<リプレイ>
「早起きしすぎたか」 闇夜を舞う影・ヒリュウ(a28973)は腕組みして空を見あげた。 空は暗い。月すら見える。早朝、といいたいところだがどちらかといえば、深夜というほうがよほどしっくりくるだろう。 「まあ、それはそれだ」 すでにヒリュウの目は覚めきり、忍びとしての感覚の冴えを見せている。ヒリュウは「準備」をはじめた。さいわい時間はたっぷりある。ならば腕によりをかけるとしようか。 にんにく醤油に漬けおいた鶏肉をとりだし、卵黄と小麦粉で衣にくるむ。バチバチとはぜるのは煮えた油、衣つきの鶏肉をここに手際よく落としていくのだ。出汁醤油で炊いた おこわはきのこがたっぷり、これを適度な大きさとかたちに握っていく。そしていよいよとりかかるのは、メイン料理の出汁巻き玉子だ。
●出発 晴れ渡る空は雲一つなく、澄み切った空気、吸いこむだけで清浄な気分となる。いくらか肌寒くはあるが、陽が高くなればそれも消え去ろう。絶好の行楽日和だ。 「おっはよぉございますぅぅ〜♪」 愛書狂・ホタル(a68700)が元気よく挨拶する。バックパックを背負い山登りの服装、意気揚々とやってきた。それにしても大きいのはその荷物よ。ゴザがはみでているのはまだいいとして、ずっしりというかぎっしりというか、ともかく見た目からしてすごい質感がある。 「うひょ、すごい荷物ですねえ」 はじまりは・プルミエール(a90091)がいった。今日のプルミーは半ズボン姿、頭にはちょこんと登山帽をのせている。 「どうしても気になる本が七八冊あって、つい持ってきちゃったんです〜」 ホタルは屈託がない。もちろんこれだけの量すべて読むのはまず無理だが、もってきていると安心する。 いざないの赤・エル(a69304)が手と尻尾をふりふりしながら、集合場所にやってきた。 「学園での行事には初参加だからすごく楽しみ♪」 エルは瞳をきらきらさせている。愛用のツインクローもしっかり荷物に入れているが、それも考えがあってのこと。さてさていかにつかうのか? 「みんな昨夜はよく眠れた?」 エルが訊く。手のひらの鼓動・アールコート(a57343)はこれに返事して、 「は、はい! 今日は楽しくいきたいですねっ☆」 というがじつは、ワクワクのあまりほとんど眠れなかったアールコートなのである。 (「でもそれは秘密です☆」)
「はーい、みなさんそろいましたねー?」 学園長、我は破滅を断つツルギなり・ルビナス(a57547)が、そろった顔ぶれをみまわす。人数は八人、全員元気そうでなにより。 「いいですかー? 今日はまずハードな道をたどります。その分帰りは楽ですからねー。では怪我などのないよう、十分に気をつけてください」 かくいうルビナスはじつのところ、青い鱗の竜から受けた傷がまだ残っているのだが、そのことを悟らせないようふるまっていた。アールコート、そして絶対拒絶・トーラス(a51761)も同様、しかし両者ともその片鱗も見せない。 (「傷はほとんど癒えている。それに……」) トーラスは思った。世界の状況は予断を許さない。いつこの平和が崩壊するかわからないのだ。ならば楽しめるときには、思いっきり楽しんでおいたほうがいいではないか。平和の大切さを学び、これを慈しむためにも。 「それでは出発、といっていいか?」 守り抜くと誓った・ヴィクス(a58552)が訊く。登山にそなえ準備万端のヴィクスであったが、 「ちょっとまってー、荷物荷物」 ルビナスに呼ばれふり返った。 「荷物……?」
●登れ登れよ断崖を いきなり急勾配、山道は冗談じゃなくハードである。しかも進むにつれて傾斜は増し、崖登りのような状態に至る。 その道中、男性陣は出発前に数倍する荷物を背負って進むのだ。これすべて、学園長ルビナスが用意してくれたものである。いわく、「男の子って力持ちだからもてるわよね〜?」とのことだ。 「思ってたよりハードな山登りだなぁ」 それでもエルは楽しそう。重みが肩にギリギリとのしかかってくるが平気、だってルビナスにまかされた背中の荷には、たっぷりの弁当がつまっていると聞かされているから。崖だって、用意したツインクローを引っかけ、よしきたと気合いで登ってしまう。 ヒリュウもいたって疲れを見せない、この程度の難所、かれにとっては散歩道とかわらないのだ。 「さあ、手を貸すがいい」 ヒリュウはプルミエールの手をつかみ、軽々とひっぱりあげた。 「おひょー、ヒリュウさん、たくましいですね〜♪」 「なに、それがしは山登りが趣味なのでな」 さて一方、ホタルはいささか疲れが見えはじめていた。最初のほうこそ 「あの植物は毒草ですねー。ですが煎じれば薬にもなるんですよぅ〜」 といった風に豊富な雑学を披露していたが、本がつまったバックパックのこともあり、崖道にくるとバテはじめていた。やがて無口になり、いつしか皆についていくのがやっとになる。 「おい、無理はするなよ」 ヴィクスが声をかけた。かれはそのホタルよりすさまじい荷物を装備しているがさすがは元傭兵、もっと過酷な行軍は何度も経験していることもあり、いたって平常だ。 「も、もうダメですぅ〜」 ホタルは思わずへたりこんでしまったが、ヴィクスは仲間に小休止を呼びかけると、かがみこんでホタルにいいきかせた。 「登山にはもちろん体力も必要だが、コツを知っておくだけでかなり変わってくる。たとえば小休止するときは、水分と甘いものをとるといい」 いいながら飲み水とチョコレートの小片を渡し、しかもホタルの荷物の一部を自分の背に移す。 「ありがとうございます〜、もうちょっとがんばれそうですぅ〜」 ホタルはほっとしたような笑顔を見せた。たしかに力が戻ってきたように思う。
それからどれほどの時間がすぎたか。 いよいよラストにかかります、とルビナスが示したのはまるで壁、九十度近い絶壁だった。 「ここを登りきればいよいよ頂上です」 ルビナスは上……はるか上を示した。 「すごいな」 トーラスはつぶやいた。雲をつく、とはこういう状態をいうのか。角度も角度だがかなりの高さがある。下手をすれば命の危険もあるだろう。それでもトーラスは挑戦しがいこそ感じこそすれ、心に一切の恐れもない。 「先行する。上からロープを垂らそう」 というがはやいか粘り蜘蛛糸を駆使し、重い荷物もなんのその、するすると登攀していった。 長く待つまでもなくやがて、数本のロープが落ちてきた。さすがトーラス、すばやい仕事だ。 ヴィクスは肩をすくめた。 「ちょっとしたロッククライミングとは違うんだろうな、これは」 いいながら仲間たちの見本となるよう、命綱をしっかりと巻いて示す。ガッツソングで皆を応援し、ヴィクスは断崖を登ってゆく。 エルもロープを手にした。 「頂上はもうすぐだよっ、頑張ろ〜!」 疲れて登れない人がいたら上からひっぱりあげてあげるからねー、と一言残し、エルは器用に絶壁をゆく。 つぎはアールコートの番だ。 「えと、大丈夫です、よね?」 アールコートがいっているのは道の険しさのことでもあるが、じつは自分のズボンの話でもある。下から下着が見えないか……それが気になる彼女なのだ。アールコートは、ちら、とヒリュウのほうを見た。しかしヒリュウは、アールコートが考えていることに気づくすべもない。 「うむ、命綱はしっかり巻かれている。危なくなったら粘り蜘蛛糸で助けるが、万が一落ちたとしても下で受けとめるゆえ心配はいらない」 「は、はい……お願いします☆」 アールコートは頬を染めた。下着のことは気にする必要はなさそうだ。 「一緒に登りましょうねー」 プルミエールも彼女とならんでロープを手にした。 一番最後、ひっぱりあげられてきたのはホタルだった。 「ははは、申し訳ないのですぅ〜」 かくして登山は終了。となれば、つぎはいうまでもなかろう。
●絶景かな! トーラスは深々と息を吸いこんだ。畏敬の念にうたれる。 「すごいな。帰ったら皆に自慢できる」 まさしく絶景、眼下に多数の山を見おろす、それはそれは雄大にして壮麗な景色であった。ここまできた疲れなど一気にふきとんでしまう。 知らなかった、とトーラスは思った。 (「俺たち冒険者が守ろうとしているランドアースって、すごく綺麗な場所なんだ……」) 「ヤッホー!」 エルが叫ぶ声は眼前の山にぶつかり、澄んだ空気のなかをこだました。 ホタルも光景に目をうばわれていた。 「こんな景色……きっと、文字では著せないのですぅ……」 ヒリュウは腕組みし、無言のままこの景色をながめている。見た目静かなヒリュウであるが、心には情熱の波が高まっているのだ。ここまでこれたこと、この感慨、忘れはすまいとヒリュウは思った。
その絶景をみわたせる場所に陣取り、ホタルのもってきたござを敷いてランチタイムとあいなる。 「さあさあ! お弁当ですよー」 ルビナスが包みをひらくと、くりひろげられるは豪華な料理。チャーハンおにぎりに麻婆豆腐、マンガちっくなお肉のかたまりもある。ルビナスが事前に調査しておいた、みなの好物が集められているのだ。 「いかが?」 学園長のこのこころづかいに喜ばないものがいようか……ヴィクスをのぞいて。 (「しまった」) ヴィクス、やってしまったようだ。まさか弁当に用意してくれるとは思わず、好物はときかれ「携帯食料(※とても不味い)」といい加減にこたえてしまった。その結果がストレートにきている。みなが美味しそうに好物を食べるなか、ひとりボソボソとレーションをかじる悲しさ。 しかしそのヴィクスの肩を、ポンと叩く手があった。 「ほらヴィクスさん、携帯食料ばかりじゃなくて、こっちも食べてみてください★」 アールコートだった。可愛らしい笑みとともにサンドイッチをさしだし、水筒の紅茶をコップについで渡す。ヒリュウも重箱を開いた。 「沢山作ってきたので、どんどん食べてくれ」 唐揚げ、豚の腸詰め、炊き込みご飯にぎりめし、そして出汁巻き玉子……早起きしてつくった弁当の数々はいずれもまばゆく、黄金のように輝いている。 「……ありがとう」 ヴィクスは安堵と歓びで胸がつまった。紅茶が手に温かい。 「皆で食べるお弁当って美味しいな♪」 いいながら気の利くエルは、パラソル状の日傘をホタルにさしてあげる。そして、きれいに丸焼きした鳥を切って渡した。ホタルもすっかり元気を取りもどしている。 「ありがとうございますぅ〜。そうそう、日傘の起源については諸説ありましてですねぇ〜♪♪」 と彼女は本を片手に雑学を披露するのだ。ちなみに彼女のライスは、荷物の入れ方が悪かったのか、弁当箱の右側に超圧縮されていた。 トーラスがやや照れながら、プルミエールに卵焼きを渡す。 「少しばかり辛い味付だけど、うまくできたと思うぞ?」 はーい、と卵焼きをパクついて、プルミーはにこりと笑った。 「おお、たしかにピリ辛! キムチ味ですね」 プルミーには好評、もっとほしいとねだられた。
さて料理もあらかた平らげ、みなが満腹になったあたりで、ルビナスがこれまでずっと自分の荷物に隠してきた最終ウェポンが登場する。 「デザートですよ〜」 学園長が満面の笑みをもって披露したのは。 「アンコ入りパスタライス!」 パスタとライスを抹茶味でからめて炒め、その上にホイップクリームとあんこをてんこ盛りするという邪悪なメニュー。風光明媚なるこの霊峰(マウンテン)に出現したカルト料理とはいかがなものか……! みな、おそるおそる、といった表情で手をつけたが、 「あら☆ けっこうおいしいですよ?」 アールコートがいうように、意外や意外、メッタ甘だがそこそこ美味なのだった。 ルビナスが用意したデザートはそれだけではない。 「おやおや、わりと好評のようね。だけどここで本当のデザートが登場ですよ!」 それはビックプリン、大きなボウルを逆さにしてカパッと落とせば、キングサイズのプリンがぷるぷる揺れながら登場するのだ。 「わー!」 プリンが大好物のプルミーが、興奮して飛び上がったのはいうまでもない。
●紅葉を楽しみながら 楽しい時間は矢のように飛び去る。いつしか下山のころあいとなった。 「ん? もう帰る時間?」 エルは残念そうに尾をへにゃっと垂らした。だけど、 「ええ、でも、帰り道はゆったり、きれいな紅葉を楽しむ道だそうですよー」 とプルミエールが元気づけたから、すぐにエルは明るさを取りもどした。帰るまでが遠足、のんびり楽しくいこう。 行きの道とは大違いだ。なだらかゆるやか、荷物もあらかた食べてしまったから軽い。八人は談笑しながら歩きだした。 「絵心があれば、絵に描いて帰りたいくらいだ」 ヴィクスが感慨をもらす。自然が生み出したものとはいえ、紅く染まった山道もまたひとつの芸術品だった。 ひらりともみじが散る。その一枚をヒリュウは手にした。 「栞にできそうだな。ひとつ持って帰るとしよう」 「うん、私もそうしましょう♪」 ルビナスもそれにならった。心にあたたかい赤色だ。 髪が紅葉色のエルは、 「えへへ、ボクがどこにいるか分かるかな?」 といって木々の間に隠れてホタルを笑わせる。 トーラスはこの光景を目に焼きつけようと思った。 「いましか見れないからこそ、綺麗なのかもな」 「ええ☆」アールコートはうなずいた。「でもまた来年も、いえまたそのずっと先も、いつまでも、この山にはこの光景を見せてほしいです☆」 それをなしとげられるのは、冒険者であるかれらなのだ。きたるべき侵略と破壊から、この世界を護らなければならない。そして未来にのこしていかなければならない。トーラスもアールコートも、いや、この場にいるすべての仲間たちも、みな同じ思いであろう。 麓につき解散となって、ホタルは皆に礼を述べ心からいった。 「今日はぁ、楽しかったのですぅ♪」 ホタルはさすがにヘトヘトだった。帰宅したらそれこそ、あっという間に眠ってしまうだろう。もしかしたら明日は筋肉痛になるかもしれない。だけどそれでも、この日、仲間たちとわかちあったの宝石のような記憶はけっして消えることがあるまい。
(おわり)

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参加者:7人
作成日:2007/11/23
得票数:冒険活劇1
ほのぼの13
コメディ1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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