黄金のブイヤベース



<オープニング>


「難しくはない依頼だ。晩餐会に料理が間に合うよう、食材を届けてくれればいい」
 そう言って、紺碧の子爵・ロラン(a90363)はうっすらと微笑む。
 彼の話を要約すると――、
 とあるセイレーン貴族が、宴席をもうける。会場は、平素起居している街の屋敷ではなく、山の上にある別邸で行うらしい。
「そこへ、近隣では名の知れた料理人を招いて、『黄金のブイヤベース』をつくらせ、皆にふるまおうという趣向らしい。諸君はブイヤベースを知っているかね?」
 ブイヤベースとは魚介類を煮てサフランで風味をつけたスープを云う。件の料理人がつくるそれは絶品で、サフラン色のスープにひっかけて『黄金の〜』と呼ばれるようになったらしい。
 さて、そこまではよいのだが、そうなると、食材である新鮮な魚介類を会場である山の上の別邸まで運搬しなければならぬ。料理人と、主催者である貴族両者の意向で、いちばん近い漁村で穫れたばかりの魚をできるだけすばやく運んで使用する手筈が整えられた。
 本来、街から別邸までをつないでいる街道では、しかし、時間がかかりすぎて、宴席の準備に間に合わない。だから、多少、道は険しいが、より早く到着が見込める、今は使われていない裏街道を用いることになったのだが――。
「裏街道の周辺にグドンの群れがたむろしているのだよ。なので……食材の運搬には冒険者の手を借りるよりないだろう、となるのが当然の帰結。グドンを蹴散らして、山道を駆けあがり、魚を届けてほしい」
 以上が、紺碧の子爵のもたらした依頼である。
 期待にそえるはたらきがあれば、『黄金のブイヤベース』の相伴にあずかることもできるかもしれないな、と、ロランは付け加えた。

マスターからのコメントを見る

参加者
星屑の髪飾り・ナハティガル(a05959)
風切羽・シリル(a06463)
南国の薔薇・ジョージィ(a44355)
黄色の羽毛・ピヨピヨ(a57902)
樹霊・シフィル(a64372)
草原を駆ける戦士・アトレーユ(a66132)
晴天戴風・マルクドゥ(a66351)
暁雫・ルルシェ(a70427)
NPC:海風の追人・モーリ(a90365)



<リプレイ>

●出発
「どうやったら黄金になるのかなぁ〜ん」
 眠れる金獅子・ジョージィ(a44355)が目を輝かせて、水揚げされたばかりの魚を見つめた。新鮮な魚のつややかな鱗が朝日を照り返す。
「金色の食べ物は美味しいのなぁん。蜂蜜とかサツマイモとか……」
 と、暁雫・ルルシェ(a70427)。
 まだ見ぬ黄金のブイヤベースに思いをはせるヒトノソリンたちに、樹霊・シフィル(a64372)は頬をゆるめた。
「まだまだ寒い日が続きますので、是非とも温かく美味しいスープのご相伴にあずかりとうございますわ。……あ、決してそれだけが目的というわけでは」
「ぶいヤベェ酢って、酸っぱいのか? 兄ちゃんも喰ったことある?」
 迷走大風・マルクドゥ(a66351)が訊いた。
「ブイヤベースだ。うまいかどうかは料理人次第だが――紺碧の子爵の持ち込んだ話なら、貴族の依頼だろう。腕のいいのを雇っているはずだ」
 海風の追人・モーリ(a90365)が応える。
 そうこうしているうちに、必要な食材が揃ったようだ。
 冒険者たちの任務は、それを時刻までに山の上の貴族の別邸まで届けること。
「あいにく私は山育ちだもので魚の扱いは詳しくないんです。傷まないように運ぶコツとかありますか? 氷やござでくるんだり?」
 風切羽・シリル(a06463)が首を傾げた。
「氷があれば申し分ないが、ここにはない。日にはあてんほうがいいだろうな」
 と、言いつつ、モーリは、漁村の漁師たちに混じって魚を運搬用の箱に移し替えていく。中にはおがくずが敷かれてあった。
「あ、手伝うね〜」
 黄色の羽毛・ピヨピヨ(a57902)たちも作業に加わる。
 荷車を借りることになっていたが、小分けに箱詰めし、各人が背負えるようにも準備しておく。
 荷車に積みながら、草原を駆ける戦士・アトレーユ(a66132)は魚の種類を問うた。
 いくつかの種類が用意されていたが、いちばん数が多いのはうっすら斑紋を浮かべた60センチほどの魚である。これはタラだ、とモーリが答えた。
「傷ませないためには、運び方もあるけど、なにより、手早く運んじまうこった。大変だろうが頼んだよ」
 漁師たちのそんな声に送りだされ、9人の冒険者が一路、出発する。
「お魚〜お魚、ガンバって急いで運ぶよ〜♪」
 意気軒昂と、星屑の髪飾り・ナハティガル(a05959)が声をあげた。

●旅路
 漁村から山裾までは街道を旅すれば何の問題もなくたどりつくことができた。
 ここからは、悪路を駆け上がることになる。山の上へ通じる旧街道は、もはや路とは呼べないほどに荒れ果てていて、使われなくなって久しいものと察せられるのだった。
 荷車はマルクドゥが中心になって引く。
 ジョージィはノソリン変身したほうがいいかと考えたが、ノソリンによる運搬の利点は長時間安定して運べることであって、今回のように急ぐ場合ならノソリンの手を借りる必要はないだろう。
 ピヨピヨ、アトレーユ、そしてシフィルの3人がすこし先を歩き、文字通りの露払いを務める。
「あそこの石も除いて下さいませ」
 シフィルが召喚した土塊の下僕に命じる。命じられるままに召喚存在が荷車の通行に邪魔になりそうな石をどけていった。シフィル自身は緑の突風を茂みの深いところに撃ち込み、グドンなどが隠れ潜んでいないかを調べる。
 下僕では手が出ない大きな岩があればピヨピヨが大岩斬で砕き割り、アトレーユは斧を振るってうっとうしい茂みの草を刈っていくのだった。
「あら? そこの茂みが揺れましたわ……。怪しゅうございますわね」
 シフィルが気づいて、声をあげた。
 アトレーユとピヨピヨが、武器を手に、茂みの向こうをあらためると……
「!」
 人間に似てはいるが、獣の頭をもつシルエットが、ばっと飛び出して、脇に広がる木立のあいだへ駆けていく。グドンだ!
 アトレーユがチェインシュートを放った。
 グドンは二人連れだった。一匹が、アトレーユの攻撃で手傷を負わされたが、そのまま一目散に逃げていく。
「……」
 ふたりは顔を見合わせた。逃げたのなら深追いはするまい。今、大切なのは、一刻も早く荷物を届けることだ。

「んー、大丈夫みたいだよ」
 そんな顛末を遠眼鏡の中に見て、ナハティガルは荷車を促す。
「あ、ちょっと待つなぁ〜ん」
 ルルシェが、荷物を固定しているロープを結わえ直し、荷崩れを防いだ。
「んん……坂がきつくなってきた」
 マルクドゥがつらそうなので、シリルがうしろから荷車を押す。
「この坂は、手で運んだほうがよさそうだね。おーい」
 ナハティガルが、先行している面々を呼び戻した。
 荷物をそれぞれが背負って、分担し、運ぶことにする。
 ナハティガルは空いた荷車に縄をかけ、坂の上へ引き上げようとこころみる。ピヨピヨがひっぱるのを手伝ってくれた。
「ん――。みんなで運べば結構なんとかなるな〜♪」
 と、マルクドゥ。
「はやく上げちゃって、積み直しましょう。人の体温であたたまらないほうがいいと思いますから」
「そっか。いろいろ難しいなぁ〜」
 シリルに言われて(漁師に聞いた受け売りだったが)、マルクドゥは足早に荷物を運ぶ。
 急斜面を過ぎ、また荷車が使えるようになれば、再び、荷物を積み直す。
 あとどれくらいだろうか。
 汗をぬぐい、一息つきつつも、油断なくあたりに気を配っていたジョージィは、下生えを踏み荒らす足音を聞いた。
 ばらばら――、と石が降ってきた。
 狐グドンたちの投石だ。さきほど先行班がみかけた連中の、大本の群れが、荷が――そしておそらく食糧が――通ると知って大挙しておしかけてきたのだ。数にまかせればこわくないと、グドンは考えているようだ。
「荷は頼みました。先を急いでください!」
 すらりと細見剣を引き抜きながら、シリルが叫んだ。チキンフォーメーションを活性化していた彼女の反応は早かった。すばやく、臨戦態勢をとり、イリュージョンステップの足捌きで敵の攻撃に備える。
「おう!」
 マルクドゥが応えた。うしろから、思い切り、ジョージィが荷車を押す。
 アトレーユはグランスティードに騎乗して、グドンたちへ詰め寄った。すばやく目を走らせ、ピルグリムグドンの姿を探すが、見当たらない。ならば幸運だ。ただのグドンの群れになら、冒険者が遅れをとることはないはず!
「とまれ、なぁ〜ん」
 おしかけてくるグドンへ、ルルシェが紅蓮の雄叫びを浴びせる。たちまち、襲いかかろうとするその姿勢のまま硬直する襲撃者たち。
 荷台に降りかかる石つぶてを、モーリがその身でかばって避けた。一気に駆け抜ける荷車。
 まだマヒしていないグドンたちの視線は荷車を追ったが、次の瞬間、戦場を照らした白い光に注意を削がれた。シリルの閃かせたスーパースポットライトである。光を浴びて、マヒしたものもいる。
 その隙を突いて、ナハティガルが黒いギターの弦をつまびく。
 ニードルスピアの雨がグドンたちに襲いかかった。
 アトレーユが、流水撃で、後方から投石を行っていたグドンを薙ぎ払う。
 それだけで、グドンたちに冒険者の強さをしらしめるには十分だった。
 たちまち浮足立つグドンたち。
「今日の服は高うございますの。汚れた手で触らないで下さいません?」
 シフィルの降らせるエンブレムシャワーの光の雨。
 そしてシリルの放つソニックウェーブが、着実にグドンを滅していく。
 マヒから解放された生き残りが、あわてて逃げだしていき、群れが瓦解するのはあっという間の出来事だった。
 名残とばかりに、チェインシュートを一撃。
 鎖が引き戻されて手元に返ってきた武器を掴み、アトレーユは敵が逃げ去った方角を見遣る。
「大丈夫そうかなぁ〜ん。……みんな怪我はないかなぁ〜ん」
 ジョージィが荷車を押す足を止め、後ろを振り返った。
 仲間たちがさしたる被害もなく戦闘を終えたのを確認する。
「見ろ」
 モーリがマルクドゥを促した。
 まだずっと上のほうではあったけれど、山の中腹あたりに、森の中から建物の屋根が垣間見えている。あれが目的地に違いあるまい。
「あとちょっと、かなっ。ご飯のために頑張ろうぜっ!」
 大きな声で、仲間たちを――あるいは自分を――励ますように、彼女は叫んだ。
「ブイヤベース、たのしみーー♪」
 ナハティガルが応えた。
 障害を乗り越え、冒険者たちの、まだ見ぬ料理への期待はいやがうえにも高まってゆくのだった。

●黄金のブイヤベース
「魚を届けにきましたー」
 貴族の屋敷に到着したのは、晩餐には十分に間に合う頃だった。
 賓客たちは集まっているようで、敷地にはたくさんのノソリン車が停まっていたし、広間のほうからは音楽が聞こえてくる。
 だが冒険者たちは玄関ではなく、厨房に通じる勝手口から、荷物を搬入する。
「ご苦労さまでした。どれ……」
 料理人らしいセイレーンの男が、アトレーユの差し出した木箱を手に取り、中をあらためようとする。
「新鮮な魚だから……きっと美味しいのができますよね?」
「……。うん、いい状態だ。これはいい」
 箱の中の魚を見て、料理人が言ったので、冒険者たちは安堵の息をついた。
「ありがとう。とても助かりました。これで『黄金のブイヤベース』が作れるでしょう」
「お魚がきらきらになるのなぁ〜ん?」
 ルルシェが瞳を輝かせた。
「楽しみなぁん、お魚とふぁいとでですとろいなぁ〜ん♪」
「魚が金色ではないよ。サフランを使った黄金色のスープなので、そう呼ばれているんだ」
 料理人が笑った。そして、助手たちに、食材を運ぶように命じる。
「せっかくですから、みなさんにも召し上がっていただくようにと言いつかっていますので。できあがるのを待っていて下さい」
「よかったら、下ごしらえを手伝わせてもらえないかな」
 ピヨピヨが申し出た。料理にはいささか自信がある。エプロンも持参してきたのだ。
「そんなことまでしてもらう必要はありませんよ。手は足りているのですし。それに――」
 しかし、料理人はにっこり笑って丁寧に断りを入れると、こう続けるのだった。
「申し訳ないですが、『黄金のブイヤベース』の調理法は、どなたにもお教えすることはできないのですから」
 これではレシピはおろか、作業を見学させてもらうことも無理そうだ。ピヨピヨは大人しく諦めて、せめてその味をしっかり覚えて帰るぞ、と心に誓うのだった。

 依頼人であったセイレーン貴族に労をねぎらわれ、冒険者たちは、大食堂の隅のほうに用意された、かれらのテーブルに案内された。
 主賓たちとは差のつけられた待遇だが、それは致し方あるまい。それでも、豪奢な晩餐会の雰囲気にひたるには十分だった。楽士たちの奏でる音楽。見事な調度類。よくしつけられた給仕たち。それらに気をとられているうちに、いくつかのオードブルがテーブルの上に並べられた。
 シフィルだけは、晩餐会を意識して、服装にも気を配ってきたようだ。ワンピースのボタンやケープの留め具は薔薇のモチーフ。首飾りの紅玉が目を引いた。
「お飲み物は何を?」
「ええと……どんなお酒が合うんですかね?」
 給仕に酒の種類を聞かてれシリルは、モーリに助けを求めた。
「……ブイヤベースなら、葡萄酒か――サングリアにしたらどうだ」
 サングリアはワインにフルーツを加えたものだという。
 そうこうしているうちに、どこからともなく……
「あぁん……とっても良い香りが……」
 シフィルの言葉を聞くまでもなく、それが、『黄金のブイヤベース』なるものの香りであることは間違いなかった。
 そしてついに、テーブルごとに、大きな鉄鍋が運ばれてくる。
「わ〜い♪ 綺麗なぁ〜ん♪」
 ジョージィが歓声をあげた。鍋の中は、きらきらと輝く黄金色のスープだった。タマネギやジャガイモなどの野菜といっしょに、かれらが運搬した魚が煮込まれている。
「う〜れしいな〜♪」
 給仕が取り分けてくれたブイヤベースを、ナハティガルが、さっそく口へ運んだ。
「……!」
「……まあ」
 スープを味わい、シフィルは感嘆の息を吐く。
 ピヨピヨはなんとしてもこの味を盗まねば、とじっくりと味わう。
 スープには魚介の旨みが溶け出し、驚くほど奥行きのある、深い味わいだった。しかしくさみはまったくなくて、上品なサフランの香りがそれらをふうわりと包み込んでいる。ピヨピヨは魚介ベースのスープに風味をつけているのがサフランだけでなく、フェンネルやタイム、ローリエといったハーブだろうと見当をつけた。
「うまい! 魚って、焼くか干すだけじゃないんだな」
 マルクドゥが、重労働のあとの空腹に流し込むように、あっという間にひと皿めをたいらげる。
「タラにカサゴ……それからホウボウか」
 ぼそり、とモーリ。幾種類もの魚を煮込んでいるのがこの料理の特徴か。
 冒険者のみならず、舌の肥えたセイレーン貴族たちにも、料理の評判は上々のようだ。食堂のあちこちで、黄金のブイヤベースを讃える声があがっていた。
「……」
 美味な食べ物や美味な酒は、人を幸せにするものだ。
 周囲を見回して、シリルは思った。
「大変、美味しゅうございました」
「素敵なぁん……」
 蕩けるような、シフィルとルルシェの表情。
 誰の顔も笑顔だった。この笑顔こそが、冒険者にとってはなによりのごちそうだったし、彼女たちが一日かけて運んできたのは、そんなささやかな「幸せ」であったのかもしれない。


マスター:彼方星一 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:8人
作成日:2008/01/23
得票数:冒険活劇3  ほのぼの16 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。