ランドアースゴロク2008



<オープニング>


 振り返れば激動の一年だった。
 列強種族トロウルとの決着、大神ザウスとの戦い、最強生物ドラゴン、そしてフォーナ降臨――。

「いやー、ホント色々あったよねー」
 店内に響き渡る、プーカの忍び・ポルック(a90353)の陽気な声。年の瀬が近づく冒険者の酒場では、今日もまた、多くの冒険者達が行く年を惜しみ、来る年に期する歓談の輪を広げていた。
「確かに色々あった。未解決の案件や、新たに発生しそうな問題も多く残っているが、まぁ、それは来年考えよう。何はともあれ、皆お疲れさまだ」
 まだ湯気の立つティーカップを手に、緑柱石の霊査士・モーディ(a90370)も姿を見せる。勧められた席に腰を下ろした彼女は、居並ぶ冒険者達と共に今年一年を振り返り、互いの苦労を労った。
 穏やかな空気が流れていた。その日は依頼らしい依頼も持ち込まれず、テーブルでは歴戦の勇者達が思い出話に花を咲かせる。
 そうして日が傾き始めた頃、とあるテーブルで、正月をどう過ごすかという話題が持ち上がった。
「そういえばボク、前の時は羽根突きばっかりやってたような……」
 とはポルックの言。凧揚げ、福笑い、餅つき、双六、並べられる様々な正月遊びの数々に、赤茶色の瞳は益々輝きを強めていく。
「ね、その双六っての、やろうよ! お正月ここに集まってさ」
 テーブルに身を乗り出す勢いのポルックは、更に何かを思いついたようだ。
「どうせだったら、みんなで作らない? この一年に起こった色んなことを盛り込んだ、ボクたちだけの双六! あ、ボク、他のテーブルにも声かけてくるよ!」
 言うが早いか、椅子を蹴倒す勢いで飛び出していくポルックの背中を見送り、モーディは諦め顔で冒険者達に向き直る。
「……だ、そうだ。私は特に予定も無いし、付き合う事にするよ。もし都合がつくなら、君達も来てやってくれないか」
 カップに残った紅茶を飲み干している間も、あちこちのテーブルではしゃぎ回っているポルックの声が止まる様子は、まったく感じられない。霊査士は思う。自分一人で一日中あれの相手をするのは、多分無理だ……、と。

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参加者
NPC:トリックオア・ポルック(a90353)



<リプレイ>


「ポルック様、あけましておめでとうございます♪」
 少し大きめの丸眼鏡から輝く瞳を覗かせたのはシャルロッテ。ポルックを見つけるや、胸の前で両手を組み、お祈りの様なポーズで新年のご挨拶。ポルックへのイメージが未だ英雄路線から外れていないという、稀有な少女である。
「新年あけましておめでとー」
 酒場のドアをカランと鳴らし、やって来たのはディッカにローザマリア。
 彼らもそうだが、今回は姉弟等、家族と連れ立って参加する者の姿が多く、死闘の連続だった2007年を乗り越えてきた冒険者達の絆の強さを感じさせた。
「明けましておめでとう、今年も宜しく頼むぜ!」
 すっかり顔馴染みとなったオーヴォもワインのボトルを片手に姿を見せるが、その時点でポルックにロックオンされているのは最早言うまでもない。
「あけましておめでとう♪」
 新年を喜び合うポルックに、コチョウから絵本とペンが差し出された。
「あの……、是非サインを下さい!」
「人気者は辛いなぁ」などと軽口を叩きつつ、ポルックは裏表紙に筆を走らせる。

『プーカの勇者ポルック惨状!』

 ……間違っている。間違っているが、意味的には合ってる気がしないでもない。
「リゼ、どっちが早く上がるか競争しようよ」
「いいね、面白そう♪」
 此方ではユズがリゼッテに勝負を持ちかけていた。了承したリゼッテの隣には、何故かムキムキのマッスルジャージがかけられている。ユズの足下にも何故か大きめの衣装ケースが置かれている。お互い負けられない勝負になりそうだ。
 そんな2人の前に、リヴィールが皿を並べて持参したケーキを切り分ける。
「勝負もいいけど、後ろ、気を付けた方がいいかも」
 振り返ると、少し離れた所に居たポルックがあわてて目を反らす。口笛を吹きながら移動を始めたポルックの行く先にはディッカの姿が。一瞬、注意を呼びかけようかと考えるリヴィールだったが、
(「……ディッカさんは自力で避けてくれるって信じてる! 武人だから! 」)
 そう、武人なら……、武人ならきっと何とかしてくれる! 彼はケーキを切り分ける作業に戻った。
「さって、じゃ、あたしら身内ルールの確認よ。最初にゴールしたのが『食べ放題』……、いいわね?」
 ミツハからの怪しげな提案に、オカミとアンナの頬が染まる。新年早々何をしようというのか。
「まままぁ〜♪ よろしおすぇっ! 受けてたちまひょっ」
「で、で、でも、知ってるのっ? その事?」
 3人の視線の先に居るクロゥンドが関係しているらしいが、
「何が食べ放題なの?」
 顔を突っ込んできたのは、プーカでも有数の野次馬根性と噂されるポルック。
「え、えっと、なんだっけね?」
「うちに振りますか!? あ、アーちゃん?」
「……え、あの、さ、最初にゴールした人が……クーさんのおごりでお節料理食べ放題っ……とか?」
「へぇ、そうなんだ! ボクも混ぜてよ!」
 喜々として飛び跳ねるポルック。3人は心の中で泣いた。
 一方、既に野となれ山となれの諦めモードで酒をあおっているクロゥンド。
 その彼を別方向から見ていた者が約一名。
(「クロゥンドさんも大変だ……」)
 その男、名をハヤタケという。雰囲気まで黒ずくめのクロゥンドに同情しつつも、双六の特訓に余念がない。図書館での予習復習も万全。昨晩は寝る間も惜しんでサイコロ振りの練習を云百回という気合の入れようだ。それでもまだ不安なのか、威勢の良いかけ声と共にまたサイコロの素振りを始めた。
 酒場は徐々にカオスに染まり始め、新たに入ってくる者の姿は疎ら。そろそろ――
「ってことで、一年を占う意味で、景気善くスゴロク、行ってみましょーかっ♪」
 響き渡るローザマリアの一声が、ランドアースゴロク2008の開幕を告げた。


「にゅふふ〜っ、ボクのたーん!」
 長い長いジャンケンの後、1番手に決まったティルミーが勢いよくサイコロを振る。止まったマスは、『みんなで新年会! ポルックとの羽根突き対決!』。
「なになに、サイコロを振って1が出たら顔に墨を塗られて1回休み? ……なんですかにょ!? これはボクにお寝正月のご褒美なのですかにょ!?」
 おもむろにサイコロを振る。
(「もし1が出たらどうすかにょ……」)
 そんな時こそ1が出ると昔の人も言っているわけで。
「……むぅ、いきなり1回休みにょ。そういえば内緒のお仕事でもうクタクタでしたにょ……」
 襲い来る睡魔に抗う事はたとえ冒険者でも難しい。その様子にいち早く気付いたのはシャルロッテ。他の能力に比べて狙い所が少ない『偉大なる羊の召喚』だが、その中で折角まわってきたチャンス、逃しはしない。
「ふあぁぁ……、もうお仕事じゃないので一眠りするのですにょ……」
 ティルミーはそのまま寝てしまう。
「……」
 たしかに決まった。だが、それがプーカの仕業だと気付かれにくいのが、この能力の難点だとシャルロッテは思う。とりあえずティルミーの額には墨で『肉』と書いておいた。
 続いてはトリスタン。転がすサイコロにすらエレガントさが漂う、セイレーンのお嬢様である。
「あら、ランララ聖花祭ですわ。『好きなあの子に告白! サイコロを振って奇数なら成功! ラブラブで3マス進む。偶数なら失敗。ショックで1回休み』、もしかして奇数とキスをかけているんですの?」
 ころころと笑いながら華麗に成功を決めるトリスタンの後を追い、ロアもサイコロを振る。
「『渇望の祭壇を発見!』っ、もしかしてショートカットかな!」
 どっこい『死竜を退けた冒険者の前に幻奏猟兵・ギャロが現れた。対応策を考える為に撤退、3マス戻る』。がっくりと肩を落とすロアにアナボリックが一言。
「世の中そういう事もある」
 ですよねー。
「私の番ですね。えいっ」
 気合を込めて放たれたトゥシェの一投。
「『百門の大商都バーレルによるエギュレ図書館再調査!』、困った時のエギュレ頼りにゃね! 黙々と調べもので1回休み――って、えぇーー!!」
 世の中そういう事もある。

 双六は初めてというペルレだったが、意外と順調に駒を進めているようだ。
「『ミュントスへの霊査士派遣を決定! 霊査士から安全が保証され、次に止まったマスの効果を無視する事が出来る』ですよぉ♪」
「その代わりに、お正月村でまったりしすぎて1回休みだってさっ」
 すかさずホラを吹くポルック。
「ええっ、そうなんですか? 残念ですぅ」
 なんという疑いの無さ。直後、同じマスに止まったモーディにより、ポルックへの新春初ツッコミが炸裂していた。
「毎度大変だな……。まあ、今年はきっといいこともあるさ」
 オーヴォの気遣いが身に染みる。ちなみに、お正月村という村は本当にミュントスにあるらしい。
「こうしてみると今年はいろいろなことがあったのですね」
 盤上を飾る様々なマスに目を踊らせるクゥは、感慨深げにサイコロを振る。
「『ミラルカ芸能祭開催! セイレーンの王女様方に芸を捧げる。出来ないと2回休み』。芸ですか……、とりあえず歌うのです!」
 自慢の喉で2回休みを回避したクゥのすぐ傍にフォッグが迫っていた。
「ここもミラルカ芸能祭だな。『第1王女マルガレッテと楽しく絢爛パレード! 更に3マス進む。前後3マスに駒があれば一緒に!』だとさ」
 クゥの駒を引き連れて進むフォッグ。一歩リードのお祝いにと、2人で乾杯。中身はもちろん果実ジュース。プーカ対策は完璧だ。


「懐かしいですわ……、あれからもう1年半も経つのですね」
 順番を待つ間、コチョウはふと西方プーカ領を目指した日々を思い出す。相変わらずの騒々しさを発揮中のポルックも、他のプーカ達も、彼女らの尽力が無ければ、今ここには居なかったかもしれない。
「まぁ、そんなことまで……」
 ポルックが語る眉唾ものの話にも丁寧に相槌を打ち、コチョウはこのひとときを心から楽しんでいた。
 一方その頃、
「『巨大ギア、魔霧ミディアムとの戦闘開始!』、さぁ、前後6マス以内の駒はこのマスに集まるべ! オカミ、はよ戻ってこいさ」
 当初の目的は失ったものの、『神との戦い』エリア付近では、ミツハ達の激しい戦いが展開されていた。
「くっ、やってくれますなぁ。ここはあっこに止まらんと……1、2、『空中回廊の戦い!』、『神との戦い』エリアに止まっている他の人は退路確保の為に1回休みどすえ♪」
 だが、アンナは紙一重の差で既に『ドラゴン』エリアに居た。これはいけるか?
「『波濤さかまくヴァーゼルゼ』……? インフィニティゲート防衛の為、サイコロの目のターン間そのマスから先に進めません、って、そんな!」
 しかしここでとんでもない助け船が。
「ん〜、『大会議、全員このマスに集合』か。うむ、凶悪、凶悪だなー。あははあっはっは」
 すっかり酔っ払いと化したクロゥンドの仕業だった。
「ちょっと! 大会議って2月でしょ? なんでまだそんな所に……」
「はっはっは、出目がイマイチでぶはぁっっ!!」
 酔っ払いが突然噴いた。プーカの居る酒場で、酒を飲みながら油断していたのだ。これは仕方ない。
 アナボリックはとくとくと注がれた焼酎をお湯で割り、口の中に広がるほわりとした独特の香りを楽しむ。あまり騒がしいのもどうかと思うが、こうして自分がゆっくりと飲んでいられるのは、ああして彼らが避雷針になってくれいているおかげなのかもしれなかった。

 阿鼻叫喚の大会議から数手。
 ユズはようやく会議前に居た辺りまで戻ってきた。
「『神との戦いの直後、カダスフィアフォートが崩壊。得られるはずだった力を逃してしまう』、次のターンのサイコロの目は1減る……」
 なんだろう。不思議な喪失感が胸を通り過ぎていく。他の参加者達の中にも、どことなく沈んだ様子の者がちらほら。よく分からない喪失感の正体は最後まで分からなかった。
「あ……、1」
 ユズとの勝負に負けられないリゼッテだったが、今日はどうにも賽の目が悪い。
「『グドン地域完全制圧! 高い目を出してグドン地域を制圧せよ!』……、もう1回振って出た目次第で効果が変わるんですね。えいっ」
 1。
「なぜ!? 1月1日だから……!?」
 2マス戻るリゼッテ。心無しかユズが持ってきた衣装ケースが近づいてきた気がした。

「さぁ、僕の番、がんばるぞ!」
 待ち時間も惜しんでサイコロ素振りに明け暮れていたハヤタケが魂を込めて投げる。
「ほとばしれサイコロ! 震えるほどに進むぞMYロード!」
 おっとここでついに来た。
『最後の選択。ドラゴンウォリアー覚醒で次のターン、サイコロの目が3倍に!』
 歓喜の声と同時に、次の手番に向けての素振りが再開された。その激しさは、丈夫な絨毯でさえ一晩ですり切れてしまう程のような気がする。
「おおっ、ドラゴン襲撃だ! 懐かしいなぁ。あの時はボクの大活や」
 ポルックの騙りが長くなるので割愛。結果だけ言えば、もう1度サイコロを振って奇数を出したポルックは、千年世界樹に向かう為、出た目の倍後退していった。さようならプーカの勇者。また会う日まで。
 その隙に、フォッグは飲み物を果実ジュースから芋焼酎に素早くチェンジ。
「良い味だ……」
 しかし視線はポルックから外さない。完全に口を付けるその瞬間まで、戦いは続いているのだから。
 全く隙のないフォッグを横目で見つつ、ポルックは次のターン、『勇猛の聖域キシュディムの闘技大会の白熱ぶりに気圧されて』さらに後退していくのであった。
「にゃ、『列強種族トロウル同盟加入で武人に春来たる』……、一番進んでる人(自分除く)にサンダークラッシュ! 5か6が出るまでサイコロを振り続け、それ以外なら出た目の数だけ下がり続けるにゃと! 今、トップは誰にゃ?」
 ドラゴンウォリアーで3倍進んだハヤタケだった。進んだかと思えばどこまでも下がる。
「ギャンブル性高いにゃね〜」


「あら、『弟が出来た。姉らしく振舞うあまり目的を忘れて一回休み』。まぁ弟なら仕方ないわよね」
 口元を緩ませたローザマリアが何度も頷く。
「というか、それ絶対ローザが書いたやつでしょ。他の人が踏んだら意味不明だよ……」
 眼鏡を押し上げ、ほんの少し呆れ顔を作ってみせるディッカ。
「大丈夫大丈夫、何度やったって絶対にここはアタシが踏むもの」
 冒険者の運の良さが一般人とは比較のしようもないのは通説だが、真実ならそれも可能かもしれない。あるいは家族愛ゆえの女神フォーナの導きか。
「――っ!?」
 ここまで特に躓きも無く順風満帆に進めてきたトリスタンだったが、ここでついに来てしまった。
『ポルックの誕生日! めんつゆを一気飲み。さもなくば2回休み』
「くっ」
 覚悟を決めたようだ。
 だが立ち振る舞いはあくまで優雅に、まるで上等なワインを開ける時のように、優美にグラスを傾ける。あれに入っているのは本当にめんゆつなのかと、他の参加者に思わせる程の動きで――
「けほっ」
 少しむせた。やはりめんつゆだ。

「あれ、強制ストップ?」
 リヴィールが不思議そうな声をあげる。どうやらここは絶対に止まらなければならないらしい。
「『決戦ヴァラケウス』、防衛ラインを突破して先に進むには4以上を出さなければならない、か。次のターン、1〜3だと進めないってわけだね。はまると大変そうだなぁ」
 先頭争いに凄まじく影響が出そうなマスだ。いよいよ大詰めが近づいてきたという事か。
 防衛ラインを突破した参加者達が、最終局面へと駒を進めていく。
「『フォーナ感謝祭の雪の道。次に振るサイコロの数が1個増えます……って、残りのマス数は……。この双六、やっぱりぴったりであがらないと駄目?」
 防衛ラインを突破出来てないグループから「当然!!」との声が挙がる。僕たちの戦いはこれからだ!
 そんな中、クゥの駒が辿り着いたのは上がりから1歩手前。これは難しい……が、書いてある内容は更に厳しいものであった。
『天子から楓華列島からの撤退命令。ふりだしに戻る』
「ここまで来てー!!」
 誰が仕込んだのか、あまりの罠っぷりに戦慄が走る。
 Uターンと撤退命令の連発により、酒場は怒号と悲鳴で溢れかえる酒場。
 最後にゲームを制したのはペルレだった。
「か、勝っちゃいました♪」
「おめでとう〜、はいこれ、優勝記念のくす玉♪」
 ロアがにこやかな笑顔で天井から垂れ下がる紐を手渡す。何の疑いもなく引くペルレ。
(「……落ちてこない?」)
 怪訝そうに天井を見るロアの肩をモーディが叩き、
「霊査士に同じ技は2度通用しない」
 どこかで聞いたような台詞が炸裂した。

「本当に色々な事がありましたね……」
 酒場の外では幾人かの冒険者達が熱くなった頭と体を冷やしていた。
「こうしてまた楽しく過ごす事が出来て、本当に良かったのです。今年は、もっともっと笑顔が見れるといいな……」
 沈む夕日に映えるのは今年最初の敗北の証、リゼッテのメイド姿であった。


マスター:東川岳人 紹介ページ
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わからない
参加者:21人
作成日:2008/01/12
得票数:ほのぼの6  コメディ44 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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