心染めたる綾雪の市



<オープニング>


「フォーナって何なのじゃなぁ〜ん? おいしいものではないのかやなぁ〜ん?」
「どうしたのユニ、いきなりベタなボケ方して」
 寒そうにココアを啜っていた飛藍の霊査士・リィの冷静なコメントに、棕櫚煌火君・ユーフィニアはむっすりした顔を向けた。
「真面目に聞いておるのなぁ〜ん! フォーナは皆でちょっと豪華なご飯を食べる日じゃと思っておったらなぁ〜ん、マスターにそれは違うと言われたのなぁ〜ん!」
「あながち間違いってわけでもないけどな」
 酒場のマスターがグラスを磨きつつ、若いヤツが家でご飯たあ寂しいねぇと茶々を入れる。
 この辺りでようやく齟齬に気付いた霊査士は、ああ、と頷いた。ユーフィニアの知るフォーナは「ちょっと会場で遊んでから、お家で親しい人と過ごす」フォーナばかりで、精一杯のお洒落をして友達や仲間と出歩く、なんていうような過ごし方は知らないのだ。
「? どういうことなぁ〜ん?」
「あー、ええとね、家で特別なご飯を食べるだけがフォーナの楽しみ方じゃないって事だよ」
 その辺りを根気強く説明しつつ、リィは少し反省した様子でうな垂れる。
 思い返せばご飯以外、特にこれといったお祝いはしてないしプレゼントもあげていない。それに特に不満はないようだが、可愛らしい服や美しい飾りの類が嫌いなわけではないようだし、せめてフォーナ関連の市やイベントにでも連れて行ってあげるべきだったのではないか。
 暫く一人でうーんうーんと悩んでいた霊査士は、結局最も無難かつ真っ当な選択をした。
「よっし決めた! 百聞は一見にしかずって言うし! あのさユニ、今年はフォーナ用のお出かけ着を買いに行かない?」
「なぁん? お買い物かやなぁ〜ん?」
「うん。丁度近くの街で、服やらアクセサリやらを扱う店が集まった市があるらしいんだ」

 通称「雪綾の市」と呼ばれる数日限りの市は、街にとってはまさに一大イベント。
 街の名物でもある2本の白樺並木を用いた市で、 西の道は衣装を扱う店、東の道は装飾品を扱う店の為に開放される。
 一つ一つの規模こそ小さいものの、店自体もまた町の大工や細工師達が競って腕を振るうとあって実に完成度が高く、各店を彩る細工や仕掛けの数々を楽しみに訪れるものも少なくない。
 広場も美しく飾り立てられ、買い物の疲れを癒すための休憩所として解放されている為、開催期間中は昼夜を問わず街の中心が賑わうのだそうだ。
「ほほー、面白そうじゃなぁ〜ん、行ってみたいのなぁ〜ん!」
 黒い尻尾を揺らしてはしゃぐユニ。
 はしゃぎ過ぎて片っ端からびったんびったん倒されていく椅子。
 物音に気付いて訝しげに集まってきた冒険者にも同じ説明を繰り返すと、リィはにっこり満面の笑顔を浮かべた。
「良かったら皆も一緒に行かない? 煌びやかな市だから、見てるだけでも楽しめると思うよ」

マスターからのコメントを見る

参加者
NPC:飛藍の霊査士・リィ(a90064)



<リプレイ>

●西通り
 冬は日々深まり、行きかう人々の吐息は綿菓子のように白い。けれど幾ら厳しさが身に染みようと、傍らに誰かの笑顔があれば寒ささえも冬の楽しみ。それが親しい友人ならば尚の事だ。
「だめだめ、ちょっとは露出あった方が絶対綺麗! 肩出さなきゃ肩っ」
「そういうしゅりさんは脚出さないとだめっ、これとかこれとか!」
 互いを最も輝かせてくれる一着を求め、シュリとチェリートは色鮮やかな布地達を愛でて回る。お互い賑やかに駄目出しと薦めあいを繰り返した末、それぞれ友人が薦めた物の中から一着を選び取った。新しいドレスを纏った親友の姿を想像すれば、幸福な感謝祭の予感にますます笑みは深まる。
 別の店の前では、背丈について悩むウィルカナとメリーナの姿もあった。
「大人びた物は似合わないんですよね。ウィルカナさんくらい身長があったらな〜……」
「メリーナさくらいの大きさだったら、可愛い衣装さいっぱいあるから羨ましいだよ」
 同時に落ちる溜息と肩。だが次の瞬間、二人は顔を見合わせて笑っていた。買い物が終わったら広場でお茶にしようと約束して、ドレス探しの旅は続く。
 一つ一つ異なる個性と魅力を持った服の溢れるこの通りでは、一歩進むだけで次々目移りしてしまう。
「どんなドレスがいいか迷っちゃうですねぇ」
「じゃあ、折角一緒に見て回るんだから2人で選びっこしよ〜♪」
 楽しげながらも困った様子のシュライに、ヤシロが笑顔で提案する。無限とも思える程大量のドレスの中から一つを選ぶのは楽しくも難しいが、二人ならきっと最高の一着が見つかるだろう。
「ねぇ、ユニ。良かったら一緒に探しましょ?」
「う、うむ、なぁ〜ん!」
 ティルタの誘いに、案の定苦戦していたユーフィニアは一も二も無く頷いた。ティルタはユニの好きな色や型を聞き、似合いそうな幾つかを選んで示して見せる。自身も紅色のドレスを試着して感想を求めると、赤が一番似合うなぁ〜んと自信満々の一言が返ってきた。
「色は、淡いオレンジっぽいのがすきです。えっと、それから……」
 一通り求めるものを説明した後、気恥ずかしげにぼそぼそと言葉を紡ぐケイカに、セレノは緩く目を瞬いた。次いで愉快げに目を細める。
「では、君に着て欲しいと思うものを選べば良いのだね」
 暫し考えた末に、男は艶消しサテンを繊細なレースで彩った淡い柑子色のドレスを示した。

 売られているのは無論ドレスばかりではない。所狭しと並ぶ様々なコートの中から、セドナが礼服の上にも羽織れる品を探し求めている。大切な人に贈る物であれば、より気合も入るというものだ。
「もう少し高身長用の物があると助かるんだが……」
 アヅマが問えば、店員がすぐさま幾つかの箱を持って来てくれた。悪戯心に輝く瞳の奥、ただ一つの望みを秘めて青年は楽しげに品定めを始める。向かいの幼児服店では「楽器に着せる服は流石に……」と頭を下げつつ、店員がトールに変わった武器飾り屋があると話していた。
「やっぱり身内にだって格好良く決めて貰いたいと思うのなぁ〜ん」
「そうですよね! 決める時はピシっと決めて格好良く!」
 それにユーモラスも大事かなぁって、と呟く友人の声に、いつも似た格好の兄を思い浮かべていたマヒナは現実に戻って――途端に吹き出した。ミリアもつられて、淡白で人を寄せ付けぬ兄だからたまには、と笑う。紫のキラキラしたそれを見つめ、マヒナは笑顔で「きっと着てくれますなぁ〜ん」と頷いた。
 差し出された手を逆に引きながら歩いていたクラレートは、一件の店の前で立ち止まった。思わず手を伸ばした布地の暖かな色に目を細め、祝いの日までの毎日に得た温もりに思いを馳せる。
「ね、クレス。これ、あの子のお気に入りになれるかしら?」
「大丈夫、絶対に気に入るよ。喜ぶ姿が目に浮かぶなぁ」
 笑って頷きながら、クレスは身近にある幸福と人々に改めて感謝の念を抱く。この想いを忘れず日々を過ごせるのなら、それこそをきっと真の幸せと呼ぶのだろう。妻と手を繋いだヴァンアーブルは様々なドレスの中からリアに似合う一着を求めるが、あまり頓着のない彼女は積極的ではない。
「貴女は何でそう服装に無頓着なんですか」
 鎧は熱心に選ぶくせに、としみじみ呟く夫を軽く睨みながらも、リアは差し出されるドレスを試着してみせる。
 一人ぶらぶらと市を見物していたラティメリアは、自分の選ぶものが最近マンネリな事に息を吐いた。たまには人に選んでもらうのも面白いかと、偶々近くにいたセレノに相談を持ちかけてみる。
「ここはひとつ、セレノさん的私のイメージにぴったしの服を選んでくれないかな?」
「私で良いなら構わないよ」
 あっさり承諾して、しなやかさこそが君の魅力だろうから、と男は歩く度に美しく翻る布地を選び取った。
「私のパーティドレス選びを手伝って貰えないだろうか?」
 続けて声を掛けてきたユヴァの頼みも同様に受け入れ、柔らかな緑を基調に少しずつ色味を変えて染め上げたロングドレスを薦める。恥ずかしさを気合で堪えて試着室へと向かうユヴァの背に、充分愛らしいのだから照れる事はないのに、と可笑しげな声が跳ねた。

●東通り
 この季節の街は賑やかで、家に篭っているのは勿体ない。精緻な細工に尽きぬ興味と楽しげな視線を向けながらアクエリアスは力説する。
「……そう、例え風が独り身に冷たくても!」
 幸いな事に、市には独り身の姿も多い。好きな物を自分だけの為に買うことが出来ると考えれば、一人でいる時間もまた貴重に思われた。
「こう……赤い感じで、夕陽で炎で……って、あ!」
 世話になっている仲良い人への贈り物を探していたナオは、同じように市を眺めていた飛藍の霊査士・リィ(a90064)を見つけて急いで駆け寄った。改めていつかの湖の事で「有難う」と告げれば霊査士も嬉しげに笑う。続けて声を掛けたケールは、リィと初めて会った頃は冒険者になりたてだったからと今と昔を比べて語り、リィは素直に知己の活躍話を喜んだ。
「頑張ってるんだね。じゃあ、野菜嫌いは」
「野菜……! は、だ……大丈夫!」
 マヨネーズかければそれぐらい、と力むケールが選んだのはブレスレット。なにやらふくよかでテンションが高い店員さんも大プッシュしていたそれは、あらゆる意味で流石の一品であった。
 市の賑わいを見れば、幾つもの頬を赤く染める原因が寒さだけではない事は充分に伺えた。行きかう笑顔にフォーティスは笑みを零し、自らも琴線に触れた一品へと手を伸ばす。散歩ついでに親しい者へ贈る品を捜しつつ、道行く人を眺めるルワの顔にも笑みが浮かぶ。
 予想通りに混み合う市場を、ジーンとエフェメラは手を繋いで見回って行く。これだけで酷く安らぐ自分に驚きながら、エフェメラは揃いのピアスを示した。
「これなんて、如何?」
「ん、宜しいかと」
 彼女の瞳とピアスにあしらわれた紫の石を見比べ、ジーンは笑みと同意を返してオレンジ色のピアスを手に取る。そういえばこれは初デートになるのか? と問うエフェメラに、にこやかに頷くのも忘れない。
 スタインは恋人に贈るアクセサリを探しながら、遠い異郷に眠る人を思い浮かべていた。この時期になるとナンパがどうこう煩かった彼は、きっとあちらでもあんな感じなのだろう、と久方振りのランドアースで一人笑う。
「双剣用のだから……2つで1組になってるやつがいいかな?」
 様々な組み合わせや形の装飾品の中から一つを選び取ったセイレムは、宝箱のような市でようやく巡り会った品に頬を緩めた。
 市全体が宝箱なら、並ぶ店舗は宝石箱やびっくり箱か。細かな彫刻の施された柱や陳列台、紐を引くと看板の小人達がキャッチボールを始めるちょっとしたからくり仕掛けなど、訪れる人を楽しませる為の工夫が随所に見られる。
「おい、これ見てみ!」
 ベルーの声に、ひっそりと友人を観察していたヴィトーは我に返る。指差された看板を見上げれば、ちょこんと顔を出した木彫りのリスが尻尾を振って引っ込んで行くのが見えた。出て引っ込むだけの仕掛けだが、あちこちから顔を出す木彫りのリス達は中々愛らしい。
「品だけでなく店自体も楽しめるとは嬉しいな。そういうのかなり大好きだ」
 思わず店先で笑みを浮かべると、若い店員が嬉しそうに礼を言った。話ついでにヴィトーが手に取る品を、今度はベルーがこっそり観察する。
「気に入ってもらえればよいのだがな……」
 レクレティアは風変わりな趣味を持った義弟にと選んだ品を抱き、言葉とは裏腹に微かな笑みを浮かべた。
 周囲の視線を少し気にしつつも、無心にユディールが見つめるのは煌く花達。儚くも潔い在り方に憧れ、その命を守れる強さが欲しいと願い少女は手を伸ばす。

 一つ一つ真剣に手に取り見比べた末、納得行く品を得たウィーはつと冬の空を仰いだ。盾であり続けるだろう心優しい戦人を脳裏に浮かべ、良い年が迎えられるよう手中の守りに祈りを込める。
 アクラシエルは誇り高き狼に似た恩ある人に相応しい品を探して、真剣な顔で幾つものシルバーの店を覗き込む。ハルジオンは派手ながら紳士で愉快な同業者が、戦場でも己が姿を確かめ整えられるようにと気遣った品を選んだ。ロカは最近落ち込みがちな友人の励ましになるものを求めて真剣に悩み、エリザベスは大好きな相棒を守ってくれるようにと選んだ品を手に家路を急ぐ。
 こうして深く誰かを想い選ばれた品々は、何れ声にならぬ想いの代わりを果たすのだろう。
 イクセルは長い間会えないでいる恋人が髪を結い上げる姿を胸に、似合う色より身につけて欲しい色を選び出した。忙しいのは知っているから、せめて頑張ってと伝えたい。ビックリしても喜んでくれたらえぇねんけどなぁ、と呟きつつヨシノはブローチを眺める。
「やってんなァ」
 活気溢れる市の風景は一人でいても心躍るものだ。楽しげに呟いてイサヤは一軒の店へと足を踏み入れ、空に憧れ持つ彼女にはどれが良いかと店員に相談し始める。イエンシェンは延々と思い悩んだ末にようやく選んだお守りを大事そうに抱えながら、これが少しでも争いを厭う優しい彼の人の助けになれば良いと願う。
「えっと……、どれがいいんだろう……?」
 誰かにプレゼントをするという行為に慣れぬレイムは、時間をかけてゆっくりと見て回った末に一つの髪飾りを手に取った。様々な逸品が誇らしげに煌く中、アイギールの目を引いたのは天使とセイレーンに似た少女のシルエットがトップのラヴァリエール。偶然に目を細め、愛しい人を思いながら迷わずそれを買い求める。
 あちこち見回って幸せのお裾分けを貰った後、自分用の武器飾りを探していたハーシェルは大いに迷っていた。そこへ丁度良く通りがかったリィの裾を捕まえ、くいくい引っ張る。
「リィさん助けてくださいなぁ〜ん」
 困り顔で事情と欲しい物を説明し、選んで貰ってもいいか訊ねると、霊査士は「いいよ、一緒に探そう」と笑って頷いた。掴まれた裾はそのままで歩き出し、はぐれないようにと時折確かめるように振り返る。
 家族ではないけれど家族も同然な、あるいはそれにも増して大切な人へのプレゼントは、やはりこっそり用意しておいて驚かせたいもの。常とは違って一人で市を見回っていたフィードは、まだ探し物中らしい霊査士を見かけて眦を緩めた。呼び止めて挨拶を交わし、フォーナはどのように過ごすのかと聞けば「ええと、家で食事の用意かな」と平凡且つ悲しい答えが返される。
「どの人にも温かく身体に染みて、それでいて煌めいてるような。そんな日になると良いですよね」
 ある意味らしい応えに笑ってから、フィードはしみじみと来る感謝祭に想いを馳せた。

●綾なる雪が降る頃に
 各々溢れる色彩と煌きの海を泳ぎきり、殆どの者が目当ての品を手に入れる頃になると太陽はかなり傾いていた。
 買い物の疲れを温かな飲み物で癒しながら、フューシャとリズロアの二人はこうして出かける事は珍しい、などと他愛ない会話に花を咲かせる。
「……ところで、どういうのを買ったんだ?」
「ん? それは内緒」
 笑って応える義弟に、リズロアも頷いて小さく笑った。互いに誰宛のものか薄っすら気づいてはいるけれど、当日までは内緒にしておこうと密かに誓う。
「じゃ、お互い秘密って事で、な」
 これもまたフォーナのお約束。
 橙色に染まった広場には夜を迎える為の燈火が灯され、買い物を終えた人々は残る時間をそれぞれに過ごす。
 友達と戦利品を見せ合う者。
 嬉しげに何処かへと駆けて行く者。
 仲睦まじく寄り添って家路を辿る者。
 多くの笑い声が冷えて行く空気を優しく揺らし、やがて紺に染まった空には清かな星が瞬き始める。

 ――どうぞ良いフォーナを。
 ――どうぞ素敵な感謝祭を。

 燈火に彩られた市に、家路を急ぐ冒険者達の頭上にひらひらと白が降る。
 舞い散る粉雪とともに零れた月光は、一足早い祝福を贈るかのように優しく地へと降り注いでいた。


マスター:海月兎砂 紹介ページ
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参加者:47人
作成日:2007/12/23
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