娘売り



<オープニング>


 晩御飯の時間になっても娘が帰ってこない。
 最近、若い娘を攫っては金持ちへ慰み者にどうかと売りつけるという盗賊団が近くの街道に来ているといううわさを耳にした。
 心配した親は、捜索して欲しいと願い出てきた。

「どうやら、親御さんの心配したとおり、娘さん――リディアさんというそうなのだけど――は噂の盗賊団に攫われてしまっているようなの」
 集まった冒険者たちに、花車の霊査士・ヴァルナ(a90183)は説明を始める。
「他にも何人もの女性たちの姿が視えたの。遅くなってしまったら、リディアさんを含め、その女性たちは売られてしまうわ。そうなる前に、助け出して欲しいの」
「任せるのなぁ〜ん」
 話を聞いていた幼さ残る白き交渉人・レイメイ(a90306)が胸を叩いてみせた。
 ヴァルナはぺこんと頭を下げ、「よろしくね」と付け加えるのであった。

マスター:暁ゆか 紹介ページ
 こんにちは、暁ゆかです。

 盗賊団の規模は幹部から下っ端含め30人程度です。
 本拠地にしている街道を逸れたところにある洞窟に普段いるのはその半数で、残りは娘たちを攫いに出かけてしまっているようです。
 捕まっている女性は、リディア嬢を含めて10人ほど。
 下手に出て行くと、女性たちを盾に逃げようとするかもしれませんので、お気をつけください。

 レイメイが同行いたします。
 指示がなければ回復役として働きますが、その他の行動を取って欲しいときは、何方かのプレイングにて、指示してください。

 それでは、皆さんの参加、お待ちしています。

参加者
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
天壌の桜姫・オウカ(a24167)
苛烈なる壮風・ラグニス(a40885)
偽神の少年鏡・ゼロ(a50162)
流離の鄙謡・イータナシーラ(a50608)
灰色の守護騎士・ヴィクス(a58552)
蒼き厄札使い黒き黒炎遣い・ファサルト(a64858)
希望の腕・サータリア(a65361)
NPC:幼さ残る白き交渉人・レイメイ(a90306)



<リプレイ>

●囮になって、捕まっちゃえ
「ふぅ、準備が出来ましたので行って来ます。武器は重いですが大丈夫でしょう。では」
 シスター服に身を包み、背中の翼は服の中にしまい込んで、化粧もして女装をした偽神の少年鏡・ゼロ(a50162)は、武器である両手剣を盗賊たちのアジトである洞窟を見張る班の仲間に渡した。
 天壌の桜姫・オウカ(a24167)も魔道書を預け、彼女らを始め、幾人かは盗賊たちに捕まえられる囮となるために、洞窟付近の街道や近くの町などへ向かう。
(「冒険者の誓いに掛けて……!」)
 自分自身にそう言い聞かせ、希望の腕・サータリア(a65361)は無防備な良家の息女のように自身を見せながら、洞窟からそう離れていない街道を歩いた。
 もちろん、無防備な良家の息女は、盗賊たちにとって、格好の獲物であり、街道の人通りが少ないところを狙って、サータリアへと数人の男たちが絡んできた。
「お嬢ちゃん、ちょっと俺らについてきてもらおうか?」
 怖がる振りをして、サータリアは彼らに着いていく。
 一方、花柄の傘を差したゼロも冒険者とばれないよう、姿どおりシスターに見えるよう振る舞いながら、近くの町を歩いていた。
 人通りの少ない路地に一歩踏み入れたところで、柄の悪そうな男がゼロへと体当たりをしてくる。
「おう、おねえちゃん。何処見て、歩いてんだっ!?」
 明らかに男の方から当たってきたというのに、言いがかりな文句を並べる。そして、ゼロは「ついてこい!」と無理やり、その男に連れられていった。
「はにゃ〜? 離して〜?」
 盗賊らしき男たちに捕まったオウカは少しだけ抵抗したあと、大人しく捕まっていた。
 街道にて、一人旅の旅芸人の振りをした想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)は、盗賊らしき男たちに囲まれ、慌てて逃げようとする。けれど、囲まれてしまっている分、どちらの方向に逃げてもすぐに囚われてしまった。
 彼女は、男たちの中から一番偉そうな人を選ぶと、哀願するように耳元へと囁きかける。
「おとなしく言うことを聞きますから乱暴に扱わないでください」
 そのまま、甘く囁きかけるような魅惑的な歌を紡ぎ、その魅惑に男が心を奪われると、更に他の女性を攫いに行こうとする男に対し、根城に戻るように誘導の言葉を囁いた。
「よし、この女を連れて帰るぞ!」
 男は他の男たちにそう告げると、ラジスラヴァを連れて、一足先に根城である洞窟に戻っていった。

●中からの脱出?
 盗賊に捕まったラジスラヴァ、オウカ、ゼロ、サータリアの4人は、洞窟の奥の方にある一室へと通された。その一室の出入り口は鉄の格子で塞がれている。
 中には10人ほどの女性たちが怯えた様子で、隅の方に固まっていた。
「リディアさん、ですか……?」
 依頼を受けた際、居なくなったという娘の情報を伝えられていたため、オウカは女性の中の1人に情報と合う女性を見つけて、訊ねた。
「……はい。あの……?」
 女性――リディアは、不思議そうに何事かと首を傾げる。
 オウカは一室の出入り口の方を見て、盗賊の注意がこちらには向いていないことを確認すると、声を潜めながら、言葉を紡いだ。
「……もう大丈夫です。夜には仲間が助けに来ますから……」
「私たちはあなたたちを助けに来た冒険者です」
 オウカの言葉に続き、ラジスラヴァも付け加える。
 ただ、ゼロだけは自分が冒険者であることを伏せ、ただの人質らしく振舞っていた。
 幾分か時間が経ち、上玉が増えたと騒いでいた盗賊たちも酔い潰れて寝てしまったのか、格子の向こう側は静まり返っていた。
「魔道書よ、我が手に……」
 そろそろ頃合だろうかと、オウカは洞窟の外で待つ仲間に預けている武器――魔道書を手元へと呼び寄せた。
 ゼロも十字型の両手剣を呼び寄せる。サータリアは、殺気を捨て去った無防備な構えを取り、女性たちの盾となる位置に立った。
「さぁ、裁きの時間だ。信ずる神の元に帰りな。後オカマ言ったやつは問答無用で殴るからね♪」
 そう言いながら、ゼロは呼び寄せた両手剣を猛烈な勢いで振り下ろし、強い一撃を格子の一部にある扉の鍵へと放った。
 ガチャンと金属の破壊される音が響き、鍵は壊れる。
「何事だっ!?」
 少し離れたところで、一室の方には背を向けて、見張りをしていた盗賊たちが、その音に気付いて、扉へと近付いてきた。
「私たちから離れないでくださいね?」
 オウカはリディアに触れながらそう言い、彼女を護ることを誓った。
「はい」
 リディアは頷き答える。
「眠りなさい……」
 ラジスラヴァが眠りへと誘う歌を歌う。
「ふぁ……」
 近付いてきた盗賊たちは、中を確認する間もなく、眠りについた。
 取り上げられていた荷物が格子の向こうに置かれているのを発見し、ラジスラヴァはその中から持って来ていた麻縄を取り出すと、眠りについた盗賊たちを縛り上げていく。
「わたしはここで、彼女らを護りながら、待ちます」
 盗賊たちの襲撃に備え、構えたままのサータリアが言う。
 他3人は安全な場所へ避難することを考えていたけれど、盗賊からの攻撃が飛び交うことになるであろう洞窟の通路を進むよりは、この一室で事が済むのを待っていた方が安全であるかもしれない。
 サータリアの言葉に3人も同意し、一室へと向かってくる盗賊を迎え撃つことにした。
「今から君達の事を護るから後ろにいろ。後、服装については何も言わないでくれ」
 ゼロは女性たちに攻撃する盗賊が居ようものなら身体を張って護れるように一室の出入り口付近に立つ。そして、念のため、男なのにシスター服を着ていることに対して何か言われないように、諭した。

●深夜に侵入せよ
 捕まって中から女性たちを救出するという囮班がそれぞれ街道へと出かけた後、見張り班である一行は洞窟まで近付いていた。
 囚われた女性たちの境遇を考えると、今すぐにでも乗り込んで助けたいと思う苛烈なる壮風・ラグニス(a40885)は、乗り込んだことで女性たちが人質に取られるようなことになってはかえって危険になる、と自分に言い聞かせ、洞窟を見張ることの出来る茂みにて、洞窟の出入り口を見張っていた。
 流離の鄙謡・イータナシーラ(a50608)は、少しその場から離れると、森の中に入り、動物を探した。野うさぎの姿を見つけると、甘く囁きかけるような歌声で、その動物へと語りかける。
「♪盗賊たちの暮らす洞窟には、出入り口がたくさんあるの?」
「あそこの洞窟の出入り口は、1つだけだったはずだよ」
 野うさぎはそう答えると、茂みの中へと去っていった。その後、リスなどにも聞いてみたけれど、洞窟の出入り口は1つしかないようだ。
 見張る場所はあの場所だけで良いことも分かったので、イータナシーラは仲間たちの元へと戻り、同じように茂みに隠れた。
 ラグニスは見張りながら、洞窟に出入りする盗賊たちの数を数えていた。
 途中、ラジスラヴァを連れた盗賊たちが戻って来たのを境に、出て行く盗賊はなく、時間を置かずして、出て行っていた数と同じだけの盗賊たちも帰ってきた。
 囮となった仲間たちが皆、連れられて入っていくのも見送って、夜が更けるのを待つ。
 夜も更けた頃、幼さ残る白き交渉人・レイメイ(a90306)が預かっていたオウカの魔道書が、持ち主に呼び出されたようで、消えていった。続いて、ゼロの両手剣も消える。
「行くか」
 守り抜くと誓った・ヴィクス(a58552)の言葉に、皆が頷く。
 ラグニスが洞窟の入り口付近を見たところ、2つの人影があるようだった。蒼き衣を纏いし忍者・ファサルト(a64858)はそれを聞き、周囲と溶け込むように同化すると、その様子を見に行った。
 見張りらしき盗賊が2人居るのだが、夜も更けて、油断しているのか、立ったまま、うとうとしている。ファサルトはその2人を素早く拘束し、茂みに隠れている仲間たちを呼んだ。
「逃げ出し防止に誰か残るの?」
「それじゃあ、わたしが残るのなぁ〜ん」
 イータナシーラの問いかけに、レイメイが答える。
 念のためと、ファサルトが一番最後に洞窟に入り、入り口付近に粘着性の強い蜘蛛の糸を作り出して、地面に撒いておいた。
 そして、4人は中へと入っていった。
 囮であることを知らずに、今日もまた女性たちを攫ってきたことに良い気分になって、宴でも開いたのか、そこかしこで酔い潰れて寝てしまっている盗賊が多数居た。
 そんな彼らを起こさないように、ファサルトが粘着性の強い蜘蛛の糸を作り出して、片っ端から拘束をしていく。
 けれど、物音に気付いて起きた盗賊が奥から1人出てきた。
「そこで何をしているっ!?」
 冒険者たちに向かって、その盗賊が叫ぶ。声を聞いて、「何だ何だ」と他の盗賊たちも起き出した。
「今はあんた達を逃がすワケには行かないよねェ……出来れば大人しく眠っていて欲しいわ?」
 イータナシーラは淫靡な香りの紫煙を放って、盗賊たちの注目を集めておいてから、眠りへと誘う歌を歌った。
 眠らず、襲い掛かってくる盗賊に、ヴィクスは剣は使わず素手で首の後ろに一撃加える。
「っく……その剣で、殺せばいいだろう、このように捕らえなくとも……」
「……別に、盗賊でも、死ぬことはないと、思っただけだ」
 気を失う前に呟く盗賊に、ヴィクスは言葉を返す。
 ラグニスは捕らわれていく盗賊たちを見ながら、洞窟の奥へと向かった。盗賊たちが捕まろうとも、囚われた女性たちの安全を確保するまでは安心できないのだ。
 奥の一室に格子があり、その奥に女性たちの姿が見えた。
 彼女らを護るように、仲間たちが構えている。
「大丈夫なのっ!?」
 言いながらラグニスは持って来ていた毛布を薄着のまま震えている女性たちにかけてやる。
 遅れて、盗賊全員捕らえ終えた仲間たちもやって来て、盗賊の幹部たちと女性たちを連れ、一行は洞窟を出た。

●最後に尋問
「まあ、命は奪わない。だが、生憎、俺は聖人ではないんでね。嘘はつかない方が良いぞ」
 ヴィクスはそう告げておいて、盗賊の幹部たちに尋問を始めた。
 人攫いをやっていた期間やその間に攫い、売りつけた人の数、そして、女性を買った人の居場所を知っているかどうかなどを。
「居場所は知らねぇよ。いつも向こうから会う場所を決めて、連絡をよこすんでな。まぁ、お前らは運が良かったんじゃねぇの。丁度、明日、あの女どもを隣町で売る約束をしてたんだ。俺らの代わりに行けばいいさ」
 それだけ言うと、盗賊は黙り込む。
「彼女らが受けた心の傷を思えば殺されないだけありがたく思いなさい」
 女性たちに、捕まっている間の仕打ちを聞いて、怒りの頂点に達したラグニスがその盗賊に言う。そうして、盗賊たちの股間を蹴り潰して回った。

 一行は、近くの町の自警団に盗賊たちを差し出した。
 隣町で行われる予定の取引のことも伝え、これまでに売られていった女性たちを助けて欲しい旨を告げ、帰途へと着くのであった。


終。


マスター:暁ゆか 紹介ページ
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作成日:2008/01/21
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希望の腕・サータリア(a65361)  2009年09月12日 19時  通報
やりすぎたかもしれませんが……人攫いには悪い思い出しかないもので。