メイド以外は立ち入り禁止



<オープニング>


 貴族はその後継者に様々なものを受け継がせる。
 財、しがらみ、誇り。
 その中にはときとして特殊なものが混じることもある。

●一部を除いて立ち入り禁止
「何事にも限度ってものがあると思うのよね」
 エルフの霊査士・エスタ(a90003)は、謝罪の言葉で埋め尽くされた手紙を手にため息をつく。
「ごめんなさい。仕事の話を始めましょう」
 咳払いをしてから真面目な顔をつくる。
「ある土地で本格的な開拓が行われることになったのだけど、土地を提供する貴族というのが変わり者でね」
 正確に言えば貴族本人ではなく代々伝わる家訓が独特すぎるのだが、それは口にしなかった。
「こういう服を着ている人しか領地内に入れないらしいのよ」
 エスタはスケッチを示す。
 そこには男性用という説明付きの黒スーツと、男女兼用という説明付きのメイド服が繊細なタッチで描かれていた。
「開拓民に対して貴族が自腹で服を用意するのはいいのだけど」
 いやよくねーだろ、という声が聞こえた気はするがエスタは無理矢理無視して続ける。
「開拓の最大の障害であるモンスターを退治するときもこういう服を着ろと言ってきているのよ。ちなみにモンスターはこれね」
 別のスケッチを取り出す。
 そこに描かれているのは、骸骨状の頭部を持つメイド服装備の巨漢型モンスターであった。
「高さ3メートル。攻撃手段は両手と一体化している特大モーニングスター。モーニングスターを振り回すことによる近距離範囲攻撃と、人間ではあり得ない動きで繰り出してくる避け辛い攻撃が特徴ね。装甲も能力も高いレベルでバランスがとれているからかなりの強敵になると思う」
 見た目はお笑い系かもしれないが、実力は本物ということなのだろう。
「領内に入るときだけこういう服を着ていれば問題ない、らしいわ」
 エスタは手紙を手にとって少し自信なげに言う。
「戦うときは着ても着なくてもいいらしいから、戦いやすい恰好で倒してきてちょうだい」

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参加者
聖水の湖女中・シャワー(a01071)
奈落の薔薇・ナナ(a03991)
エンジェルの医術士・アル(a18856)
マリス・コーノート(a20807)
天照月華・ルフィリア(a25334)
赤黒眼の狂戦士・マサト(a28804)
光纏う白金の刃・プラチナ(a41265)
仁吼義狭・シリュウ(a62751)
黒金の風・エーベルハルト(a65393)
不羈の剣・ドライザム(a67714)


<リプレイ>

●それぞれの事情
「誠に申し訳ない」
 旧同盟領でもそれなりに長い歴史を持つ一族の当主が、10人の冒険者を前に深々と頭を下げていた。
 メイド服云々の風習を取り止めたいと思っているものの、歴史があり身内の数が多いため説得に時間がかかっているらしい。
 当主にしては若年の上婿養子という立場のせいでストレスが凄まじいらしく、20代前半にもかかわらず髪はかなり薄い。
「苦労してんだな」
 竜喰みの颶風・エーベルハルト(a65393)は、貴族にではなく商家の疲れ果てた中間管理職にでも向けるような目を向けていた。
「貴方の志を実現させるため、そして開拓民の為にもこの仕事果たして見せよう」
 既に黒服から革鎧に着替えた不羈の剣・ドライザム(a67714)が、精悍な顔立ちに力強い笑みを浮かべうなずく。
 この貴族の先祖の趣味について感想を述べたくもあったが、これ以上髪が減るとさすがに可哀相なので口には出さない。
「けど意外と似合うもんだな」
 先程前自分が着ていた黒服をつまみながら、赤黒眼の狂戦士・マサト(a28804)は彼には珍しいことに困惑の表情を浮かべていた。
 やや細身ながら狂戦士として鍛え抜いた彼の肉体は、余分な装飾をそぎ落とした黒スーツに見事に映えていたのだ。
「距離があるな」
 仁吼義狭・シリュウ(a62751)は先程脱ぎ捨てた黒スーツを一瞥すらせず、貴族から渡された詳細な地図を確認していた。
 メイド服にも黒スーツにも、好き嫌い以前に意味を見いだせない。
 戦場においては障害は全て切って捨てるのみなのだから。
「行って参ります。吉報をお待ちください」
 外見だけでなく雰囲気から立ち居振る舞いまでメイドに徹する奈落の薔薇・ナナ(a03991)の言葉を残し、冒険者達は貴族に別れを告げ戦場に向かうのだった。

●メイドなモンスター
「これでも重騎士、そう簡単には抜かせはせぬ!!」
 刀身部分のみで3メートルに達する大剣を、光纏う黄金の刃・プラチナ(a41265)は上方から叩きつけるようにして目の前の怪物に叩きつける。
 黄金の光をまとう刃はメイド服にも見える外皮にめりこみ、その下の分厚い筋肉に突き立ったところで動きを止める。
 プラチナは力任せに刃を引き戻し即座に距離をとろうとするが敵の反応は素早かった。
 残像を伴うほどの速度で振るわれた鉄塊が防護ジャケットに包まれたプラチナの腹を打ち、そのまま勢いを緩めず振り抜かれる。
「っ」
 痛みに吹き飛ばされそうになる意識を強靱な精神力でつなぎ止めるが、防具とあわせて着込んでいたメイド服はそうはいかず、被弾時の衝撃で原型をとどめない程に破壊されてしまっていた。
 先程まで頭上を舞っていた守護天使達がいなければメイド服だけではすまなかったかもしれない。
「……行きます」
 天照月華・ルフィリア(a25334)がほとんど音を立てずモンスターに接近する。
 視認が困難な程の速度で突きを繰り出し、防御する暇も与えずモンスターの顎を突き上げる。
「……」
 ルフィリアの目元が緊張でこわばる。
 防御を許さず直撃させたにも関わらずモンスターに有効打を与えた実感がない。
 文字通り見上げるような巨体を持つモンスターは、プラチナとルフィリアを力ずくで突破しようと突進を開始した。
「……ここから先は……通しません」
 その静かな口調とは逆に、空気を揺らす程の気迫と共に構えをとる。
 そして、独特の形状のメイド服を着た少女が、高さで倍、体積にして10倍近い巨体の突撃を真正面から迎え撃つ。
「……ぁっ」
 衝撃のほとんどを受け流すが、朧月謹製メイド服が強風に煽られたようにはためき、守護天使達が儚げに姿を消す。
 あまりといえばあまりの体格差のせいで押し切られようになった瞬間、モンスターの脇腹に赤い刃が激突する。
「メイドとしての資質をお持ちですね」
 巨大な存在にくじけず立ち向かうルフィリアに好感をいだいたのか、赤い刃の主は柔らかく微笑んだ。
 それと同時に全身の筋肉が躍動し、新たな外装がついた両刃斧を強引に押し込んでいく。
 そのまま刃がモンスターの脇腹を食い破るように思われたが、モンスターは致命打を食らう前にたくみに間合いを外して跳躍する。
「まあ」
 エンジェルの医術士・アル(a18856)は、新たな守護天使達を呼び出す手を休めず上品に声をあげた。
 メイド服にも見える外皮をひるがえしくるくる舞いつつ移動するモンスターは、中途半端に人間に似ている分人間そのものを冒涜しているようにさえみえる。
「ヴォイドスクラッチ」
 聖水の湖女中・シャワー(a01071)が白絹に包まれた指で指さすと、虚無の手がメイドもどきのモンスターを虚無の手が襲う。
 虚無の手はモンスターの頑強な外皮をものともせずその内部に直接ダメージを与えるが、モンスターは止まらない。
 モンスターとは正反対な清楚さあふれるメイド姿のシャワーに、暴力の象徴のような鉄塊が高速で迫る。
「ふふ」
 しかし鉄塊がシャワーに命中するより早く、新たな虚無の手がモンスターの真横から直撃する。
 その数瞬後には片刃の大剣がモンスターの右肩から腰の左側までを大きく切り裂いていた。
「視覚の暴力だな」
 シリュウは冷たく吐き捨ててからモンスターの腹を蹴り上げ、めり込んだ大剣を回収する。
 ヴォイドスクラッチ奥義が完全に効果を発揮していたため、シリュウの攻撃はこれまでの全ての攻撃に匹敵する程のダメージを与えていた。
「そうです。ご奉仕(攻撃)は優雅にするものですよ」
 優雅にくるりとターンし、先程の虚無の手を放った煙霧魔香炉マリス・コーノート(a20807)があくまで優雅な動きでモンスターとの距離を保つ。
 ふわりと少し持ち上がったメイド服のスカートに優しげな美貌、そしてそれら全てを彩る黒い炎。
 人によっては魂を捧げてしまいかねない妖しい魅力が全開であった。
「なんでモンスターまでメイド服……未練か。聖域が陥落したときに未練があったのかメイド服に」
 今回最初からテンションが上がっていないエーベルハルトが息を吐き、無骨かつ長大な巨大剣をひょいと掲げる。
 すると高速でシリュウ達から距離をとろうとしていた巨漢メイド型モンスターの顔面に、見事に衝突した。
「なんだかすごい展開ですわ」
 アルはのほほんと次の守護天使達を呼び出す。
 エーベルハルトやドライザムが血と汗と埃にまみれながらガッツソング奥義を使ってくれるおかげで、アルは護りの天使達奥義の行使に集中できている。
 その行動は一見派手でもない劇的でもないが、非常に効果的だった。
 護りの天使達の力だけではここにいる強力なモンスターの攻撃を無効化することはできない。
 しかし致命的な一撃を戦闘不能状態にならない程度の効果や、耐久力に特に優れているわけではない者の守りを厚くする程度の効果はある。その効果のお陰で回復アビリティの消費速度はかなりゆっくりしたものになっていた。
「戦い慣れてるってことかね」
 己の頭上に守護天使達が現れたことを感じながら、マサトはグランスティードを駆る。
 敵の移動速度はたいしたものだが、ここは見通しの良い平原でありグランスティードを駆るのに適した場所だ。
 冒険者の前衛達が不運に見舞われてモンスターの突破を許したときでも、容易にグランスティードで駆けつけることができた。
「ふぅ〜」
 血の覚醒改により心臓にかかる負荷さえ楽しみながら、荒れ狂う破壊衝動を律して己の力とする。
「せい!」
 放たれた一撃は、闘気が燃えさかっているようにすら感じられる黒の刃。
 その威力故に特定の部位を狙うことはできないが、高速とはいえ本能に任せた移動しかできないモンスターにかわせるような一撃ではない。
 側転しながらマサトの横をすり抜けよとしたモンスターの腹を、マサトの黒の刃が切り裂いていた。
「えい」
 とととと後退しながらシャワーがヴォイドスクラッチ奥義を発動させ、奇跡的に回復していたモンスターの守りを再び無効化する。
 その機を逃さず美麗な装飾を施された両刃斧が旋回させ、赤いグランスティードを駆るナナが倒れ伏すモンスターの背に深い傷をつける。
「すごく頑丈ですわ」
 前衛全員に護りの天使達奥義を行使し終えたアルがほっと息を吐く。
 腹部を中心近くまで削られたモンスターが最初と全く変わらない迫力を保ちつつ立ち上がったのだ。
 しかしアルは慌てず動かない。
 彼女は極めて強力な後衛であり、後衛である以上前衛に守られるのも仕事の一部なのだから。
「そろそろお休みの時間だぜメイドの先達さんよ」
 金のグランスティードでモンスターの間近を駆け抜けながら、エーベルハルトが巨大剣ドラッヘモルトを構える。
 併走する青のグランスティードの上ではドライザムが白銀の巨大剣を槍のように構えている。
 危機を知覚したモンスターは足のバネをため跳躍して逃れようとするが、それは完全に読まれていた。
「いかせるとおもうたか?」
 にっこりと微笑んだプラチナが巨大な刃を真横に振り抜く。
 その攻撃はモンスターの膝の裏をうち多少かがませただけだったが、それこそがプラチナ狙いだった。
 全力で突撃してくる2頭のグランスティードの前で動きを止めるなど自殺行為なのだから。
「どりゃぁ!」
「はっ!」
 エーベルハルトの竜のごとき咆哮と共にモンスターの片腕が宙を舞い、白銀の一閃と共にモンスターの胸に大穴が開く。
「一緒に踊りましょう♪」
 相も変わらぬ軽やかな足取りでコーノートが舞う。
 先程のように回避のためではなく、終わりをもたらすために。
 強力なモンスターにふさわしく一度は耐えたが、連続で行使されるフールダンス♪に耐えきれずモンスターが強制的に足止めされる。
「やぁぁぁっ!」
 そこにルフィリアが正面から駆け寄り、熱き魂がこもった拳をアッパー気味にモンスターの胸に打ち込む。
 モンスターはぐらりと体勢を崩し、体格の割には細い首を無防備にさらしていた。
「ふっ」
 シリュウの呼気と共に狼のエンブレムが陽光を反射する。
 振り切ったてのひらに確かな衝撃を感じたシリュウは、一振りしてモンスターの脂を振り落とす。
 彼の背後で、モンスターの頭が大地に転がる重い音が響いた。
「ジョーカー、切らせて貰った」
 彼が両手剣天狼を鞘に収めると同時に、モンスターは全身を崩壊させながら大地に倒れ伏すのだった。


マスター:のるん 紹介ページ
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参加者:10人
作成日:2007/12/22
得票数:戦闘7  コメディ2 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
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