希望のとまり木〜冬の灯火〜



<オープニング>


 どなたかホワイトガーデンへ……『希望のとまり木』にご一緒してくれませんか?
 あの湖畔に暮らすエンジェルの子どもたちを、また訪ねようと思うのであります。

 え? ああ、そういえば、フォーナ感謝祭の時節でもありますね。そうですね、贈り物は何であれ、皆、喜ぶと思いますよ。でも自分は……、みんなでキャンドルづくりでもできれば、と思っていたのです。

 好きな色の、好きな形のキャンドルをつくるのは――思いのほか簡単なのですよ。いい香りのするアロマキャンドルもできると思います。日が暮れてから、たくさんの灯火をともしてみたら……、きっと、奇麗だと思いませんか?

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参加者
NPC:走る救護士・イアソン(a90311)



<リプレイ>


 いつでも、子どもたちは冒険者の訪れを心待ちにしている。かれらがやってくる日は、とくべつな一日で、楽しい遊びや、珍しいお話や、おいしい食べ物がいっしょに着いてくるから。
 スルクはわっと、子どもたちの歓迎に取り囲まれて、目を細める。
「来て下さったのでありますね、スルクさん」
「女神さまが降臨されたそうじゃが……女神のお顔も拝見してはみたいが、それより見たい顔があったということかのお」
 何度か訪れるうちに、覚えた顔が、どれも元気そうなのに安心する。ひっぱられるようにして『希望のとまり木』に迎えられたのは彼だけではない。イアソンはハーゼの姿をみとめた。
「世話になるな、イアソン。こっちはカロアとカルア。カロアは俺の――」
「いつも孫がお世話になっています」
 そう言ったカロアは、ドリアッドの、どう見ても十代の女性であり。
「ハーゼが孫で、俺が義弟。カロアは誰でも気に入ると家族にしちまうんだよ」
 と、カルアが注釈を入れたが、イアソンはどこまで理解しているのか、ただにこにこと聞いているだけで。
 メリーナがウィルカナと連れだってやってくる。ハーゼたちを見つけて挨拶するのもそこそこに、ウィルカナは花壇の様子が気になると庭のほうへ回った。さいわい、彼女の植えたスズランは、このあたりの気候に合っているようで、元気な様子であった。

 おりしもフォーナ感謝祭の時節。子どもたちに、と、贈り物をもってきてくれた冒険者もいた。
 デルヴィーンとリネットの姉妹は、それぞれくまのぬいぐるみに、リボンを添えて手渡す。彼女たちの家の決まりでは、このリボンを結んであげた日が、くまの誕生日になるらしい。
 それなら今日だね、と子どもたちが、さっそくリボンを結んで、くまの姉妹のお誕生会をはじめた。
 セイルと一緒に訪れたロッカは、自分が描いたという絵を持参する。そのランドアースの風景画は、とまり木の広間の一画――子どもたちやかつて訪れた冒険者の残した絵が飾られている壁に、新たに仲間入りするのだった。


 ペテネーラが、テーブルの上に道具を広げていく。型抜きを使えば、いろいろな形のろうそくが簡単にできるだろう。そして香りづけのための精油の数々。
 イアソンが、蝋のかけらを皆に配った。もともと色がついているものもあるし、白い蝋には、クレヨンを砕いたものを混ぜて色をつけることができる。
 まずは湯せんで蝋を溶かすことからキャンドル作りははじまった。
「溶けた蝋は熱いから気をつけて」
 ペテネーラは気遣う。火傷する子がいないように、作業は慎重に。必ず大人の冒険者がついてやるようにすればいいだろう。万一の場合は、そっと高らかな凱歌を歌ってやるつもりのペテネーラだったけれども。
 
「たくさんの色を何層にも重ねることはできますか?」
「そうですね、一層ごとに固まってから、次の層を流していけばどうでしょう」
 ロティオンの質問に、イアソンは答えた。ロティオンは虹のような七色のキャンドルを作りたいのだという。クレヨンを砕く作業をしていると、エンジェルたちがのぞきこんでくる。
「何色のキャンドルを作りましょうか?」
 オーロラが子どもたちに訊ねると、口々に好きな色の名前が挙がった。

「うまく、できる、かな……」
「大丈夫。そっと流し込んで」
 セイルに促されて、ロッカが型に蝋を流し込んでいる。たったそれだけのことだが、緊張して手が震えそうになるのを見て、セイルがそっと支えてくれた。
「芯が真ん中に通るようにして……このまま冷ませばできるよ」
 セイルが言うように、キャンドル作りは、溶かした蝋をそのまま、あるいは色や香りをつけたあと、型に流し込んで冷ます、というのが基本の作り方だ。型は適当な容器に入れてそのまま使用してもいいし、クッキー型や粘土で作った型で固めて蝋だけを抜き取れば、思い通りの形になる。固まってすぐの蝋はまだすこしやわらかいから、この時に手早くやればさらに好きなように形を整えることもできるし、あるいは完全に固まってから削ってみてもいいだろう。
「それは何の形?」
 マイシャが子どもたちの作品を見て訊ねる。
 エンジェルたちが好むのは動物や花などが多いようだ。星とか月というものもある。
「お兄ちゃんのはフワリンさんだね」
 子どものひとりがマイシャのを指して言った。
「え? そう見える? はは……」
 本当はグランスティードなんだけど、という言葉は飲み込む。
「上手に作ろうとしなくていいんだぜ」
 傍らで、子どもたちに教えている弟に、自分も習ったほうがいいだろうかと考える。――と、エンジェルがマイシャに、お菓子を差し出してくれた。礼を言って受け取るが……
「あ!?」
 触れてみると、ビスケットに見えたそれは、果たして、そっくりな形をしたキャンドルだった。
 くすくす笑い合うエンジェルとウィズを見て、イタズラの首謀者を悟る。
 とまり木の感想を聞こうと思っていたが、弟は、聞くまでもなく、十分楽しんでくれているようだった。

 レシーナにオルーガ、そしてヤマたちは、香りのついたキャンドルを作ろうとしていた。
 ヤマは白檀を使って白いアロマキャンドルを、オルーガはカモミールが香るハーブキャンドルを作る。
 オルーガが子どもたちに作り方を教えているのを、一緒になってレシーナも聞いていた。
 といっても、要は香りのもとを混ぜ込めばいいだけのことだ。
 どんな香りがいいか、子どもたちと順々に精油の香りを確かめていく。
 そして彼女はやさしい花の香りを選んだ。
「いい香り……」
 子どもたちがそれぞれに好みのものを選び取ったのを見て、表情をゆるめる。この香りが、みなの心をやさしくほぐし、癒してくれればいい、と。
「俺はローズマリーにするかな」
 グレッグストンは、精油を混ぜた、薄い紫色の蝋を、ハート型の枠に流し固める。
「ローズマリーの花言葉は、『思い出』やしね」
 出来上がったキャンドルを見るたび、ここのことを思い出すやろうから、と彼は語った。
 彼にとって初めてのホワイトガーデン訪問であるこの日の思い出を閉じ込めて、蝋がゆっくり固まってゆく。

「ん……」
 ファスティアンは、キャンドルが固まり切る前に、形成しようとしたが、うまくいかずに、ぐにゃりといびつな形状になってしまった。
「こうやるんだよー」
「……直してくれるの。ありがとう」
 エンジェルの中で、器用な子どもが、得意げに、手助けしてくれるのに、頬をゆるめる。
 ファスティアンは、オレンジピールをキャンドルに混ぜ込んでいた。オレンジの皮が模様のように点々と浮かび上がり、火を点ければ、オイルを入れた場合よりもごくほのかな淡い香りが漂うだろう。
「ん〜とな、ひまわりって花のキャンドルなんだ。ひまわりって知ってる? ここにも咲いてる?」
 マルクドゥは一緒に作っている子どもたちに自身の作品を見せる。なるほど、ひまわりといえばひまわりだが――、パンジーだ、バラだ、と言われればそのようにも見えるものだったが、明るい黄色があざやかな、奇麗なキャンドルだった。
 子どもたちの幾人か、とまり木の花壇にはないけれど、見たことある花だと言った。
「それって、フワリン? 上手だなー。灯りをつけたら、誰のがいちばん凄いかなっ」
 互いの作品を評し合うマルクドゥと子どもたちだった。


 シャルロは、オレンジを半分に切り、中を刳り抜いたものに蝋を注ぎ込んでキャンドルを作っていた。そして、刳り抜いた中身はといえば――
「さあ、どうぞ。……みんなで分けるのよ?」
 オレンジにリンゴやイチゴ、ブドウといった果実たっぷりのフルーツポンチがお目見えする。
 厨房では、ツキトが揚げパンを上げていて、香ばしい匂いが漂いはじめた。
 作業に没頭していてちょうどお腹が減りはじめていたところだ。蝋が固まるのを待つのを兼ねて、休憩の時間になる。
 火を使う作業もあるので、ごく幼い子たちは見学せざるをえない。コーガとシアは、かれらの面倒を見る役割だった。
「りりかる! 出動だー!」
 コーガが絵本を読み聞かせているのは、半ば、ツキトとシアに聞かせるためでもあって。
 なにもここへ来てまで、その絵本にしなくても、と思いつつ、諦め気味に息をつくシア。
 構わず、読み進めるコーガだったが、
「いい加減に黙れ」
 と、ツキトが、砂糖たっぷりの揚げパンをコーガの口に突っ込んで、幕となる。

 皆が持ち寄ってくれた差し入れもあったから、おやつの時間は、華やかなものになった。
 ハーゼたちや、セイルの手作りクッキーに、スルクのエッグタルト、ウィルカナはベーグリというくるみの入った焼き菓子が持ち込まれていた。
 イリヤは、アップルパイを1ホール焼き上げて持参したのを、切り分けて配っていく。
 それを終えると、子どもたちが嬉しそうにかぶりつく姿に目を細めながら、取り出したリュートを爪弾きはじめるのだった。
 イリヤの歌が流れる中、おやつを食べ終えた子たちと、冒険者との戯れがはじまる。
 この時期、寒くなるランドアースとは違い、やわらかな日差しの降り注ぐ庭では、ジークやヤマが、子どもたちと全力でおっかけっこをしていた。
 とくにジークは、そうしていると、とまり木の子どもたちの中にすっかり溶け込んでしまっている。
 草の上では、メリーナとウィルカナの連れてきたウリ坊とうさぎが、草を食んだり、昼寝したりしているのも、のどかな光景であった。
 グレッグストンは、子どもたちを背中に乗せて、四つん這いのノソリン役だ。
 ルニアが呼び出したフワリンも人気を博する。
 ここではいつも、冒険者たちがくると、こんな大騒ぎのひとときが持たれるのである――。


「フォーナ感謝祭……。この日は家族で過ごすもの、いつも別行動ですが、たまには良いでしょう」
 デルヴィーンは、妹の隣に座る。前には、姉妹が作ったキャンドルがある。デルヴィーンの作品は紅い薔薇をかたどり、リネットのは桜である。
 ゆっくりと陽は傾き、黄昏があたりを染める頃となった。いよいよ、各自が作ったキャンドルを灯してみようということに。
「それで。最近変わったことはありましたの?」
 紅薔薇に火を灯し、姉は訊ねた。
「……」
 桜花のキャンドルに横顔を照らされながら、妹は、
「……最近、気になる人ができました」
 と、小さく応えた。

 ひとつ、またひとつ、と……キャンドルに火が灯されてゆく。
 ハルヒが作ったのは、淡い黄色の、まんまるい形のもの。ちょうど、空に浮かぶ月を思わせるそのキャンドルに火を点けてみれば、混ぜ込んだ精油の、柑橘系の香りが漂う。ちょうど、彼が作って持参した差し入れのレモンゼリーに、火が映り込む。ゼリーを透かしてゆれる炎のきらめきは、見つめていると吸い込まれそうだった。
「キャンドルを見ていると……、不思議と心まで温かくなるみたい」
 メリーナが、ほう、と息をついた。
 ゆっくりと燃える灯火は、ざわついた気持ちに、落着きを取り戻してくれるような気がする。
「この光が……希望の光になればなぁ……」
 ロッカが、ちいさく呟いた。あまりにちいさな呟きだったので、聞き取れたのはきっといちばん傍にいたセイルだけだ。
 こんな小さな幸せが、これからもたくさんありますように。
 灯火に祈るロッカの手を、セイルはそっと握る。そして祈りの心を、そこに重ねて。

 しばし――
 誰もが言葉もなく、灯火の群れの中で、それぞれの思いに耽っているようだった。
 なぜこうも、キャンドルの炎は人の心を惹きつけてやまないのだろう。
 子どもたちもまた、うたれたように、キャンドルを一心に見つめていた。その様子を見守りながら、ルニアは、このあたたかな灯火が、子どもたちの心にも灯ってほしいと思わずにはいられない。互いを思いやって羽を寄せあえば、寂しい日もきっと乗り切れるから。
「私も家族がいなかったから」
 カロアが、テラコッタ色のキャンドルを見つめながら言った。
「暖かいお家にはずっと憧れていました。……でも気づいたのですよ。お家が暖かいのは、火を燈してくれる人たちが居るからなのだと」
「血が繋がってなくても――思いやる気持ちがあれば絆になる。その繋がりが、きっと、家族なんだよな」
 カルアが、言葉を続けた。
 ハーゼとともに、かれらが見つめるカロアのキャンドルは、まさしく、「家」をかたどった形をしていて。

 シャルロは、そのおもてに、わずかに翳りを浮かべた。
 誰かが気づいて、目で問うのへ、
「小さい子たちを見ていると、思いだすの。過去に……自分が守れなかった子たちを」
 と答えた。
「ずっと後悔してた。でも今日だけは……この暖かさに身を任せたい。皆が作った灯はこんなにも優しいのだもの。これだけの子たちが無事で……本当によかった。……よかったね、本当に」
 そう言って、そっとエンジェルの子を抱き締める。
 ファスティアンが、その言葉にそっと頷いた。
「昔みたいに、いつも風に揺られていられる平和な場所に……きっと戻るよね」

「オーロラさんのは、フローティングキャンドルでしょう? ロティオンさんのも、容器に入れれば水に浮かべられますよね。湖まで行ってみましょう。オルーガさんも、よかったら」
 イアソンが、そう言って、幾人かを招いた。
 いつのまにか、外はすっかり暗くなっている。
 道すがら、ところどころにキャンドルを置けば、ホワイトガーデンの夜を、幻想的な灯火が彩った。
「エンジェルさんと、世界のすべての人が幸せでありますように……」
 ロティオンが祈りの言葉とともに、水面へ、灯火を滑らせた。
 続いて、オーロラが、赤いキャンドルを浮かべる。
「どこかの地では、こんなふうに灯りを流して、過ぎ去った人たちを見送るんですって。きっと……先に行った方たちも、見ててくれてますわよね」
「ええ」
 イアソンは、祈るように、目を閉じた。
 事実、それは祈りだったに違いない。
 オルーガも、それに倣った。
 この一年を通して――冒険者たちはいくつもの別れもまた、経験したのだ。あとにはただ、誰かがいなくなってしまったことの、寂しさが残って。でも。
「ひとつでは寂しくても、多くが寄り添えばあたたかい。それは焔も、わたくしたちも同じですわ」
 オルーガは言った。
 岸辺から振り向けば、夜に浮かび上がるとまり木の建物まで、点々の灯火の道が、かれらをつづく。さあ、帰っておいで、と囁くように。

 リシャロットは、とまり木の厨房でシチューを煮ている。
 夜になれば、ホワイトガーデンとはいえ、冷えもするだろう。
 静かに灯火に見入ったあとは、また賑やかな食卓になればいいと思う。
 鍋の面倒を見ながら、なにげなく、窓を見る。すると――。
「まあ。……これもフォーナ様の贈り物かしら」
 ちらちらと、雪が、降り始めていたのだった。


マスター:彼方星一 紹介ページ
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作成日:2007/12/25
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