<リプレイ>
●丘 「高さの二倍の幅か」 木陰でティータイムをとる犬・スフェーン(a55609)はそれを見た瞬間、必要最低限のことしか言わなかった霊査士に対し心の中でつっこみを入れていた。 成人男性がぎりぎり抱えることが出来る程度の太さに幹から、枝とも触手ともつかないものが伸びている。 朝日に照らされている現在はともかく、夕方以降に遭遇したら気の弱い者なら気絶してしまうかもしれないレベルだ。 「独特な形状だね。依頼以外で遭遇したなら時間をかけて調べていたかもしれない」 生と死の調律者・ケイト(a63733)は実に興味深そうな視線を向けていた。 目の前の生物に美は感じないようだが知的好奇心が刺激されているらしい。 「これなら、大丈夫だ」 どこかの絵画の中から抜け出てきたような美形エルフが、冷たさすら感じられる美貌から想像出来ない程素直な動作でこくりとうなずく。 「何が?」 森に眠る風・リヴィール(a64600)は率直に、それでいて負の感情を一切感じさせずにたずねる。 「複雑な形をしていたら」 その容姿にふさわしい硬質な声で、しかし内心では己の口下手さ下限にちょっとだけめげながら、迷える金流・エリス(a66415)が答える。 「なーるほど。岩が複雑な形をしてたら簡単に傷つくどころか割れかねないもんね」 もともとリヴィール自信も気にしていたことだから、エリスの意図は容易に理解できた。 「人が寄りつかない場所に生えてても人を襲っちゃうんじゃあ、倒すしかないね」 灼熱の傷・サクミ(a08034)は鞘から剣を抜き、具合を確かめながら配置につく。 「木は木でもある意味自然から外れてしまった木だからね」 緑の髪を爽やかな風に揺らされながら、魔緑と黒葉の紋章術士・リッケ(a66408)はゆっくりとうごめく木に近づいてくる。 幹まで残り15メートル、残り10メートルと極めて低速で近づいていき、木が枝を伸ばせないと確信を持てた段階、残り8メートルの位置で停止する。 そして黒炎覚醒により呼び起こした黒い炎を全身に纏う。 「皆さん準備はよろしい?」 聖なる力をその身にまとう金翼の紋章術士・リュカリナ(a66079)が、輝く杖を掲げ皆に問う。 既に配置は完了し、リュカリナ自身も同じく回復役であるケイトと木を挟んだ反対側に立っている。 「ええ」 「いつでもオッケー!」 「……」 冒険者達は9人9様の言葉で、 リュカリナは実にお淑やかに微笑み。 「全力でブッ放しますわよっ!」 最高に元気に開戦を宣言した。
●10秒強の戦い 初撃は3方向からのソニックウェーブ奥義だった。 サクミの振った剣から、スフェーンが両手で操る双頭剣から、岩をねらい打ちにするような形で衝撃波が放たれる。 進路上の触手じみた枝を粉砕しながら衝撃波は突き進み、そのまま岩を通り抜ける。 「……弱」 鞘に細身剣を戻しながら、月花の翼・ウピルナ(a30412)は平然と木に近づいていく。 彼女の前には一本の道が出来ており、その先には真一文字に太い亀裂が走った太い幹がある。 木くずが舞う中を大量の枝が迫ってくるが、軽やかな足取りのウピルナの影にすら触れることさえできない。 「まぁ単体の強さだけならそういう相手だし」 木の意識は最も近づいてきたウピルナに集中しているらしく、彼女の周辺以外の動きがやや鈍い。 そこのこと知覚した彼は、自作の杖を両手で構え目を細めながら銀色に光る狼を放つ。 岩を再度覆うために動いていた枝のあたりに狼が突入して枝に食いつくことで、岩周辺の安全の安全が確保される。 もっとも確保できたとはいってもほんの数秒のことだが、冒険者達にとってはそれで十分だった。 「くらいなさ……こほん」 気合が入りすぎたかけ声をあげかたリュカリナが、こほんと咳払いをして高速で杖の先端で紋章を描く。 そこから打ち出された光の線が真っ直ぐに木々の間を走り抜け、木の幹に直撃する。 「行くのね」 独特な抑揚で呟いてから、鎧と盾を鎧進化奥義でさらに強固にした梵我一如・シスパァーニア(a62431)が幹めがけて突撃を開始する。 枝が彼女を足止めしようと慌てて動くが、彼女の足に絡みつこうとした時点で真横から飛んできたエリスの矢に貫かれ動きを止める。 彼女は幹までの距離を8メートル、5メートルと詰めていき、残り2メートルの時点で立ち止まることを余儀なくされかける。 木が反撃を加えてきたのではないが、純粋に枝の密度が高く移動が困難なのだ。 だがシスパァーニアが速度を緩めるより速く、複雑な軌道を描いて飛来した矢が太い枝を粉砕する。 「貫き通す矢が装甲をすり抜ける技ならよかったんだけど」 砕かれた枝をかき分け勢いを緩めず突進するシスパァーニアを見ながら、瀬を渡る緑鱗・ファシュナ(a69649)がほっと息をつく。 貫き通す矢は敵の防御を無視するとはいえ、ソニックウェーブとは違い岩にかすりでもすれば大きく傷つけてしまう。 そして攻撃アビリティ使用は基本的に全力攻撃であるため特定の部位をねらいうつにのには向いていない。 今回の狙った場所への命中はかなりの好運によるものだろう。 「そぉれいっ!」 大上段の構えからシスパァーニアが斧を振り下ろす。 ウピルナがつくった亀裂と重なるような形で斧が幹に食い込み、幹の中心からめきりという音が響く。 「そっちに倒れるなぁっ」 木がむやみやたらと振り回す枝に身体の各所を叩かれるのを甘受しながら、速度を最優先にリヴィールが駆ける。 幹から響く音が徐々に大きくなってきており、切れ目から上の木の傾きも大きくなり、要するに倒れかけている。 倒れる先には無傷で改修する必要がある岩があった。 「こういう木登りは」 機敏な動作で木を駆け登り、倒れる進路をずらすべく枝にぶら下がる。 「好きじゃないよっ」 そして岩からそれたと判断した時点で、枝の根元に鋭く指先を突き込む。 不気味にうごめいていた枝全てがびくりと震えたかと思うと、まるでこれまでの動きが嘘だったかのように力なく垂れていく。 「倒れるねこれは」 ケイトはのほほんと呟きながら、愛用の医学書兼魔道書を通じヒーリングウェーブ奥義を行使する。 敵の攻撃圏に入った仲間を援護するため延々癒しの技を使っていたのだが、もうひと頑張りするしかないらしい。 「(木だから倒したら倒れるってこと失念してたのねん)」 岩の前に立って盾を構えながら、色々まとめて倒れてくる木をぼんやりと眺めるシスパァーニアであった。
●フォーナ様といっしょ 「うむっ」 彫刻家が道具を片付けたのは、冒険者が戦いを終えた翌日の早朝であった。 「終わった?」 目のまわりに少しくまができたケイトがほっと息をつく。 この手の植物もどきが繁殖すること事例を知らない彼は、倒した木を燃やすまではないと思っていたのだが……。 彫刻家の方針で、夜間作業時の灯りとして燃やす羽目になっていた。 「こいううタイプのヒトがやる気になるとすごいねぇ〜」 リッケが朗らかであると同時に真剣な声色で感想を述べる。 今はただの気むずかしい作業着の老女にしか見えないが、先程までは1つの道に全てを捧げたある意味鬼そのものだった。 「まあ」 木と並んで夜間の照明だったリュカリナは、頭上の輝くリングを消してほっと息を吐く。 「慈愛を表現されたのですね」 目の前の石像から視線を外さずに彫刻家に賛辞を述べる。 降臨した女神フォーナとは明らかに異なる外見ではあるが、女神と同種の慈愛が確かに感じられる。 もちろんそれは錯覚であり目の前にあるのは石像でしかないのだが、慈愛と女神フォーナのイメージを表現しきった彫刻家の技は、たいしたものだあった。 「(今年のフォーナも…、あの人と…)」 相変わらず感情が読めない表情で石像を眺めているウピルナだが、最愛のひとのことを思っているらしく幸せオーラともいうべきものが確かに漏れだしていた。 「フォーナ感謝祭には人が集まりそうだね」 サクミは丘の中心に立つフォーナ像とその周辺を眺めてから、己の細い顎に指をあてる。 朝日に照らされるフォーナ像は一枚の絵のように様になっている。そしてこの像は人里の近くにあるのだから、元気の有り余っている恋人達がここを訪れるようになるかもしれない。 「相手がいるけどね♪」 シスパァーニアが口を挟む。 その言葉に悪気は全くなく、サクミも少しだけ苦笑して頷くだけだ。 「2人だけのフォーナはそういう人ができてからですね」 そういう相手がいないとはいえ、今すぐ欲しいというわけでもない。そしてそれはファシュナも同様だった。 だからフォーナ感謝祭は家族と過ごしたい……のだが、結婚を心配する家族はそれなりにうるさく、どうにも帰省しづらい。それ故かファシュナは真剣にフォーナ像に向かっていた。 「家族の守護者フォーナ様、あたしの家族にも平穏で幸せなフォーナ祭をお送りください」 「これからも、家族と一緒にいられますように」 リヴィールも手をあわせて目を閉じる。 女神フォーナに対する祈りであるかもしれないし、リヴィール自身に対する誓いかもしれない。いずれにせよ彼が今の『家族』に感謝し、それを守り抜くことに全力を尽くすのは疑いようのない事実だろう。 「今は祈ろう。世界じゅうの恋人たちが、素敵なフォーナ感謝祭を送れるように」 「うん」 サクミとエリスは恋人としてではなく同志として、共に祈りを捧げるのだった。
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参加者:10人
作成日:2007/12/21
得票数:冒険活劇4
戦闘2
ほのぼの8
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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