地獄街道の帰郷2〜終着の地より愛を込めて〜



<オープニング>


 ――エルウォーグ中央城砦。
 未だ多くの難民達が故郷に帰ることも叶わず。
 いつか戻れる日を心の隅で切に願いながら、人々は肩を寄せ合い日々を生きる。
 そんな難民達が住む区画に赴いた冒険者達は、今、ここにたった一人だけ残っているはずのノスフェラトゥの居場所に向かっていた。
 ちいさなちいさな勝利の女神・ニケ(a55406)は、新年のお祝いムードにも乏しい辺りの様子を見ながら言う。
「同盟では12月24日に、『家族の絆』と『夜』を司る女神フォーナ様にあやかって家族の絆を深めるお祭があったですよ〜。
 このお祭って、エルヴォーグの人達も参加できるですよね……?」
 フォーナ祭は終わってもまだ女神フォーナがおわす地上に思いを馳せ。
「もちろんですよ。
 けれどここは終着の地エルヴォーグ。この地の人々はランドアースには赴けません。
 ……でも、彼らにも少しなりとも雰囲気を味わってもらえたらいいですね、ニケさん」
 静寂に佇む影・ダナイ(a58243)は少し寂しそうな気配を漂わせ、微笑む。

「ノスフェラトゥさんはこの辺にいるはずですけど……?」
 砦で聞いた話を頼りに、ニケたち一行が訪れた場所では。
 時折吹く寒い風除けに質素な頭巾や服を着込んだ何人かの大人たちが、地面にはいつくばるようにして痩せた縮みほうれん草にも似た作物を収穫していた。
 その近くでは犬の尻尾と、尖った耳の子供たちが黒い小石と白い小骨で何かのゲームに興じている。
「初めまして。村長さんは何処にいらっしゃいますか?」
 子供に対しても丁寧に、穏やかな微笑にどこか寂しげな陰りを漂わせ。
 ダナイがそう尋ねると、犬ストライダーの子供が大人達のほうを呼ぶ。
「おばーちゃーん! お客さまだよー!」
 そう呼ばれて、畑に向かってかがめていた身体をおこし、手についた土をパンパンと払ったのは小柄で少し腰が曲がった老人。
 子供と冒険者のほうに振り向いたその顔は優しげで、青白い――ノスフェラトゥの老女だった。
 老女は、背中に白い羽持つエンジェル――ニケと、その後ろにいる武装した仲間達の姿に目尻を下げて喜んだ。
「あぁ、お嬢さんがたは冒険者さんかね。皆さんが村まで送っていって下さるんだねぇ」 
「そうですよ〜。よろしくです〜」
 明るい笑顔で肯定するニケの言葉に、エルフの子供が駆けだしていく。 
「早速みんなに知らせてくるね! 用意しなくちゃ!」
「いよいよ帰れるんだな……」
「新年早々、めでたいね!」
「ばあちゃんの荷物も俺がまとめてくるよ」
 収穫物を手にしたエルフの青年や、ヒトのおばさん、おじさん達が次々と出立準備に向かっていく。
 その姿に、頼んだよ、とノスフェラトゥ――ラルナという名の老女――は手を振る。
 その様子は、『列強種族と元奉仕種族』というよりはまるで。
 ――そう、まるで、『家族』のようですね。
 ダナイは思う。


 ――地獄街道。
 準備ができ次第一刻も早く、と村人達にせかされるように。
 中央砦から出発した一行は地獄街道を征く。
 村まであと2日ほど、という場所まで来ると街道を外れ、荒れた荒野に入った。
 出発前『村はどんなところにあるですか〜?』とニケが聞いた話では、間もなく森が見え、森を抜けた先に村があるらしい。
 その話の通り、遠くに少ないながらも緑に彩られた森が見えてきた。
 森の中には、森に住む動物が死んだり、森の外から迷い込んだアンデッドがいるはず、と村人はいう。
「1体、2体なら、ばぁちゃんが何とかしてくれるけど……」
 長い間、放置されてきた今、群れたり、波状的に襲ってくれば、ノスフェラトゥといえど一般人の手に負えるモノではないだろう。

 森を抜けて、彼らが心安らぐ懐かしの村へ帰る為に。
 冒険者達は、奇妙に歪んだ地獄独特の木々の中へと踏み込んだ。

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参加者
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
比類なき斬魂の使途・ディソーダー(a43968)
泡沫の桜吹雪・マリウェル(a51432)
神官戦士・イストテーブル(a53214)
踊る子馬亭の看板娘・ニケ(a55406)
静寂に佇む影あるいは磨き王・ダナイ(a58243)
深縹の・ヴィレン(a66062)
剣舞二重奏・カレル(a69454)


<リプレイ>

●森を征く
「寒い……」
 神官戦士・イストテーブル(a53214)が初めて訪れたエルウォーグの今の気候は雪こそないが。
 身体を温める暖かい太陽の日差しは、この地に無く。静寂に佇む影・ダナイ(a58243)からフォーナ祭で贈られたオーダーコートの襟元を寄せ、その温かさにほっと息をつく。
(「甘いと思いますが……」)
 義兄弟であるダナイをつい気にかけてしまう自分にイストテーブルは苦笑い。
 太陽に向かって成長するような地上とは異なり、幹や枝がくねくねと曲がった木々が生える。ここには生者を襲うアンデッドが居ると承知の上で、一行は森へと踏み込む。
 ――さて、気を張りすぎず、緩めず頑張りましょう。
 破滅の剣・マリウェル(a51432)は送り届けるべき人々を前に、金色の長い髪を揺らし微笑んだ。
「……お前達全員無事に送り届けてやる。だから、離れるんじゃないぞ」
 長いマフラーを首に巻いた青濫の・ヴィレン(a66062)が背後の村人にそう言い含めて、前方に向かう――と、長すぎるマフラーを後ろからぎゅうっと引っ張られた。
 首! 首が絞まってるっ!! 窒息するっ!!
「っ!!……苦し……がっ」
 引っ張っていたのはヒトの子供。ヴィレンは遊ばれて楽しかったりしたが、子供にしてみれば。
 冒険者達に守られているとはいえ、ちいさなちいさな勝利の女神・ニケ(a55406)たちがノスフェラトゥとは異なりアンデッドを操る力を持たない、その事実は、元奉仕種族の村人達の心に不安を残す。
 マリウェルの微笑みに返す村人の笑顔はどことなくぎこちなく、夫婦が、親子が、友達が互いに身を寄せ合い無意識に手を繋いでいる。
 ヴィレンのマフラーを引っ張った子の目にも怯えの色があった。
『怖いから、置いて行っちゃ嫌だ』と口にこそ出さないが。
『冒険者として、一人でも多くの人の力になりたい』
 その想いを胸に、修行を続ける月陰の剣匠・カレル(a69454)は、そんな村人達の役に立てることを誇りに思う。
 手にした剣は、力なき人々を守るために捧げよう、と。
「絶対という保障はし切れないが、命ある限りはあんた達を護衛しよう」
 そう村人達に言い残し、比類なき斬魂の使途・ディソーダー(a43968)とカレルのグランスティートは、ニケとヴィレンを乗せ、早駆けで森の中に姿を消した。
 村人達に付き添う、想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)は、慎重に先行班の後を追う。足の遅い子供の歩く早さに気を配りながら、吟遊詩人はにこやかに声をかけた。
「わたしに知ってる歌を教えてくれない?」
 エルフの少女や、ストライダーの少年が応えて歌う。
「ひーとつ、ふたっつ……♪」
「これは骨投げの歌!」
「骨投げ?」
 少女はいくつかの小骨を両手に取り、歌に合わせて次々と宙に投げる。その遊びはラジスラヴァには、地上で言うところの『お手玉』のようにも見えた。
「早くお眠り、さもないと、骨の獣がやってくる……♪」
 次に少女――アンが歌ったのは、子供を寝かしつける子守歌。地上では聞いた事のない曲調を歌いこなすアンにラジスラヴァは目をつけた。

 本隊から先行したディソーダー達は敵の姿を探し巡る。後続の村人達が追いつく前に、敵は全て片付けなければ。
 森を歩き回る生者に気付いたか。
 がさり、茂みを飛び出す音と共に、野犬アンデッドの群れが次々と飛びかかる。
「さて、どっちがタフか、試そうじゃないか!」
 ディソーダーは両手に掴んだ業物をぶんと振り回し竜巻を巻き起こし数体を叩きのめす。
 カレルの流るる水の如き剣捌きは、技の反動で動きを止めた狂戦士に飛びかかろうとする別の数体を屠り。
 武人の剣が届かなかった敵は、ヴィレンの手から放たれた粘る白糸に絡め取られた。
「小さな天使さん、皆を守って!」
 ニケの願いの声と共に、ふわり、護りの天使が仲間達の頭上に舞い降りて。
 悪運良く糸の呪縛から逃れた一匹の死獣が動けないままのディソーダーを噛み、それを護った天使が儚く消えた。
「……消えろ」
 カレルとヴィレンの一撃で、全ての野犬が地に伏せた時、戦い終えた4人の耳に、楽しげな子供と吟遊詩人の歌が届く。

●夜の訪れ
 紫の空は、ほのかに薄暗くなり。
「皆さんお疲れでしょうから、まずは休める場所を確保しましょう」
 夕暮れを迎えた事を悟った一行は、ダナイの提案で野営をすることに決めた。
 ダナイとラジスラヴァは、枯れ枝を拾いあつめ、火をおこす。
 その火を囲むように、ディソーダーはマリウェルと共に手際良くテントを張る。
 野営の準備が終わると、再び召還獣にまたがり駆けていった。焚き火を目印に、その周囲を油断なく見張る為だ。
 半日、村人と共に森を歩き、疲れた様子のノスフェラトゥの老婆の足を、ダナイは丁寧にもみほぐすと、細い筋やふくらはぎの痛みが心地よく和らいでいく。

「そいえば、中央城砦で採られていたあの野菜は、どうやって食べるですか〜?」
 ニケはヒトのおばさん――ノーラに話しかける。
「煮たり炒めたり、だね」
「なるほど〜、それならシチューの材料に出来るですね……♪」
 ニケが背負っていた荷物には、地上から運んできた保存が効く小麦粉や芋、人参、玉ネギが。
「ヴィレンさんはこれを切ってくださいね。一口大に切るのがいいかもですね♪」
「このくらいの大きさ、か……いやもう少し刻んで……」
 ヴィレンが刻んだ野菜は、くつくつ音を立て鍋で柔らかく煮込まれていく。
「味付けはカレルさんにお任せするですよ〜♪ はい、タッチ♪」
「シチューは、生クリームを入れるとまろやかになるんだけどね」
 旅先では保存の効かない物を持ち運ぶのも難しく。カレルの望んだまろやかさは出なくとも、野菜の滋味がとけ出した一品が出来上がった。
 小さな碗に一杯の温かなスープ。そしてイストテーブルの奏でる楽器の音が一行の空腹を優しく満たし、心を温めていく。
 カレルとヴィレンはディソーダーと入れ替わりで見張りに向かった。
 ハイドインシャドウで気配を消したリザードマンの忍びは温かな火の色と聞こえてくる声に。
(「あいつら今頃は子供達と……って仕事仕事」)
「ラジスラヴァさん、ニケね、唄を聞かせてほしいの……お願いできるですか……♪」
 こくりと頷いた吟遊詩人は彼女が集めた各地の唄を歌い綴る。ランドアースの仕事歌やバラードが、幸せな気配と共に辺りに響き渡っていく。
「興味があるの? 習ってみる?」
 楽器の弦を爪弾く細い指先の巧みな動きに目を奪われたアンが、じっと見つめているのに気付いたラジスラヴァは少女を誘い、手ほどきをした。
 ダナイは大人達に酒を、子供達にはレモネードを振舞う。
「そんな事があられたのですか……それは大変でしたね」
 エルフの青年が避難の時の苦労話をするのを、彼は親身になって聞いていた。
 歩哨に出かけていたヴィレンとカレルが戻ってくる頃には、疲れた身体は眠気を誘い、村人達は次々とテントに潜り込んでいく。
「この先もまだ長い……ほら、少しでも身体を休めておけ」
 ヴィレンは覚え始めたハープを鳴らし安息の眠りを促す。
「みんなの疲れ、とれるといいな……♪」
 ニケはテントの隅にそっと良い香りの草を置いた。

●危機一髪?
 深夜であっても地獄は地上の日没後、仄かに明るい時刻のような薄暮に包まれている。村人達は全員眠りについた夜中。
 マリウェルとイストテーブルの他に、何故かディソーダーも起きていた。
 マリウェルが寝ないのですか? と尋ねると
「寝ると体が動かなくなりそうでな、臨戦態勢は作っておきたいところなんだ」
 そう呟いてディソーダーは焚き火に木の枝を追加した。
 薄暗がりの中、野営場所の周囲をマリウェルはイストテーブルと一緒に歩哨する。
 聞こえる音は、テントの中の村人のいびきと、二人が森の地面を踏みしめる足音のみ。
 ふと、別の気配を感じたストライダー達が灯りをかざすと、狐や狸アンデッドが生者を狙い野営地に向かいつつあるのが見えた。
 マリウェルは上段から一閃、ソニックウェーブを放ち、イストテーブルに叫ぶ。
「皆さんを起こして下さい!」
 早駆けの蹄音が野営地に響き、ディソーダーはマリウェルの援護に向かい、眠っていたダナイは跳ね起きた。
 カレルとニケ、ラジスラヴァは野営地を護る。
 援軍が馳せ参じた時、マリウェルは、スーパースポットライトで自らをアンデッドのターゲットにしていた。
 元々は群れではない死獣も、マリウェルに注目することで群れのような形になっている。囲まれた翔剣士は手の竹箒【翡翠】で衝撃波を放ち、飛びかかる獣をひらりとかわし、牙をその身体で受け止めていた。
 ディソーダーはレイジングサイクロンを、ダナイはワイルドキャノンを放ち、マリウェルに近付いた獣をなぎ倒しながら叫ぶ。
「兄さん、後ろの守りは任せて下さい!」
 流水撃を浴びせるイストテーブルは、ちらと視線を義弟に向け頷いた。
 マリウェルの衝撃波がまた一体、死獣に炸裂する。
 銀木犀を象った銀製のピンブローチ『絆の証』をダナイは片手でしかと握りしめ、空いた片手は近づく獣を破鎧掌で突き飛ばす。
 アンデッドを徹底的に粉砕した後、傷ついたマリウェルをガッツソングで癒しながら、イストテーブルは呟いた。
「ここで数を減らしておけば、村の生活も当分は安全でしょう」
 騒ぎで目覚めてしまった村人も、再び眠りについた。

●懐かしの村で
 明け方早々にラジスラヴァの目覚まし兼、食事となる歌を聴いた後、ヴィレンはマフラーに気を配りながら野営地を出発した。
 騎乗するイストテーブルの後ろでは、グランスティードに揺られて老婆がこっくりと眠っている。深夜の襲撃騒ぎがあってから心配で良く眠れなかったその分、今、眠くなったらしい。
 先行していたカレルの片足に、突然、激痛が走る。
 その正体は、草陰から召還獣に跨った脚に素早く飛びつき噛みついた死蛇の毒。ヴィレンが放った蜘蛛糸の網をかろうじてかいくぐった蛇は、武人の足に噛みついたままだ。
 ――戦いには慣れているんだ、心配はいらない。
 カレルは自らを鼓舞するように勇ましい歌を歌う。それに合わせるように、
「いたいのいたいのとんでけ〜♪」
 ニケから吹いてくる穏やかで優しい風は、武人の身体を巡る毒を消し去った。
 ディソーダーはアビリティを使わずに武器で蛇を叩くと、胴を割られた蛇は弾みで地面に落ちた。
 死蛇は鎌首をもたげ、今度はディソーダーを襲う。忍びの動きにも似た技は、彼には避け難いがカレルの時と同じ行動なら予測もつく。
「同じ手は食わない!」
 噛まれはしても傷はごく浅く、毒は防いだ。
「……毒には毒をもって制する……邪魔だ」
 ヴィレンの蛇毒刃はアンデッドの毒牙より鋭く深く死蛇に毒を注ぎ。
 蛇はのたうち回って動かなくなった。

 昼頃。
「村だ――!」
 森を抜け、村人が指さす方向に数軒の建物が小さく見えた。走り出しそうな人々をカレルとマリウェルはなだめ諭す。
「故郷は待ち遠しいだろうけど。急がなくても逃げたりしないよ。ゆっくり歩こうか」
「まだどこかにアンデッドが隠れているかもしれませんから」
 森の中と同じように先行班が先行し、一行が慎重に村の中に入ると。
「あぁ、やっぱり……」
 ノーラが溜息をつく。
 戦の前、質素ながらも手が行き届き小綺麗だった村の建物は薄汚れ、壁に穴が空き、扉は傾いたまま開いていた。
 それでもラジスラヴァの歌で空腹が満たされると、まぁ何とかなるさ、と村人の心に余裕も生まれる。
 マリウェル達が力仕事を手伝いながら補修をすると夕刻には壊れた部分は無くなった。
 ふと、ニケが姿の見えない者の事に気付く。
「あれ? ディーはどこですか〜?」
 ディソーダーは、村にアンデッドの姿が無く安全だと解ると村はずれの木陰に向かっていた。ほぼ徹夜状態だった彼はごろりと横たわり目を閉じ――ぐっすり眠っていた。

●灯火は輝く
 再び夜がやってくる。
 フォーナ祭に似た演出で、楽しんでもらおう。
 村の中に生えている、カレルと同じくらいの背丈の木に雪の形の飾りつけ。
 イストテーブルが村人に祭の意義や雰囲気を判り易く説明し、燭台の蝋燭を1家庭に1つ渡した。蝋燭を灯せば、質素でも綺麗に映える。
「家族との絆を深めるお祭りなのですよ」
 イストテーブルはダナイの腕をつかみ寄せる。
「血が繋がっていなくても大切な家族です」
「あぁ……兄さん……ありがとう……私達は、家族なのですね……」
 義兄の行動に、眩暈のような喜びを感じて。
 寄り添い、ロウソクの炎に、それ以上の温もりを感じる。
 種族が違っても。
 一つの村で慎ましく寄り添って日々を生きる家族達。
「地獄での生活の厳しさを感じさせない人々の繋がり。暖かさ。
 これが家族……というものなんだ」
 家族を失っているカレルに人恋しさがこみ上げる。それを堪えるように彼は村人達に笑いかける。
「フォーナ祭では、こんな庭園があったんだよ」
 とても、綺麗だった……。 
 ラジスラヴァの爪弾く楽の音が響き、彩りを添えた。

「旅団の仲間からの気持ちだよ」
 翌朝、カレルは自分の荷物の中から袋を取り出し、老婆に手渡す。
 袋の中には、彼が出発前に調達した地獄の花の種が入っていた。
「これは、これは……ありがとうねぇ」
 老婆も村人達も、生活に必要な物しか持って来ていない。種はあっても野菜ばかり。
 生活が落ち着いてほんの少しゆとりが出来た頃、家の周りや野辺に花が咲きだせば、心和み、心強く思えるだろう。
 青白い手のひらに広げた小さな種を老婆は嬉しそうに見つめている。
 その表情に、カレルは『喜んで貰えて良かった』とにっこり微笑む。
 ラジスラヴァはリュートをエルフの少女に手渡した。
 この子が、辛い村での生活に歌と曲で潤いをもたらせるように。
 生活は貧しくとも、皆の心は豊かでいられるように――それを願って。
「……さて、次は何処に向かおうか」
 自らの行方を思案し、地獄の風に吹かれながら青鱗のリザードマンは遙か彼方を見つめている。
「おにーちゃん、行っちゃうんだ?」
 ヴィレンの足元に少年がまとわりつく。
 彼はふっ、と口に微笑を浮かべ腰を下ろす。子供の目をじっと見つめ、言い放つ。
「……今度はお前達が婆さんを守るんだ」
 心細げに、でも、しっかりと頷く少年の頭をヴィレンは優しく撫でた。

 手を振る村人達に見送られ、騎乗したディソーダーを先頭に達は村を後にする。
「長旅、お疲れ様でした。皆さん、これからもどうぞお元気で!」
 ダナイは手を振り返し、名残惜しげに別れの言葉を叫んだ。
 ダナイの隣ではイストテーブルが祈っている。
 ――この村が、あの人々が、二度と戦に巻き込まれないように、と。
 カレルは夢見る。終着の地が、いつの日か花に満ち溢れることを。

 いつか、白骨の平野が花畑に変わる――それを願う。


マスター:星砂明里 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2008/01/23
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