虹の庭園



<オープニング>


 頬杖を突く窓辺。
 バルコニーから庭を見下ろし、館の主は何処か上の空でいう。
「虹が見たいなぁー」
「そこに見えているのでは、駄目なのかね?」
 傍らに立つ人影が、庭の中央で飛沫上げる噴水の、その端に淡く掛かる七色を指差した。
 少女と言って差し支えない容姿をした館の主と、その傍らに寄り添う……親子程も歳の開いた紳士。
 つまらなさそうな様子で髪の先をくるくると弄んでいた少女は、覗き込む視線を感じてか、跳ねる様に紳士へ向き直る。
「ちがうの。もっと大きな虹が見たいの!」
 お庭一杯の、おーきなおーきなやつ!
 背伸びをして、天に向けて両手を広げる少女。図らずも振り回されることになった腕を、紳士は少し身を仰け反らせてやり過ごす。
「んん、しかしだ。雨上がりでもそのように大きな虹は見た事がないぞ」
 曲げた身体を再びしゃんと伸ばし、紳士は考えあぐねるように自らの顎に手を添える。
 仮に見えたとて、大抵は遠く景色の中に紛れているものばかり。遠くに見えてあの大きさであるなら、もし、虹の出ているその場所に行く事ができれば……けれども、それは無理というもの。
 虹は、今の場所にいるから、あの場所に見えるものだ。
 触れる事叶わぬ、それは幻想の……
「だーかーら! 見たいのよ」
 ぷんすか、と言った様子で腰に手を当て、頭二つは違う紳士に背伸びして詰め寄る少女。
 参ったな、そんな言葉が容易に浮かぶ表情で、また僅かに仰け反る紳士。
 ……と、少女は溜息混じりに身を正すと、再び頬杖を突いて、庭を見下ろした。
「大きな虹が見たいなぁ〜?」
 その表情に浮かぶ悪戯っぽい笑みと、大きく青い瞳だけを滑らせて、意味ありげに投げかけられる視線。
 あぁ全く、困ったお人だ。
「仕方のない人だね君は」
 溜息混じりに苦笑を零し、天を仰ぐ自らの額に手を添えて、紳士は道化のようにくるりと回る。
「イケメン卿に連絡を取ってみるか……人を集めて貰おう。君の希望を叶えてくれそうな人をね」
 人智の及ばぬ事態にも、冒険者なら何なりと良い策を講じてくれるやも知れぬ。
 ……もっとも、この少女の場合は、無理を言って紳士が困る様を楽しんでいるようであり。
 一方の紳士も、その無理難題を叶えた折の、少女の喜ぶ様や、驚く様に、ささやかな幸せを見出してもいる様子で。
「頑張ってねー♪」
「本当に困った人だね」
「ふふーん、嫌なら別れちゃってもいいのよ?」
 踵を返した紳士の腕に、飛びつくようにして自らの腕を絡める少女。
 紳士は、悪戯な微笑を浮かべ上目遣いに見上げてくるその青い瞳を同じ青色の瞳の中に捉えて。
「その台詞は心臓に悪いからやめておくれ」
 苦笑とも諦めともつかない乾いた笑みを返すのだった。

 ――と、そんな微妙に惚気た話を語り聞かされ、微妙な表情を浮かべる冒険者。
 が、当の語り部、紺碧の子爵・ロラン(a90363)にも、微妙な表情が浮かんでいたとかなんとか。
「ともあれ、事の起こりは今話した通り。諸君に何をして貰うかは……もう判っているね?」
 庭に『大きな虹』を拵えること。
 ただ、それだけだ。
「館の構造は……まぁ、概ね『貴族の屋敷』と聞いて、君達が想像できるものだと思ってくれて差し支えないとは思う」
 表門から、屋敷の入口までは庭に敷かれた石畳を通って真っ直ぐ。途中に円形の噴水があり、その周囲のみ若干迂回することになるため、道自体は正確な直線ではない。
 噴水の位置は庭のど真ん中を示してもおり、表門と屋敷入口から見た庭の造りは、噴水を挟んで左右対称である。庭木なども、対象になるように植えられている。
 庭の殆どは芝生で、その中を、細い煉瓦の小道が続いている。左右、端から端までの距離は、およそ500mだそうだ。
 一方の『屋敷』――つまり、建築物の方は、本館・離れ共に二階建て。離れの位置関係から、左右非対称になっているが、彼女が庭を見下ろすバルコニーは館の『真ん中』にあり、庭を綺麗に左右対称に眺めることが出来る。展望については問題ないため、特に気にする必要はないだろう。
「それと。用意できそうな資材は、事前に申し立ててくれれば、『彼』が用意しておいてくれるそうだ。勿論、常識の範囲内でね」
 冒険者しか知り得ないもの、冒険者しか手に入れられないような物は、当然だが冒険者自身で用意するしかないだろう。
「私から言えるのは大体そんな所かな。あとは諸君の腕前に期待するよ」
 そう言って、ロランは……
 ……やっぱり、どことなーく、微妙な雰囲気の酒場を見回したのだった。

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参加者
雪舞小笑・エレアノーラ(a01907)
紅蓮鳳蝶・シャノ(a10846)
踊る蒲公英・イーシア(a11866)
麗滝の薬師・カレン(a17645)
蒼穹に閃く刃・ジギィ(a34507)
風を纏う赤槍・ウカスィ(a37777)
空游・ユーティス(a46504)
煌めく仔猫な爆裂少女剣士・ザッハトルテー(a62373)
夜天の極光・エルク(a63621)
翠旋・フェリル(a66648)


<リプレイ>

●紳士と少女
 冬の日差し暖かい午後。
 門を潜ってすぐ、右に左に辺りを見回す、踊る蒲公英・イーシア(a11866)。
「お庭が広いよぅ、これはやりがいがあるんだよう」
 まぁ、無いものねだりは妹で慣れてますと、蒼穹に閃く刃・ジギィ(a34507)が、当の妹・イーシアの背中を追う。
 華焔鳳蝶・シャノ(a10846)も、まだ見ぬ七色の橋を想像し、足取りは自然、軽やかに。
「ふふ〜、絶対驚かせてやるなの〜♪」
「こんなチャンス滅多にないですしね」
 作ってみせましょうの意気で、風を纏う赤槍・ウカスィ(a37777)も石畳を進む。
 一方で、出迎えに姿見せた二人組を遠目に、翠旋・フェリル(a66648)は。
「年の差カップル? まぁ……良くある話……だよね?」
「愛が在れば歳の差なんて……不老族の場合感覚が違うのでしょうけども」
 でもええと微笑ましいですね!
 と、麗滝の薬師・カレン(a17645)もちょっと棒読み気味だったりした。

 『庭』の下見を終えた後は、資材の打ち合わせ。
 少しでも力になれると良いけれど。
 夜天の極光・エルク(a63621)は先を促す紳士の後について歩きながら、好きな人のお願いを叶えてあげようとする献身的な態度に……惚れた弱みと言ってしまえばそれまでだけど。
 でも、何かしてあげたいって言う気持ちは、とても素敵だと思う。
 同じ気持ちなかどうだか知れないが、さっきから、虚殻・ユーティス(a46504)も春風満面の笑みを浮かべているし。
 駆け引きを楽しむ二人……それにしても、貴族の我侭って凄いねと、陽春の微笑媛・エレアノーラ(a01907)はソファに落ち着く依頼人に思う。勿論、花虹の庭園ができるなら、綺麗だから見てみたいのも本心。
 そんな中、煌めく仔猫な爆裂少女剣士・ザッハトルテー(a62373)は単刀直入に。
「で、謝礼はお幾らですの?」
 いきなりの大胆発言。
 ……とまれ、この時にはそれ以上のこともなく。
 虹を作るため、ユーティスは先ず皆で考えてきた三つの案を提示。
 庭の端から端にまで花を敷詰める案。
 大掛かりな噴水装置を作る案。
 鏡に虹を一杯映し出す案。
「宜しいでしょうか?」
 確認するように尋ねるカレンに、紳士は二つ返事。
「お花はお姫様が好きな種類がいいよう。知ってるかな?」
「あと、用意できそうなら小指位の色ガラス七色分も調達を頼んでいいですか?」
 どの位の量が必要かという問いに、イーシアとエレアノーラは大雑把な配置を用意された羊皮紙に書き付けていく。
 しかし、この寒い時期。あれだけの大きな庭を埋め尽くせるほどの花を、七色も用意できるのかどうか。
 だから、フェリルは、万が一に花が用意できなかった場合の代案として、硝子玉を使うことも提案する。
 続いては鏡。
「鏡は勿論、それを固定する為の……そうね、椅子か何か」
 伏せ目がちに、軽く腕を組むようにして零すエルクに、ユーティスも頷きを返す。
「背凭れのあるのがいいねー」
 これもまた、二人して羊皮紙に希望の形や大きさなどを書き付けていく。
 さてそして、一番難しそうなのが、噴水作戦。
 庭園に噴水を作れるほどの職人がいるなら、水を押し上げるような機構も容易に準備できるかと、ウカスィは期待したのだが。
 どうやら、昔からある機構を真似しているだけらしく……原理は判らないが、作ると水が出るから真似して色んな場所に作ってる、といった具合らしい。
 兎も角は、見なければ始まらないということで、実際にその機構を見せて貰うことに。
 鎮座する石造りの像を持ち上げると……中は空洞で、そこに水を押し上げているらしき装置が隠れていた。
 箱が三つ、高さを違えて配置され、それが順に細い管で繋がっているだけの、至極簡単な構造。
「中段の箱に多めに、下段の箱に少量、先に水を入れておき、最後に上段の箱に水を入れると、それがなくなるまで噴水が起こるのだよ」
「水を入れたあとは放ったらかしなんですのぉ」
「中に入れる水の配分を最初の状態に戻せば、もう一度噴水が起こる……と、言っていたよ」
 残念ながら原理を理解している訳ではないので、あとは教わった通りに動かしているだけらしい。
 ウカスィは箱の位置や、管の繋がり方を書き留め……更に揚水力を高めるために、なにやら書き足す。
 その他、水の運搬に必要そうな……竹筒や、それを固定するための様々な資材を、図案化の縮尺から逆算して決めていく。
「流石に中々大掛かりになってきたな」
「資材運びなどは、俺達も手伝います」
 ジギィの申し出に、有り難い、と紳士は頷く。
 その他、決行当日の気象の調査と、当日までの館への出入り許可を取り付けたところで、初回の打ち合わせは終了となった。
 最後に。作業風景を見てしまうと興ざめの可能性もあるからと、完成までは庭に出ないように注意しておいて欲しいと、フェリル、エレアノーラが改めて言い含める。
「完成を楽しみに……ね?」
「お嬢さんがバルコニーに来そうなら合図をお願いします」
 深く頷き、善処しよう、と返す紳士。
 ユーティスはふと……彼を困らせるのが楽しいなら、逆に庭に出たがるかもしれないねー、なんて考えてみたり。
「……ねえ。好きな人に弄ばれるって、きっと凄く気持ちいいんだよねー」
 人懐こく、それでいて悪戯っぽく笑って見せるユーティス。
 若干照れた様に咳払いを零す紳士に、また笑みを浮かべ。
「恋人さんとの馴れ初めとか惚気とか聞かせて貰えたらなーって。駄目ー?」
 これについつい応じてしまったがために、その後暇があると根掘り葉掘り少女との惚気エピソードを聞き出される羽目になろうとは、この時の紳士は知る由もない。

●夜景の庭
 『決行』の知らせが届いたのは、最初の打ち合わせから十日と少し過ぎた頃。
 少女が邸宅に篭ってから、皆はいよいよ作業に取り掛かる。
 腰に据えつけたランタンの明りを便りに、ユーティスは自らも交渉を行なって手に入れた、紫の花を運ぶ。
「見つかってよかったー」
 流石に冬場、フェリルの懸念どおり、花の数自体が少なく。特に、紫の花は一種だけという、中々厳しい状況。にも関わらず、この短期に相当数を用意できたのは……やっぱり愛の力かなーなんて。
 花は、館の庭師や使用人の意見、噴水の設置場所、フェリルの提案を取り入れて、同心円状に並べていくことになった。配色は中央噴水側から、紫、藍、青、緑、黄、橙、赤……の順。
 最も綺麗に見えるそれぞれの幅を相談し決定した配置図を元に、エレアノーラが区画ごとにロープを張る。
 この時に備えて、いっぱいお昼寝をしておいたイーシアは、頭上にホーリーライトを点灯させると、急いで小間遣いの土塊の下僕達を作り出す。
 鏡班のジギィも、同じように頭上にホーリーライトを灯して、これまた同じように土塊の下僕達を喚び出していく。
「不器用なイーシアでも、並べるだけの作業だから大丈夫そうだね」
「うん、お花を敷くのはボク得意かも♪」
 だってボクはこう見えても力持ちなんだよう、と、イーシアは下僕達を引き連れ、花の陳列に取り掛かる。
 フェリルもグランスティードの機動力を使って、迅速に広い庭を移動、花を運んでは置き、運んでは置き……
「結構……重労働かも……」
 それを補う為、最終的にはのべ138体もの下僕達が動員されることに。
 ただ、細かい作業には向かない。花の間に色硝子を配置しながら、エレアノーラは歪みを少しずつ整えていく。
 それを考えると、やはり『鏡』を運ばせるのは危険そう……
「じゃあ、先に椅子を運んで貰える?」
 積み上げられた、と言っていい枚数の鏡と椅子。エルクは先に椅子の設置を済ませようと、ジギィの喚んだ下僕達に指示を与える。
 鏡の配置は、大まかに三等分。正面は館と並行、両端を少し斜めにして、全体で大きな三面鏡になるようにするのだ。
 まずは屋敷と対面になるよう、壁際に一列。下僕が椅子を並べた端から、ジギィとエルクが二人して鏡を立掛ける。
 保護用の布はそのままに、段々と外壁沿いに並んでいく鏡。
「……この布は、このままでいいのかしら」
「ええ、霜が降りたりするかもしれませんから」
 鏡面が汚れてしまっては、元も子もない。
 言葉と共に返るのは、淡く漂うカモミールの香り。そして、その香りの主・カレンは、フワリンで資材を運んでいる所だった。
 その資材を受け取って、シャノは何処かうきうきした様子で、噴水装置の作成中。
「ふふ〜、実はこういう作業大好きなのよ〜♪」
 屋敷で見せてもらったものを参考に、大きな箱状の装置に竹で作った管を接続する。竹筒からは水が漏れないよう、麻布がきつく巻き付けられている。
「こういうカラクリは作ってて楽しいですなぁ」
 ウカスィも自身が手を加えた設計図を元に、噴水口が扇状になるように配置し……その諸々のからくりが見えないよう、噴水の裏側に設置する配慮も忘れない。
 この噴水装置は、準備期間中に粗方の作成を終えていたので、あとは組み立てるだけという状態。
 そしてまずは、基本となる装置の組み立てを終え。
「先ずはこれで不備がないか試しましょう」
「お水、入れてみますね」
「お願いしますわ」
 上段に注がれていく水。
 それが下段の箱へと流れ出して暫く。
「やった、出たの〜♪」
「おっと……こりゃ、合羽でも用意した方が良さそうですねぇ」
 結構な勢いで吹き上がり、降り注いでくる水を避けるように、三人は慌ててその場を退いた。

 ――その頃、屋敷内。
「初めましてですの。ザッハトルテーですわ」
 営業スマイルで少女に接するその目的は、ずばり、庭の様子を気取られない為。
 要は、少女の相手をして気を惹く作戦である。
 ……が。
「良いですこと? 真のお願いは自分も苦労してでないと手に入りませんの!」
 のっけから強引で強気な態度のザッハトルテーに、少女は明らかに怪訝な表情。
「オッサンを驚かすと更に虹も感激してみれますわ! 目には目をですわっ!」
 訳が判らないと、段々不愉快も露な少女に、付き添う紳士の表情も険しさを増していく。
 しかしザッハトルテーは構わず、今迄の甘ったれなガキからレディに変身してオッサンの腰を抜かさせてやりましょうと、失礼丸出しな提案をし始める。
「オッサン困らせて楽しむなら色んなアプローチして楽しみますのよ♪」
 確かに、気を惹くという点では、申し分ない……が、度を越えては逆効果。
「……出てってくれる?」
 冷たく言い放つ少女。
 だが、ザッハトルテーは応じないことを予測していたかのように、突如、幻惑の剣舞を舞い踊ったのである。
 無論、効果を受けて少女は消沈――だが、呆れ果て既に消沈に等しい状態にあった少女は、特に変化もなく。大胆な服装でのセクシーダンスで紳士を寵落させる振り……は、紳士側が未だかつてない強行姿勢で拒んだ為、全く意味がなかった。
 それならばと、放蕩の香りで……
「もういい、寝る」
 つかつかと、部屋を立ち去る少女。
 紳士も直様後に続き。
「……君は今後、出入り禁止だ」
 扉が閉まりあとに残ったのは、紳士の言葉と、紫煙に塗れたザッハトルテーだけであった。

 ――そうして、屋敷の明りが落ちる頃。
 鏡の配置と噴水の設置はほぼ終了し、後は花を敷詰めるだけ。
 一段落を機に、皆は休憩を取ることにした。
「おにーちゃん、お腹すいたー。甘い玉子焼きー」
 ひっついて催促するイーシアに、はいはい、と苦笑を零すジギィ。
「うん、美味しいよう♪」
「皆さんの分もありますから、どうぞ」
 口を開けてくるイーシアに卵焼きを放り込みながら、続々集ってくる皆にも弁当を振舞う。
 カレンも甘い物でも如何? と、持参してきた梨のタルトを取り出す。
「お酒もと言いたいですが、それは虹が出てからですね」
 和気藹々と夜食を済ませ。
 あとは花を敷詰めるのみ……
「ほら、もうちょっとだから……ね?」
 再びグランスティードを繰るフェリルの言葉に、皆も気を入れ直し、作業を再開するのだった。

●虹の庭園
 抜けるような青が、空を支配している。
「絶好の虹日和な晴れだよう!」
 大きな空をみてうきうき、イーシアは出番を待つかのように、三基用意されたふいごのような装置――手漕ぎポンプのハンドルを握る。同じように、シャノ、ウカスィの武人の極意装填組も、残る二基を握って出番待ち。
 全ては、噴水の水を庭一杯に広げる為に。
 夜間の作業を気取られぬようにと、フェリルが明け方近くから庭に張り続けていたミストフィールドが、まさに霧が晴れるかのように消えていく。
 少しでも、虹に祝福があれば。カレンは出番を待つ噴水装置を、ヘブンズフィールドで包み込む。
「よい虹日和になりますように……」
「どんな風になるのかしら……とても楽しみ」
 陽が昇り、エルクが鏡に掛けられていた最後の布を取り覗く。
 そして隣のバルコニーから、ユーティスが窓際の紳士に合図を送った。
 俄に踏み出す、小さな人影。
「ショーの始まりです」
 ジギィの言葉を合図に、フェリルは偉大なる衝撃を打ち上げる。
 バルコニーに出てすぐ、少女を迎える虹色の祝砲。
 その視線が光の消えた空から、再び地上へ動き……
「まあ!」
 昨晩からの不機嫌もなんのその、一夜で驚くべき変貌を遂げた七色の庭に、少女は瞳を丸くする。
 居並ぶ円環の虹。更には、その周囲に居並ぶ鏡が、三面鏡のように七色の花を無数に映し出し……花の隙間に隠れた硝子が美しく煌く。
 そして。
 お天道様お願いしますぞ! との念を込め、ウカスィが堰止めていた水を解放、一気にハンドルに力を込める。
 ぱぁっと、舞い上がる水飛沫。
 三人の一生懸命さも手伝い、水は細やかな粒子となって、庭に大きく降り注いだ。
 それは、ほんの数十秒のこと。
 けれども確かに、少女の目には……いや、太陽を背に庭を臨む、皆の瞳にも。
「絶景かな、絶景かな〜♪」
「すっごく、すっごくきれ〜なの♪」
 庭の端から端までを繋ぐ、七色の橋。
 喜んでくれると良いのだけれど。想い、振り向いたエルクの視線の先で。
「ご希望に添えたかな?」
「沿い過ぎよ、もう!」
 頬を膨らませ、けれど、それが本心でないことは、隠し切れないまでにほころんだ少女の表情が教えてくれる。
 噴水が止まり、虹が消え。
 けれども、庭には咲き乱れる虹の花。
「本当に綺麗な虹の花ですね。頑張ったかいがあります」
 エレアノーラもまた目を細め、庭にまで下りてきた二人を見つめる。
 お乗りになりますか、と召喚されたフワリンが、少女を乗せて七色の花の上をすいすいと渡っていく。
「お姫様は楽しんでくれたかなぁ?」
「大いに楽しんでおられるようですよ」
 寒さを吹き飛ばすような、明るい色彩の庭。
 少女をエスコートする紳士が、柄にもなくガッツポーズしている後ろ姿を偶然目撃して、ユーティスは虹に負けないくらいに明るい笑みを浮かべるのだった。


マスター:BOSS 紹介ページ
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参加者:10人
作成日:2007/12/16
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