【ナアン氏の憂鬱】にゃんこの料理ショー



<オープニング>


「本当に困ってるにゃ〜」
「ん〜。食欲不振ですか?」
 冒険者の酒場。いつもの席で香草茶を楽しんでいた霊査士のヴェインは、訪ねてきたある珍客と差し向かいで語り合っていた。
「どうかしたんだべ……?!」
 そこにリザードマンの武人・ゴタックがひょっこり現れると、ヴェインの真向かいに座る人物を見て、ぎょっと立ちすくんだ。
「何だべ、コレ」
「コレとは失礼にゃ。ぷんぷん」
「あはは、ゴタックさんは初めてでしたね。ご紹介します。今回の依頼人、ナアン氏ですよ」
 ヴェインが笑って珍客を紹介した。 ゴタックが驚くのも無理はなく、ナアン氏は無類の猫好きで、自身も普段から『猫の着ぐるみ』姿で通している。
 それはとても精巧に作られた着ぐるみなので、一見したところ猫そのものが服を着て座っているように見えたのだ。上に羽織る洋服もお金持ちらしくお洒落で凝っている。
「そうだったんだべか。申し訳ねぇべ。……それで、どんな依頼なんだべ?」
「ああ、それは……」
 がし。
 言い掛けたヴェインの言葉を遮って、猫手がゴタックの手を握った。
「本当に困ってるにゃ〜! 助けてほしいにゃ!」
 半泣き声で言い募るナアン氏は、そのままヨヨヨと泣き崩れてしまったのだった。


「で、悩み相談……じゃなくて、依頼内容ですが」
 酒場に立ち寄った冒険者達に向かい、ヴェインが事の次第を簡潔に告げる。
「ナアン氏の邸宅では100匹以上の猫を飼っていらっしゃるんですが、最近、その中の数匹が食欲を無くして困っているそうなんです」
「猫の食欲?」
 首を傾げた冒険者に、ヴェインは苦笑を返した。
「ええ。手を変え品を変え、色々な食材で料理を作ってみたのに、まったく食べてくれないと泣いていました。霊査では特に感じませんでしたから、病気でも無さそうですが……」
 心配に心配を重ねたナアン氏は、そこで一計を案じた。猫の為の創作料理をあちこちの料理人から広く募ろうというのだ。
「料理品評会『猫バージョン』ってところですかね。そこで、その料理会に冒険者の皆さんも良ければ参加して貰えないかと仰っていました」
「猫の為の料理を作りに?」
「はい。あ、料理を作るだけが依頼内容ではありませんよ?」
 霊査の結果、その料理会に盗賊数人が紛れ込む事が解ったのだ。
「どうやら、ナアン氏から以前受けた依頼で捕まった盗賊団の残党のようです。ナアン氏に強く恨みを抱いていて、料理人達に紛れて出場する気です。この機会にものすご〜く不味い料理を作って猫に食べさせてやろうとか、姑息な事を考えているんでしょう」
 詰まり、八つ当たりに近い。
「そんな非道は是非阻止してくれというのを合わせて、今回の依頼内容です。それと、ゴタックさんは審査員として参加する事になりましたので、適当にこき使ってあげて下さい。宜しくお願いしますね」
 そう言うと、ヴェインは微笑んで頭を下げた。

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参加者
境界の医術士・リタ(a00261)
明告の風・ヒース(a00692)
蒼天の幻想・トゥバン(a01283)
柳緑花紅・セイガ(a01345)
星刻の牙狩人・セイナ(a01373)
ニュー・ダグラス(a02103)
銀翼に咲く幸福・ジーニアス(a02228)
剣舞姫・カチェア(a02558)
NPC:深緑蒼海の武人・ゴタック(a90107)



<リプレイ>

●開幕! にゃんこの料理ショー
 会場となったナアン邸の大広間には、大勢の料理人が詰め掛けていた。高級料理店のシェフから街の主婦まで、その顔ぶれは様々である。さらに噂を聞きつけたギャラリー(野次馬)まで多数来場し、会場は熱気に包まれていた。
 やがて中央に特設されたキッチンスタジアムの上手から司会進行の二人が現れると、待ちわびた観客席から拍手が沸き起る。ショーの開幕だ。
「えー、セイガでございます。ようこそ、にゃんこの料理ショーへ!」
まずは黒いタキシードに猫耳猫シッポ姿の柳緑花紅・セイガ(a01345)が怪しい位の爽やかさを周囲に振り撒きながらご挨拶。
「……トゥバンだ」
 もう一人の司会役、トラ猫着ぐるみ姿の臥龍の武人・トゥバン(a01283)はポツリと一言。星刻の牙狩人・セイナ(a01373)と剣舞姫・カチェア(a02558)の手で無理矢理着せられた着ぐるみに、眉間の皺も当社比1.5倍増量中です。
「ダメだろ、相方。お客さんには笑顔、笑顔!」
「おい、相方ってなぁ…… 解った。笑顔で、だな」
 トゥバンさん、胃に怒りが溜まっていくのを感じつつもここはにっこり。
 さぁぁぁぁ。
 その笑顔を見た観客は、一気に血の気が引いていったそうな。
「……ん、グットスマイル! じゃぁ、先ずは料理人の皆さんに料理のポイントを聞いてみよう!」
 さすが冒険者。まったく動じなかったセイガが進行を続けるその一方では。
『久しぶりニャ! また会えて嬉しいニャー』
 獣達の歌を使用した明告の風・ヒース(a00692)が猫達と感動の再開を果たしていた。纏う衣装はそう、猫のスーパーアイドル『大和ニャデシコ』!
 因みに、盗賊団の残党に面が割れている事を懸念しての猫衣装であるらしい。真紅のアイマスクが今回のチャームポイントだ。
『今回もみんなに協力をお願いしたいニャー☆』
 甘いカツオブシトークを炸裂させるヒースは、ニャンコ索敵網を着実に広げていく。
 そして、ちゃっかり審査員席を用意してもらったニュー・ダグラス(a02103)は、借りてきた猫のように地味な黒猫衣装。片眼鏡がキラリと光るナイスミドルに変身し、チョビ髭をひねりながら隣の深緑蒼海の武人・ゴタック(a90107)にレクチャー中だ。
「いいか? 相手に不味いと悟られてはいけねぇぜにゃっ。何があろうと笑顔でだぜにゃ!」
「わ、解ったべ」
 ビシっと親指を立て漢猫語で指導する彼に、多少トゲトゲがはみ出した猫着ぐるみ姿のゴタックも真剣に頷く。そんな折、会場の片隅ではひと悶着が起こっていた。

●にゃん捕り物帳、再び
「てめぇ、この大量の塩とカラシは何のつもりだ?」
境界の医術士・リタ(a00261)の鋭い声に、見るからにならず者風の男がうろたえた。
「た、たかが猫の餌に、何を使おうと俺の勝手だろう!」
「何だと?」
「どうした、どうした」
「何か問題でも?」
 リタが相手の胸座に手を伸ばすのと同時に、駆けつけた司会の二人が間に入った。
「こいつが俺に難癖つけやがるんだ!」
「ふざけるな! 猫に食わしていいもんと悪いもんの区別もつかねぇのか!」
「まぁまぁ」
 トゥバンが男の肩に手を置き、あの笑顔で爽やかに微笑む。ええ、爽やかに。
「ちょっと聞きたい事があるからな、別室に来てもらおうか」
「な! ぐっ……」
 手を振り解こうとした男の顔が引き攣った。肩に食い込む指の力に痛みで声が出ない。
「おい、そいつを離せ!」
 それを見て、仲間らしき男達が続々と周囲に集まる。数は5人。口汚く罵りながら今にも殴りかかってきそうな連中を見て、リタは笑った。
「……ふん、馬脚を露しやがったな」
「何だと?!」
「やっちまえ!」
 男達が得物を取り出すのを見て、リタもフライパンを構えた。乱闘になりかけたその時。
「猫が好きじゃーー!!」
 ざっぱ〜ん!
 何故か荒波の幻影を背景にセイガが叫ぶ!
 異様な迫力も加味された紅蓮の咆哮に数人の動きが止まり、それを逃れた者はフライパン捌きも鮮やかなリタの一撃でノックアウト。
「……フフッ、どうしてくれよう。俺の『いめーじ』を台無しにしてくれた手前らをな」
 手際よく盗賊団の残党達を縛り上げたトゥバンが、沸々と湧き上がる怒りを抑えずに凶悪な邪笑を浮かべた。一見可愛いトラ猫の周囲を取り巻く仄暗い空気に、彼らは揃って恐怖に震える。
 そこに、一本の矢が飛来した。
「扉付近に3人いるニャー!」
 それはヒースの放った声の矢文だった。混雑する会場内をニャンコ索敵網で隈なく探索した彼は、ナアン氏を直接狙う敵を発見したのだ。
 3人が一斉に視線を向ける。仲間が捕まった事を知った男達は短剣を構え、今にもナアン氏に襲いかかろうとしていた。だが。
「甘いぜにゃ。この黄金の招きは、皆お見通しだぜにゃ!」
 立ち塞がる黄金の招き猫! それはMy着ぐるみに衣装を変えたダグラスだった。右手を掲げ、豪快な漢笑がキラリと輝く。
「御用だぜにゃー!」
 チョビ髭をポロリと落としつつも、背後に控える『黒子土塊の下僕軍団』に向かって号令一喝。瞬く間に全員が捕らえられた。
「裁きはお白州、じゃなくて別室でするぜにゃ!」
 ダグラスさんの見得もバッチリ決まった所で、本題の料理の方はと言うと。

●料理は愛情?
「うに? 何だか向こうが騒がしくないですか〜?」
 スリコギを持ったセイナが隣で黙々と作業をこなすカチェアに問い掛けた。
「うん、そうか…… 団長、これでいいだろうか?」
 料理に没頭するカチェアは周囲の騒ぎも気にならないらしい。手にした小さなお団子をセイナに見せて、出来栄えを聞く様子は真剣です。
「う〜ん、もうちょっと小さい方がいいのですね」
「そうか、すまない。……料理はあまりした事がなくてな、勝手が解らん」
「うに〜! 大丈夫ですよ! 料理は愛情なのです、頑張りましょう!」
 ちょっぴり落ち込んだカチェアをセイナはガッツポーズで励ました。
「この料理で私のトラ猫さんは何時もイチコロなのです!! 食べた後暫く動かないほど感動してるのですよ!」
 あの、それは少し違うのでは……
「そうだな。頑張ろう」
 ああしかし、カチェアは知る由も無いのだ。気を取り直して、エプロン姿も可愛い二人は料理を再開。
 猫の食べ易いよう小さく丸めたお団子に細かくすり潰した小魚をまぶし、特性の愛情を入れて、最後にマタタビの粉末を振り掛けると。
「『It's SEINAスペシャル』の完成なのです〜! ゴタックさん、食べて下さい!」
「何?!」
 その言葉に、料理を終えた快い開放感に浸っていたカチェアは驚いた。気付かないセイナはお皿を抱えて審査員席へ向かう。出された料理と彼女の笑顔を見比べたゴタックは覚悟を決めて一口。
「何故、ゴタックが食しているのだ!! わ、私はアイツに食させるために作った訳ではないのだぞ!?」
 自分の料理を彼が食べる光景に、カチェアさん少々錯乱気味です。
「僕の料理も出来たよー!」
 そこに『猫耳フード付き手術着』姿の振り返っても弟子でちゅよ・ジーニアス(a02228)がグラグラ煮立った鍋を運んできた。
「さ、ゴタッち、食べてね?」
 可愛らしくにっこり笑う彼女の作ったソレは…… 例えるなら、煮え滾る灼熱の溶岩地獄。鉄鍋すらその高温に今にも崩れてしまいそうな程で。ある意味、凄い料理だった。
 これは怖い。いくら冒険者でも死んでしまうかも知れない。
「…………」
 だがゴタックは食べた。ダグラスに言われた通り笑顔のままで。
 口にした瞬間、彼の意識はお花畑に飛んでいく。
 さようならゴタック、君の勇姿は決して忘れない! 感動を有難う!
「人聞きが悪いなー、気絶してるだけじゃん。これだって次の料理に欠かせない下拵えなんだよ!」
 憮然と反論したジーニアスさん、倒れたゴタックにヒーリングウェーブを発動してからその上に刺身や湯通しした肉の薄切りを並べ始めた。
「完成♪ 猫一直線なリザー丼♪ ポイントは盛り付けだよ☆」
 確かに盛り付けは見事だった。
 出来上がったリザードマン盛りの美しさに、会場からも拍手が沸き起こる。観客の人気を独占したジーニアスは、少しだけ照れたように笑った。

●美味しい生活
「おいよせよ、くすぐったいだろ」
 何匹もの猫がリタの周囲に群がっていた。座った彼女の膝にも肩にも、猫がゴロゴロと喉を鳴らして擦り寄っている。それらは全部、食欲が無いと言われていた猫達だった。今は彼女の作った料理を夢中で頬張っている。先ずは炙ったスルメの臭いで嗅覚に訴え、焼き魚の身をほぐしたものを彼女が食べて見せたのだ。それで猫はすっかり気を惹かれたらしい。
「何となく分るような気がするぜ。誰でも贅沢なものをずっと食べてたら飽き飽きしてくるよな」
 集まってきた猫と和むセイガが苦笑する。その言葉に覚えのあるナアン氏は項垂れた。
「その通りにゃ! これからはもっと注意するのにゃ。本当に感謝するにゃ!」
 猫顔から滝涙を流すナアン氏。どういう仕組みなのかとかは気にしないで下さい。
「ナアンさん、元気を出して下さい」
 見兼ねたヒースが肩を叩いて励ました。その足には純白の毛並みが美しい猫がずっと纏わり付いている。
「どうやら僕に恋してしまったようですね。ナアンさん……」
「みにゃまで言わにゃくていいにゃ。幸せにしてやって欲しいにゃー!」
 がっしりと抱き合った二人は晴れて義理の親子になったとか?
 その後方では、ちょっとした食事会が始まっていた。

「そ、その、日ごろ、世話にだな、なっているのでな」
 持参したお弁当をトゥバンに差出しすカチェアの顔はほんのりと紅い。邪魔な衣装を脱いで見も心も軽くなったトゥバンは、黒焦げの魚がメインのそれに少しだけ遠い目になったが、黙って受け取るとその場に座り込んで食べ始める。
「……もうちっと修行しろよな」
 その言葉は彼の本心なのか照れ隠しなのか。カラになったお弁当箱にカチェアは満足だったので、あえて追求はしない事にした。


マスター:有馬悠 紹介ページ
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作成日:2004/05/23
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 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
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ベストヒヨコニスト・ジーニアス(a02228)  2009年12月11日 00時  通報
依頼を受けた理由は「なにこの可愛い依頼人!」。成功後の感想は「なにこの可愛い緑のリザードマン!」。楽しかった!それにしてもナアン氏の正体が気になるトコロでぃす。