【伝説の……】知性の青き泉



<オープニング>


●知性の青き泉
 ――青く澄み切った水を湛える小さな小さな泉。
 とある山中にあるというその場所には、磨き込まれた鏡のような清らかな水面と同じ、澄んだ透明感のある青く長い髪の乙女が住むという。
 だが、その乙女の姿を一瞬でも目にした者は、もう二度と戻る事は適わなかったと言う……。

 それは、ある地方の小さな村に伝わる伝説。今ではもう、この話を知る者など殆ど皆無と言えた……。

●仕事
「仕事よ。純粋な魔物退治のね……」
 運命を信じてる霊査士・フォルトゥナ(a90326)は然して面白くもなさそうに淡々と目的の場所を指し示した。とある村の近くの山中――その頂の傍よ、と告げながら。
「で、どんな敵なの……!?」
 戦闘系依頼だというのに珍しく、レア物ハンター・ユイノ(a90198)が興味を持って尋ねる。
「姿形は見目麗しい女性のそれ。だけど、その性質は水辺にあってはとんでもなく強くなるわ。具体的には岩をも砕くほどの激流を放ち、時には1人を、時には全てを呑み込む……さらに水面に立つその姿は虚であり実。その示す意味はよく分からないけど、気をつけてね」
 霊査士の口から、それ以上の情報を引き出すのは難しそうだった。それでも無策で臨むは愚――冒険者にはそれだけの技量が求められているのだから。
「ふーん。ところでフォルトゥナさん♪ そこの村の特産品とかって、分からない?」
 頭をスカッと切り替えたユイノ。何を思ったか自らの本能に忠実に従ってみる。
「たしか口紅を作っていた筈……そういえば今の季節の紅は寒紅と言って、とても質が良いそうよ」
「ありがと〜♪ そう、それが聞きたかったのよね♪」
 すっかり話が変わってしまったことにも気付かず、ユイノは至極満足気であった……。

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参加者
泰秋・ポーラリス(a11761)
紅桜の不老少女・エメロード(a12883)
ちょ〜トロい術士・アユム(a14870)
守護者・ガルスタ(a32308)
御茶菓子・カンノン(a32366)
人生はシュガーレス・グレゴリー(a35741)
戦士・アヅナ(a37202)
不浄の巫女姫・マイ(a39067)
形無しの暗炎・サタナエル(a46088)
春陽の・セラ(a60790)
NPC:レア物ハンター・ユイノ(a90198)



<リプレイ>

●虚と実と
「ん? どうやらアレがそのようだ」
 林の木々の間から、その先の小さな泉を指し示し、冬鐙・ポーラリス(a11761)が告げた。
 遠目にも水が美しく澄んでいる様子が見て取れる。
「さて、敵は何処じゃ? すぐに囮を出す。良いな?」
 氷狼王・サタナエル(a46088)が皆の意を確かめるや、モーラー・オブ・クリムゾンを振るう。押し出された空気の渦がリングを形成し、命に従い泉へと向かう。すると、その泉の水面に……徐に1つの影が姿を現した。
 ――それは青く透き通った髪を持つ美しい乙女……まさに霊査士の告げた通りの姿。
「モンスターちゃん、水の上を歩けるんか〜、空気みたいに軽いんか〜なぁ〜ん?」
 が、ちょ〜トロい術士・アユム(a14870)は、なんか違うところに感心中。
「アレですね……本物がいるというのは……些か無粋な気がします。伝承はあくまで伝承のままに、だからこそ美しいのですから……あっ!!」
 そんな時、呟きながらも突如起こった異変に、不浄の巫女姫・マイ(a39067)が思わず目を瞠る。
 泉の乙女の横から盛り上がった水の柱――それが一息にリングへと迸り、一瞬でリングを打ち砕いた。呑み込むとか覆い尽くすとかではなく『砕いた』のだ。
「とんでもない威力ですね」
「たしかに。ならば今のうちに備えておこうか……」
 言葉の割に落ち着いた様子の永久凍土・グレゴリー(a35741)。その彼の言葉で動いたのは守護者・ガルスタ(a32308)の方だった。1人ずつ、後衛に位置する者から順に鎧聖降臨を施してゆく。
「防具想像の際は、後のことを考えて滑り止めのついた靴もあった方が良いな。それまでは、ユイノ……よろしく頼む」
「任せて!」
 続いて、ポーラリスの言を受けたユイノが弓弦を引き絞る。
 ――放物線を描き、風を切る一矢。が、その矢は乙女の身体に届いた瞬間、そこに何も存在しないかの如く素通りし、湖面へと消えゆく。念のため、それからも数本ほど放つが全て同様の結果……。
「やっぱり……見えているアレは虚像なのね」
 予想通りの結果に安堵したように、藍色の医術士・セラ(a60790)が呟いた。
「実体の方はやはり水中? ここからではよく見えないですね……」
 遠眼鏡で先を窺う紅桜の不老少女・エメロード(a12883)。
「それは近くで確かめるしかないでしょう。皆さん、参りましょうか……」
「まぁまぁ……落ち着いて参りませんか? サタナエルさん、もう一度……お願いしますよ」
 戦士・アヅナ(a37202)の逸る気持ちを抑えるように、御茶菓子・カンノン(a32366)が声を掛けて制した。
「もう一度、囮じゃな……!?」
 すぐに意を察し、再度のリングスラッシャーを喚びだすと、先ほど同様に泉へと向かわせるサタナエル。
 コレが再び砕かれる時が……真の戦いの幕開けであった。

●岩をも砕く激流
 リングが乙女の前に姿を見せた途端、再び激流が襲う。その距離、ゆうに10mを超えて。
「安全な場所など何処にもありませんね」
 マイが諦めたように告げると、ほぼ一塊になって泉へと向かう。今なら10m圏内には近付けるから。
「ユイノはアングリーを撃ったら退がってくれ!」
 ポーラリスが、指示を飛ばしつつも自らの腕に体内の気を集め、獣の咆哮さながらに一気に解き放つ――乙女の足元に広がる泉の水面、そこに映る乙女の姿に向かって。
 その、水面で爆ぜる衝撃に続いて黒炎に身を包んだアユムが、そこから生まれし炎を放つ。更にその波打つように飛ぶ黒炎のすぐ下を、やはり腕に溜めた気で撃ち抜くガルスタ。目の前の乙女とその足元とを同時に撃つ作戦……。
「虚であり実……となれば同時ならば間違いあるまい」
 目を凝らしながらガルスタが効果の程を図る。しかし水面下のそれは、映る像が歪むだけで効果の程を見て取る事はできない。その一方で水面に立つ乙女の方はやはり素通り――しかし、素通りしたにも関わらず乙女の姿が醜く歪む。とは言えほんの一瞬の出来事で、乙女の姿がすぐに元の美しさを取り戻した。
「なんじゃ、今のは?」
 大きな疑問符のような表情を浮かべながら、サタナエルが身体の内に秘めし呪われた暗黒の鎖を放出する。泉の水面を滑るように闇が侵食――乙女の身体を固く縛り上げた。そして身動きの取れなくなった敵の足下の水面を、マイの放つ黒炎が貫く。
 再び乙女の姿が醜く歪む。水面の歪みに似た姿に。しかし、その歪みが戻るや、いつの間にか鎖のしがらみまでもが消え、さらには乙女が冒険者たちに向かい腕を振り上げ、押し出すような手つきを見せた。
 途端、幾条もの水が水面から立ちのぼり、激流となって冒険者たちを襲う。それは後方に控えたユイノすらも例外でなく。
「僕に……ッ、任せて下さい……」
 アヅナが後衛の女性たち、セラやマイ、カンノンたちの前に立ちはだかる。
(「直線の水流なら、前に入れば後ろへの直撃は避けられる筈……」)
 彼は、先ほどの囮の様子からそれを見抜いていた。
「……くうっ!」
 その彼の正面に大量の水が叩きつけられた。後ろに入った女性たちの分も威力の増した凄まじい勢いの水が。
 あまりのことに、鍛え上げられた戦士の身体を以てしても全身の骨が軋む。盾を構える腕すらも叩き折られてしまいそうなほどの勢いに『このまま吹き飛ばされても』と挫けそうになった……。
「手を貸しましょう」
 自身の方を捌き切ったグレゴリーがアヅナの身体を支えるように立つ。重心を低く保ち、両足で大地を掴むように踏み止まりながら。
「さ、今のうちに」
 その様子に安堵したカンノンは、直撃を避けると同時に彼らの負担を減らすべく、セラ、マイらと共に木々の影に身を隠す。
「助かりました。もう良いですよ」
「……では、そのまま横に……水の勢いを受け流しましょう」
 後方の声に反応し、グレゴリーが合図。アヅナはそれに従うように徐々に盾をずらし、ついには激流から身を躱し切った。
「何とか持ち堪えましたが、他の皆さんは!?」
 仲間たちの姿を求め、すぐに周囲を見回す。すると、同じように重心を低く保つことで堪えきったポーラリスの他は、皆、小さくない痛みと共に数m後方へと吹き飛ばされており、特に自らの暗黒の鎖に囚われていたサタナエルに至っては、ほとんど意識もなく深刻な状態。
 しかし、その中でも自らの守りを十分に強化していたエメロードが、真っ先に立ち上がる。
「ただの一撃で倒れている訳には、いかないのです〜」
 輝剣カオスブライトを手に泉の近くに立つ少女。笑みを浮かべた余裕の表情を作り、くいくいっという挑発的なアクション。
 その様子に便乗したユイノもまた、弓を支えに立ちあがり、アングリーナパームで乙女の足元を射抜いた。
「皆無事に帰れますように……」
 激しく傷ついた仲間たちを気遣う、セラのヒーリングウェーブ。暖かな癒しの光が仲間たち1人1人の身体を包み込む。が、それではまだ十分とは言えない。
 その様子を見て取ったカンノンが、高らかな凱歌を奏で、仲間たちの身に更なる活力を取り戻してゆく。寸でのところでサタナエルも意識を取り戻す。
「助かったようじゃな……」
 続いて、彼女らの治癒の甲斐あって何とか回復の兆しが見えたグレゴリーとアヅナが、斧と剣それぞれの先から相次いで雷を解き放つ。
「これって感電しませんよね……? えぇ、わかってはいるんですが、その……何となく」
「大丈夫。それより全体でこれですから、場合によっては……」
 それぞれの脳裡に、集中する激流が思い浮かび、ついアヅナのように軽口で紛らわしたくもなる。かと言って、ここで引き下がることなど出来る筈もない。
 戦いは、まだ序盤戦が終わったばかりと言えた……。

●伝説の終焉に向けて
 そこから続く戦いもまた激しく、ワイルドキャノンやブラックフレイム、などが次々と乙女の姿をした敵の足元に炸裂する。
「しかし標的が捉えにくいというのは、やりづらいものだな……」
 思わず素直な気持ちが漏れるガルスタ。が、それでも攻撃の手を止めることはない。
 そうして、相変わらず効果のほどが確かめきれず決め手を欠いたまま、再び敵の手番を迎えてしまう。
「またさっきのヤツが来るか……」
 ポーラリスが警戒し、再び身構える。
 が、そうではなかった。乙女は先ほどの挑発がまだ効を奏していたらしく、水面を滑るように向ってきた。
 !!
「何故でしょう? 止まってしまいましたが……」
 グレゴリーが首を捻る。激流が来ないことから見て怒りの状態は続いているとは思われるが、それでも地上に降り立つことはなく、泉の淵手前で止まり攻撃も行われない。
「モンスターちゃん、水の上を歩けるんか〜、空気みたいに軽いんか〜なぁ〜ん?」
「いや、突っ込むのは其処じゃなくて!」
 ちょっと観点が独特なアユムにユイノが突っ込む。しかしそれは伝わらず『?』を浮かべながらも渋々と黒炎での攻撃に切り替える。マイも再びそれに同調し、同じように黒炎を合わせた。
「この季節に水遊びをするつもりは、無かったのじゃけどな。頼む……」
 続くサタナエルが、再び暗黒縛鎖。懲りずに……ではなく、これで終わらせるという意志の表れである。
「では、終わらせましょうか」
 カンノンが緑の業火を放つ。炎が渦巻きながら敵の足元を灼く。例の『歪み』が次第に大きくなる。
 そしてエメロードによる渾身の一撃。全身の力を1点に集めた固い鎧をも砕く絶対的な力を以て水面に突き立てる。その一撃で歪みは極大に達し、その末に乙女の姿が崩壊を始めた。
「これで、終わった!?」
 薄れゆく敵の姿を見、安堵と若干の不安を覚えつつ見つめる二十二の瞳――だが、それはまだ終わりではなかった。
 薄れ始めた敵に再び色と形が戻り、またしても美しい乙女の姿となる。そして、その途端に乙女は再び両手を天に翳した。
 水が水面を突き破るように噴き上がり、アヅナ1人に向かって飛ぶ。再び盾を構えて堪えようとしたアヅナだったが、誰かが先に予想した通り、その勢いは全体に達していたそれとは桁が違った。
 敢え無く吹き飛ぶアヅナ。そして彼の身体は樹に叩きつけられ、ピクリとも動かなくなる。
「アヅナちゃん!」
 アユムが駆け寄り、様子を窺う。
「まさか復活するとは……」
 動揺を抑えつつポーラリスが再びワイルドキャノンを撃つ。が、水面が爆ぜるのみで、乙女の姿はもう歪むこともない。
「ではこういう事か!」
 すかさずガルスタが水面に浮かぶ乙女の方へと標的を変える。苦悶の表情を浮かべる敵。
「なるほどの……じゃが、動きを止めれば同じじゃ」
 わずかに浮かぶ動揺を抑えつつサタナエルが三度、暗黒の鎖を伸ばした。
 しかし、その鎖の先は乙女によって躱され、空を切る。
「みんな合わせたって〜」
 そして、アユムが掛け声と共に特大ピコピコハンマーを繰り出す。
 それに合わせるようにグレゴリーの斧とエメロードの剣、そしてカンノンの業火が立て続けに乙女を撃つ。
 さすがに相当に効いているらしく、すでにその美しかった姿は朽ちゆく寸前……しかし、それでも乙女は再びかの腕を振り上げた。
 幾条もの水流が再び冒険者たちを襲う。幾度目かになる為に予兆が分かり、結局は敵との距離によって、堪える者と堪えられぬ者との命運が分かれた。
「すぐに癒すから、気をしっかり保って……」
 セラが癒しの力を周囲に注ぎ込む。そしてマイは、ここは一か八かとばかりにフールダンスに移った。扇を手にしなやかに舞うその姿は、水を滑る花弁の様に優雅に。
「さあ、踊りましょう……伝説の終焉に相応しい舞を」
 その姿に魅せられてか、敵も死に限りなく近い体ながら、水面で舞い始める。
「助かる……ではこれで終わりにしよう……」
 そう告げて、ポーラリスが大地を蹴る。烈しく大地を揺るがす鋭い脚が敵のまやかしの美しさを完璧に叩き折ったのだった。
「……泉の平穏と、安らかな伝説を願う」
「きっと、彼女にはここに守る何かがあったのでしょうね……いつか、現実の悲劇ではなく
綺麗な伝承だけが語り綴られる事を願って……」
 今度こそ本当に魔物の沈みゆく音と共に、ポーラリスとマイの、願いを紡ぐ声だけが静かに響きわたる。
 しかし、セラはこのまま捨て置く気にはなれず、皆で改めて埋葬しようと提案をする。
「きちんと弔ってあげたいの……変わり果ててしまっても、かつては誰かのために戦っていた人だもの」
 無論、反対などある筈もなく、ちゃんとモンスターと化した乙女の身体を泉の畔に埋める。
「かつての冒険者の墓標としては……うん、良し」
 こうして、とある場所の小さな伝承はその幕をひっそりと降ろしたのだった……。

●寒紅
「そう言えば、特産品で口紅があるって言ってたんだっけ……薄桜色の口紅、あるかな……」
 村に戻り、ささやかな養生の後、改めて特産品とされる口紅を見て回るエメロード。
 この季節の紅はとても質が良く、寒紅と称され、わざわざ他所の村や街から買い求めに来る客もいるほど。故にその色も多種多様で、大抵は気に入った色合いを見つけて帰れると言う。
「あ〜っ、待って! 私も買いに行くのっ!!」
 その後ろをユイノが追いかける。そして更にその後をアユムが追いかける。
「うちも行くなぁ〜ん!」
 が、店に来るや、
「……ほぇっ、これどないして食べるんやなぁ〜ん?」
 と、把握しておらず……職人さんから話を聞いてようやく理解した模様。
「紅は、牡丹色の物があれば……」
「私はほんのり赤いくらいで、血色がよく見えるのがいいわ」
 マイやセラも好みの色を探す。
「私は淡い色合いや温かみのある色が良いな」
「素敵な色ですね……」
 男性陣も負けてはおらず、それぞれに良い色合いのものを探す。
「えっ!? 誰が使うの〜?」
「え、いや、僕は使いませんよっ」
「私が使うんじゃありませんよ」
 アヅナとグレゴリーが見事にハモる。
「私は結婚記念日も近いしね……」
 一方でガルスタは余裕のコメント。結局ポーラリスを除く全員が1つずつ買い求め、無事、揃って帰路につく。
(「でも、せっかくだからポーラリスさんにも……」)
 ……密かに悪戯心が大きく顔を出し始めるユイノであった。

【終わり】


マスター:斉藤七海 紹介ページ
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重傷者:紅桜の不老少女・エメロード(a12883)  御茶菓子・カンノン(a32366)  戦士・アヅナ(a37202) 
死亡者:なし
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