<リプレイ>
●輝く石 会場に入った冒険者達の目に移ったのは、さり気なく並べられたご自慢の石達が、陽光に照らされて誇らしげに煌く姿だった。招待主は、冒険者達が入って来たのを見止めると、さっと立ち上がって丁寧に礼をする。 「本日は、私の招待に応じて下さってありがとうございます。どうぞ、ゆっくりしていって下さい」 「こちらこそ、ご招待ありがとうございます。今日は宜しく」 汎愛の弓・マカロン(a90333)が代表してそう返し、石の鑑賞会を兼ねた昼食会が始まった。
並ぶ石達は、ほとんどが加工されていない、そのままの物だ。それでも、配置の妙かそれともキィモ氏の拘りの結果か、素であるが故の美しさに輝いていた。招待主に感謝と祝辞を述べて、ファンバスはゆっくり石を鑑賞する。目に留まった石について尋ねてみると、待っていましたとばかりに来歴やそれに関わるエピソードを語った。 「大地と人は、ずっと昔から繋がってたんですね」 「大地にあるものは等しく兄弟だと……あぁ、私の持論です」 少々大袈裟ですが、とキィモ氏は照れたようにそう言った。大地無くして命も無く、全ては繋がり続けるもの。アビスも珍しい石の数々に興味津々といった風で鑑賞する。 「キィモさん、こんにちはだなぁ〜ん」 「あぁ、これは……! いや、いつもお世話になっています」 シャンテが挨拶すると、キィモ氏は丁寧に頭を下げた。何度も依頼を聞いてくれた彼女のことは、よく覚えていたらしい。水透石の加工品に興味があると告げると、それでしたら今お持ちのグラスもそうですよ、と教えてくれた。まじまじとグラスを見るシャンテに、あれから仕入れルートが確定して、良質なものも多く取れるようになったんです、と感謝も交えながら言った。 「凄く綺麗な細工なぁ〜ん。……あ、お料理も美味しいなぁん」 豪華絢爛という程ではなくとも、心を込めて作られた料理にも舌鼓を打つ。 そんな料理達を楽しんでいるのは、こちらも同じ。タムは蒸し料理を気に入って、もぐもぐと幸せそうに食べている。ぽんと肩を叩かれて振り向けば、石鑑賞から料理へと移行したらしいマカロン。同じ料理を選んで、美味しいよなー、と顔を綻ばせた。 「一緒にお酒もいけたらなぁ……早く大人になりたいなぁ〜ん」 「あと3年だろ? 花の10代謳歌しとけよー」 二十歳になったら一緒に飲みに行こうぜと軽く笑って。 「『石』と一口に言っても、面白いものですわね」 立ち並ぶ石をじっくり見ながら、レムは言葉を零す。用途も種類も多様な石。それぞれに違った表情を見せる石達に、はまり込んだ招待主の気分が少し分かったような気がした。とはいえ、つい宝石類に目が行くのは女性故のご愛嬌で。 「こんにちは! こないだの怪我、治った?」 「えぇ、お陰様でこの通りです。本当にいくら感謝しても足りません」 リリィが心配そうに尋ねると、キィモ氏は軽く走る素振りもしてみせた。すっかり元気になったのだと安堵しつつ、並ぶ石達について聞いてみる。嬉々として説明を請け負うキィモ氏の様子は、本当に楽しそうで知らず笑みも零れた。満足できるものを手に入れるのも大変だろうと言うと、それでも好きなものですからね、と、並ぶ石達を愛おしそうに見ながら答える。 「招待状ありがとなぁん♪」 クィリムも、元気そうな招待主の様子にほっとしつつ、今までの仕事の話などを聞いてみる。頑固な職人に何度も頼み込んでやっと細工を引き受けて貰った話、あと一歩で石を逃した失敗談――それを語る様子すらどこか幸せそうで、この仕事が大好きなのだとうかがわせる。 「自分にできないこと補い合うから、お互いをすごいって思うなぁんね?」 「はは、少々照れてしまいますね。……えぇ、でも仰る通りだと」 だから、本当に皆さんには感謝しているのですと、微笑みながら答えた。応援したい人の為に、とサフィールを貰えないか交渉してみると、命を救っていただいたご恩返しにもなりませんが、と快諾した。 日は落ち、やがてパーティは夕暮れの庭へと移る。
●心温める石 夕方の冷え込み始めた庭に、ぽつぽつと明かりが灯される。熱さを我慢しながら割ってみると、ほくっと暖かな湯気、黄金色のサツマイモ。きちんと合掌した後、ファンバスが早速と一口いただく。 「……あぁ、幸せだなぁ、この味」 よく冷える日だからこそ染み渡る暖かさ。広がる甘味も決してしつこくなく、心まで温かにしてくれる。石をかき混ぜる音も小気味よく、焼き上がりを待ちながらシャンテは今までの冒険を回顧する。そういえば、とふと思い立って、今までで一番変わった石は? と尋ねてみた。 「採掘される環境で、色が変わる石というのがありましてね」 赤、青、虹色まであらゆる色彩を得る石は、それは不思議なものだったとしみじみ語る。丁度焼きあがった焼き芋を受け取って、そんな話を興味深げに聞くシャンテ。 「完璧な火の通り具合……! まさに冬の宝物ですわね。ね?」 「あぁ、こんなに単純そうな物なのに、本当に美味いよな」 見目だけでも十分美味しそうな焼き芋、食べてみれば予想以上の美味しさ。体を芯から温める優しい温度に顔も綻ぶ。マカロンは頷いて同意しながら、二つ目に、と手を延べて。 「あ、マカロンさん一緒に食べよ!」 かかった声に手を止める。大きいの貰っちゃったから、と半分割って差し出すリリィに、ありがとな、と笑みを返して受け取った。己の危険も顧みず、大怪我をしてまで採って来た石。さていかほどかと口に入れれば、ほんわりと心地よい温度、ほどよい甘味。あれだけの苦労をする甲斐はあるかも知れない――寒さも吹き飛ばす美味しさにそう思う。 「お、すごいホクホクなぁん……」 焼きたてのサツマイモを受け取って、焼き具合の妙もさることながら、現れた断面の色は輝かんばかり。舌のやけどに気をつけながら食べる。 「美味いなぁ〜ん」 知らず、そんな感想が零れる。美味しいと素直に感じられる、凝った装飾も味付けもなされていない、素材の旨さ。 「同じだと思うのです。シェフでなくても美味しいものが作れるように」 身一つで家を建てたキィモ氏は、全員に行き渡ったのを確認して、休憩がてら自分も手を伸ばす。 「金銀に囲まれていなくても石は美しい」 思い出の味、信念を映した味。日が落ちきった後、冒険者達はそれぞれにお土産を受け取って、幸せな気分のまま帰路につくのであった。
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参加者:7人
作成日:2008/02/01
得票数:ほのぼの11
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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