早く!」
 言いながらも、マサトはピルグリムグドンの行く手に立ち塞がり、血の覚醒を発動させる。
 叩き付けられる剛腕を受け止め、押し戻す彼の後方では、シフィルが子供達を避難させていた。
 その間では、シャドウが万一に備えて壁になりながら影縫いの矢を解き放つ。
 しかし、ピルグリムグドンを縫い止めることは出来ない。
「来たれー!」
 ティターニアが白い仮面を被り、ウェポン・オーバードライブを発動して自前の得物を呼び寄せる間にも、敵は間近まで迫っている。
 しかし、遅れて駆け付けてきたユーニア達が周囲を取り囲むと、ピルグリムグドンに逃げ場はなくなっていた。
「流れ弾に注意、でございますわ」
 シフィルの放った緑の縛撃が、ピルグリムグドンを締め上げる。
「行くよ!」
 そこに、マサトが破壊の一撃を叩き込むと、ピルグリムグドンの肩口がザックリと切り裂かれていた。
 更に、ファサルトの繰り出す螺旋の一撃が突き刺さると、傷口を抉り抜いていく。
「効いてるでござる!」
「よーし、俺も!」
 そこに、シャンドライの放ったワイルドキャノンが叩き込まれると、ピルグリムが呻いていた。
 しかし、それでもピルグリムグドンは拘束を振り解き、冒険者へ向かって反撃に転じる。
 それを制したのは、ティターニアの繰り出すデュエルアタックだった。
「こっちやー!」
 彼女の一撃を受け、怒りに駆られたピルグリムグドンは攻撃の矛先をティターニアに向けると、巨大な爪を振り下ろす。
 強烈な一撃を受け止められたのは、ダークネスクロークの加護だろうか。
 それでも、グドンとは比較にならない衝撃が、彼女の華奢な身体に重くのし掛かる。
「皆頑張って! ピルグリムグドンなんかに負けないで」
 ユーニアの声援と共に飛ばされた癒しの波動が、ピルグリムグドンと剣を交える仲間達に活力を与えていた。
「そろそろ幕引きのお時間ですよっ! 思い残すことはないですねっ」
 そこに、シルクが飛燕連撃を撃ち込んでいくと、気の刃が次々とピルグリムグドンの身体を切り刻んでいく。
 やがて、力を失ったピルグリムグドンが大地に倒れ伏し、完全に動かなくなったことを確認すると、冒険者は戦いの終わりを悟るのだった。

 ピルグリムグドンが倒れても、冒険者の仕事は残されている。
「もうすぐ着くでござるよ……」
 男の子をおんぶしながら、ファサルトが二人の家への近くまで辿り着くと、何やら良い匂いが漂ってきた。
「あら? とっても良い匂いが」
「う……ん……」
 シフィルが漂ってくる匂いに気を取られていると、冒険者が背負っている双子の兄妹が同時に目を覚ます。
「ここ、何処……?」
「ふぁ……」
 訝しげに周囲を見渡す男の子と、まだ眠そうにしている女の子だったが、漂ってくる匂いを嗅ぐとハッキリと目を覚ましていた。
「おばあちゃんのグラタンの匂いだ!!」
 やがて、見慣れた我が家を確認すると、二人は先程までの状態が嘘のように一目散に駆け出していく。
 家の外には、子供達の声を聞き付けて、おばあさんが迎えに出ていた。
「おばあちゃーん!!」
「あらあら、まあまあ……」
 力いっぱい抱き付いてくる二人の孫をしっかりと受け止め、おばあさんも安堵の表情を浮かべている。
 とにかく、無事で良かった。
「良かったね……もう、おばあちゃんを心配させちゃ駄目だぞー?」
「うん、おねえちゃん達もありがとう!」
 二人の頭を撫でながらのユーニアの言葉に、子供達から元気な返事が返ってくる。
 やがて、双子の兄妹が空腹を訴えると、おばあさんは冒険者も一緒に家へと招き入れていた。
「さぁて、俺もおばあさんのグラタンをいただいていこうかなーっと」
「おばあちゃんのグラタンは世界で一番美味しいんだよ」
「ほっぺた落ちちゃうかも」
 シャンドライがお腹を空かせながらそう言うと、双子の兄妹は揃って口にする。
 やがて、運ばれてきたおばあさんのグラタンを食べながら、冒険者は仕事の疲れを癒やし、明日への英気を養うのであった――。


マスター:内海直人 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2007/11/20
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