【白影】パペットマスター



<オープニング>


「お見事」
 霊視を終えた双面の霊査士・アルフレッドは、手の中の物体――湿り気を帯びた綿を弄びながら呟いた。
「この事件も、そろそろ終りかな」


依頼:パペットマスター
依頼内容
 ミストアサシンの黒幕のモンスターを退治する事。

霊視の報告
 前回の依頼で摂取したミストアサシンの一部を霊視してみたところ、その正体を暴く事に成功した。それは、事件に関わった冒険者達の予想の中にあった通り……土塊の下僕と同種と思われる作られた存在だった。
 その媒体は、土ではなく水分……森の中にある泉のものだと思われる。
 では、それを作っていたのは何者だろうか
 これも、冒険者達の予想にあった通り。
 モンスターである。
 一定の区画に入ったものを攻撃する性質。アビリティに似た特殊能力の使用。それらから導かれる推測に加えて、霊視の結果も、おぼろげながらもそれを肯定するものだった。

遺跡の情報
・遺跡は地下三階からなる。
・遺跡内部は、天井、壁、床、いたるところに苔が生えている。普通にしていれば滑らないが、走ったり急に動いたりすると滑るかもしれない。
・極めて湿度が高い。
・入り口は一箇所で、奥に進むに連れて通路が分岐していく。

注意
・この遺跡に潜ったドリアッドが無事生還したことから、モンスターはこの遺跡に常駐しているわけでは無いらしい。
・前回の依頼において、モンスターは冒険者の追跡を振り切って見せた。モンスターは、森に熟知していると考えられる。逃げられる可能性も考慮しなくてはならない。もっとも簡単に思いつく対処法は、遺跡に追い込む事だが……これはこれで危険である事は否定できない。
・モンスターの姿に関する詳細は、前回、冒険者が見かけた人型であると言う事以外、不明。
・能力については、人を襲う時にミストアサシンを多用していた事から、その作成が主能力であると考えられる。それ以外の能力は不明。
・前回までの報告書に目を通した上での活動が望まれる。行動へのヒントとなるかもしれない。
・この文章は、双面の霊査士・アルフレッドの私見で作成された事を予め伝えておく

                                   双面の霊査士・アルフレッド


「……長いな」
 アルフレッドが酒場の壁に依頼書を張っているのを見ながら、酒場のオヤジが言った。
「もっと簡潔に伝えられないのか?」
「少しでも情報が多いほうがいいかな、と」
「逆に混乱するかもしれんぞ?」
「彼らなら大丈夫だと思ってるよ」
 アルフレッドはそう言って、酒場に集まっている冒険者に目を向けた。

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参加者
荒野の黒鷹・グリット(a00160)
力を求める者・ニック(a00270)
フレイハルトの護衛士ー紅神の・フーリィ(a00685)
緋の鳥・ハティ(a01909)
白いカラス・カイ(a02188)
蒼穹を見上げ歩む者・イレーヌ(a06766)
双音抱く終焉のウタウタイ・カヲン(a07768)
彡・ファミル(a08156)


<リプレイ>

「……出てこないね」
 森を進みながら、力を求める者・ニック(a00270)が言った。
「そうですわね……あの人影はともかく、ミストアサシンも出て来ないのはどう言う事でしょう……?」
 蒼穹を見上げ歩む者・イレーヌ(a06766)が、それに同意する。
 冒険者達は、前回見つけた泉に向かって、森を進んでいた。
 森には、鳥の鳴き声が木霊し、木々の葉の合間から木漏れ日が射していた。一見平和に見える森。しかし、これまでは、この森にモンスターが潜み、浸入してきた者にミストアサシンが襲撃をかけてきた事を考えると、その平和な光景こそが異常だった。

「……無事に着いてしまいましたね〜」
 陽煌たる緋跡・ハティ(a01909)が泉を見て言った。
「ん?何をしてるんだ?」
 血と涙に濡れし純白の翼・カイ(a02188)が、近くの茂みでごそごそやっているニックに聞いた。
「ああ、ちょっとね」
 そう言ってニックが指したのは、草むらに隠れるように設置された虎バサミだった。
 同じ頃、彡・ファミル(a08156)は、泉の近くで『人型』の痕跡を探していた。
「……見つからない……って事は、この近くには住んでいないって事……?住んでるなら、少しぐらい痕跡があってもいいはず……」
 ぶつぶつ言いながら歩き回るファミル。
 泉周りの探索などを他の冒険者に任せて、轟雷閃舞・グリット(a00160)は泉の中を警戒していた。泉の中の影の主がパペットマスターである可能性も考えての事だった。
 その時。
「このワニみたいな足跡、遺跡の方向に続いてる!…………ですわ」
 イレーヌが大きな声を上げ……一瞬の後におしとやかな口調で付け加えた。発見に慌てたためか、つい地の口調が出てしまったようだ。
 声につられて、他の冒険者が集まってくる。確かに、その足跡は、遺跡の方角に伸びていた。
 冒険者が、その事実についての考察を出す前に。
「あれ? 今、何か動きませんでした?」
 ハティが森を見て言った。
 其処に。
 人影。
「待つんだ!」
 ニックが叫ぶのと、人影が逃げ出すのはほぼ同時だった。


 人影を追いながら。
「それにしても……前回と全く同じ気がしないかい?」
 グリットの言葉に、前回も参加していた冒険者達は頷いた。
「……俺たちが遺跡に誘い込んでいるんじゃなくて、俺たちが遺跡に誘われてる?」
 ニックの呟きに、カイが後ろ――泉の方を振り向いた。
「なんか不自然だったんだよな……ミストアサシンは森の中にある泉から出ている霧を媒体に生成されているだろう。木の陰に隠れていた人影がモンスターで、逃げ出した先は遺跡。……なら遺跡との関係は……?泉の中の影は……?泉にあったわにのような足跡は……?……もしかするとモンスターは泉に住んでいるのかもな」
「……」
 冒険者達は顔を見合わせる。
 泉の中の影がパペットマスターではないかと言う考えは、カイやグリットを始め、他の冒険者の中にもあった。
「……どうする?」
 このまま人影に着いて行って良いかどうか。
 人影と冒険者達は、適切な距離を保って思い通りに遺跡の方向に移動していた。そう、理想的なほどにすんなりと。
 冒険者達が人影を遺跡に誘導しようとしているわけだが、その実、人影も遺跡に誘っているのだとしたら。
 下手についていくのは危険と言える。
「でも、どっちが正しいのか、確証は無いわけですし……」
 くろにゃ〜搭載天然系家出娘・カヲン(a07768)が言った。人影が冒険者を遺跡に誘っていると言う推測が外れていたとしたら。その時はチャンスを逃す事になる。
「まあどっちにしろ、基本は出てきたやつを叩くね」
 それに対して、エルフの薬物士・フーリィ(a00685)が言った。
 冒険者達が頷く。
 ミストアサシンの強さは分かっている。倒せない敵ではない。そして、遺跡内部に関する情報もあり、それに対する備えも幾らかはしてきた。
 それなら。
 あえて誘いに乗る方が、チャンスを逃がすよりはいい。


「それじゃ、お願いね」
 フーリィが遺跡の出入り口を塞ぐ跡詰めの四人に向かって言い、遺跡に入って行った。
 冒険者達は、分岐の多い遺跡内で入れ違いになって人影を逃す事の無い様、突入の組と後詰めの組に分かれる事にしていた。
 突入するのは、フーリィとニック、グリット、イレーヌの四人。

 
 苔に残った足跡を追って、四人は遺跡の奥へと進む。
 ミストアサシンの襲撃があるだろうという予測に反して、ろくに障害も妨害も無いまま彼らは地下三階のある一室に辿り着いた。
 大きな部屋だった。その奥まった所に、待ち構えていたとでも言うかのように、ソレは立っていた。
 見た目はほとんどミストアサシンと同じ。しかし、ミストアサシンよりも格が上であることは、経験を積んだ冒険者の目には明らかであった。
「……何かおかしくないかな?」
 ニックが口にした言葉は、四人全員が思っている事だった。
 ミストアサシンは出てこない。ただ、ソレが其処に立って、冒険者を見ているのみ。
 攻めあぐねる四人。その戸惑いを晴らしたのは、フーリィの一言だった。
「こういう時は、基本通りに行きましょう…………出てきたやつを、叩く!」
 そして戦闘が始まってしまえば、考えは四人の頭から消えた。
 他事を考えながらでは戦えない強敵だったから。

「虹の衝撃、受けるがいい」
 グリットの放ったの華麗なる衝撃がファンファーレを響かせた。これは、攻撃であると同時に、外で待機する仲間達への合図のためでもある。
 ソレは、七色の光を帯びて襲い掛かる衝撃を、半身になって避けた。そして、そのままグリットに襲い掛かる。
 させないとばかりに、イレーヌが横合いから踏み込んで居合い斬りを放った。しかし、足元の苔せいで踏み込みが甘い。余裕を持って後ろに飛んで避けられる。
 ソレは止まることなく、流れるような動きで回り込んで後衛を狙う。ニックが飛燕連撃を放つが、ソレは腕であえて受けてみせた。ダメージは与えたが、速度は落ちない。
 凶刃が二人に襲い掛かった。


 その頃の後詰め班。
「あぅぅ、じめじめは苦手なのです〜……」
 ハティは、遺跡の中を覗き込みながら呻くのを聞いて、
「中ではイレーヌ様達が頑張ってらっしゃるのですから……」
 くろにゃ〜搭載天然系家出娘・カヲン(a07768)が窘める様に言った。
 その時、
「ん? 静かにしろ」
 カイが耳を澄まし……華麗なる衝撃のファンファーレの音を捉えた。
「連絡だ。行くぞ」
 四人が遺跡の中に入ろうとした時。
 ギッ……ギッ……
「……ちょっと待ってください」
 カヲンが、奇妙な金属音を聞きつけ、仲間を止めた。
 金属がぶつかる音。
「あ、あれです!」
 指差した先の草むらに、巨大な生物が蹲っていた。
 その生物は無造作に口を開く。大きなな口に巨大な牙が並んでいた。
 そして、その口から、霧のようなものを噴射した。
 その一撃が不意打ちでなかったのは幸いだった。流れる霧は、避けた冒険者達の後ろの木にあった木に命中し、それはめきめきと音を立てて倒れていった。
「……霧吹きかよ、このワニ……って言うより蜥蜴か」
 巨体に見合わぬ素早い動きで草むらから出てくるソレを見て、カイが呆れたように言う。その足には、ニックが泉の近くで仕掛けた虎バサミが食い付いていた。カヲンが聞いた音はそれが擦れる音だったのだろう。つまり、この蜥蜴モドキは、泉の影の主である。
 蜥蜴が完全に姿を現すと同時に、周囲に霧が立ち込めた。
 ミストアサシン。
「こっちがパペットマスターか? じゃあ、あっちは何なんだ?」
 カイがストリームフィールドで、霧を払いながら言う。
 それに答える事が出来るものはおらず。
 パペットマスターによって作られた二体目のミストアサシンによって、四人は再び霧に包まれた。


「くっ……」
 フーリィが痛みに耐えながら、ヒーリングウェーブで自分を含む四人の傷を癒す。
 相手が強ければ、逃げる振りをして、後詰めの班と合流、その後叩くはずだったのだが……。全員が逃げる振りをすれば、速さに裏づけされた猛攻に耐え切れない。かといって、バラバラに逃げる振りをしたら、ソレは守りの薄くなった残りのメンバーを狙ってくる。
「四人で戦うしか無い様だね」
 苦笑しつつニック。
「ああ、そうみたいだな。……たまには遠距離攻撃も良いが……やっぱりこっちの方がしっくりくるよな!」
 グリットがチャクラムから手を離して拳を作り、拳を叩き込む。
 が、ソレは宙を飛んで避けた。霧が宙を舞うように軽やかに。
 空中で体を捻り、腕を振り上げグリットの首を狙う。
「させるか!」
 其処を、ニックが飛燕連撃で打ち落とした。
 タイミングを計って、イレーヌが剣に雷の闘気を纏わせて切り込む。しかし、深い傷を負わせたものの致命傷とはならない。
 ソレは、再び距離をとって前衛が離れて一人になったフーリィに向かって駆け……
「動きを見切れば避けるのは容易い……例え足場が悪くてもね」
 フーリィは鮮やかに避けて見せた。
「私に同じ技は二度も通じないわ」
 その手に炎が宿る。
「燃え上がれあたしのグリモア、気高く燃えて奇跡を起こせっ! 蒸発しなさいっ! 喰らいつけLeo、Capricornus 爆っ」
 口上と共に放たれたスキュラフレイムが、ソレの体を炎で包み込んだ。

「やれやれ、何とか四人で倒せたね……ん?」
 ソレは、倒れる前に、そのまま霧のように消え去った。……ミストアサシンと同じように。
「……」
 言い知れぬ不安に、顔を見合わせる冒険者達。
 其処に、後詰め班からのファンファーレの音が届いた。


 何度も繰り返し作られるミストアサシンの纏う霧に、カイの持っていたストリームフィールドは数では対応できず、冒険者達は不利な戦いを強いられた。
 ミストアサシンは倒せないわけではない。カイは連撃に爆砕拳を混ぜて、確実に一体一体仕留めていくし、ハティのナパームアローは、複数の敵の体力を一度に大きく削っていく。が、消しきれなかった霧のせいで攻めきれない。加えて、後詰めのメンバーたちは援護に徹するタイプが多く、決定力を持たなかった。結果、一体に多くの時間をかけることになり、長引くと、回復のアビリティに余裕があるわけではない冒険者達に、パペットマスターの吐く霧のダメージが重くのしかかってくる。
 ジリ貧かと思った時、遺跡の奥に潜っていた四人が戻ってきた。

 ニックのフォーチュンフィールドが霧を払ったが、戻ってきた四人も消耗しており、一気に覆すだけの決定力は無かったが。
 フーリィが全員を癒し、ファミルとカイがミストアサシンを足止めし、ミストアサシンへの道を作る。
 イレーヌとグリットがパペットマスターを狙って攻撃を始めた。
 パペットマスターは霧を吐いて対抗しようとするが、
「口から吐く霧に気をつけてください!」
 ハティのアドバイスにより、二人は充分な余裕を持って避ける事ができた。
 その威力は怖いが、見通しが良く、来る事が分かっているのならば避けられないわけではない。
 しかし、反対に繰り出すグリットとイレーヌの攻撃も、素早い動きでガードされ、硬い体表面に弾かれる。
 互いに決定打を放てずにいるその戦闘に一石を投じたのは、ミストアサシンを倒し、二人の援護に入ったカヲンだった。
「何の罪の無い村人の皆様が殺した事……それを許すことが私には出来ません」
 華麗なる衝撃がパペットマスターを射抜き、怯んだその隙に。
 グリットが下から拳を打ち上げる。
 巨体が僅かに宙に浮かんだ。
 さらにジャブから始まる連撃が、パペットマスターに体勢を整える隙を与えない。そして、止めの爆砕拳が、その頭を砕いた。


「……ごめん」
 双面の霊査士・アルフレッドは、冒険者達に対して謝っていた。
 カイが持って返ってきたパペットマスターの死体の欠片を霊視した結果、様々な事が分かった。
 パペットマスターというのは、あの泉に住んでいた蜥蜴の事だった。
 そして、依頼の時にアルフレッドはモンスターだと言っていた人影とは、ミストアサシンの上位の存在だったようだ。姿は同じでも、ミストアサシンとは少々感じが違っていたので、モンスターと勘違いしてしまったのだ。
「それと……どうやらあの遺跡は、パペットマスターが強い獲物を誘い込んで挟み撃ちにするために使っていたものみたいで……」
 そんな場所に誘いこむ――むざむざと相手の策に嵌るような案を提示した者としては、肩身が狭いらしい。言葉は尻すぼみに消えていった。
「モンスターにしては、随分賢しいものね」
 と、フーリィ。
「というより……モンスターには知性は無いものだから……単に、昔、冒険者だった頃の戦い方をそのまま踏襲してたんじゃないかな」
 最後に、すまなさそうにアルフレッドは言った。
「何はともあれ、これでこの事件も終りだろうね。お疲れ様」


マスター:maccus 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2004/06/10
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