【想い出】トオミフジ州オンコウの国〜年末年越し準備のお手伝い〜



<オープニング>


「お猿さん、ですか?」
「はい、そうです」
 ヒトの武人・カティ(a90054)はストライダーの霊査士・サコン(a90176)の細められた瞳を困惑の眼差しで凝視していた。
「あの、お猿さんといえばアン……」
「いやいや。彼女ですとお猿さん以上の被害を出しかね……いえいえ、ここから先は霊査士の私が言うべきではありませんね。そのことは、カティさんもご理解いただけていると思いますが」
「はぁ……」
 言外に、強敵を相手にした時の重圧を感じるカティだが……。
「そ、そうでした。確か、お忙しいってお話でしたよね」
 と、サコンに追従する。
 世の中、長いものに巻かれておかないと、ろくなことにならないのである。
「そうでしたか。では、心置きなくカティさん達に猿退治と荷物の移動をお願いできますね」
 サコンが語ったのは、トオミフジ州はオンコウの国。
 その地で年越しの準備を始めた村に、山から大量のサルが押し寄せてきたのだという。
 理由までは分からないのだが、年の瀬には男衆は町に出稼ぎに出ており、猿を退治するにも名うての狩人に頼まないと、誤って人を撃って怪我人が出ては問題となる。
 武士団達は山を越えて現れる妖怪の討伐などにも忙しく、全ての領民の悩みを即日のうちに解決する訳にはいかないというのが現状らしい。
 ちょうど、時間の取れる者達で行こうという話が持ち上がったところにカティが来た……というのがサコンに捕まって話を聞かされることになった真相らしい。
「芋類の食料を貯蔵してある場所が五十匹の猿の群れに狙われていますので、そこを死守、そして猿を何らかの方法で駆除してください」
 扇を取り出し、顔の前に広げて表情を隠すサコン。
「そうそう。猿退治は一瞬で済むでしょうから、その後のお手伝いを特に念入りにお願いできれば、良い思い出を残してこの地を去る事が出来るでしょうね。こちらの郷土料理を学ぶ機会でもあるでしょう。宜しいですか?」
「はぁ……」
 何となく、花嫁修業をして来いと言う依頼なのかなと、カティは心中で首を傾げるのだった。

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参加者
緑星の戦士・アリュナス(a05791)
緑薔薇さま・エレナ(a06559)
光纏う白金の刃・プラチナ(a41265)
吟遊詩人・アカネ(a43373)
不砥逸刀・ムネシロ(a47697)
ふわふわ綿毛のヒヨコ・ネック(a48213)
狂風乱舞・マム(a60001)
斜陽支えし鋼盾・ジェフリー(a60090)
青雪の狂花・ローザマリア(a60096)
緑仙・リッケ(a66408)
NPC:ヒトの武人・カティ(a90054)



<リプレイ>

 貯蔵庫の側にデンと置かれた大きな瓶。
 その横を通ろうとしていた村人が何やら驚いて跳ね上がり、瓶を指さしたかと思うと一目散に逃げていく。
 そっと耳をすませてみれば……。
「猿酒、猿酒、猿酒なのですぅ。病をぉ、さるぅ。怪我をぉ、さるぅ。不幸をぉ、さるぅ。薬酒ですぅ。今回はぁ、猿酒なのですぅ〜」
 地面の底から響く如き不思議な声。
 吟遊詩人・アカネ(a43373)の呪い(?)の歌に聞こえるのだが、実はこれは『どこかの本に載っていた単語』らしい。
 ほんの少し前までのアビリティでこれが猿に聞かれたら、色々問題というか、それだけで決着が付いたのではないかという、オドロオドロしさもあるのだが、歌っている本人は瓶の中。
「猿といえばアンジー殿……なるほど」
 コックンと、頷いて納得している光纏う黄金の刃・プラチナ(a41265)に、開いた口が塞がらずに焦るヒトの武人・カティ(a90054)。
「え、エレナさん、どうしましょう?」
「そうですねぇ。先ずは、お芋さんを食べ易い大きさに切ってから、油で揚げておきますわ」
「はい……って、エレナさん?!」
 真面目に頷いたカティがはっとなった時には、既に緑薔薇さま・エレナ(a06559)は『予め準備しておいた』袋を握りしめ、手当たり次第に猿に拳を叩き付けている。
「痛いけど死なない……と、言うよりあれは死ねないっちゅう方が正しいかもな……」
 不砥逸刀・ムネシロ(a47697)に至っては、猿の群れがやって来たのを人より早く気がつき『タスクリーダー』の効果で一斉に知らせた段階で在る意味観戦に入っていた。
 何故なら……。
「やり過ぎやり過ぎ、ストップ、ストップダよぉ〜!!」
 ふわふわ綿毛のヒヨコ・ネック(a48213)が慌てて止めにはいる。
「お、おや? 効き過ぎ……だね」
 魔緑と黒葉の紋章術士・リッケ(a66408)の『エンブレムシャワー』の一撃で、あっという間にお猿さんだった物が築き上げられています。
「えーっと……悪いけど、楓華のヒト達も生きるために必死なんだよ。君達と同じようにね……」
 一応、説得のようなことをしてみるリッケだったが、どっこいお猿さんには人間の言葉は通じない。
「次からは気高き銀狼で攻撃かな?」
 等と、リッケが考えていた横で、かけていたアビリティの効果がちょっと残念なことに、モノになってしまったので改めて『魅了の歌』で意思疎通を図ってみる青雪の狂花・ローザマリア(a60096)。
「喧嘩が厭は御互い様、ってことで。けど、困ってる人が居るというなら、其の限りではないのよ。悪いけど、帰って貰えないかしら?」
 納得以前の問題で、手当てで間に合うような怪我で済んだ猿は無事なものばかり。
「二度とここや他所の人里に現れないなら命は助けてあげるよぉ〜」
 ネックの提案もあって、頷いた一匹が他の猿達と何やら対話しているのを見ていた冒険者達は、恐らく冬の山から降りて来ることはないだろうなと内心頷いていた。
 早々に背を向けて走り出す猿目掛けて、ローザマリアは続けて声を掛ける。
「あんまり人様にメーワクかけると、武士サマが来るわよー? 覚えときなさい」
 ある意味、恐ろしい殺し文句である。
「……終わった、のか?」
「……簡単にノシちゃえたわ……ね?」
 斜陽支えし鋼盾・ジェフリー(a60090)がわざわざ仕掛けをしておいたのになと、無事に終わったことに安堵して良いのか、それとも余りの手持ち無沙汰加減に気落ちして良いのかと計りかねている横で、狂風乱舞・マム(a60001)は「エイ、ヤッツ♪」とか可愛らしく声を上げながら蛮刀を振ってみる真似をしている。
 彼女が手加減をして攻撃するよりも早くに、散り散りに逃げていく猿のお尻が、赤く村の橋を染めるのであった。
 どっとはらい。

●年越し準備
「芋を使った保存食か? 俺は干し芋くらいしか思いつかないぜ」
 早々に降参を宣言したジェフリーに、村人達の明るい笑い声が上がる。
「いやいや武士様。それで十分ですよ。ほら、こういう物も御座いますが……」
「ん?」
 茶器に入れられた鼻をくすぐる香りに、ジェフリーは唇の端を上げて笑う。
「成る程、成る程。芋を醸した酒があるって話を聞いたことがあったが、これが……」
「ウチのかかぁには内緒ですよ?」
 揉み手で内密にとジェフリーに頼み込む男衆に、台所の力関係を見た気がするジェフリー。
「一応、料理の方は師匠から色々習いましたけど、それによりますと……」
 首を傾げながら、新米店長・アリュナス(a05791)自分の教わった内容を丁寧に話して聞かせる。
「料理する時に調理器具は熱湯で、手は良く洗ってからアルコールで良く消毒し、調理は熱を良く通してなるべく濃い目の味付けを行うと日持ちが……」
 という、基本的な話だったが、奥さん達は手際よく調理していく為に残飯となるような部分は余り見受けられない。
 衛生面で言えば、ここ楓華列島の自然と共に生きる暮らしでの水と、大地に根ざして生きる生き方の方が数段上の様子だ。
「うん。やっぱり煮っ転がしとか……どうしても味は単調にならざる得ないのですけど……そうでなければジェフリーさんの言われた通り干し芋……うーん、良いレシピを思いつかないので、包丁ぐらいは真っ当に扱えるので皮むきもできますが……」
 と、奥さん達の作業を見ながらアリュナスは薪や水桶の置かれてある勝手口へと向かう。
 猿相手に振るわれなかった……いわば、余った力を程良く消費しないと、なかなかに厳しいと思ったからだ。
「行き場の無い力、私も解りますわ」
 おっとりした笑顔で頷いているエレナの横で、アカネが乾燥芋の作り方を唱えている。
「お芋さんをぉ、乾燥させればぁ、持つのですぅ」
「天日で乾かすのも在るけどね。長い夜を使って作るのは他の村で聞いたことがあるよ」
 年配のご婦人から頷かれて、アカネも同じように頷いて蒸した芋を澱粉と混ぜて伸ばし、細く切って天日で乾燥させたものを作る作業を手伝い始めた。
「お菓子も作ってみましょう」
 長い緑の髪を押さえて、芋花梨糖作りに掛かるエレナ。
「まずは、お芋さんを食べ易い大きさに切ってから、油で揚げておきますわ。ところで……」
「俺を見るなよ。そう言うのは、ようせんのだよなー」
 観戦に掛かっていたムネシロをにっこりと笑顔で封じるエレナ。
「花嫁修業邪魔するほど野暮やないしな」
 と、舌を出して見せたムネシロは平たい笊の中に広げて置かれた芋の山を持ち上げる。
「取り合えず、料理の知識と技術がない分は体を動かして穴埋めしとくわ。外に運べばええんやろ?」
「若いのに、よぉ判っとるな」
 武士といえど、家庭に入れば主婦には叶わないものなのか、言った手間、ムネシロは早速荷物運びに精を出すことになる。
「……さて。その間に、煮立てたお湯に砂糖を溶けるギリギリまで溶かしておきますの」
「をー」
 何もなかったかのように、鍋を取り出すエレナ。
 パチパチと、疎らな拍手はプラチナのもので、彼女も始まる前から既に『特に思いつかなくてのぅ』と、敗北宣言を出していた。
「いや、なに。他の方の準備や行動を全力で手伝わせて頂くのじゃ」
 グっと拳を握って見せるのは力強いのだが、今のところプラチナの情熱は鍋を置いた囲炉裏の火よりは役に立ってなさそうだった。
「お芋さんが揚がったら、お砂糖を溶かした鍋を火から降ろして……お鍋にお芋さんを気泡ができないように潜らせていって、お芋さんを砂糖で密閉した、長期保存食の出来あがりですわ」
 干し芋はアカネ達に任せて、歓談するエレナに……。
「ドリアッド様は料理がお好きなようじゃが、花嫁修業と言ったところですかの?」
「え? 花嫁……修業かって?」
 珍しく、言いよどむエレナ。
「ど、どうなんでしょう?」
「私に振られても判らないのじゃ」
 きっぱり言い放つプラチナ。
 心なしか、エレナの目には彼女が胸を張って自慢している風にも見えてくるのは、きっと助けのないことを恨む心情があったのだろう。
 たぶん。
「おお、そうじゃった。この地は冬の間雪深いと聞いておる。ならば、料理以外にも雪掻きや建物の補修、構わぬなら辺りで木を斬ってきて薪の備蓄を作ろうではないか」
 そそくさと、脱出を心見るプラチナの背に、主婦達の井戸端会議空間に閉じこめられたエレナの視線が痛い。
「動物除けの柵を作ったりするかの」
 そうすれば、時間は稼げるはずじゃからと、内心で安堵するプラチナ。
「ん? どうした。俺と同じで外で仕事か?」
 少し嬉しそうに話しかけてくるムネシロ。
 年かさのある主婦に囲まれても笑顔は引きつらせながら手伝っている彼にプラチナも小さく笑いが零れる。
「猿相手にも情けを掛けるのが、物言わずとも伝わるのやも知れんのじゃの」
 猿が来ても、子連れの母猿、そして子供は狙わないと誓言したムネシロの横顔を思い出していたのだ。
「ん? 何か言ったか?」
「さてのぉ?」
 腰を叩いて居たムネシロが振り合えると、韜晦してプラチナは薪拾いに歩き出す。

●井戸端料理?
「山登りの時に用意する物らしいけど、保存食って作るの大変なんだねぇ」
 リッケがここに来る前に覚えてきたレシピを思い出しながら作業を続けている。
「ん……ジャガイモ、タマネギ、ニンジン、にんにく少々にラードに……」
 不揃いだが、何とか切りそろえられたサイコロ状の野菜を肉とスライスしたニンニクで下拵えしている内に、お腹が空腹を訴え始めている。
 炭火で熱せられた鍋にラードを溶かし込んで、先にニンニクと肉を軽く炒めていた所に野菜を入れ、混ぜながら弱火でひたすら炒める作業を続けると、段々と家中に良い匂いが漂い始めている。
「ポテトチップや芋花林糖は知ってたけど〜」
 ネックが物珍しいと言った表情で覗き込んでくるのに、リッケは小さくガッツポーズ。
「お餅餅ついたり、おせち作ったりするのかしら? え、それはまだ先なの? 30日?」
 マムはお餅をついて正月の味噌汁の中に入れる風習を聞いていたのだが、餅搗きは晦日にするものだと言われて少し残念そうだった。
「と、なると……あ、火の番なら任せてね〜♪」
「……」
「……」
 ここにも、自ら離脱宣言をする人物が居たのに、エレナとリッケが凍り付いたように固まった。
「だって、お料理下手なのよね」
 さらっと言ってのけるのは、自覚を既に確信として持っているからだろうか。
「やっぱり、知っている他の人に聞くのが一番ね。お芋の上手なお料理のしかたとか、長持ちさせる方法とか色々聞いてみようかしら? きっと、色々教えて貰えて……」
 数瞬、明後日の方角を見てうっとりした表情になるマム。
「美味しいものが食べられそう♪」
「そっちかよ」
 既に、少し良い雰囲気になってきている男衆と一緒になっていたジェフリーが鎧もそのままに台所を覗き込む。
「まだ脱いでなかったの?」
 ローザマリアは料理の手を止めて、ジェフリーに向けた視線でどうしてと尋ねてくる。
「ま、折角だし……安心して年越せるようにしたいしね」
 彼ら冒険者の存在は、この楓華列島では『武士』を呼ばれている。その武士が危機に際して何時でも動ける姿で居ることは、ある種守られている安堵感を抱かせる筈だと力説するのだが、何だか非常に血の巡りが良さそうな表情のジェフリーに、ローザマリアは『そう?』と、首を傾げてみせる。
「ところでカティは、今日みたいな依頼じゃなくても料理とかする方? アタシは楓華の料理というと――甘酒以外は、あまりレシピは知らないのよね」
「きちんと決まったレシピは作ってませんよ。食材の今在る物を使って、味が可笑しくならないように組み合わせて料理する方ですから」
「ふぅん」
 楓華列島の料理を、地元の主婦達の横で見ながら、作りながら覚えるローザマリア達。
「あ、ちょっと待ってー」
 覚えておけないような部分や、美味しいと思った食材の使い方はメモに取りつつ、ローザマリアと女性陣の調理が終わりを迎える。
「良い匂いだな」
「完成したのじゃ」
「うー寒」
「ただいまです」
 その頃には、すっかり出来上がった男衆と一緒のジェフリー、柵を拵えて終わったプラチナ、外で働きづめのムネシロとアリュナスが襟巻きから湯気を上げながら帰ってくる所だった。
「美味しいわ。何と言うか、味わいがまた違って奥が深いわね。それなのに、もう去らなくてはならないなんて――残念至極だわ」
「どれ?」
 自分たちの手伝って作った料理を褒めちぎるローザマリアに首を傾げながら、リッケとエレナが菜箸で取り分けた料理を口に運ぶ。
「……そうですね」
「風味豊か、ですわ」
 隠し味は何だろうと、首を傾げるエレナ達に村の女性陣は楽しそうに、当ててみてご覧と笑って言ってくる。
「どれ……ん。良い肴になるな、これだと」
「……飲んでもないのに、そう言わなくてもいいんじゃないか?」
 ムネシロが、作業の傍らで盗み見ていた男衆と語り合うジェフリーの様子を思い出して苦笑する。
 楓華列島から霊査士が、冒険者達が退去する日も近い。
 だが、同じたき火を囲んで談笑し、同じ料理を美味いと言って食べて……。
 きっと、そこには通じ合うものが残る筈だと、信じられるある雪の日だった。

【おしまい】


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わからない
参加者:10人
作成日:2007/12/28
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