<リプレイ>
空には太陽が燦々と輝き……地面からは異様な熱気を含んだ空気が、真っ青な空へと立ち上ってゆく。 上と下から同時に叩きつけられる熱気は最早ただ暑いとか、そう言った程度のものでは無く……ちょっとした燻り焼きに等しい状況だった。
「う〜ん……」 ゆらゆらと青空へと消えていった湯気を見送り、灼熱の炎が流れる山肌に視線を戻してから、まじめにふまじめ・レジィ(a18041)は首を傾げる。 前回偵察に行ったときの地図を片手に此処まで進んできたのだが、何かが前回と違うような気がしたのだ……何が? と問われれば応えられない程度の違和感……けれども確実に存在する違和感。 「どうしたのですか?」 「……ううん、気のせいだと思うわ」 そんなレジィの様子に同じように首を傾げながら尋ねて来た、蒼穹の虹飛燕・ユリア(a41874)に、レジィは首を横にふって何でもないという。 致命的な問題であれば、自分が気付かなくても、閃紅の戦乙女・イリシア(a23257)や、彩士・リィ(a31270)が気付くだろうが、彼女達が何かを感じ取っている様子もない。それに、幾らユリアが地図を細かく写してきたと言っても一度来たことのあるレジィよりも細かい事に気付ける通りは無いのだ。 だから、説明する必要は無いだろし、違和感を言葉にする方法も無い……それに、確実でない情報で不要な不安を煽って作戦に支障をきたす訳にもいかないのだから。 「此度はサポート的行動じゃが、己が仕事は確と遣り遂げねばならぬの」 そんな普段よりも幾分真面目な様子のレジィの視線に、リィは気付き決戦の方々が本領を発揮できるように頑張らねばのうと力強く頷く。そして別の行動を取っている仲間から預かった緩やかに湾曲した刀身を持つ蛮刀に視線を落とすと、もう一度頑張らねばのうと頷いて合図のための大切な手段であるそれを優しく胸に抱く。 「ええ、ライリュースへ向かう方達が攻撃に専念できるように、しっかりと注意を岩怪獣に向けさせましょう」 岩の合間から時折見えるライリュースの姿は相変わらず雄々しく……そして全く動く様子が無い。正に王者の風格と言った所だが、中間達がライリュースに近づく隙を作るために彼の注意をそらす事が自分達の役目なのだ。 「それぞれ戦う場所は離れていても、目的を共にする仲間を信じて」 他の仲間たちが居るであろう場所に視線を向け、イリシアは瞳を閉じて……自分達に任された仕事をきっちりとやり遂げるのですと自分に言い聞かせるように呟くとしっかりと目的の場所を見据えた。
イリシアの視線の先……ライリュースの真後ろ……その山肌の上に赤い岩怪獣が屯している姿が見える。 目的の場所はもうすぐそこだ……ユリアたちは頷きあうと、ライリュースに気付かれぬよう慎重に赤い岩怪獣の居場所を目指すのだった。
赤い岩怪獣が屯している場所の背後を取る事に成功した一行は準備を始める。 「ライリュース……まだまだ謎の多い相手なぁ〜んけど……今は出来ることをするだけなぁ〜ん」 炎に輝く優しき野性・リュリュ(a13969)はそう呟くと他の班に預けていた大棍棒を呼び出し、自分達が赤い岩怪獣の居場所に着いたことを他の仲間たちへ知らせる。 (「ライリュースは何を見ているんだろう?」) 謎の多い相手……確かに不明な部分は多い、そう例えばライリュースの見ているものだ……それが気になった、銀花小花・リン(a50852)はライリュースの背中越しに見える風景を観察する。 彼の背中越しに見えるものは、青々と広がる森……その遥か先に見える湖、草原……その更に向こうは空気の層が遮り見ることが出来なかったが、ごく普通のワイルドファイアの風景である。そこに眷属の姿がある訳でも、変わった怪獣の姿がある訳でも、何か変わった自然がある訳でもない……本当にありふれたものだった。 「眷属が居ないって言うのは珍しいな」 目を細めて遠くを見つめるリンの横で、黄昏の翔剣士・ティズ(a50181)が首を傾げる。今まで見てきた七大怪獣は全て眷属と呼ばれる怪獣を従えていたのに、ライリュースだけは眷属を持っていない。何故か? 孤独を好む故か……それとも強すぎて必要ないのか……。 「……寂しくないのでしょうか」 考え込んでいるティズから微動だにしないライリュースへ視線を移し、二振りの剣・マイシャ(a46800)は呟く。ライリュースが何を望んでいるのかは解らないが、中間達が居ないなど……一人で何かを成そうなどと自分には想像も出来ないとマイシャは首を横に振る。 「今回は偵察以上の事をしていないので、隠された能力がないかとか、眷属が居ないのか等、不安もありますが」 そんなマイシャの肩に手を置いて、そよ風が草原をなでるように・カヅチ(a10536)は終わらせられる様に頑張りましょうと呟いた……確かにライリュースに関しては不明な部分が多いが……どれだけ謎が多くても倒してしまえばそれで終わりだ。隠された能力など、隠されたままであるのならそれに越した事は無いのだから。 「あう、その通りなのです! ファイトおー! なのです……!」 カヅチの意見に頷いて仲間同士の体を縄で結んで落下対策を行っていた、星槎の航路・ウサギ(a47579)が小声でやる気を見せて拳をぐっと握り締めたとき、 「合図なのじゃ」 リィの抱えていた蛮刀が消え去った。ライリュースに突撃する班の準備も整った……ウサギはもう一度拳を握り締め、ファイトおー! なのです……! と今度は高々と拳を突き上げて、岩怪獣へ向かって走り出した。
走り出したユリア達に気付いた、赤い岩怪獣が振り返る……が、岩怪獣が戦闘態勢をとるよりも僅かに怪獣達の上から仕掛けるユリア達の動きが早かった。 坂道を下る速度を落とさずにカヅチとリィは端っこに居た赤い岩怪獣の元へ走りこむと、ほぼ同時に壁に手を突くように岩怪獣の体に手を置いて――爆発的な気を一気に叩き込む! 衝撃に耐え切れず、軽く宙に浮いた赤い岩怪獣は背中から地面に落ちるとそのまま丸まってライリュースに向かって転がってゆく……更に、レジィがクリスタルスタッフを掲げて紋章を描き出し七色の木の葉の突風を放ち、イリシアが光沢のない黒の槍を薙ぎ払って地面を削り砂礫と衝撃を作り出して赤い岩怪獣をライリュースへ向かって叩き落した。 「岩怪獣、いってくるなぁ〜ん!!」 そして、リュリュとリンが更にもう一体の赤い岩怪獣を落とした時、戦いの音を聞きつけたライリュースの耳が小さく動き、ライリュースの顔がカヅチ達の方へと向けられ――炎を纏う右前足を振りかぶったと思った次の瞬間、風を切る音と共にライリュースの爪の軌跡を追う様に作り出された一筋の炎が放たれる! 炎は転がってくる赤い岩怪獣達の体を的確に捕らえ……体を綺麗に分断された岩怪獣はライリュースに体に触れる事すらなく、ライリュースが乗っている岩の向こうにあった炎の池へと沈んでいった。 「やっぱりあれは怖いね……」 あんなものを受けたら一溜まりも無いだろう、レジィは群がる赤い岩怪獣の向こう側に見えるライリュースから感じる威圧感に思わず唸り……ライリュースの視線が自分達の方へと向けられている事に気付いた。 「……こっち見てる」 搾り出すように言葉を紡いだリンが言うように、猫系の動物に良く見られる縦に刻まれたその瞳孔は確実に自分達の姿を捉えている……当然といえば当然の話だ、隠れるといっても隠れきれはしない、ある程度数を絞って落とすと決めた以上岩怪獣の影に隠れることも出来ない……つまり、仕掛ければライリュースの視界に入る事は絶対に避けられない。ましてや目立つアビリティを使っていた以上、ライリュースの興味を引かない理由が無い。 そして、視界に入った以上、何時ライリュースの爪が自分達に振るわれるかも解らなくなったという事だ。何時襲い来るか解らない爪を想像すると背筋に冷たいものが走る、しかし始めてしまった以上は後には引けない。 「来ます」 そうこうしている間に落とされていない赤い岩怪獣が体を丸めると炎の塊となってカヅチたちに襲い掛かる! カヅチは岩怪獣の突進を難なく盾で防いで止めるが、木の葉のような動きで怪獣の攻撃を避けようと考えていたウサギとティズは機と気付く……体を結び合っている状態で転がってくる敵の攻撃を避けたらとんでもない事になるのではないかと……具体的にどうなるかは試してみないと解らないが、そんな怖い事を試すわけにも行かない。 「あぅ、熱いのですっ」 泣く泣くウサギとティズも正面から岩怪獣の回転を受け止めた。
赤い岩怪獣は個体数こそ多いものの、何せ怪獣だ図体がでかいので一度には掛かってこれない。カヅチたちは怪獣の攻撃を難なく凌ぐと、自分達の方を向いているライリュースに向かいもう一度岩怪獣達を叩き落していく。 しかし、ライリュースの炎の爪から放たれた刃が再びそれらをあっさりと切り裂き……こちらを見続けるライリュースは身を屈めるように足を折り曲げる。それは間違いなく跳躍の姿勢! 「こっちに来ようとしています……?」 赤い岩怪獣に粘着性の高い糸をばら撒きながら呟いたユリアに併せて、マイシャは不吉な絵柄の描かれたカードを放り投げ、 「……信じましょう、彼らを」 静かにそう告げる……奇襲をかける仲間たちがライリュースの足に向かって走る姿が見えたのだ、それはライリュースから見れば蟻の様に小さなものだが……マイシャにとっては何よりも心強い仲間なのだ。 「見せてやりましょう、仲間がいる事の強さを!」 「ああ、そうだな」 ライリュースから目の前の赤い岩怪獣へ意識を戻したマイシャにティズは目を細め、ユリアの蜘蛛糸から逃れていた岩怪獣を粘着性の高い糸で拘束するのだった。
仲間たちが巧くライリュースへ接近する事が出来た事を確認したリンたちは目の前の岩怪獣の数を減らす事に集中する。 動きを封じ、数を減らす……倒した怪獣は割れてしまうが、割れない方法は無いものかとティズなどは考えてみるも、そんな方法は無さそうだ。 そして岩怪獣の数が大分減ってきたところで、ライリュースの方から重いものが落ちるような音が聞こえて……。 「倒したのかしら?」 地に伏せるように倒れたライリュースの姿を見たレジィが癒しの光を放ちながら誰へとも無くそんな疑問を口にした……次の瞬間、ライリュースを中心に血の色のような空間が広がる。 「まだ見たいなぁ〜ん……」 「むしろ、これからが本番といった様子じゃの……」 唸るように呟いたリュリュにリィが応える……ライリュースの姿が揺らいで見える……あの中は恐ろしく高温になっているのだろう。 「むむむ……あぅ?」 だが、リィの予想とは裏腹に血の色のような空間はあっと言う間に消えると、ライリュースの姿も既に無かった……その様子に何が起きたのかと、ウサギは首をかしげ、 「あっちと合流しましょう」 行ってみれば解ると、岩怪獣を叩き始めたカヅチに頷いて一行は岩怪獣達を殲滅し始めたのだった。
「ぼろぼろですね……」 ライリュースが居た場所に降りたイリシアたちは、ライリュースと対峙していた仲間たちの内の半数が倒れている様を見る……それだけ激しい戦闘が行われたと言うことだろうか。 そしてライリュースが炎の中に沈んだと聞いて岩盤の下を覗き込んでみれば、山の中腹辺りから流れ込んでくる溶岩が大きな溜まりを作っていた。 「倒したのかなぁ〜ん?」 「どうだろうな」 首をかしげたリュリュにティズが答える……普通の生物なら、あそこに落ちたのなら一溜まりも無いだろう……そう、普通の生物ならば。 「帰りましょう」 いくつかの疑問は解消しないままだったが、いつまでもこの場所に居ても仕方が無い。カヅチが仲間たちに声をかけると一行は傷ついた仲間に手を貸して帰路へと付いた。
山の上から吹いてきた風に煽られた白い髪が顔にかかる……かかった髪の毛を払うように顔を振れば、ライリュースが乗っていた岩盤の向こうの景色が良く見える。 青々と葉の茂る木々が寄り添いあうように並ぶ森。 様々な動物たちが駆け回っているであろう草原。 掃天の空を映し出す鏡のような豊かな水に恵まれた湖。 それは本当にありふれたワイルドファイアの景色、それは炎に塗れ、大地の力が強すぎるこの場所には無いもの……リンは暫くその景色を眺め……少し離れてしまった仲間たちの背中を追うように足早にその場を後にした。
【END】

|
|
参加者:10人
作成日:2007/12/13
得票数:冒険活劇24
戦闘1
ミステリ5
|
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
|
|
あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
|
|
|
シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|
|
 |
|
|