<リプレイ>
●朝霞 朝霞の漂う境内に、ドラゴンズゲートで転送を行ってきた冒険者達の姿があった。 「初めまして、俺は快傑ズガットことマサカズだ。今回が今生の別れになるかも知れないが、よろしく!」 「は……はい」 朝から元気な声で握手を求められて、圧倒された鬼巫女・カスミがマサカズの輝く歯を診てたじろいでいる。 「……カスミさんとセリカ姫、仲睦まじい様子で重畳です。餡餅の為にも頑張りましょう♪」 百合の舞刃・クーヤ(a09971)は龍騎艦隊・イマージナ(a18339)に頼んで召喚獣グランスティードの背に跨り、水望大社の玉砂利を蹴散らすように走り出す。 「イズミ、アンジー、そしてセリカも久しぶりだな。水望大社で餅搗きかい? 年の瀬らしいね」 周囲の喧噪とは余所に、今着たばかりの斜陽支えし鋼盾・ジェフリー(a60090)はことが飲み込めていない様子で、笑顔で手を挙げて挨拶している。 「んじゃ、まずは餅米持ってこないとね」 餅米は何処かなと、腕をまくった所で事件を言われて……。 「……何? 餅米持ってくる大八車が襲われてるのか?」 どうするんだと言った表情で腕まくりを降ろしたジェフリーだが、一瞬後には自身の召喚獣を召喚して飛び乗った。 「じゃ、セリカも途中で誘って野犬退治だな」 先に出ていると聞いて、途中で拾うことを告げたジェフリーも皆の後を追う。 「はよ、犬を倒して餅搗きしたいですな」 クーヤを乗せたグランスティードで、イマージナは急な石造りの階段を一足飛びに降りていく。 餅搗きの経験のない彼女は、話を聞いて来たばかりではあるが、行事そのものへの興味津々だったのだ。 「走って間に合うのか?」 犬に襲われている大八車に向かい、いち早く駆け出した俄か武士・シュウヤ(a28263)だったが、他の仲間達がグランスティードに乗って急ぐのを横目に、駄目元で自分の足で疾走する。 両手剣を水望大社に置いての、全力疾走で間に合うかどうかと言った判断だったが、前方に見える召喚獣から真っ赤な誰かが飛び出すのが見えた時、彼の背にダークネスクロークが現れて、戦闘の開まりだと知らされる。 「ズガッと参上、ズガット解決!! 人呼んで、さすらいのヒーローッ!!」 目映い閃光に包まれて、マサカズが鎧聖降臨でその姿を深紅に黒と黄色のワンポイントが入った上下一体型の滑らかなスーツ姿に変化する。 「快傑ズガーットッ!!」 尻上がりにキーの高くなる叫び。 楓華では一番らしいのだが、グランスティードの背に立ち上がって、名乗り台詞とポーズを取るマサカズに僅かに遅れて、シュウヤは『ウェポン・オーバードライブ』で呼び寄せた両手剣を掴んで走り込む。 「1、2、3……数が多いな」 一気に『流水撃』でなぎ払おうと考えた瞬間、目の前のグランスティードから飛び出すマサカズの姿が。 「とうっ!!」 咆吼一発、跳躍したマサカズの身体が空中回転捻りを加えて、大地から何事かと威嚇する野犬目掛けて突き刺さる。 「ズガットアターーックッ!!」 「あー……」 頭の一本飛び出た髪の毛に『スーパースポットライト』の輝きが灯っていたクーヤがやっちゃいましたね〜と呟いた。 「おをっと」 ジェフリーは『粘り蜘蛛糸』を展開しようとしていたのを止めて、後から走ってきていた紫眼の魔導士・セロ(a62030)と自らの召喚獣の背に乗せているセリカに『その』光景を見せまいとして立ち止まる。
ボキョグチャプチビチャーッ!!
「……」 色々な意味で凄い音を立てて、野良犬だったモノが辺りにベッタリとしている。 踏んでる形のマサカズの表情は、マスクに覆われて良く判らない。 「……あ、逃げていきますな」 イマージナの指摘の通り、大八車に殺到していた犬達は尻尾を巻いて逃げ出している。 「つ……」 「つ?」 「つ?」 すっくと立ち上がり、明後日の方角に向いたマサカズが何事か呟いたのに、冒険者達は耳をそばだてる。 「通常の二倍の速度と! 通常の二倍の硬度と! 通常の二倍の回転で攻撃力は八倍! 見たか野犬共!」 ビッツと指さして、昇る朝日を見るマサカズだったが。 「違うじゃろ、それは……」 鉄の錆びた匂いがほんの少し流れる現場に、セリカの突っ込みが流れる。 「良い子の同盟の冒険者は、危険なので一般の生物には真似しないでねーー!!」 親指を立てて、マスクが陽光に輝いて見えるマサカズだったが、ブーツの足下がほんの少し濡れているのは言ってはいけないことだったのだろう。 「いやいや、早期解決で大八車も無事でしたね〜」 「そ、そうですわね〜」 クーヤとイマージナが韜晦している横で、セロとシュウヤは大八車を動かしてきていたエルフ達に後は一緒に行きましょうと提案していた。 「野犬だし、逃げるなら放っておいても良いかな?」 今後も人里で悪さしそうなら、いつか殲滅も仕方ないがとジェフリーは逃げ去った野犬の行方を遠く見送って呟くのだった。
●餅米 餅米の蒸されて湯気の出る蒸籠を前にして。 「さぁ! みんな杵と臼の準備も万全だ!」 変身を解いたマサカズが晴れやかに、先ずは男衆が杵を持って臼の前に集合していた。 ガンガンに焚かれた薪の上で、釜に乗せられた三段の蒸籠。 その一番上から湯気が盛んに登るのを待って、一番下側の蒸籠を抜き取ったアンジーが餅米の甘い湯気を被りながら湯で温めて置いた石の臼に一気に米を放り込む。 「さ、蒸した餅米が冷めるまえに搗くぜ?」 杵取り役も誰かがその内にという話だったが、餅搗きの手伝いに手を挙げたジェフリーは早々に力仕事の搗き手を選んでいた。 「実のところ、餅よりも米を醸した酒の方が好みだが……」 「それは今日と違うやろ……」 突っ込むアンジーが臼の横に構えたのを見て、マサカズと共に叩く順番と杵取りの入るタイミングを相談しながら両手で構えた杵で餅米を臼に押しつける具合で煉っていく。 「今は、飲んでるわけにもいかないか……」 何度かひっくり返して、米の粒が余り見えなくなった頃合いからは、マサカズ、ジェフリー、杵取りのアンジーの順番で臼に杵の餅米を叩く音と合いの手が響き渡る。 「よっ!」 トン! 「ホッ!」 トン! 「よっしょ!」 クルン! 「よっ!」 トン! 「ホッ!」 トン! 「もいっちょ!」 クルン! 二つの臼が並び、次の餅米が蒸し上がるのを待っていた者達の中で、セロは久々の餅搗きに袖をまくり上げて肌寒い中でも上気してくる頬を押さえていた。 「餅搗きなんて久しぶりですね……」 水に浸され、餅米が水分を含んでいる所にこれでもかと言わんばかりに炊きあげる湯気で加熱された米は、芯まで程良く蒸し上げられて臼の中で叩かれて形を変えていく。 時折餅の薄い部分を叩いて石臼と杵が立てるパカーンと言う音に笑いが零れるのだが、杵を握っている者にとっては、笑ってなど居られない。 間違えて臼を変な形で叩けば、杵の木片が餅に混入されるのだからと、真剣な表情だ。 「ん……あと一寸やな。入らんさかい、一気に二十叩いてや」 手桶に張った湯で、餅の熱で火傷しそうな手をほんの少し冷やしてアンジーが言うと、一臼目の筈なのに既に握力が無くなりそうな危機感を抱きながらマサカズとジェフリーが最後の叩き込みに入る。 「一!」 「二!」 「三!」 「四!」 「五!」 「六!」 「七!」 「八!」 「九!」 「そろそろじゃの」 片栗粉を散らした盥を手にしたセリカが臼に寄っていく。 臼から弾け出す餅米の水分が辺りに飛んで、マサカズやジェフリーの腰辺りには白い斑点が出来ている。 「どや、見ていて判ったかいな?」 「え……っと……多分」 クーヤに問うアンジーに、自信なさげに応えるクーヤだが、杵は握って準備は万全だった。 「二十!」 「出来たのじゃ!」 ジェフリーの最後の一搗きに、セリカが嬉しそうに声を上げる。 「よいせっと」 杓文字で臼に沿って餅をたくし上げ、盥の中心の置くと、重さにふらつきながらもセリカは縁側に置かれた床机に盥を運び込む。 「それでは、餅を丸めましょうか」 カスミも共に、よく似た大きさにどんどん切り分けられる餅を手に乗せて、切れた部分を餅の下側に行くように捏ね、後は手の平の上で形を整えてやっていく。 「器用なモンだな……セリカは?」 「わ、妾は待機中なのじゃ!」 はっきりと言えば予備軍なのだろうが、一臼目は鏡餅と白い餅だけとあって、盥が綺麗になるのも早かった。 「そういや、俺が最初に受けた依頼にはセリカも居たよな?」 「ん? そうじゃったのか?」 初めと言われて、ピンと来ない様子だが、それを見てジェフリーは苦笑する。 「懐かしいね。あの時は突っ走って申し訳ない……」 「別に構わんのではないか? 故意にやったという訳でもないのじゃろ?」 首を傾げて見返すセリカの丸い目に、そうだが……と煮え切らないジェフリー。 「そうじゃな……おおう! ジェフリー殿! 次は餡餅じゃ! あの餅を柔らこう搗き上げてくれたら許すのじゃ!」 「……ッ……判った、判った」 吹き出しそうになるのを堪えてジェフリーは杵を持って歩き出す。興奮気味に言うセリカの横には、小さく丸めて準備された、餅に入れるあんこの球が幾つも山になっているのだ。 「ぺったんぺたん……刀と勝手が違って難しいですね〜。胸に大きい餅もありますので……」 「……」 一瞬、相方となって杵を持つシュウヤの視線が泳いだ。 「冗談です〜」 冗談の割には、揺れているのは間違いない。 「セリカさんも一緒に搗きましょう♪」 「妾もか?」 確かに、子供用に小さな杵もあるのだが、セリカの体格では餅搗きはかなりの重労働だ。 「もっと力を込めて〜♪ 美味しい餡餅の為に〜♪」 だが、目の前に吊された餌に食いつく魚のように、何時しかセリカも杵を持つ人に。 「乗せられてる、乗せられてる……」 励まされながら、臼の餅を搗くセリカとひっくり返すクーヤを見ながら、イマージナはあれならと杵取りを買って出た。 ある程度見て把握できた筈だが、熱い餅米を均等に搗いていく為に捏ねる作業は杵の叩き降ろされる合間を縫って行う手練れの作業だ。 在る意味では、自分の手の『命』を守らなければいけない真剣勝負に、イマージナも真剣な表情へと何時しか替わっていた。 「はい」 トスンと、餅を搗くと言うよりは撫でると言った方が良いカスミの杵。 誘われて杵を握っているのだが、その足下は非常におぼつかない。 「はい」 くにゃりと餅を返すイマージナはそれまでのジェフリー達の作業の甲斐もあって柔らかくなっている餅にホッと一安心。 「まあ、凄ぅやらかいですなあ」 「はい」 カスミが持ち上げた杵をトンと振り下ろし、餅が幾らかへ込んだ気がする。 「これが、お餅になりますんやね」 先程の鏡餅やらを思い出しながら餅を返したエンジェルの手は、餅米の熱で真っ赤になっている。 「ちょっと熱ぅなってきましたし、水を……」 ふっと横を向いた瞬間に。 カスミが置いた杵がトスンと何かを叩いた。 「ぎゃーす!」 何故か、エンジェルの叫びが響いたのは気のせいではないだろう。
●米が蒸し上がる 米が蒸し上がるのを待つ合間に、餡餅や白餅を焼いたり、そのまま醤油でいただいたりと、冒険者達は作業の合間に空腹を満たすのに大忙しだ。 「おろし大根に醤油が、また……」 磯の香りが強い海苔を巻いても、また格別だろうと、用意されていた海苔を見るジェフリー。軽く炭火であぶった餅の表面はパリパリとして、中はまだ搗いた後の温もりを残している。 手間賃代わりにといただきながら、今年で見納めになる水望大社を見学していたジェフリーだったが、歯応えがあって、舌と口の上を弾力で押しかえす餅の軟らかさに香ばしい薫りと大根下ろしのツンとくる苦渋さが絶妙のスパイスとなって、一緒にいただくお茶も良い香りで口腔に後味を残しながら消えていく。 「カスミさん、料理も上手なのですね♪」 「うむ。カスミ姉様は何でも出来るのじゃ」 「まぁ……」 流石に、イマージナの手を叩いてばつの悪いカスミがセリカを窘めるのだが、セリカは姉と慕うカスミと一緒に過ごせるこの時を楽しんでいる様子だ。それは、言い出したクーヤにも良く判っており、二人の様子はとても愛おしく感じられる。 「美味いな……こうやって餅を喰えることを幸せに感じられて、最高だ……」 「セリカが言うてた、餡子餅は凄く美味しいですなあ。色々ありましたけど、ここでこうやって美味しい物を食べた事は忘れたくありませんし、長い別れになるか、短い別れになるかは判りませんけど……何時かまた、こんな風に同じ物を食べたいですわ……」 汗を流した分、より食べ物がうまく感じられるとマサカズは次に蒸せるのを待ちながらきな粉餅とあんこ餅、炭火で焼いた餅に海苔を巻いて醤油を垂らした餅とかなりの大食漢を感じさせる勢いで食べながら、一息ついている所だった。イマージナも、セリカに勧められて餡のたっぷり入った餅をお茶と一緒にいただいてご満悦の様子。 「ふふ……楓華で過ごし早三年。亡くした友も居て……来年も此処で一緒にお餅を頂きたかったですね」 クーヤもまた、蒸籠の隙間から上がる湯気を見ながら静かに今までの時間を思い返す。 「私の心残りと言えば……リョクバ州で活動している、鬼を発生させている勢力が居ると言うことです……その勢力との決着が付いてないので、ミナモの王としてセリカさん、カスミさん共々お話しておきたかった……」 シュウヤは手にした湯飲みを固く握りながら続ける。生まれ育った楓華列島から退去する前に、最後の思い出を作りたかったこともあったが、辛い思い出しかない故郷を捨てることに大した葛藤も無いのは事実だが、それでも心残りはあるからと漏らす。 「私達は今年で楓華列島を去らなければならないから、二人に後事を託すしか選択の余地が無いのだ……」 「召喚獣を付けての活動ともなれば無理じゃろうが……帰国だけなら許可されておる。シュウヤ殿も、事件に手を貸すと言うことは無理じゃろうが、心休めたい時には帰ってくるが良かろう……事変については、妾も良く聞いておこう」 頷くセリカを見て、良かったと安堵するシュウヤ。 「……カスミさん、これからも民を助けていくおつもりですか?」 「……はい」 クーヤの問いに、シュウヤとの間を視線を動かしたカスミは静かに、しかしきっぱりと告げる。 「そんなカスミさんが、私は好きです」 「え……」 一緒にお餅を相伴に預かっていたセロとマサカズが赤面する。 「敬愛の意味で!」 慌てて訂正するクーヤだが、男達の間に静かに話の輪っかが生まれているのは解散しそうにない。 「……コホン。天子様も鬼と話すと仰っていて……以降の事は御願いします。手伝いが必要ならすぐ参上します」 と、セリカとカスミの手を取って握らせるクーヤ。 「セリカさんも姉様と末永く仲良く〜。人参も食べましょうね♪」 別れの挨拶に二人へ抱きつくクーヤだが、その胸に押し潰されて何事かを二人が言っているのは聞こえてこない。 「どうか覚えていて下さいね」 と、カスミにリボンを渡し、笑顔で立ち上がる。 「また、お会いしましょう♪」 「俺達はこの列島から去るみたいだが、ここの民が……ご来光みたいな笑顔で、良い新年が迎えられると嬉しいな」 「そうやね」 ジェフリー、イマージナもこの地の明日を願い、静かに水望大社を去る。 「……妾があちらの大陸に勉学に行くやも知れぬと言うてなかったかのぉ?」 「言っていなかったのですか?」 セリカとカスミが顔を見合わせたのは、そのほんの少し後だった。

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参加者:6人
作成日:2008/01/12
得票数:ほのぼの16
コメディ1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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