<リプレイ>
「じゃがいも畑のモグラかぁ」 怪物が現れた畑に向かう道すがら、二つお下げの戦乙女・シフォン(a90090)が言った。 「これを倒さないと、お祭りの準備どころじゃないみたいだし」 「祭りは良いものだ」 櫻塚護・トウマ(a01292)が、のどかな景色に目を細める。 「されば、我が祖国にも伝わる八俣大蛇にも似たその怪物……疾く、退治してやらねばなるまい」 「トウマさんは難しい話し方するんだね」 陽だまりの風に舞う・シルキス(a00939)が不思議そうに言った。 「私のことは、シラヌイと呼んで欲しい。それと、この話し方は私の癖だ。気にしないでいい」 トウマのせりふに、にっこりするシルキス。 「うに! モグラをお仕置きなのね!」 お日さまの匂い・リトル(a03000)が拳を握りしめた。 「美味しいおじゃがを守るのね!」 「モグラ……ねぇ」 頭をかくのは、此岸現想・レビルフィーダ(a06863)。 「首が七つある段階で、いろいろ間違ってる気がするんだけど」 「いいんじゃない?」 緑の拳・シャリアーナ(a04082)が髪をかき上げながら答えた。 「出てきた首は、みんな潰すだけだしぃ」 「頑張ってモグタンを倒しましょう」 白き一陣の旋風・ロウハート(a04483)のせりふに、シフォンが首を振る。 「それを言うなら、モグドンじゃないかなぁ」 「えー、モグランじゃないの?」 シフォンに反論したのはレグルスに吹く爽やかな風・キャロル(a02583)。 「だって、モグドンだとモグラグドンと紛らわしいやいっ」 怪物の名前について、みんながやいのやいのと、言い合いを始めるのを横目に、白閃空・エスペシャル(a03671)がぼそりと言った。 「7本首だなんて。そんな派手な、モグラやらミミズやら、居てたまるか」 「じゃがいも、もらえるなりか?」 シフォンと冒険すると食べ物が絡むよね、と付け加えつつ凛花姫・シャルラハ(a05856)が尋ねた。 「畑の持ち主は、じゃがいもでよければって言ってたなりよ」 「あー、シフォンさん真似したにゃりね!」 シャルラハとシフォンが顔を見合わせて笑う。 「ここ、だな」 トウマが立ち止まった。一同の目の前に、広大な畑が広がっていた。畑のあちこちに、モグラがいたことを示す土の盛り上がりがいくつもあった。 「この下に、いるんだよね?」 生つばを飲み込むシルキス。 「ちょっと怖いのね」 と、リトル。畑に素早く目を走らせるトウマ。 「モグラらしき気配は見受けられぬが」 「地中から様子を伺っているかもしれません。皆さん、気をつけてくださいね」 ロウハートの言葉に、全員が頷いた。 「何しろ、首が7本だからねぇ」 レビルフィーダの言葉に、エスペシャルは、それって触手っていうんじゃないのか?と思いつつ、言葉を飲み込んだ。 「で、どうやってモグランを引っ張りだすの?」 キャロルの問いに、シャルラハが言った。 「ボクは囮用の土塊の下僕を用意するね」 「私は、モグラを釣上げられないか試してみよう」 トウマが、肉塊をくくり付けた釣り針のようなものを取り出す。 「モグラをいぶりだせないかしらね」 レビルフィーダが、畑に開いた穴に目をやる。 「とにかく、いろいろとやってみるといいんじゃないかな?」 シフォンの言葉と共に、冒険者達は一斉に畑へと散った。
鳥のさえずりだけが聞こえる畑の中を、土塊の下僕がひょこひょこと歩いていく。途中で、土まんじゅうにけつまづいて倒れたが、再び立ち上がって歩き始める。 「反応、ないなりね」 シャルラハが残念そうに呟き、ロウハートが首をひねった。 「畑の上を、人間が歩く震動か何かで反応するかと思ったのですが」 「シャラ、下僕じゃ、ダメかもしれない」 エスペシャルが立ち上がった。 「んー。私が、囮、やってみる」 そう言うと、畑を駆け出すエスペシャル。 「ボクも行くよ!」 「あー、リトも行くのね!」 エスペシャルの後を追って畑に入るシルキスにリトルが加わり、畑の上を動き回り始める。同じころ、レビルフィーダは畑の中ほどにあった穴の前にいた。穴を埋めようとしたが、数が多過ぎた。そこで、穴のいくつかに油入りの樽でフタをしてから、穴の一つに集めた枯れ枝を放り込み、火を付けた。 「いぶされて出てきてくれると、嬉しいわね」 別の穴では、トウマが思案していた。1番深いとおぼしき穴をしばらく見つめていたが、畑の側に一本だけ立っている桜の樹を見上げてから、細工を始めた。 「しばし許せ、桜の樹よ」 そう言うと、射干玉を桜の樹の幹にくぐらせた。その鋼糸はそのまま穴の中へと続き、その先には、大きな鉤針のついた肉塊が仕掛けられていた。 「きゃははは」 「シルキスさん、待つのねー!」 囮のシルキスとリトルは、気がつくと畑の中で鬼ごっこを始めていた。その様子に、畑の外からヘビーボウを構えていたレビルフィーダが苦笑した。 「囮が遊んで、どーするのよ。あ、コケた」 リトルが土まんじゅうにけつまづいて倒れた。 「リトルさん、つーかまえたー!」 不意に、シルキスとリトルは固まったように動かなかくなった。 「2人とも、大丈夫?」 駆け寄ったエスペシャルの目に飛び込んできたのは、シルキスたちの目の前で、頭を出している「それ」だった。土まみれのそれは、ミミズのような、薄茶色のつるりとした頭を向けていた。口が開き、鋭い歯がみえた。 「うわーん!」 悲鳴を最初にあげたのはリトルだった。べそをかきながら飛び退き、我に返ったシルキスも、後ずさった。エスペシャルの目の前で、それは土の中に引っ込んだ。が、今度は、別のところから頭をのぞかせた。一つ、また一つ。それらは、歯をむき出しにすると、シャーッといううなり声をあげた。 「しまった!」 ロウハートがその様子に気がつくと、パタを引き抜いて畑へと走った。シルキスたちの目の前で、風切り音がしたかと思うと、モグラの頭が吹き飛び、ぐらりと倒れた。 「何してんの! 早く逃げなさいッ!」 次の矢をつがえながら怒鳴るレビルフィーダ。応援に向かうべきかと逡巡したトウマの手の中で、射干玉がいきなりピンと張られた。 「掛かったかッ!」 トウマは渾身の力を込めて鋼糸を引くと、桜の樹から飛び降りた。引き上げられた鋼糸が桜の樹の枝を支点に張られると、グギャッという悲鳴と共に、モグラの頭の一つが飛び出した。肉塊を飲み込んだのか、鋼糸はその口の中に消えていた。モグラが鋼糸を切ろうともがき暴れた。 「シラヌイサン、援護します!」 駆けつけたシャルラハがエンブレムシュートを放った。胴体とも首ともつかない、長いモグラの体に命中すると、モグラの動きが若干弱った。 「シャラ殿、銀狼を!」 「はいッ!」 気高き銀狼を放つシャルラハ。動きを押さえ込まれたモグラに、トウマのカラミティエッジが一閃した。血吹雪と共にモグラの首が切断され、桜の樹にぶら下がるモグラの首。トウマが射干玉を弾くと、吊るされたモグラの頭がビクリと跳ね、そのまま動かなくなった。 「まずは1匹、だね」 「うむ」
次々とモグラの頭が、畑から姿を見せた。それは、高さ1メートル以上の高さまでその首をもたげると、一斉にリトルとシルキス目掛けて襲いかかってきた。 「てぃやーっ!」 モグラの首の一つが、横っ面を張られて頭を畑に叩き付けられた。横合いから飛び込んだシャリアーナの一撃だった。 「貴様らの相手は、この私よ!」 身構えるシャリアーナ。叩き付けられた頭は、土の中へと引っ込んだ。 「来るよッ!」 襲いかかるモグラの首に、キャロルが眠りの歌を歌った。3体のモグラの首が、キャロルの目の前で畑に頭を突っ込ませて動かなくなった。 「お返しだよ!」 シルキスが、動かなくなったモグラの頭目掛けてスピードラッシュを叩き込む。 「お、お仕置きなのね」 リトルのバトルアクスが、モグラの頭を叩き潰し、シフォンが止めを刺した。 「やっぱり、触手だった」 エスペシャルは呟くと、最後のモグラの頭にパタを突き立てた。体を大きく震わせると、モグラは動かなくなった。 「全部倒したなりか?」 シャルラハの問いに、キャロルが数える。 「2匹足りないっ!」 「潜られたかもしれないですぅ」 シャリアーナが言ったその時だった。背後で、次々に油樽が宙に舞った。レビルフィーダの仕掛けた油樽だ。レビルフィーダはその時を待っていたかのように、矢を放った。地面に落ちる前に、油樽の一つに矢が命中して空中で爆発する。だが、吹き飛んだのは油樽だけで、穴から肝心のモグラは出てこなかった。だが、穴から煙が立ち上り、レビルフィーダの仕掛けたたき火の煙が穴の中に充満しつつあった。 不意に、エスペシャルが足をすくわれた。その足元にモグラの首が食らいつき、エスペシャルを土中に引きずりこもうとする。 「シャル!」 畑の中に引きずり込まれそうになるエスペシャルの腕を、シフォンとシャルラハが慌ててつかんだ。もう1匹のモグラの頭が、そのすぐ側に頭を見せた。 「シフォンさん、危ないッ!」 シフォンの前に割って入ったロウハートを、モグラの頭が突き飛ばした。土の中に引っ込もうとする、首根っこをつかんだのはシャリアーナだった。 「くぉのー!!」 シャリアーナは、モグラの頭をつかんだまま剛鬼投げをしようとしたが、あえなく失敗し、モグラに突き飛ばされた。 「私を怒らせましたね」 ロウハートが、口からしたたり落ちる血を拭うと、大地斬を畑に叩き付けた。派手な土ぼこりがあがり、エスペシャルに噛みついていたモグラの頭が、慌てたように土の中に逃げ込む。さらに2回、大地斬を放つロウハート。気がつくと、モグラの姿は消えていた。腰まで土に引きずり込まれかけていたエスペシャルを、リトルとシフォンが引っ張りあげる。 「自分が、じゃがいもに、なった気分だ」 「誰か、癒しの水滴を持ってないの?」 キャロルの問いに、全員が首を横に振った。 「私なら、大丈夫。たぶん」 気丈に振る舞うエスペシャルが、痛みに顔を歪ませる。 「そういう問題じゃないよ!」 シフォンは自分の着ていた服の裾を引きちぎると、エスペシャルの左足に巻き付けて仮包帯とした。 「痛む?」 「少し。嬢、ありがとう」 シフォンがにっこりとした時だった。足元が揺れた。 「な、何か揺れてるのね!」 「モグラの本体が出るぞ」 トウマの言葉に、全員が身構える。 「みんなここから離れて下さいッ!」 ロウハートの言葉に急かされるように、畑の中心部から逃げ出す一同。背後で、何かが爆発したかと思わせるような震動と共に、畑の土が土柱をあげる。その様子に、弓を構えていたレビルフィーダが、呟いた。 「こんなの、聞いてないわよ」 土の中から姿を見せたのは、横幅8メートル近い、球根のような本体だった。どうみてもモグラにみえなかったが、本体には、確かに手足のようなものがついていることから、やはりモグラらしい。2本だけ残った首が、触手のようにうねりながら、冒険者たちを見下ろす。 「モグラの正体見たり!」 射干玉を放つトウマ。 「私の友達に怪我させるなんて許さない!」 怒りの形相で、モグラ本体に突撃するシフォン。 「シフォンサン、援護します!」 シャルラハが放ったエンブレムシャワーが、モグラの本体に次々と浴びせられた。畑の上で、巨体をのたうつモグラの懐に、シャリアーナが飛び込む。気合一閃、シャリアーナの拳が深々とモグラ本体に突き刺さり、爆砕拳がモグラの本体に大ダメージを与えた。次々と襲いかかるモグラの首を、キャロルはライクアフェザーでやすやすとかわすと、双頭剣でモグラを切り刻む。シフォンの怒りの一撃が、モグラに突き立てられた。 「シラヌイさん、危ない!」 シルキスが叫んだ。ハッとなったトウマの背後目掛けて、モグラの頭が飛んできた。かわせない、トウマは思った。だが、それをレビルフィーダが見逃すはずがなかった。放たれたナパームアローが、モグラを吹き飛ばした。 「わんしょっと、わんきるってね」 モグラは、再び畑の中にその体を沈めて逃走を計った。 「逃がすもんかっ」 シルキスが、畑に大地斬を放った。モグラが巨体をよじりながら逃げようとするところに、リトルが渾身の力でバトルアクスを振り下ろす。 「嬢、後ろっ!」 リトルに続いて攻撃をくわえようとしたシフォン目掛けて、モグラの頭が襲いかかってきた。エスペシャルがそれを見て飛び出すと、ミラージュアタックで叩き落とした。 「ヴァイスヴィルヴェルヴィント、参る!」 ロウハートの電刃衝が、モグラに命中した。動けなくなったところに、シャルラハのエンブレムシュートがさらに命中し、シフォンの一撃が、モグラに止めを刺した。モグラは、そのまま畑の真ん中で動かなくなった。 「やった、かしら?」 レビルフィーダが呟いた。 「か、勝ったのね」 へたり込むリトル。畑に転がるモグラの首を見て、泣きそうになるのを必死でこらえる。 「みんな無事ですか?」 パタを鞘にロウハートの言葉に、無言でうなずくシャリアーナ。 「脅威は去ったとみえるな」 「うん」 エスペシャルに肩を貸しながら、トウマの言葉にシフォンは笑顔を浮かべた。 「じゃがいも畑、しっちゃかめっちゃかにしちゃったけど、どうしよう」 「どのみち耕すんだから、これでいいんじゃない?」 心配そうなシルキスに、のほほんと答えるキャロル。 「みんな、帰ってじゃがいも食べるなりよ」 シャルラハの言葉に、シフォンがお腹を鳴らした。 「嬢、お腹すいてるの?」 エスペシャルの問いに、シフォンは真っ赤になり全員が笑った。
怪物モグランは、こうして冒険者たちの手によって倒され、ロポサ村に再び平和が訪れた。それからほどなく、ロポサ村の春祭りは滞りなく開催され、祭りを楽しむシャルラハたちの姿があったという。

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参加者:9人
作成日:2004/05/24
得票数:戦闘8
ほのぼの3
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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