<リプレイ>
●ネイジュフルー城の休日 雪の降り積もる地に、感謝祭の夜が訪れる。 背を大きく晒した漆黒の夜会服は、白と黒で覆われた彼女を更に惹き立てた。言葉に詰まりながらも綺麗だと告げれば、さんきゅ、と彼女は笑いながら夜会巻きにした髪を確かめるように首筋へ触れる。着せられた印象の拭えない礼服姿のエーベルハルトを一瞥し、偶にはそういう格好も良いじゃねーか、と朗らかに言葉を続けた。 杯を傾け過ぎ行く年を想い、ふたりで作った薪を模すケーキを最後に頂く。 「……すぐ調子乗るし、機転も利かねえし」 出来ることは少ないけれど、と彼は長く息を吐いた。それでも彼女の傍に居たいのだと言う彼に、細かいことに気を遣うな、と彼女は僅かばかり笑みに照れを混ぜる。 「俺も傍に居て欲しいし、な」 そう紡げば微かな躊躇いを交えて彼に肩を抱き寄せられ、彼女は常と変わらぬ余裕たっぷりの微笑を浮かべて見せた。 サロンでは飛び切り穏やかな時が流れている。 誕生日祝いの機を逃したのだと紡ぐリツに、気に留めてくれていたことが嬉しい、と幸福を齎す女・ベアトリーチェ(a90357)は微笑んだ。差し出された手の甲に口付けを落とすと言う、普段通りの挨拶を王女と交わした後、リューは今宵の為だけに用意した旋律を奏で始める。心に染み入るよう願う彼が紡ぎ出す、美しい輝きを限られた間のみ咲かす音を、王女は穏やかに笑んで聴いていた。 王女へ労わりの想いを向けていたドライザムは、自身は人の生き様に惹かれるのだ、貴女の生き様を見聞きして心惹かれているのだと不意に表情を改める。王女は笑みを僅かに深め、生き様に惹かれる貴方はわたくしのものに限らず惹かれるのでしょうね、と確かめるような口調で答えた。 紫紺の布に銀糸を織り込んだ衣装を纏うオリエは、少し不安げな様子でティアレスを見遣る。特に反応せず野菜とチーズを挟んだサンドイッチを平らげる彼に、約束を無事にひとつ果たせて良かったと嬉しげに礼を言う。 酒の注がれたグラスを片手に、やはり此方の冬は珍しいのだろうかとダリスは尋ねた。 「ランドアースに来るまで、雪を見たことが無かったの」 綺麗な庭園を見渡せる部屋もあるだろうから、城の内部を探索してみないかとグリンダは閃いた様子で提案する。彼もまた面白そうだと笑んで頷き、ふたりは和やかに語らいながらサロンを後にした。
高い踵で慎重に階段を昇るリディアへ、可愛らしくおめかしをしているから、と彼は導くように手を貸した。昇り切り至る塔の上からは、針葉樹の森に佇む城からのみ臨める光景が広がっている。藍色の夜には白雪の煌きが良く映えた。感激に瞳を潤ませる彼女が冷えぬよう、その肩へ自身の上着を羽織らせながら、シャオリィは彼女が喜んでくれたことを嬉しく感じる。 「あのね。アレクはわたしの『還る場所』なの」 特別な存在を見詰め、大好きだよ、とヤマはお守りを握り締めた。雪のように白い衣装で身を包んだ彼女を見返して、ありがとう、と浮かべた戸惑いに微笑みを重ねる。遥か彼方まで続く世界を、彼女が駆けて行くことになるのだろうと想いを馳せた。 「ヤマがそう望むのならば、いつでも此処に帰ってくるといい」 待っているから、とアレクサンドラは笑んで彼女の頭を撫でる。 声を掛けようかと思案していた対象が欠席と知れば早々にサロンを出て、イグニースもまた塔のひとつに足を運んでいた。はらはらと天より舞い落ちる淡雪は柔らかな天使の羽根を彷彿とさせる。過ぎ行く年の終わりと刻むには相応しい美しさだと目を細める。
寒さを阻むよう金の毛皮を巻いてやれば、懐かしい、と彼女は笑った。 手を繋いで歩きながら、思い返すようにケネスは語る。未熟ゆえに至らぬ点も多い――彼女は目を瞬いて否定した――が、春の日に告げた言葉を違えるつもりは無い。 「貴女の夢を、俺が叶えると誓いましたから」 ぬくもりを与えるように抱き締めて囁けば、如何すれば良いか判らないくらい幸せ、とフラジィルは微笑んで甘えるように目を閉じる。 滑らないようにと差し出された手を取り、転んでも絨毯代わりになってくれるんでしょう、とクラレートは悪戯っぽく瞳を輝かせた。雪の降る様は澱が沈んで澄むのに似ている、と彼女は透明な空気に覆われた夜空を見上げる。冬も雪も決して好ましくは無かったけれど、とクレスは不意に呟いた。 「クラレートとの距離が縮まるなら冬も悪くないかもね」 その横顔を少しばかり意外そうに見遣り、小さく囁きながら彼に身を寄せる。傍で同じものを目にするだけで、ぬくもりが伝わるようで胸が跳ねた。クレスも同じねと静かに微笑む彼女の姿に、照れも交えながら彼は心からの感謝を伝える。名を呼んでくれる人が傍に居るから、心がこんなにも温かい。 王女と擦れ違う折、ズィヴェンは黒と灰で彩る装束の胸元に手を当て、リシャロットは金刺繍が施された白いドレスを軽く摘んで一礼した。氷像に見惚れながらも寒さを凌ぐようにショールを寄せた素振りに、これなら寒くないだろう、と彼は笑って背後から彼女を抱き竦める。 「……ありがと」 驚きに小さな声を上げるも、身を緩めつつ彼女は答えた。彼は楽しげに目を細めて、遠慮がちに身を預けてくる彼女の、上気した頬ばかり見詰めていた。 ルニアは王女に手を貸して、召喚したフワリンの背に乗せる。寒くないよう自身の外套を彼女の肩に掛け、僕は大丈夫です、と毛糸の手袋を示して繰り返した。ベアトリーチェは顔を綻ばせて、これなら寒くないでしょう、と外套が落ちぬよう気遣いながら彼の身体を抱き寄せる。目を白黒させながらも用意していた言葉を何とか吐き出せば、特に言葉は紡がないまでも王女はくすくすと楽しげに笑った。
●雪花の夢境 城の最上階にある月光が差し込む美しい部屋で、ゼオルはコトに向かい合う。 「血涙流れる戦場でも、華の香り漂う夜闇でも変わりませぬ」 貴女が居るから自身は在るのだと、愛するからこそ立ち向かうのだと細い身体を抱き寄せた。異国の地が齎した出会いは、彼女に何よりの幸福を生む。優しい腕に身を委ね、広い背に手を回し、傍に居ますと囁き返した。必ずや戻ろうと彼女を離さぬと告げれば、彼女は小さくかぶりを振る。故郷と別れ生きる道を、彼女は既に選び取っていた。 「貴方様が戦場を駆ける時も、どうかお連れ下さいませ」 ならば最期の時まで貴女を抱き締めよう、と彼は祝福の夜に誓う。 白い部屋の中で、幸せが怖く思えたことが時折ある、とユズリアは語った。彼の手を包むように両手を重ね、例え目に映らずとも幸せは消えず心に在り続けると知ったのだ、と言葉を続ける。自身にとって幸福そのものであるような彼を見詰め、愛しています、と彼女は恥ずかしそうに笑みを浮かべた。シルフィードは悪戯に彼女の手を引き、間近から静かな眼差しを返す。言葉が吐かれる前に唇を重ね、ただ彼女が傍に在る喜びを示した。 火をくべた暖炉がぱちぱちと音を立てる。 テラスで雪景色を眺めていたセラの肩に、風邪を引くよ、とヨハンは外套を掛けた。彼もまた眼下に見える冬の夜を見遣り、そして白椿を髪に飾る彼女を見遣り、「綺麗だね」と柔らかく微笑む。ふかふかの絨毯が敷かれた部屋に戻り、どちらからともなく視線が合わさればセラは静かに目を閉じた。彼は閉じた窓に重たいカーテンを引くと、抱き寄せた彼女にそっと顔を近付ける。 大きな窓から世界を見渡し、美しさにうっとりと溜息を吐いた。 彼の背から凭れるように身を預ければ、彼もまたぬくもりを愛しむようにエルの手を握る。 「おやすみ、愛しいエル」 ふたりの幸せを包むには充分な大きさのベッドに入り、感謝祭の夜を共に過ごせることを言葉通りに感謝した。シェードからの優しいキスは目を瞑ったまま受けて、満たされたまま腕の中で眠り行けることが幸福だ。目覚めの瞬間にも愛しい人の顔があるのだと思えば、それは尚更に幸せなのだ。 恋人たちが藤の花鍵で部屋に至れば、物語で見聞きするような内装が迎え入れた。 「とても素敵ね。まるでお姫様になったみたい」 嬉しげに微笑むレラの手を取り、ガイは恭しく手の甲へ口付けを落とす。 「お前は『お姫様』さ。俺にとっては、な」 何物にも換えられぬ、ただひとつの輝きだ。 淡紅に染めたドレスを纏う彼女の身体を抱き上げ、天蓋付きの寝台へ運んだ。愛していると尽きぬ言葉を足りぬように繰り返し、藤の花の示す通り、彼女とのひとときこそ己の至福だとガイは愛しげに瞳を細める。彼と共に在ることをレラが恐れることはなく、ただ幸せの証だと染み入るように実感出来た。彼は「すべて」だから、自分のすべては彼のものだ。 蝶の鍵を手に、わくわくします、とネフィリムは笑んだ。 萩の花が導いた部屋は、落ち着いた色調で何処か故郷の陽射しを思わせる。木製の造りは森の安らぎを感じさせ、上階ならではの見晴らしが切り取られた絵の如く見えた。決して華美ではない空間こそ、ふたりには相応しかろうとヴィアドは思う。 今年も一緒に雪を見ることが出来ましたね、と彼女がはにかめば確かに「毎年」だと感慨も得た。他愛の無い話も飽きることはない。うとうと意識を溶かしながらも、睡魔に打ち勝とうと努める彼女の様子が楽しい。直接的に表現するなら、可愛らしいと言っても良い。 「……良い夢を」 完全に寝入った彼女を抱き上げ寝台に運ぶと、その額に軽く唇で触れた。先日、不意を打たれた御返しだ。大目に見てと僅かに笑い、ヴィアドは彼女の髪を撫でる。 金糸の編まれた絨毯も、置かれた家具もすべてが豪奢だ。 ふわりと薄雪草の香が漂う部屋に立ち入り、フィーは幾らか大げさに感嘆の声を上げた。はしゃいだ振りを無理にして言葉を途切れさせぬよう気遣うのは、緊張の余り息さえ出来なくなりそうな違和を振り払うためだ。天蓋が備え付けられたベッドで寄り添い、星影を映すランタンの灯火に照らされた部屋を緩く見渡す。彼女の髪を優しく撫でれば、徐々に言葉も途絶えていった。 静謐が部屋を包む頃、フォルテは彼女に視線を重ねる。 「ずっと俺の傍らに居ろ」 ふっと浮かんだ笑みに頬を火照らせながらも、こくん、と気付けば頷いていた。フォルテの指先が身を這い、衣服に掛かるのを感じながら、フィーは彼の耳元に小さな囁きを落とす。 ふたりで居る、それだけのことが愛しくて尊い。 部屋を照らす灯かりが落ちた。 受け取った鍵が開いた扉には、胡蝶蘭の透かし彫りがあしらわれている。外界を切り離すように鍵を掛け直し、彼らは安堵にも似た息を吐いて窮屈な礼装の襟元を緩めた。窓の外は降り頻る雪の白さで、深夜に関わらず薄明るいままだ。雪の姿はいつか愛した人に似て見えるから、ジェイドは寒さを無視してテラスへ出た。銀世界を一望した後、己に寄り添い、吸い込まれるような夜色の冬に見惚れているハニエルを見詰めた。 「――愛してる」 強い感謝と大きな想いを、他に表す言葉を知らない。 突如耳に触れた言葉は、ただ喜ばしいだけでなく、胸が締め付けられるような愛しさを生んだ。溢れ出た感情は涙となり、如何しようもなく頬を伝う。優しく抱き留めてくれたぬくもりが、何よりも好きだからハニエルは精一杯微笑んだ。ふたりは互いに望んで、そっと唇を触れ合わせる。 マシェルたちが部屋に辿り着いたのは夜も更けた頃だ。 求めた鍵は既に使われていて、次を探すまでに手間取ってしまった。それでも共に過ごせることは夢のように幸せで、怖いくらいに満たされてしまう。彼に名を呼ばれ振り向けば、膝の上にと招かれた。 「この方が暖かいだろう?」 この瞬間には如何な不安も遠ざかる。 彼を感じていたいから、マシェルは微笑み身を委ねた。 庭園が美しくとも何より見て居たいのは彼女だから、彼女のぬくもりを感じていたいから、撫でる指先を髪の合間に差し込んで逃さぬように首筋へ触れる。少し驚いたように目を瞬きながら、決して抗わずに任せてくれる彼女の唇に想いの嵩に届く深さで口付けを落とした。 「……君の全てが愛しくて、愛しくて」 キースリンドは吐息を零して彼女の身体を優しく抱き締め、触れるほど寄せた唇で耳元に囁く。留め置けぬように「愛しています」と応える彼女の、柔らかな耳朶を口に含んで群青が染めた衣の上に掌で触れた。 音も無く雪の降り積もる夜、女神の祝福は世界に注ぐ。

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参加者:37人
作成日:2007/12/29
得票数:恋愛36
ほのぼの2
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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