グドンと柿



<オープニング>


●猿と柿と……
「うん、カニは海辺にいる生き物だ。今回の依頼先にはいないぞ」
 何がしかの期待のようなものを抱いていた冒険者は、それはそうだよな、と納得する。
「居るのは猿グドンと柿の木、そして柿愛好家の皆様だ」
 柿狩りで有名な村に猿グドンが現れ、生っている実を根こそぎ食べられてしまいそうになっている。実がなくなってしまう前に、グドンを倒して欲しいとのことだった。
「猿グドンをぱっぱと排除したら、皆で柿狩りを楽しんで来るといい」
 許しは得ているからと、ヒトの霊査士・ファーシル(a90379)は続ける。
「もしかしたら、村のどこかに柿を干してあるかもしれないな。まぁ、とにかく、グドンさえ追い払えば存分に柿を味わえるというわけだ。頑張って来てくれ」
 話し終えたファーシルは、いつの間にか出ていたよだれを腕で拭った。

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参加者
潮騒の養い子・リオン(a05794)
慈愛の聖母騎士・ニーナ(a48946)
導き手・カナ(a59024)
深林の治癒術士・メイベリー(a62828)
伏龍・バーニア(a63668)
金翼の紋章術士・リュカリナ(a66079)
翠旋・フェリル(a66648)
破剣の・サンカイト(a69489)


<リプレイ>

●猿グドンと冒険者
 見方によっては、人間の進化の過程が、今そこにあるかのように思うかもしれない。しかし、木の上で柿を手にする猿顔の人型は、それとはまったく違うものだった。
「おいしいものを召し上がるために少し働くとしますか♪」
 並び立つ木々を眺めながら、旅の女重騎士・ニーナ(a48946)は、一度身体を大きく伸ばす。
「お願いしますだ、どうか柿を救ってくだせぇ」
 柿愛好家たちは、冒険者と距離を置き、応援のつもりだろう、かなり離れた所から橙色の旗を振っていた。
「よっしゃ、いくぜーっ!」
 声援に応え、破剣の・サンカイト(a69489)が気合の声を上げる。
 サンカイトの目の前には、柿の木が立ち並び、指で数えるには仲間の指も借りなければならないだろう。
 そして木々の上ではそれぞれ、猿グドンが柿を好き勝手に取っては食べていた。中には、下で籠を抱えているグドンに柿を落としている者もいた。
「どうやら、分かれる必要がありますわね」
「では、決めておいた作戦通りで」
 金翼の紋章術士・リュカリナ(a66079)が柿園を見渡して言うと、導き手・カナ(a59024)が頷いて答える。
 二人は左右に分かれ、あらかじめ決定していたグループのメンバが、それに続いた。
 冒険者は素早く展開し、戦闘態勢に入る。
 不意を突けるか否かのタイミングだったが、木の上に登っていたグドンが気付き、木の周りにいるグドンたちもこちらを振り向いた。
 上にいるグドンと下にいるグドンは、見たところほぼ同数だ。
 リュカリナの歌の範囲はそこまで広いものではない。効果を木の上まで及ぼすには、まず下の猿グドン共を倒す必要があった。
「お邪魔ですわ」
 リュカリナによって宙に描かれた紋章がきらめき、敵を撃つ光が幾重にも伸びる。木から離れていたグドンはその光線を受け、苦悶の声を上げた。だが、絶命には至らない。
「貴様等にくれてやる柿などないわ!」
 リュカリナの後ろから飛び出し、ニーナは武器を横に薙いだ。滑るように振るわれた軌跡は、リュカリナの攻撃を受けていたグドンたちを辿り、物云わぬ肉塊に変貌させる。猿グドンの手にしていた籠から、柿がいくつか零れ落ちた。
 ニーナたちA班に少し遅れ、カナたちB班もまた木の根元付近へ向け、敵集団を切り裂いていく。
「オラオラオラ!!」
 前を行くサンカイトは、真紅の刃と通常の刃を合わせたデュアルアクスを思う存分振るう。武人たる彼が放つ流水撃は、周りのグドンたちに致命傷を与えていった。
「うぉ!?」
 だが、まだまだ未熟なところがあるのだろう。討ち漏らしたグドンから、怒りの反撃をもらう。一撃の重さは彼の比ではないが、数いる敵からの集中攻撃を受ければ、ダメージは蓄積され、安心な状態ではいられなくなる。
 その時、力強い歌がサンカイトの耳に届いた。カナの歌う、高らかな凱歌だ。
「あんまり無理しちゃだめだよ?」
「へへ、わりぃ」
 カナの言葉に、サンカイトは頭を掻く。響き渡っていた歌と言葉で、サンカイトの身体に再び活力が湧きあがった。

●死をもって償え
 食べ物の恨みは恐ろしい。が、猿グドンを退治する冒険者たちが、どの程度の恨みを抱いているかは定かではない。
「悪いね、こっちも柿を楽しみたいんだ」
 銀キツネの尻尾を持つストライダーの潮騒の養い子・リオン(a05794)は、リュカリナの歌を聞いても木にしがみついて下りない敵を、愛刀のファルシオンからソニックウェーブを放って狙い撃つ。
 木の近くで普通に武器を振るう際には、ソニックウェーブのように透過攻撃ではない。
 そのため、木を傷つけないよう、自分はもちろん、敵にも木を背にさせない立ち回りをリオンはした。
「癒しの光よ」
 ヒーリングウェーブが班の全員に届く位置を常に意識して、深林の治癒術士・メイベリー(a62828)は動いていた。敵に囲まれてしまうことを避け、尚且つ回復を一度に行える最良の位置取りだ。
「あと少しですわ」
 メイベリーは陣形の中央から、辺りを見回し、未だ木の上にいるグドンを探す。
 既にA班は、いくつかの木の上から猿グドンを眠り落とし、目標の7、8割をせん滅し終えていた。
 ある範囲に数本の木が並び、それに応じてグドンたちが小集団となっている。冒険者はその一つを倒すたびに、新たな小集団を探すことを繰り返した。それほどに、この柿園は広いのだ。
(「う〜ん……なんだかなぁ」)
 それは、たぶん偶然だった。
 戦闘中は意識しなくとも、集団を倒し、次の目標を探して戦うまでの間は、否応なく意識されてしまう。
 男女の人数がちょうど半々であった今回の依頼だったが、なぜかその班分けでは、リオンの属したA班に男は自分一人だった。
「(男子班に行きたい)」
「何か言いましたか?」
 一番近くにいたメイベリーが気付いて、リオンに尋ねる。他の女性たちも、リオンに目を向けた。
「え? い、いや、何でもないよ」
 不思議そうにするメイベリーに、少し引きつった笑みを返すリオン。次の目標は、すぐ間近に迫っていた。
 リオンと同じように、ある意味逆に、班で紅一点となった翠旋・フェリル(a66648)は、自分がそういった状況であることを特に意識していなかった。
 カナがいたからかもしれない。
「かかってきなさい!」
 眠りに落ちなかった猿グドンに対して、フェリルは大挑発を試みる。
 怒り我を忘れたグドンは、木から飛び降りフェリルに襲いかかる。
「違うでしょ!」
 期待に添わぬ行動を取った敵の攻撃を避け、フェリルは一刀の下に切り伏せる。少なからずカンに障ったようだ。
 下に降りたことで倒された味方を見た猿グドンが、フェリルに向かって、まだ青い実をいくつか投げつけた。
「イタタ……ちょっと、渋柿ばかり投げないでよ(そう、それでいいのよ!)」
 今度こそ放たれた期待通りの攻撃に、ダメージを受けつつも、フェリルの顔には笑みが浮かんでいた。
 満足したフェリルは、後方に一度下がって、カナを守る位置取りをする。
 フェリルが下がるのとほぼ同時に、カナが再び眠りの歌を歌った。実を投げたグドンが、木の下へと落下する。
「これが本当の猿も木から落ちる、ですね」
 フェリルと同じく満足げに頷いて、カナは小さく笑い声を漏らした。
「オレはてめぇらが寝てようが容赦しねぇ!」
 二人の笑みとは違う、狂気じみた笑いを浮かべて、伏龍・バーニア(a63668)は、地に伏したままのグドン目がけ、長剣を真一文字に振るう。
 温厚な彼はどこに行ったのか。それは誰にも判らない。
 グランスティードに乗り烈風を纏った彼を、止められる者はいなかった。
「あははは、死にやがれ!」
 彼の背には、白く輝く羽が揺れていた。人間もいろいろ、エンジェルもいろいろ、だ。

●土に還れ
「ふぅ、終わりましたわね」
 服を軽く払って、リュカリナは前髪に手をやった。
「柿の木が無事でよかったですわ」
 最後の小集団がいたところの木に触れ、安堵の溜息をリュカリナは洩らした。
「待ちに待った柿狩りですわ」
「えぇ、でもわたくしは、柿は干し柿が一番好きですわ」
 リュカリナの言葉、ニーナとメイベリーのやり取りを聞いていて、リオンは一人、少々の疎外感を感じていた。
 同じ冒険者でありながら、どこか住む世界が違うような、そんな、お嬢様然とした雰囲気が彼女たちにはあった。
「さあ、参りましょう。リオン様」
 様付けで呼ばれることにくすぐったい感覚を覚えながら、リオンはメイベリーたちの方へ寄って行った。
 A班が敵を掃討し終えたのと、B班の狂天使がいつもの温厚な天使に戻ったのは、大体同じ時刻だった。
「皆さん、お疲れ様でした」
 召喚獣から降りて、バーニアは同じ班の仲間にごく短く一礼する。
(「戻った!」)
 心の中で同時に三人が思った。
「うっし、作戦成功なんだぜ!」
 斧を背負い、サンカイトは白い歯を見せる。何度か危なくなってしまった場面もあったが、冒険者にも、柿の木にも、大きな被害は出なかった。
「グドンの遺骸の片付けをしなくちゃね」
「そんなの後でいいですよー。まずは、柿を食べましょー」
 柿のためにがんばったんですから、とカナは続ける。
「でもね、こんなのが転がっていたら、美味しく食べられないと思うよ?」
 それにサンカイトとバーニアが同意して、カナも仕方なく了解する。
 フェリルたちは、とりあえずA班と合流するために移動した。
 八人が揃ったところで、数だけは多かったグドンたちの亡骸を、せっせと木の根元に埋めていく。
「美味しい柿のためにも頑張りますよー!!」
 嫌々始めたカナも、この作業さえ終われば柿にありつけるのだ、と張り切って穴を掘った。
 グドンを埋め終えた冒険者は、柿愛好家の人たちに報告するため、一端柿園を離れる。
「柿は無事でしただか?」
 冒険者が戻ってくるのを確認した愛好家たちが、駆け寄って尋ねてきた。
「えぇ、大丈夫ですわ。グドンもすべて退治いたしました」
 リュカリナが答えると、愛好家たちの歓声が上がる。どちらに対するものか、あるいはどちらにもか。
「ありがとうごぜぇましただ。そんじゃあ、柿狩りを楽しむとしますだ」
 今度は、冒険者が歓声を上げ、グドンたちを排除した柿園へと、皆で向かった。

●冒険者と柿
「そんじゃ、遠慮なく!」
 柿園に戻ったサンカイトは、ジャンプして手の届く位置にあった実を取り、服で軽く拭くと、豪快にかぶりついた。
「柿、うめぇ!」
 柿独特の硬さが、程よい反力を歯に反し、それに続いて豊潤な甘みが口の中に広がっていく。柿の実は皮ごと食べても、その硬さは実に近く、違和感はあまりないのだ。
 労働の後の食事、しかも糖分を多く含んだそれは、格別なものだった。
「ほくほくですよ〜」
 手当たりしだいに柿の実をカナは取っていく。どれだけ食べるつもりなのだろう。既に柿の実が手から零れ落ちそうになっている。
「そういえば、柿って秋の味覚ですか? それとも冬?」
 一緒になって柿を両手いっぱいに取っていたニーナに、カナが聞いた。
「柿の季節は長く、確か柿は今が食べ頃ですわ」
「へぇー、そうなんですか」
「渋かったり甘かったりしますが……どれもおいしいですわ♪」
 そう言って笑んだニーナは、愛好家たちが作った簡易テーブルに向かう。さすがにこれ以上は持てないと判断したカナも同行した。
 二人が席に着くと、少し離れたテーブルからいい匂いが漂ってきた。
 そこには、干し柿が盛られた皿と、白いティーカップが2つ置いてある。
「お茶、いかがですか?」
 頭の桜を少し揺らして、メイベリーが尋ねた。
 ニーナとカナが揃って頷くと、メイベリーの対面にいたバーニアが静かに立ち上がり、二人のティーカップを取り出してお茶を入れた。
「どうぞ」
 まるで招待した客をもてなすように、バーニアは二人のテーブルにお茶を置く。
 間近に香るそれは、柿をさらに楽しむのにはうってつけのものだ。
「干し柿もおいしいですわよ」
「そうね」
 メイベリーの言葉に、反対方向から歩いてきたフェリルが同意した。彼女の手には、干し柿が一房ある。愛好家に聞いたところ、この村にある干し柿なら、もう十分食べられるとのことだった。
「フェリルさんもどうぞ」
 いつの間にか用意していたカップを、フェリルの前にバーニアは出す。抜かりない執事見習いである。
「ありがとう」
 フェリルは笑顔で受け取って、メイベリーと同じテーブルに着いた。
「柿を食べるのは久しぶりです……」
 その横のテーブルでは、既にお茶をもらっていたリュカリナが、2つ持ってきた柿のうちの1つを食べていた。懐かしい歯応えと甘みに、口の形を三日月に変える。
 カナとニーナのテーブルに山盛りに積まれた柿と比べると、その数はあまりにも少ない。どうやってその豊満な身体が作られているのか、フェリルは疑問に思った。
「で、渋柿の渋って結構、布や紙の防水に良いんだよ」
 また別の場所では、なぜかリオンが柿愛好家たちに講義を行っていた。
 渋柿ばかりを集めていたリオンに、愛好家の一人が尋ねたのがきっかけだった。
「あとは、防腐なんかにも良いね」
「ほぉ」
 取って食べることを主としていた彼らには、初耳なことも多く、新たな柿の側面を知って喜んでいた。
「そんなら、俺たちも」
 そう言って愛好家たちも、渋柿を集め出した。
 この時期には数少なくなっている木に成る渋柿は、見る見る間にその数を減らしていった。
「あれ、あれれ!? ちょっと、ちょっと待ってぇー」
 こうして柿園では、熟した甘い実ではなく、渋を含んだ渋柿争奪戦が行われることに相成ったのである。


マスター:詩賦 紹介ページ
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作成日:2007/12/08
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