<リプレイ>
●染まるひとたち 「というわけで着ろ」 竜喰みの颶風・エーベルハルト(a65393)は精悍な顔に男臭い笑みを浮かべ、きっぱりはっきり命令した。 「ちょ、ちょっと待って下さ」 小さき護りの楯・アドミニ(a27994)は慌てて逃げ出そうとするが、エーベルハルトは止まらない。 「はっはっは。遠慮するな。ん、鎧は着たままが良いのか。若いのに通だねぇ」 剣ダコのある無骨で力強い指が、実に慣れた手つきでメイド服の着付けをこなしていく。 「い、いったい何を」 「できたぞ」 無造作に差し出される鏡。 そこに映っているのは、実戦用の全身鉄製鎧を大胆に取り込んだ武装メイド服。 そしてそれを身にまとう中世的な美女……ではなくアドミニ(17歳男性)であった。 「……」 鏡に映った美形が遠い目になる。 「そこまで喜んでくれるとさすがに照れるな」 エーベルハルトは豪快な笑い声をあげる。 ゴージャスなオーラを纏う彼は、まさにダンディ。 ここが森の中でなければご婦人方から熱い視線を向けられること確実な男っぷりだ。 「勘弁してください」 アドミニの脳裏には、ネタキャラ転落という文字が浮かんでいた。 「なんて人達なのでしょう」 アドミニの野郎共の着替えを木陰から除いていた清浄なる茉莉花の風・エルノアーレ(a39852)は無意識に小さな拳を握りしめていた。 ある意味気合いの入りすぎた敵に対抗するために、それ以上に気合いを入れすぎる冒険者達。 あえて真正面から対抗しようとしている彼等に、エルノアーレはある意味感動していた。 「これが空気を読むということなのですね」 彼女の視線の先には、分厚い筋肉でぴちぴちになったメイド服を着たエーベルハルトの姿があった。
●潜入 ひきしまった体つきのメイド達が廊下を行く。 緋色の絨毯を踏む足を包むのは革のブーツ。 上体はまったくぶれず、重心は極めて安定している。 「?」 「どうした」 1人が眉をしかめると同時に、その両脇に別のメイドが展開し小型警棒を構える。 その背後では小柄なメイドが警笛をくわえ、いつでも館全体に非常事態を伝える準備ができていた。 「はい、いいえメイド長。一瞬ご主人様以外の気配を感じたような気がしたのですが、気のせいだったようです」 複雑な文様を織り込んだカーテンをめくって確認しながら、中心に立つメイドが右に立つメイドに報告する。 「ならば良い。警戒を続行する」 「はっ。全てはご主人様のために」 メイド達は洗練された動作で得物や道具を仕舞うと、きびきびとした動きで廊下の向こうへ消えていく。 「結構いい人材雇ってるね」 高い天井の片隅から、重さを感じさせない動きで小柄な影が舞い降りる。 分厚い扉の近くへ音もなく移動し、中から気配を感じないのを確認してから蝶番の状態を調べる。 「じゃ、今の内、今の内っと」 シグルド流護法闘士・ガラン(a66761)は爽やかな笑みと共に扉を開き、そのまま中に滑り込む。 そして、ソレに出会ってしまった。 「うわぁ」 ハンガーにかけられた黒いお仕着せが、馬鹿馬鹿しいほど大きな部屋の端から端までずらりと並んでいる。 その横にはカチューシャ、さらにその横にはペチコート、そして……。 「ニーソックスにガーターベルト。それにこれ全部絹製」 ガランの指がニーソックスに触れる。 素手を武器とする武道家とは逆の印象がある細い指の先から、官能的とさえいえる滑らかな感触が伝わってくる。 着用者の着心地を最優先に考えたそれは、特に贅沢を好む訳でもないガランをすら惹きつける。 「潜入のためだし、下着でもないし、仕方ないよね?」 桜色に染まった白い肌は、倒錯的な色気を放っていた。
●強襲 突如館に侵入した1人の男に、鍛え抜かれたメイド達が圧倒されていた。 「ご奉仕」 黒いメイド服をまとう男が一歩足を踏み出すと、メイド達が怯えたように数歩後ずさる。 メイド長を含む数名はなんとかその場に踏みとどまっているが、常に冷静だったはずのその顔には、畏怖と敗北感が浮かんでいた。 「されないか」 独特の抑揚で言い切ると、うっすらと涙を浮かべたメイド長が崩れ落ちるようにしてその場にひざまずく。 「参りました。ご主人様をよろしくお願い致します」 深々と頭を下げるメイド長に、男は優しく声をかける。 「任されたよ」 黒のメイド服から伸びる白い手がメイド長の頬を優しくなでる。 呆然と見上げるメイド長の頬を、透明な涙が流れていった。 「ちょっと待ってというか何故」 館の主人は混乱している。 一代で財を築きメイドがいる生活を手に入れた傑物ではあるのだが、あまりの展開についていけていない。 「分からないのかい」 メイド達を背に黒メイド服の男、甘美なる奈落への妄念・リーフ(a56564)が問う。 「確かNO、タッチ、だったね」 目の前の男は己の真の望みに気付いていない。 メイド達はそれに気付き、自分達がそれに応えられないから、リーフに道を開けたのだ。 「なんのことかな」 館の主人が真顔になる。 ようやくリーフが普通の訪問者(ある意味恐るべき事にこの館においてはメイド服な男の来訪者が珍しくない)だということに気付いたのだ。 巨大な武力を持つ冒険者を前にして顔色ひとつ変えないのは、たいしたものであった。 「間違ってる、間違ってるぞそれは。確かにパワハラはいけないが、メイドさんにセクハラは必須なのだッ! お決まりなのだッ!」 熱の籠もった言葉が館の空気を震わせる。 「な、何を言う。セクハラなどっ」 主人はリーフの言葉を否定しようとするが、彼の身体は彼の意思を裏切っていた。 呼吸は荒くなり、完全に冷静さを失っている。 「求めているのだろう? 心の底から。魂の奥底から」 リーフの声が低く静かに響く。 それは蜜の甘さと致死的な毒を併せ持つ、(社会的)破滅への誘い。 「メイドの匂い。メイドの体温。メイドの肌」 リーフが言葉をつむぐたびに、館の主人の顔が懊悩に歪んでいく。 「欲しいだろう?」 犠牲者を悲劇に誘う妖狐の如き誘いに、館の主人はほとんど無意識のうちに頷いてしまった。 なお、その時点でメイドの大部分が退職することを決め、気の早い者はさっそく辞表を書き始めていたりする。 「ならば」 主人がごくりと喉を鳴らす。 「捕まえてごらんなさ〜い☆」 リーフが舞う。 スカート摘んで華麗に、同時に冒険者の脚力を活かして非常識な速度で駆ける。 ちらりと見えた黒いガーターベルトと白い肌の対比に、館の主人は堕ちた。 猛獣のような雄叫びをあげてリーフを追って駆けていくのであった。
●組織崩壊 「なんということだ」 巨大な円卓の間に集う面々は落胆していた。 「これほど早く冒険者が動くとは」 「それ以上に同志が籠絡されてしまった方が問題ですな。彼は重鎮ですからこれでは組織の規律に問題が」 「ですな」 深刻な表情で頷きあう男達。 「大変ですわね」 「いや、若い頃夢見ていた組織ほど心躍るものはないよ。……む、新人さんかね」 とんかつ定食八百円・アリス(a17323)は白磁のカップをソーサーに戻し上品に微笑む。 「メイドとしてはそうかもしれませんわね」 「そうかそうか。ゆっくりと休憩していってくれたまえ」 「うむうむ。初々しいのも良いですなぁ」 新人のアリスを新人のメイドだと勝手に思いこんだ面々は、実に嬉しそうな顔でメイド姿のアリスを鑑賞する。 大型の椅子に座る姿勢は一枚の絵の様に美しく、カップを口元に運ぶ所作は礼法の教師でさえ文句の付けられない程に完成されている。 メイドとしては態度や所作などに一部ふさわしくない点もあるが、この館――メイド『さん』至上主義組織の拠点では、少なくとも休憩時間中なら十分に許される範囲だった。 「それはそうと、そろそろ心の準備をした方が良いですよ」 アリスはうっすらと微笑む。 その目には『これから最悪の目にあうのだからこの位の情けはかけてあげますわ』という感情が現れていたりするのだが、メイドなアリスを鑑賞中の面々には気付けなかった。 そして、彼等はやって来た。 城門並の規模の扉が開き、夕日が真正面から差し込んでくる。 逆光の中に立つのは3つの影。 「何者だ!」 幹部の1人が、アリスに対するときとはうってかわった重々しい声を投げかける。 それに応えるように、3つの影は動き始める。 「その忠義は白金の硬さの如く」 しみ一つない艶やかな肌が、夕日に照らされ艶やかに色づく。 実戦用のため必要十分な筋肉はついているが無骨ではなく、逆にすらりとした印象さえある。 腰は引き締まり、オーバーニーソックスに包まれた足の曲線は美しく、足首は細い。 その身体を包むのはメイド服。 「メイドシルバー!!」 空気を裂くような速度でポーズが決まる。 その姿は整いすぎて中性的な雰囲気すら漂っており、美しさの到達点の1つと表現しても大げさではないだろう。 ただ1点、異様な迫力を湛える珍妙な面相の兜を被っていることを除けば。 合金紳士・アロイ(a68853)。 メイド『さん』至上主義組織とは別方向で『たどりついて』しまった、まさに強者である。 「メイドアーマード……です」 アドミニがアロイの後に続く。 彼とは逆に素顔をさらし、首から下は実戦用の鎧とメイド服。 そして3人目が全身の筋肉を盛り上がらせながら叫ぶ 「世界に仇なす悪事を根こそぎ刈り取るメイドゴールド!! 我等」 「「「正義に仕える三つの魂! 女給戦隊SUNメイド!」」」 3人そろっての決めポーズが炸裂する。 その姿に組織の者達は感動のあまり言葉も無い……のではなく、あまりといえばあまりな冒険者達の行動に思考をフリーズさせていた。 「冒険者の皆さん。特にあなた。見たところいい年なんだしもう少し落ち着いた方が」 馬鹿にするのではなく、組織の面々は本心からエーベルハルトを気遣っていた。 「グダグダ抜かすな!! これぐらいのなあ、これぐらいのテンションがなくちゃ冒険者なんてやってられねえんだよおお!!」 分かるかおい、と言いながらエーベルハルトは組織の面々に詰め寄る。 「さて、自己紹介も終わったところで」 エルノアーレが3人の男達の背後から部屋に入ってくる。 「あなた達がさらった2人を返してもらいましょうか」 「はっはっは、何のことかなお嬢さ」 平然とごまかそうとした組織の男の顔面に、光り輝く槍が突き立つ。 「返してもらいましょうか」 エレノアーレは穏やかな笑みを浮かべたままで、槍をうけて倒れ伏す男を踏みつける。 ハイヒールが実に危険な場所に突き立つが、彼女の笑顔は変わらない。 「わたくしの言うことが聞けないとでも? 踏みつけられたくなければ」 ぐりぐりと踏みつけながら、再び光の槍を放つ。 「わたくしに逆らわないことですわ」 2人目の微妙な部分を踏みつけながら、彼女はあくまで笑顔であった。 「くっ、弾圧には負けぬ! ここで我等が倒れようとも必ず意思を継ぐ者が」 などと言いつつ組織の者達は全力で逃げようとする。 何人か捕まるのは覚悟の上らしく、それぞれ別々の非常口に向かっている。 「と言いつつ逃げるのですね。まぁこの状況で逃走を諦めないのは評価しても良いですけど」 ようやく紅茶を飲み終えたアリスが立ち上がる。 「あたってる、メイド服があたってる!」 「私をつかんでいいのはメイドさんだけだぁっ」 アロイを初めとする女給戦隊があっさり全員捕まえていた。 「最初は深刻な事件だと思っていたんですよ。最初は」 アドミニは疲れ果てた表情のまま、荒縄で捕縛していく。 「まさかこんなことになるなんて」 メイド服を着て行ったあれこれが走馬燈のように脳裏に浮かぶ。 だがまだそう考えられるうちはネタキャラ転落はしていないだろう。 多分。 「この人は」 1人1人の顔を確認していたアロイが驚いた声をあげる。 荒縄でぐるぐる巻きにされた者の中に、本来救出対象であった者が混じっていることに気づいたのだ。 「深く関わると深みにはまりますよ」 誰からともなく呟駆れた言葉を聞き、アロイは深く艦がないことに決めるのだった。
●終結 館の奥深くで、特攻冥怒・アンナ(a50962)はさまようように歩き回っていた。 個々の部屋も大きく廊下も広いのに、部屋数は呆れるほどに多い。 1階建のため外から見れば外見に威圧感や豪華さはそれほど感じないのだが、建築費及び維持費は凄まじいだろう。 。 「ここにもいねぇか」 もっともアンナは巨大な建物にも金のかかった装飾品にも恐れ入るようなタマではない。 力任せに扉をこじ開けて部屋の中を確認し、中に目当ての人物がいないと分かると扉をそのままに次の部屋に向かうだけだ。 「アンナさん」 アンナと同様に家捜しをしていたガランが顔を出す。 「犯人は全員捕まえました。……結局丸2日かかっちゃいましたね」 現在のガラン着ているのはメイド服だ。 長時間着続けたことで服に着られている印象は皆無になり、今のガランはメイドにしか見えなかった。 「3日目に突入はしたくねぇな」 アンナはふんと鼻を鳴らし、改めて屋敷を見渡した。 主人に愛想を尽かしたメイド達が去ってしまったため(ちなみに全員既に再就職を果たしている)手入れが行われていない屋敷は、まだ美しいにもかかわらずうらぶれた印象がある。 「どこにいるんだろうね。被害者の人」 ガランは困った顔で呟く。 「多分」 アンナは大きく息を吐くと、背中にくくりつけていた大きな斧を壁に叩きつけた。 「隠し部屋とかに隠れてるんじゃねぇか? この向こうに大きな空間があるのに扉がついてねぇし」 口では面倒くさいと言いながらも、アンナは装飾ごと壁を斧で粉砕していく。 ちなみに屋敷の破壊については犯人達から無理矢理了解を得ているので問題はない。 「ちっ。手間かけさせやがって。暴れるんじゃねぇ」 しばらく後に壁に開いた穴から出てきたときには、アンナの肩には凝ったつくりのドレスを着た少女……というより幼子の姿があった。 「はなしてくださいませ。わたくしはめいどのほごのためにここでそしきのさいきを」 「あー、はいはい。分かったからじっとしてろ。ったく柄じゃねぇんだよこういうのは」 アンナは子供の口に飴を放り込んでから、身体の負担にならないよう肩からおろしてお姫様だっこに切り替えててやる。 その手つきはどこまでも優しげで、慈母のような印象すらあった。 子供は困ったようにアンナの顔を見上げていたが、やがておずおずとアンナの胸に頬を寄せて目を閉じた。 「むね、ちいさいです」 「ほっとけ」 小さな額をこつんと突いてから、アンナはガランを引き連れ、最後の被害者と共に館を後にするのだった。

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参加者:8人
作成日:2007/11/25
得票数:コメディ10
えっち2
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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