紅に染まる緑の葉



<オープニング>


 今日も沢山の声が弾む、冒険者の酒場。その隅で、月夜に唄う霊査士・フェリセス(a90374)が唸っている。何か悩んでいる様だが……と想っていたら立ち上がり、冒険者達と向き合っていた。
「依頼じゃよ。光届かぬ森の中、一際輝く片刃刀……彼の殺戮を、止めて欲しいのじゃ」
 説明している様で実は出来ていないフェリセスの言葉に、聴いていた者は総じて首を傾げる。
「片刃刀を持った人型モンスターが、その場に存在する総ての生命を殺めておるのじゃ。背格好は、妾と同じ位じゃの……外観の性別は、男性じゃがね。殺害の対象は、人間然り、動物然り……最近は植物にも手が及んでおる。このままでは、森が全滅じゃ」
 ドリアッド的感覚からか、人嫌いな性格からか。最後に嘆くのは、何よりも森の前途。
「彼の姿を視た者がおらぬ故、周辺では恐怖が拡がっておる。森の緑が血の紅に濡れる……余り想像したくはないのう。彼は森に踏み込んだ生命に反応して姿を現すからして、その瞬間に勝負を掛けるのじゃ。兎に角、その男性を止めておくれ……遅い紅葉を、綺麗に迎えられる様に」
 眉間に皺を寄せて、フェリセスは言い終えた……哀しき表情を押し隠す風に、手を振りながら。

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参加者
荒野の黒鷹・グリット(a00160)
鉄芯・リジュ(a04411)
鋼の樽・ハミルカル(a06059)
蒼く揺れる月・エクセル(a12276)
大地を翔ける蒼き翼・カナメ(a22508)
狂戯夜・ヨキ(a28161)
沈勇なる龍神の魂宿りし者・リュウ(a31467)
黄色の羽毛・ピヨピヨ(a57902)
紅神詩・リツ(a60573)
白森の護人・ディッカ(a62274)
在地願為連理枝・レミール(a64556)
蒼天を往く烏羽・ラス(a64943)
其の瞬間に総てを賭す・フィエル(a65023)
黒豹・ジロー(a66109)


<リプレイ>

●戦前
 外から視るだけなら、何の変哲も無い普通の森。緑の葉は風にざわめき、冒険者達を歓迎する。
「……今年の紅葉は随分と遅いみたいね」
 視野を埋める森の色に、蒼く揺れる月・エクセル(a12276)は言う。周囲を視廻せば、ぽつぽつと色付いた樹も在るが。比率的には圧倒的に、緑系色が多かった。
「血の紅で染まった葉が紅葉……か。言葉だけ並べれば綺麗かもしれないけど、好まないな」
「森は放っておけば自然と紅く染まるもの。わざわざ血で染める必要は無いでしょう……尤も、植物にも手を出しているところを見ると、染める意図は無さそうですけれどね」
 Osmanthusを握り締め、紅想詩・リツ(a60573)は森の中を想像する。頷き、月夜の風戯・ヨキ(a28161)も考えを述べた。どれ程の惨劇が、この内側で繰り広げられたのだろうか。
「やっぱり森の中は、殺戮された人や動物の血で染まっているのかな? だとしたら酷い紅葉だね……殺人鬼を止めないと」
「草木にまで及ぶ殺意とは、業が深いな。求められている彩りは、血の色では無い……森ひとつ消されてしまう前に、殺戮する者を止める」
「あぁ……危険な敵をこれ以上野放しにする訳にはいかないね、ここで必ず仕留めよう」
 霊査士の言葉も想い出しながら、黄色の羽毛・ピヨピヨも決意を固める。蒼天を往く烏羽・ラス(a64943)と荒野の黒鷹・グリット(a00160)も、その決意に強く同調した。意味や理由の無い行為なんて、この世界には有り得ない。だが今回のモンスターの行動を、正当化する事は出来なかった。例えばどんなに憎らしくても、人殺しの根拠には成らないのだから。
「……森……森が傷つくのは、嫌だ。その生命が絶たれるのは、嫌だ。絶対、阻止する……」
「ただ総てを破壊するだけのモンスター……許すわけにはいきません。必ず倒しましょう!」
 調子が悪いのかと想う位、白い狐っこ死神・ディッカ(a62274)の表情は暗い。森も生きている……その息吹を、他種族よりも強く感じるから。親友と揃いの武器、双鎌【白狐祈刃・紅】をぎゅっとその手に、ディッカは心を落ち着かせた。そんなディッカの背をぽんっと叩くのは、地伏す時迄・フィエル(a65023)だ。微笑むフィエルに、ディッカも少し元気を取り戻した。
「それにしても無差別に殺戮とは、穏やかじゃないなぁ……翔剣士として、剣で敗けるわけにはいかねーよなぁ。絶対、止める……」
 蒼龍閃の調子を確かめながら、大地を翔ける蒼き翼・カナメ(a22508)が口を開く。その瞳は、真っ直ぐに森を視据えて。
 そろそろ皆、心の準備も完了した様だ。冒険者達は、誰からとも無く陣形を作る。二重の円陣形は、モンスターを逃がさない為に知恵を絞った結果。必ず倒す、意志の現れ。
「生命の気配を感じる事ができない森になんて……そんな事させない。刃は無闇に、生命を奪う為にあるんじゃない!」
 震える拳を握り締め、風に揺れる金鳳花・レミール(a64556)が剣を抜いた。武器を構えて冒険者達は、戦場へと足を踏み入れた。

●戦時
 数多の葉に遮られ、太陽の姿が消える。外と比べて多少落ちた明るさに、視界が黒く染まる。
「気を付けろ……真上から来るかも知れない」
 そう言って、沈勇なる龍神の魂宿りし者・リュウ(a31467)が空を視上げる刹那。
「っつ……」
「ぅわっ!」
 誰の声か、重なる音からは判らなかった。上空から墜ちた影が陣の中心に降り立ち、刀を薙いだのだ。やっと眼の慣れてきた冒険者達は、リュウの忠告が現実と成った事を知る。浅く長い血筋が、内を護る者達の身体に浮かんでいた。だが既に、モンスターの姿は無い。
 傷を負ったのは、内側にいた6人。直ぐにディッカとラスが、ガッツソングを唄う。ピヨピヨは護りの天使達奥義を発動し、残る5人は有らゆる方向に警戒の眼を向けた。風に吹かれる葉音の合間、聴くは敵の駆ける足音。
「いたぞ、あれだ!」
 黒豹・ジロー(a66109)が叫ぶと同時に、モンスターは跳び上がる。刀に反射した木漏れ日に、ジローは眼を眩ませた。割って入り攻撃を受けたのは、鋼の樽・ハミルカル(a06059)だ。
「森で大量殺戮とは……許さんぞ!」
 金属のぶつかる高音が、戦場に響く。暫しの均衡状態、力勝負はハミルカルの勝利に終わった。血の覚醒を施した、轟鋼瀑布・リジュ(a04411)が空かさず攻撃を加える。
「ふン。理性の無い、だらしないツラしてるよ」
 リジュの攻撃の間に、冒険者達は陣形を立て直した。前衛となる内円は、エクセル、カナメ、グリット、ディッカ、ピヨピヨ、ラス、リュウに、リジュを含む8人。囲む外円は、ジロー、ハミルカル、フィエル、ヨキ、リツ、レミールだ。
「剣士として、お前に敗ける訳にはいかないんでな!」
「このチャンス、逃すものか!」
「手ぬるい攻撃を仕掛けるつもりは無いわ!」
「お前なんかを……のさばらせておけるか!」
 片刃刀を腕に受けながらも、カナメは薔薇の剣戟奥義を繰り出す。飛散する血は、薔薇と共に周囲を染め上げた。退がるカナメに続けて、グリットの指天殺奥義。エクセルも、サンダークラッシュをモンスターへ撃ち込んだ。ディッカの達人の一撃が、モンスターの片足を止める。凄まじい連撃に、巻き起こる風。吹き飛ぶ葉や枝とも相俟って、冒険者達に多くの軽傷を与えた。
「何か来るぞ、気をつけろ!」
 此方の攻撃の隙を突き、モンスターは片刃刀を振るう。半ば自由の利かなくなった身体でも、一撃は速く重い。
 イリュージョンステップとチキンフォーメーションを連動させたリツが、薔薇を携え前へ出た。完璧には避け切れず、足下に血が溜まる。その紅さえも一つの材料に、染まる葉と薔薇の花弁が瞬間を彩った。画布に描かれる紅に、戦場の凄惨さが際立つ。
「紅ってさ、綺麗だよね?」
 皮肉を込めた言葉は然し、モンスターには通じない。
「大丈夫かい? 退がってな!」
 傷を庇い、リツは後方へ跳ぶ。傍から、無銘の鈍刀が顔を覗かせた。リジュのパワーブレードを真面に喰らい、モンスターは両膝を折る。
「カナメ、肩を借りるぞ!」
 勢い良く走り出して、リョウはカナメの肩に踏み台に高く跳躍。モンスターの真上から、スパイラルジェイドをお見舞いした。衝撃と重音が、大地を揺らす。
「ヨキさん、受け取って!」
「ありがとうございます。さて……逃がしは、しませんよ?」
 ピヨピヨの鎧聖降臨は、今依頼構成員の中で最も体力値の低いヨキへ。加えて3人、ハミルカル、フィエル、レミールにも掛ける予定だ。丁寧に礼を述べ、ヨキはモンスターへ笑顔を向ける。緑の縛撃を発動させ、見事モンスターを拘束した。
「狙った的は……外さない!」
「……当たらない攻撃なんて、何の意味も無いですよ!」
 撃ち出した矢は、ジローの指す方向へ……軌道修正を加えながら飛び、モンスターを貫く。間を空けず、フィエルの強烈な蹴りが光の弧を描き、モンスターへと降り墜ちた。
「邪魔だが……力を尽くそう!」
 ラスは力を込めて、暴走バルディッシュを振り下ろした。森を護る事が、今依頼の重要な目的の一つ。面倒だが、敵を倒しても森を破壊してしまえば完全勝利とは言い難い。その為に、愛用の巨大剣も置いて来たのだ。自分の出来る限り、森の樹達を護ろう。
「被害を広げない為にも……逃がす訳にはいかないんです、絶対に!」
「一気に畳み掛けるぜ!」
 拘束しているとは言え、相手故に油断は禁物。鴉零式槍を高速で振り、レミールはソニックウェーブを放った。ハミルカルの大岩斬奥義が、それに続き炸裂する。
 数巡の後……拮抗する力に、緑の秘術が破られた。高く掲げる片刃刀が、怪しく光って。攻撃を受けたのだと冒険者達が理解したのは、傷を受けた痛みからだった。だがその一撃は、冒険者達の攻撃を喰らい続けていた身体には辛く、自身にも少なからず損害を与えた様だ。刀を持つ腕が、完全に下げられた。
「そろそろ、終わりにしようか……」
「技には技で応えよう、食らえ!」
「……全力あの世に持って逝きなさいッ!!」
 カナメの発する光の軌跡は、薔薇を常よりも輝かせる。抵抗の欠片も無い敵の、息の根を止める為に花は宙を舞う。接近したグリットが、格闘術と技を織り交ぜる。下段蹴りから中段蹴り後、指天殺で急所を打ち、跳び蹴りで敵は地に伏せた。魂砕き『彷徨う影の娘』に雷撃を乗せ、エクセルはモンスターを力一杯叩き付けた。鈍い音が、辺りに響く。
 強烈な攻撃が続き、終にモンスターは片刃刀をその手から離した。
「……終わりの刻、です!」
 しなやかに、フィエルが蹴りを打ち出す。最期の一撃は強く重く、モンスターの身体にめり込んだ。
 モンスターの生命活動が、終わりを告げる。森が、大地が、明るくなった様な気がした。

●戦後
 森をぐるっと廻り、冒険者達は丁寧に殺戮の跡を修復していった。抉られた大地、倒れた樹、紅に染まる緑の葉……殺されて放置された動物はその場に埋葬し、人間は森の入口で周辺の住民に引き渡した。家族の泣く声が、冒険者達の耳に残る。瞼の裏に、表情がこびり付く。
 殺戮は、悲しみしか生まない。誰かが殺されて喜ぶ者なんて、本来的にはいないのだと想う。
「こうなることを、冒険者の時分に想い描いていただろうか。俺ですらその時が来ればどうなるか、と考える位だ……どちらにせよ、そうありたいと望む事ではなかっただろう……安らかに眠ってくれ」
「刀を帯びた『人型』のモンスター……嫌でも元を連想します。刃は本来、護る為にあるのだと、信じたいのです……」
 未来に自分が、彼と同じ路を辿らない保証なんて無い。ラスの弔辞に、レミールの想い……彼には届かないとしても、口に出す行為が意味を持つ。
「……モンスターの死体を埋葬するの。森の戦闘跡や地面の穴も、出来る限り修復しておくわ」
 エクセルの呼び掛けで、事後処理は実現した。二度と動かない屍を、戦闘に傷付いた地へと埋める。
「ごめんな、傷つけちゃって。少しでも君たちが、元気になれますように……」
 斬り傷は勿論、重たい物体がぶつかった痕。地盤沈下で傾いたり、太い幹の中程から倒されたりする樹も有った。異変を確認した1本1本に対して、ディッカは声を掛ける。植物も意志を持つから、きっとディッカの気持ちは伝わった。
「せめて、倒された樹が無駄にならないように……いつかまた、森が元の姿に戻れるようにね」
 ピヨピヨの提案で、森の穴に団栗を埋める。折られた樹は、木材や冬用の薪として利用して貰おうと周辺の村へ。標的を撃破した事態と一緒に、村人達は快く引き取ってくれた。
「苦い煙草だ……」
 最後の村を出て、ジローは煙草に火を点ける。敵が冒険者の成れの果てである事実と、森の中の悲惨な状況……成功とは言え、手放しで喜べる依頼では無かったと振り返る。
「やっぱり、自然の紅葉が一番綺麗……ってね」
 森を視詰めて、リツは十字を切った。今回の犠牲と成った、総ての生命に追悼の意を。リツに倣って皆も、眼を瞑った。
 そうして冒険者達は、複雑な心持ちで戦場を後にしたのだった。


マスター:穿音春都 紹介ページ
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参加者:14人
作成日:2007/11/30
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