極楽さいくだ



<オープニング>


「極楽は存在するのよ」
 真剣な瞳で力説するエルフの霊査士・エスタ(a90003)を目にした冒険者達は、まず今が4月1日ではないことを確認してからためいきをついた。
「いきなり真面目に働きだした疲労で」
「正月に風呂に入りすぎて」
「サイズを気に病みすぎて怪しげな組織に入ったのかも」
 普段どう思われているか分かる囁きを豪快に無視しながら霊査士は話を続ける。
「指圧師が刺激するたびに体に貯まった疲れがとけていく感じで、もう、最高なのよ」
 口の端から涎が垂れていようにも見えるのは、無視してやるのが情けというものかもしれない。
「ま、それはそれとして」
 霊査士はそれまでの話が冗談だったかのように真面目な表情になる。
「指圧師とその弟子が住む村がグドンに襲われかけているの。10体程度の小規模な群れで、飢えきっているから食べ物を使った罠にもかかりやすいだろうし群れ全てが襲撃に参加するから一網打尽にし易いだろうけど、油断すると窮鼠猫をかむなんて展開になりかねないから気をつけて。村には簡単な柵しかない上、冬が厳しくないぶん家があまり頑丈でないからグドンが暴れるだけで壊れかねないから」
 村人達の財産を守ろうとする場合は戦い方を工夫する必要があるだろう。
「そういうわけだから、指圧師とその卵を守るため頑張ってちょうだい」
 白いハンカチで口元をぬぐいながら、説明を終える霊査士であった。

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参加者
鋼の樽・ハミルカル(a06059)
光纏う白金の刃・プラチナ(a41265)
蒼穹の傍観者・カルディオ(a45016)
迷宮彷徨人・スプラウト(a45479)
暴走向日葵ナース・ククス(a46379)
暁天の修羅・ユウヤ(a65340)
風に柳・デリコ(a67423)
ヒトノソリンの翔剣士・セリア(a68243)


<リプレイ>

●肉
 分厚い肉が火にあぶられ徐々に色を変えていく。
 にじみ出る脂は熱によって泡立ち沸騰し、食欲をそそる香りとなって拡散していく。
「思ったより匂うのだね……ふふっ」
 迷宮彷徨人・スプラウト(a45479)は火の加減を確認しながら優雅に微笑む。
 嫌みな程似合う流し目の視線の先には、相変わらず拘束具で束縛されっぱなしのミレナリィドールがのんびりと浮いていた。
「調味料を大量に使っているからねぇ」
 主犯・デリコ(a67423)は少々脂くさい風呂敷で煙を仰いでいる。
 ここは村の北側にある小さな丘。
 風はほとんど吹いておらず、胃袋を刺激する香りがゆっくりと拡散していっている。
「たまらねぇ」
 暴走向日葵ナース・ククス(a46379)は口の中に涎があふれるのを感じながら口元をぬぐう。
 適当に石を組んで作られたかまど上には網がおかれており、下から吹き上げてくる炎によって網の上の肉が熱せられている。
 一抱えはある肉だから中はほとんど生だろうが、外は食べ頃だ。
「食べちゃ駄目だよ」
 蒼穹の傍観者・カルディオ(a45016)は焦げた部分を村人から借りたナイフで削り取りながら釘を刺す。
「ハッハッハ。俺が仕事中にそんなコトするわけねぇじゃン?」
 ククスの視点は肉に固定されたままで口調は何故かカタコトだった。
「(あー肉食いてぇ今食いてぇというか妙に旨そうじゃねぇか畜生そういやグドンが村を通ってこっちに向かってきたときゃどうすりゃいいんだというか肉ー)」
 意識の大半を肉に向けながらも、ククスは冷静に作戦のことを考えていた。

●襲撃
「ユウヤ殿」
 光纏う黄金の刃・プラチナ(a41265)は村の中での待機を続けながら、こほんと咳払いをしてから切り出した。
「腹は空いておらぬか」
 プラチナの横に立つ巨漢がわずかに苦笑する。
「これだけ匂いがきついとさすがにな」
 暁天の修羅・ユウヤ(a65340)は激しい生命力と濃厚な暴力の香りを感じさせる顔で、しかし目にだけは穏やかな光を浮かべてプラチナを見下ろす。
 丘から漂ってくる焼き肉の香りは強烈で、我慢することはできるものの妙に空腹に感じられる。
「一応これを持ってきたのじゃが」
 後ろ手に持っていたものを差し出す。
 清潔な白いハンカチで包まれているそれはサンドイッチ。
 恋人の体調と好みに配慮した、甘めのフルーツサンドであった。
「もらおう」
 ユウヤは高速で手を伸ばす。
 しかし指先がハンカチに触れる寸前に何かを感じ、動きを止め感覚をとぎすます。
 それから数秒して、プラチナが村の外周にしかけた鳴子が大きな音をたてるのが聞こえてくる。
「急ぐぞ」
「うむっ」
 ユウヤにグランスティードの上へ引っ張り上げられながら、プラチナは笑顔のまま激怒していた。
 これから戦いが始まる。
 戦闘後の後始末も考えれば時間がかかるためフルーツサンドから鮮度が失われるし、そもそも戦闘の中で彼女が彼のため用意した一品が無事でいられる可能性は低い。
「グドンめ、よりにもよってこんなタイミングできおって……。泣いたり笑ったりできなくしてやるのじゃ」
 そのつぶやきにはは、ユウヤの背筋に冷たいものを走らせるほどの殺意がこもっていた。

●血風
 大きな鉄の塊を乗せたグランスティードが駆ける。
 その鉄の塊は幅広の斧と大型の盾を身につけており、よくよく見てみると人型であることが分かる。
 だが強い匂いに惹かれて誘い出されたグドン達には、よく見る暇は与えられなかった。
「のけっ」
 すれ違いざまに速度と重量が乗った一撃が繰り出される。
 斧が振るわれるたびに鈍い炸裂音が発生し、臓物をはみ出させたグドンが悲鳴をあげ、脊椎まで破壊されたグドンが地面に転がる。
「おまえ等はこれ以上行かさん」
 たとえグドンを滅ぼそうが村に被害が出れば依頼は失敗になり、つまりは報酬をもらえない。
 家族の生活をその身に背負う鋼の樽・ハミルカル(a06059)は、返り血にまみれ衝突時のグドンの反撃で手傷を負いながらも、強烈な勢いでグドンの群れを足止めしていた。
「らぁっ!」
 魔獣のような気合いの声が響き、村に逃げ込もうとしていたグドンの頭が爆ぜ割れる。
「まずい具合に散らばりおっておるの」
 ユウヤの腰に回していた手を名残惜しげに離してから、プラチナは銀のマントをひるがえしグランスティードから飛び降りる。
 そして高速でグドンの群れを突っ切りながら、連続で頭部を発光させる。
 スーパースポットライト奥義の効果範囲にいたグドンの多数は硬直するが、それは全てではない。
「早さが求められる技はどうにも苦手じゃな」
 身の丈をはるかに超える巨大剣を振り回しグドンを文字通り粉砕しながら、プラチナは誰にも分からないような小声でつぶやく。
「やっぱりもう始まってるかー」
 最初から村や何より音に気をつけていたククスは鳴子の音で事態を察し、他の面々を促しこの場に急行することができていた。
「ここは通行禁止だなぁ〜ん」
 軽装が幸いしてククスとほぼ同時に到着したヒトノソリンの翔剣士・セリア(a68243)は、村への進路を塞ぎながら槍を振るう。
 鋭い切っ先がグドンがまとう粗末な毛皮を切り裂き、セリアの手に平に肉を断つ独特の感触が伝わってくる。
「これはちょっと面倒かもしれないね。森が近い」
 カルディオがグドンに矢を射かけながらつぶやく。
 圧倒的な戦力差ではあるがこちらの目的は撃退ではなく全滅だ。
 依頼の達成という視点からみればそれほど有利な訳ではない。
「囲まれてしまったようだね……ふふっ」
 路地からスプラウトがひょっこり顔を出す。
 ちょうどそこには生き残ったグドンが数匹おり、森へと駆けていく最中だった。
「ならば受け取りたまえ、私の歌声を」
 微妙にずれているその性格ではなく、その優美な容姿と仕草にふさわしい歌声が響く。
 ただし声に含まれているのは生命賛歌ではなく聞く者を破滅に誘う狂気。
 グドン達はたちまち狂乱し逃げることを忘れて暴走する。
「やっぱり使いやがったか……んぐ」
 味方をヒーリングウェーブ改で癒していたククスは何故か(?)口をもぐもぐと動かしながら魔道書を掲げ、癒しの力をを秘めた風を吹かす。
 だが技の副作用で実に気持ちよさそうに恍惚としていたスプラウトはそのままだ。
「運が悪いけど悪いように見えない得な性分なぁ〜ん」
 セリアは自分とあまりにノリが異なるスプラウトに的確なつっこみをいれながら槍を突き出す。
 耳から血を流しながらグドンの脇から背にかけて槍が貫通し、体を震わせながら断末魔と共に地面にへたり込む。
「っ」
 彼女はグドンを蹴り飛ばすようにして槍を引き抜く。
 グドンとはいえ既に骸に対する扱いが惨くみえるかもしれないが、実力差が大きいとはいえこれは生死をかけた闘争だ。
 まだ敵が残っている以上遠慮をしている余裕はない。
「ちょいと作戦のツメが甘かったかね」
 デリコはふらりとグドンに近づく。
「ま、お裾分けって奴で。ゆっくり休みな」
 無造作に伸ばした指先が、グドンの首筋に突き立つ。
 群れの最後の生き残りが大地に沈み、村の危機は完全に去るのだった。

●指圧
「はぁ〜」
 清潔な寝台の上で横に大きな体が下着だけの恰好でうつぶせになり、完全に弛緩していた。
 まだ修行中らしい少女がその腰の上に乗り、額に汗を流しながら指圧を続けている。
「俺も歳には勝てんか。すまんがもう少し頼む」
「はい!」
 ハミルカルの声に元気な声が答える。
 強靱極まりない筋肉の上に厚い脂肪があるためかなり難儀しているようだが、村の恩人を相手にしているため相当士気が高いようで、やる気満々だ。
「うん、これはこれで……ふふっ」
 スプラウトも同じような体勢で腰を刺激してもらっているが、こちらは少々痛がっているらしい。
 もっとも普段と全く変わらない態度のままなので余程親しい者でなければそのことに気づかないだろう。
「だらしねぇなぁ。俺なら一番きつくしても」
 見習い卒業間近らしい年かさの少女がククスの腕を刺激する。
「だ、大丈夫だぞ?」
 自ら防御を解いた状態で刺激されれば痛いものは痛い。
 ククスはぐっと我慢して、徐々に血行が良くなっていくのを感じていた。
「僕も本格的にやってもらった方がよかったですかね」
 カルディオは肩をはだけた状態で、痛みや快感やその両方のうめきをあげる冒険者達を見ていた。
 肩のみの指圧のせいかは分からないが、痛くもないがさほど楽になったようにも感じられない。
「これは歪みや疲労が蓄積されていない方にはほとんど効かないんですわ。指圧は、その、アビリティでしたっけ? 冒険者の皆さん使われるような凄いものではなく単なる技術ですから」
 デリコの腕を刺激している指圧の師匠が答える。
 単なるなどと言ってはいるが、長年磨き上げた技術には自信があるらしくその顔も手つきも実に頼もしい。
「なるほどー。だから私にはここまで効く訳ですか」
 デリコは徐々に肩から先の血行が良くなっていくのを実感し表情を緩める。
 これまでより重い武器を使い始めたため知らず知らずの間に凝っていたらしい。
 確かに痛むがあるがそれ以上に血行が良くなり凝りがほぐれていく感覚が快適だった。
「この指圧、馴染む、実に馴染むぞ」
 ユウヤは絶好調であった。
 堂々と寝そべり、四肢を中心に加えられる刺激とそれによる変化を愉しむ。
 指圧担当はどうやら若い女性のようだが、ユウヤは全く気にしない。
 欲望を律している訳ではなく、単に己の身体の方により強い興味があるだけである。
「うむ、実に良い。良い……ちょっと強くない?」
 いつの間にか冒険者の水準からみても力強くなってしまった指圧に首をかしげるが、心身共に頑強なユウヤはまあいいやと内心呟いてじっとしている。
 実は指圧担当は指圧の師匠に頼んで要領を教えて貰ったプラチナだったりする。
 いつまでたっても気づいてくれないユウヤに少々苛立っており、徐々に、だが確実に強い力がかかるようになっていた。
「釣れたから台所借りるなぁん」
 釣り竿と川魚が山盛りの魚籠と共に、セリアが指圧部屋に顔を出す。
 よく食べよく動く彼女は身体に疲れも歪みもほとんど蓄積しておらず、実は指圧を楽しみにしていたのだがしてもらってもあまり気持ち良くなかった。
 指圧の師匠はセリアの見事な健康に感動していたが、セリアとしてはかなり寂しい。
「いいなぁん。僕には釣りがあるなぁ〜ん」
 そんなことを言いつつ皆のため魚料理を作ろうとする彼女の背には、暖かい視線がたくさん向けられていた。


マスター:のるん 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2008/01/14
得票数:戦闘1  ほのぼの3 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
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