デストの野外木彫りツアー



<オープニング>


「ねーねー、それ何ー?」
 酒場の隅っこで何やらナイフを動かしていた放浪剣士・デスト(a90337)に、トレジャーハンター・アルカナ(a90042)が声をかける。
「……木彫りの細工だ」
「ふーん? で、何作ってるの?」
「今出来る所だが……」
 どれどれ、とアルカナがデストの手元を覗き込むと、そこにはリアルな木彫りのクマが出来上がっている。
「あとはこれを塗料で白く塗ればいい……本当はあまり塗料の類は使いたくないんだがな」
「……ねえ。それ、誰の差し金?」
「差し金というか……どうせ彫るならシロクマ作るとアルカナが面白い的な事をリゼルが言っていたが」
「……あの六角メガネ、いつかギャフンと言わせてやるんだよ」
 アルカナが何故機嫌が悪いのか判らないまま、デストは出来上がった木彫りのクマを机の上に置く。
「……これ、いいかもしれませんね」
 その出来上がったばかりのクマを夜闇の霊査士・ミッドナー(a90283)は手に取り、クルクルと手の中で遊ばせる。
「何が?」
 また変な事思いついたな、という顔で見るアルカナの視線をミッドナーは手で遮る。
「いえ、実はですね。ちょっとした災害でたくさんの木が倒れてしまった山がありまして。有効な活用法を相談されていたんです」
 つまりは、それを使って木彫りの人形を作るようにしたらどうだろう、ということだろうか。
「こういったモノには魔除けの意味を持つものも多いと聞きますし……活用法としては、悪くないと思うんです」
「あー、なるほどなんだよ」
「ではデストさん、宜しくお願いしますね」
「……一応聞くが。何をだ?」
「引率」
 あっさりと言い放つミッドナー。
「……俺の意思は?」
「肯定以外なら却下します。はーい、皆さん。ちょっと集合してください」
 パンパン、と手を叩くミッドナーに暇そうにしていた冒険者達が集まってくる。
 ……どうやら、逃げ道はないらしい。デストは溜息をつくと、椅子に深く腰掛けるのだった。

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参加者
NPC:放浪剣士・デスト(a90337)



<リプレイ>

 天気は快晴。寒い空気の中にあっても日差しは暖かく、木彫りには良い天候と言えた。
「……置いてくぞ?」
 登山道の入り口で銅像の真似をしていた漢・アナボリック(a00210)を放浪剣士・デスト(a90337)は一瞥すると、先導するように山を登り始める。
「いい天気やなぁ」
 桜狐・ヨシノ(a53774)は登山道を歩きながら、思い切り伸びをする。
「なあ、誰に贈り物をするんだ?」
 二振りの剣・マイシャ(a46800)の問いに、ヨシノは待ってましたとばかりに答える。
「今日作ったヤツ、マイシャの婚約者さんにあげんねん」
「は?」
 思わず聞き返すマイシャ。自分の婚約者がプレゼントの相手だとは、予想外であったのだろう。
「ユーの婚約者にあげんねん」
「ユーって言う人か」
「YOU」
 ビシっとマイシャを指差すヨシノ。
「いくら彼女が可愛いからって……ちょっかいを出すなっ」
 ヨシノの頬をぎゅっと抓るマイシャ。かなり本気である。
「ひや、ひふははー、ほあほんへんへほーへんひへふへはふーほもはふへほ」
「何か言いたそうだが」
 見かねたデストが助言すると、マイシャはヨシノの頬から手を離す。
「り、理由を説明されたって……許してなんか……やるもんかっ!」
「け、喧嘩はよくないなぁ〜ん」
 ガラクタを集める者・トリン(a55783)が仲裁に入るが、まだマイシャはジタバタとする。
「いやな、ドラゴン戦で応援してくれたっつーのもあるけど、結婚も控えてるしなーって」
 ヨシノは頬をさすりながら、自分の友人と一緒になる人の幸せを願ってのものである事を語り始める。
「……先に行ってるぞ」
「置いてっていいのですなぁ〜ん?」
 トリンの言葉にデストは肩を竦めて答える。
「放って置くのが礼儀だろうさ」
 そうしてやってきた目的の場所には、なるほど。薙ぎ倒されたような跡が広がっている。
「おおいデスト殿! 実は儂は前々から木彫りに細工に興味があっての! 良い機会じゃから参加させてもらうゾイ!」
「……そうか」
 駆け寄ってきた風皇殿を守りし銀の猫・ハヤテ(a59487)に、デストは適当にも思える返事を返す。
 無論、ボギャブラリーが無いだけなのだが。
「さて、何を作ろうかのう……? 初心者でも作れそうな物……招き猫、招くなら財よりも人の方がええのう」
 ハヤテは、倒木を吟味しながら歩き回る。
「左手を上げたものを作るゾイ!」
 言うと同時に、手近にあった倒木に手をかける。
 イメージが確かなうちに彫ってしまうのが吉、と言わんばかりの勢いである。
「これも……違うな」
 対する姫椿の鐘楼守・ウィズ(a65326)は、慎重に倒木を吟味する。
 出来上がった彫刻に浮かぶ木が持つ独特の模様。
 堅くて立派とか、柔らかくて手に馴染むか。
「美しい曲線と苔むし具合……完成されたオレ好みの女体っぽくて刻むのが惜しくなるな……」
 途中から声に出ているが、ウィズは気づかずに吟味を続けている。
 ふと見上げたマイシャとヨシノの微妙な空気を見て、ウィズはふと笑う。
 あの2人はもう、心配いらないだろう。
「あ、あの……危なくない持ち方とか……どうもつといいのですか?」
「……持ち方もそうだが、集中も危険回避の方法だ」
 言いながら、デストは七色天使・アイリン(a56124)の手に彫刻刀を握らせる。
 悪戦苦闘を始めたアイリンの近くでは、同じようにトリンが苦戦している。
「な、なんだか何かが違う気がしますなぁ〜ん」
 どうやらノソリンを彫っているらしいが、上手くいかないようだ。
 アイリンのほうはウサギらしいが、別の場所にいる硝華・シャナ(a52080)もウサギを彫っているようだ。
「あ、勢いあまって顔をごりごりっと……」
 どうやら、こちらも上手くいっていないらしい。
「う、うう〜ん、一応うさぎでも彫ったつもりなのですが見えますか……ね……?」
「言われるとぉ、そう見えるようなぁ、気がするのですぅ」
 聞かれた吟遊詩人・アカネ(a43373)はそう答え、シャナは思わず頭を抱える。
「デスト様ー……助けてください〜。もうこれ以上どうすればいいのかっ!」
「諦めるか彫りなおすのがいいと思うが」
 かなり無情なコメントであるが、デストなりに気を使ったコメントである。
「ま、まあ、こういうものは技術よりも心がこもっているほうがいいのですわよねっ!」
「そうだな」
「……でも、なんだかまさに魔よけ、というようなお顔になってきましたわ」
「いいんじゃないか? 効きそうだぞ」
「恐ろしいですの……!」
「大丈夫だ。酔ったリゼルはもっと恐ろしい」
 頭をブンブンと振るシャナに、ズレたコメントを返すデスト。
 ちなみに近くではアナボリックが六角眼鏡を彫っているが、それをどうするつもりなのかは不明である。
「おや……貴方も横笛を?」
 誓夜の騎士・レオンハルト(a32571)に、アカネは頷き返す。
「エンデソレイでのぉ、演奏にぃ、使用するぅ、横笛をぉ、作るのですぅ」
「なるほど……どのような笛に?」
「材がぁ、豊富にぃ、ありますのでぇ、大きくてぇ、低い音がぁ、出せるぅ、品にぃ、したいのですぅ」
 それを聞いて、レオンハルトはなるほど、と頷く。
「デストさん、そういうわけなのですが……笛に適した木というものは、お分かりになりますか?」
「笛の事は良くわからんが……どんな木でも、それなりのものには仕上がるんじゃないか?」
 本気で適当なコメントを返すデスト。どうにも、文化的な活動には縁が無いらしい。
「なるほど……自分が良いと感じたものが一番ということですね」
 それを好意的に解釈するレオンハルト。
「上手くぅ、出来るかしらぁ」
「私も上手く出来るか自信は無いですけど、自分の手で彫った物である事にに意味があると思うんです」
 アカネの言葉に、レオンハルトはそう語る。それは自分に向けた台詞でもあったが、アカネには充分に効果があったようだ。
「ここにぃ、笛の作り方に役立ちそうなぁ、書物がありますぅ」
「おお、これは……有難く見せて頂きます」
 そう言って、アカネと一緒に書物を見るレオンハルト。どうやら、初めての笛作りの一歩は順調なようである。
「今の私に揺らぎなし」
 一方、瞑想をしていた無銘なる赤・デスペラード(a27803)は目を見開き、愛剣であるレクイエムを振るう。
「……誘うは止水の閃き!」
 素早い斬撃の連続で、材木を切刻んでいく。
「……下拵え終了」
 半分以下に切刻まれた材木を前に、デスペラードは一息つく。
「……青春の苦悩とか、そういう類か? 前衛的だな」
「下拵えだ」
「そうか」
 スタスタと何処かに行くデストを何となく見送ると、デスペラードは材木に向き直る。
「ああ、ちょっと待った」
「……なんだ?」
「実はアレだ……人物というか友人を彫ろうと思ってな」
「そうか。健闘を祈る」
「だから待てと言っただろう」
 また何処かに行こうとするデストを、再びデスペラードは呼び止める。
「細かい部分の注意などがあれば指示を仰ぎたいのだが」
「ああ、そういう事か。最初からそう言えばいいだろう」
「言う前に何処かに行こうとしたのはお前だろう」
 脳まで筋肉。ふとそんな言葉が浮かび、ぐっと飲み込む。
 さて、その友人であるところの光纏う黄金の刃・プラチナ(a41265)は、デスペラードの隣で苦笑いをしている。
 とりあえず、木彫りの腕は確かなのだ。しっかりと指導をして貰おうと考える。
「まずは形をしっかりと頭に刻み込め。完成形をイメージしろ」
 デストの言葉を聴きながら、プラチナは持ってきた倒木にチョークで大体の形を書き込んでいく。
「デスト殿、こういった細かい所はどうやったら綺麗に彫れるんじゃ?」
「ああ、此処はだな……」
 ハヤテの質問に答えるデスト。すっかり木彫り教室となったそこで、アナボリックが焚き火を始める。
 気づけば、少し肌寒くなってきた。ナイスタイミングといえるだろう。
「あ……あの、これデストお兄様良かったら」
 デストの裾を引っ張りアイリンが差し出したのは、ウサギを象ったお守りのような武器飾り。
「ん? ああ……」
 デストはそれを受け取ると、しばらく見てからアイリンの頭に手を載せる。
「少し待っていろ」
 そう言うと、自分もナイフを取り出して何かを彫り始める。
 慣れた手つきで彫られていくそれはあっと言う間に仕上がり、アイリンの手の中に放られる。
「礼と、土産だ」
 そうしている間にも、冒険者達は次々と自分の作品を彫り上げていく。
「よしっ、完成だ!」
 ウィズの手にグランスティードの姿を模した人形が握られたのを皮切りに、次々と歓声が上がっていく。
 それは自らの手でモノを作り上げた事に対する喜びだ。
「いよーぉし! 初めてにしてはなかなかの出来! これを旅団に持って帰れば喜ばれるかのう?」
 ハヤテが、ヨシノが。次々と上がっていく声は、そのほとんどが喜びに満ちていて。
 木彫りツアーはこうして、デストいわく「比較的成功」という結果を残したのだった。


マスター:じぇい 紹介ページ
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