緋色の小覇王



<オープニング>


 闇の帳に沈む森の中。月明かりも届かない森の深奥でも、普段の森は夜の音が聞こえる。夜行性の小動物が齧る木の実の音、その小動物を狙うフクロウの羽ばたき。鳴虫のさえずり。
 だが、今宵ばかりは全ての音が失せ、闇に相応しい静寂に森は包まれていた。
 押し殺された殺気が森に満ち、小動物はねぐらで息をひそめ、鳴虫達は寡黙に長い触角を揺らめかせ、油断なくあたりを警戒している。翼有るものは既にこの地を飛び去っていた。
 木々の合間。木漏れに地面を貫く月光を、影が遮る。影は月光を気付く事無くそのまま通り過ぎるが、影は二度三度と繰り返し遮られる。
 影達が進み行く先に、小さな明かりが見えた。影は明りを目印に、暗い森を進む。明りに近付くにつれ、それが獣避けの篝火だと分かった。
『……』
 影の先頭が指示を出すと、残りの影達は整然と足並みを緩めた。
 そして篝火を……いや、篝火に囲まれた小さな集落を影達は半包囲してゆく。
『……!』『!』『!』
 再び先頭の影が声を上げる。絶叫にも似たウォークライが次々と森に響き渡り、影達は一斉に集落へ雪崩れ込んだ。
 篝火に影の姿が照らされる。ヒト種族より一回り小柄な体躯。頭部は猪や猿など幾種も見られたが、その瞳だけは等しく狂気の色が浮かんでいた。
「なんだ? ……グ、グドンか!? もうこんな近くまで……」
 集落の中から、夜回りの男が慌てて飛び出してくるが、先頭を進むグドンの放つ強烈な怒号に当てられ、たまらず身を竦めた。
 その男に怒号を放ったグドンが足も止めず一直線に飛び掛る。低い体勢からの剣閃を浴び、すくんだ身体では躱すこ事も出来ず、男は一刀両断に斬り伏せられた。
 ただ一人緋色の布を頭に巻きつけたグドンは、血脂に汚れた剣を振り払うと悠然と集落の中心に足を向けた。
 矢が肉を裂き、鈍器が骨を砕く鈍い音がこだまする。絶叫と血に狂う雄叫びが混ざり、狂乱の歌を奏でた。
 守り手は一人、また一人と数を減らしてゆき、それ以上に集落の人々の命は簡単に失われてゆく。
 そして夜が明け、世界が白み始める頃には、森の集落がまた一つ……消えた。


「かたきを討ちたいんだ! 父ちゃんや母ちゃんのかたきを、この手で討ってやるんだ!」
 エルフの霊査士ユリシアの前、テーブルの上で硬く拳を握るのはストライダーの少年タキだ。深い悲しみの中に、ぬめ光る憎悪の炎が瞳に宿り、正面に座るユリシアを睨めつけている。
「あなたの持って来たグドン達の武器。霊視しましたわ」
 ユリシアはまるで自分が恨まれている様な、居心地の悪さに辟易しながらも、冷静に言葉を紡いだ。
 ユリシアは赤黒く汚れた一枚の布切れをテーブルに戻し、代わりに震えるほどにきつく握り締められた少年の拳を優しく手のひらで包んだ。
「たとえ相手が人ではなくても、いえ人で無いからこそ、仇や恨みなどお忘れなさい。それは何も生み出しませんよ」
「でも……」
「あなたのお母さんも、あなたに復讐の刃を握らせようと、助けた訳じゃないでしょう?」
 タキの母親は彼をかばって、グドンの放った矢に射殺された。彼はそのまま、冷たくなりゆく母の骸の下で、息をひそめじっとグドン達が去るのを待ったのだ。
 ユリシアはその時の母親の感情を、霊査によって痛いほど分かっていた。そして分かっているからこそ、ユリシアはまるで自分がタキの母親になったような気分で、はやる少年をいさめた。
「うん……」
 タキはきつく唇を噛み締めながらも、渋々ながら頷く。
「いい子ね。……しかし森近くに住む方々から、極めて凶暴なグドン達が森に現れたらしいと聞いていましたが……これは『凶暴』の一言で済まされませんわね」
 霊視で見えた光景を思い出し、ユリシアは暗澹とした表情を浮かべた。
 全てのグドンが武器を持ち、無差別に村々を襲う。
 タキが住んでいた小さいとはいえ森の集落には、20人からのストライダーが生活をしていたはずだが、今は彼を残して全てが鬼籍に入っている。
「グドン達は森の村を次々に襲っているみたいね。とすると次はあの村かしら……?」
 ユリシアは近郊の森の地図を頭に思い浮かべると、霊視の結果と照らし合わせ、グドンが次に襲うと思われる村を予想した。
「母ちゃん……」
 タキは、母の遺品となった服の切れ端を握り締め、血を吐くかの様に一人ごちた。


 次の日いつもの様に酒場に顔を出したユリシアは、見知りの老齢な冒険者の来訪を受けた。
「あの子がいなくなった?」
 冒険者には、帰るところの無い少年に紹介し、預けていたのだが、朝になってタキは煙の様に消えてしまったのだと言う。
「……森に戻ったのね……早まった行動をとらなければいいのですが」
 ユリシアは、森のある方角に顔を向けると、心配げに呟いた。

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参加者
求道者・ギー(a00041)
宵咲の狂華・ルビーナ(a00172)
六風の・ソルトムーン(a00180)
壁犬・ウィスタリア(a00498)
金剛神将・コロッサス(a03242)
燦井玄徳玩理古淵阿南鴉鳴真君・アナトイス(a05782)
絶対の斬撃・ゼオ(a06130)
呪氷と冥影のシ徒・アイレン(a07291)


<リプレイ>

●戦人
 テーブルに六人の冒険者が着いていた。全員が勇名を馳せた旅団の団長であり、テーブルはさながら円卓議場が越してきた様な趣を見せている。
「グドンも生命。生きる為、糧を求めてならば自然に即した行為ですが、これは流石に見過せませんね」
 燦井玄徳玩理古淵阿南鴉鳴真君・アナトイス(a05782)の言葉に始った作戦会議は、準備要項の確認から、襲撃に対する個々処方まで進んでゆく。最後に念押しとばかりに求道者・ギー(a00041)が発言した。
「最終的にグドンの殲滅を目指す。汝等異存は無いな?」
「いえ、ユリシア様から伝え聞く処によれば、此度のグドンの狂乱は一匹のグドンに引き摺られての事。ならばそのグドンを倒せば事は済むのではないですかな」
 ギーの言葉にアナトイスが異議を唱えた。
「グドンはチョットでも残っちゃうとすぐに増えちゃうから、全滅させた方がいいのにゃ」
「我も賛成だ。将を撃てば離散する事が予想出来ようとも、数を減らしておくに越した事はあるまい」
 元気な小犬・ウィスタリア(a00498)の意見に、六風の・ソルトムーン(a00180)が追随する。
「妾も同意見じゃな。みすみす脅威と成り得る者共を逃す訳にもいかぬ」
 宵咲の狂華・ルビーナ(a00172)が賛成を推し、氷魔と陰影を司るシ者・アイレン(a07291)が無言で頷いた事で議案は決し、集まった六人はグドン殲滅を目標として、それぞれの持ち場へと向かった。

 ユリシアが予想したグドンの侵攻ルートからは、一両日中の到着が見込まれていた。決して長くない時間を、どれだけ準備に充てられるか、それが勝負の分かれ目だろう。
「我等も全力を尽くす。だが人手が足りん。皆にも手伝ってもらうぞ……なに心配いらん、我等が守りを設えている間、森を見張ってくれるだけで構わん」
 前もってルビーナからグドン来襲の可能性を聞くに及んでいた村人は、見張りに限らず、準備を進める冒険者へ進んで協力を申し出た。
「ふむ、ならばまずは早期警戒だ。見張り場へ向かう者は同時に鳴子の設置を頼む」
 ソルトムーンの言葉に、村人達は木切れを組み合わせ、紐を通した簡単な鳴子を造ると、紐の先端を持って森へ分け入る。
「手の空いた人はボクの手伝いをお願いにゃ。ユリシアさんの話にゃとグドンは西からやって来るにゃ、西を中心に樹を切り倒して障害にするにゃん」
 ウィスタリアは、グドンの武器からの霊視結果を思い出しながら、的確に指示を出す。やたら喧騒に溢れ始めた村の広場で、軽装に身を固めて森へ向かおうとしているアレンをルビーナが呼び止めた。
「アイレン、例の坊やを探しにいくのかえ?」
「コロッサスとゼオが先行しているが、捜索の人手は少しでも多いほうがいい」
「両親の仇を討ちたい……か。敵討ちなど生き残った奴の自己満足に過ぎぬ」
「同感だ。しかし放って置く訳にもいかん」
 アイレンは振り向きもせず、そう答えると森への細道に駆けて行った。ルビーナは瞬く間に隠れ消えたアイレンの背を見送りながら、途中で飲み込んだ言葉を続ける。
「仇を討てとしても虚しさしか残るまい。同じ自己満足なら過去よりも今……護りたいから妾なりに護るだけなのじゃ」

 昼でも薄暗い森の中、絶対の斬撃・ゼオ(a06130)は荒い息を整えながら汗を拭った。再度辺りを見回すが、捜し求める少年の姿はやはり見当たらない。
「こっちにも居ねぇか。まあユリシアの霊視が期待できないからには仕方ないが」
 ゼオが愚痴をこぼした時、背後の藪が音を立てた。疲労の溜まった素振りも見せずゼオは一瞬で木陰へと身を翻す。乱れていた息も瞬時に平静へと戻っていた。
「驚かせてすまん。俺だ」
 茂みから現れたのは、全身鎧に巨大な盾と剣を装備した完全武装の星騎士・コロッサス(a03242)だった。
「ふう、お前か。グドンかと思って冷や汗をかいたぜ」
 ゼオはそう言いながら隠れた樹とは別の方向から姿を現した。恐らくは言葉と裏腹に、本当にグドンだった時には奇襲掛けられる様な位置取りをしていたに違いない。
「グドン……見かけたのか?」
「いや、村から北を回って見てきたが、あのガキも含めて痕跡すら見付からねぇ。大集団となれば跡ぐらい残ってそうだがな」
「そうか。俺が東を回ってきたから、半分の確率には外れたか……霊視に頼れないのは正直辛いな」
 コロッサスとゼオは出立前にユリシアの元へタキの霊視を頼みに行ったのだが、タキは唯一の手掛かりである、母親の服切れを持ち出しており、彼の行方はようとしてわからなかった。
「幸先悪い事を言うなよ。後は未調査は西と南だな。お前はどっちへ行く?」
 ゼオの問いかけにコロッサスはかぶりを振った。
「俺は村へと戻る。村の防備も心配だからな。少年の事も気がかりだが……それと村からアイレンも子供の調査に出ている。俺とは逆に西から回ってるはずだ」
「ならば俺は南か……お前の言い草じゃないが、最後に俺が見つける羽目になったら四分の一。俺等の運はかなり悪いな」
「先にアイレンが見つけるはずさ」
 軽口を叩くゼオにコロッサスは苦笑で返すと、踵を返して村へと向かった。

 体勢が着々と整う中、ギーはタキの捜索へ向かっていたアイレンの姿を見つけた。
「汝は小僧の探索に向かっていたのではないか?」
「中止だ。状況が変わった。西の森を探索中、先鋒らしいグドン数匹を見かけたんでな」
「ふむ、一気に村へ雪崩れ込むか、それとも夜を待つか、恐らくは後者だろうが」
「さて、どう出るかえ? 緋色の小覇王とやら」
 ギーの言葉に続けたルビーナは、口端を吊り上げる。
「小覇王?」
「うむ、緋布のグドンは、近隣の村でそう呼ばれておるのじゃ」
「グドンが小覇王を気取るとはな。かの名も安く見られたものだ」
 ギーは何かを思い出すかの様に、視線を遠くへと彷徨わせた。 

●謀り合い
 息を潜めたかの様に静まる森の村。篝火が爆ぜる音だけが響いている、コロッサスは小さく鳴った鳴子を素早く手で押さえ、音を消した。目配せを受けてルビーナが梟の鳴き声に似せた指笛で、襲撃の報を広める。
「やはり西からか」
 漆黒に沈む森に恐らくグドンは、無言でひしめいているのだろう。隣にいたアナトイスも、やはりじっと森を見詰めていた。
「出来る事は全てやりました。少年の事は気がかりですが、ゼオ様が何とかして下さるでしょう」
 一方、二人の視線の先、村人とコロッサスが切り倒した樹々の脇には一見茂みにしか見えない樹枝のカムフラージュが有る。
『グドンとボク達の化かし合にゃ、何とか初手は取れそうにゃん』
 愛弓を組み立てながらルビーナの指笛を聞き取ったウィスタリアは、樹枝の間から村と森を交互に見やって、ぼんやりとそんな事を考えていた。グドン達の夜襲に対し、村は篝火が増やされ、あちこちに鳴子が仕掛けられているが、バリケードは村の家々の中。夕刻から用意されたアイレンのスープの香りが流れ、一見しただけでは村が迎撃体勢を取っている様には見えないだろう。枝の折れる小さな音が聞こえ、ウィスタリアは再び森へ視線を戻した。
 いた。数十匹ものグドンが、闇からにじみ出る様に現れる。気味悪い程に沈黙を守りながらも、赤々と燃える篝火を反射する眼だけが狂気を主張している。そして、グドンは咆哮を次々に上げると、村へと殺到した。

 少し時は遡る。夜がふけるに連れて、ゼオの焦りも増している。一度村へ戻ったが、アイレンは見付からなかった事を、悔やみながらゼオへ伝えていた。そして颶風の如く駆けるゼオの足が不意に止まる。前方には数匹のグドンらしい動かぬ影。そして、グドンを伺うように木陰に伏せているのは……恐らくタキだろう。
『こんな所にグドンが……例の別働隊か。それよりあのガキ何をする気だ』
 よく見れば、タキは枝を払っただけの粗末な木槍を携えている。復讐の二文字がゼオの脳裏を過ぎり、心で舌打ちをすると、ゆっくりとタキの後ろへと移動した。だが、運命の歯車は無慈悲に回る。村の方向からグドンの咆哮が響き渡るとグドンの影が動き出し、反射的な事だったのだろうタキは槍を突き出した。穂先は振り返ったグドンの眼床を深々とえぐる。
「馬鹿が!」
 弾ける様に飛び出したゼオが、タキの身体を小脇に抱え、一気にグドン達の前を駆け抜けた。
「離せ、村の皆の、母ちゃんの敵を討つんだ」
 ゼオは腕の中で暴れるタキの頬を叩く。
「夢見てんじゃねえぞ、てめえみてえな弱っちいガキにはグドン一匹殺れやしねえんだ」
 ゼオの言葉通り、グドンは目から鮮血を流し、痛みに叫んでいたが死んではいない。それどころか、集団となって逃げる二人を追い始めたのだった。
「悔しいか? だがな、てめえが死んだら、命を引き換えに守ったお袋さんはもっと悔しむだろうな」
 ゼオの言葉にタキはようやく黙り、暴れる事を止めた。そして、ゼオは枝に仕掛けられた鳴子に繋がる紐を見つけると、手刀を一閃。枝ごと切り落した。

 夜襲に慣れたグドン達であったが、この夜戦は勝手が違った。村へ突入しようにも、無造作に倒された樹々や、切株が薄暗い足元をさらい、自然と速度が落ちる。逆に戦いの口火を切ったのは、グドンではなくウィスタリアの放った一本の矢だった。虎の子の弓兵が喉を貫かれ、声も無く崩れ落ちる。
 姿亡き射手の存在に戸惑い陣形を崩すかに見えたグドン達だったが、緋色の布で身を飾るグドンが怒号を放つと、鉄の規律を取り戻し、再び進軍を開始する。そして村を目前としたグドンの前に、ハルバードを掲げた男が立ち塞がった。
「人には矜持という物が有るのだ、いつまでも黙っていると思うな」
 穂先は横一文字に銀閃を生み出すと、その延長上のグドン達の首は血煙を残して虚空へと飛んだ。そして、ソルトムーンの斬撃の隙を埋めるかの様に、光杖がグドンの前衛を蹂躙する。
「例え命令に従ってやったにせよ、罪は償わなければならないかも知れませんね」
 まだ発動の余韻の残る紋章の後ろで、アナトイスが呟く。グドンの前衛部隊が足止めを食った形になり、前進を続ける両翼が前線へ張り出してきた。必然的にリーダーを含む前衛は、後方へ下がる。
「ふむ、確かにグドンにしては中々……だが、指揮はどうであるかな?」
 唸りと共に打ち込まれたウインザルフの一撃に、グドンが命を絶った。
「殺戮は……俺達を殺ってからにして貰おう」
 怯える村人達にも聞こえるかの様に、グドンに負けぬ劣らずの剛声を発したコロッサスへ、前線から退いたソルトムーンが声をかけた。何故か穂先には討ち取ったグドンの首を串刺しにしている。
「懸念していた別働隊が現れた様だ。ここは貴殿に任せる」
「分かった。行け……剣の重さは命の重さ。貴様等に耐えられるか」
 声高に宣言した偉丈夫の盾が飛び来る矢を弾いた。

 ソルトムーンとゼオが無事合流すると、ゼオはタキを後ろに庇い後退を止め、二人はグドンと対峙した。
「将は既に鬼籍に入ったぞ。貴様らも後を追うが良い」
 高々と上げられた槍先には、血染めの布が巻き付けられた首級が突き立ち、ソルトムーンの言葉は分からずとも、その意は汲んだようだ。十匹程のグドンは、偽の首級にうろたえ逃げ始める。そして数では圧倒的に勝っているはずのグドンも追撃の末、血の池に沈むのだった。
「ふ、所詮はグドンか。本隊の方もそろそろ……いやまて、貴殿を追ったグドンはこれだけか?」
「三匹位は途中で仕留めたがな」
 頷くゼオに、ソルトムーンはうめく。霊視情報と目算からしては、この別働隊の数は少なすぎたのだ。
「ぬかったわ!」


「邪魔だ。無の彼方まで堕ちろ」
 アイレンのニードルスピアがこじ開けた陣に、血脂に濡れた戦斧を振りながら夜叉の如く突き進むルビーナは、ささやかな感傷を思った。
『人を襲う意思と恐怖で縛る術を共に持ったのが運の尽き……じゃのぅ』
 数が多くともグドンはグドンである。奇しくも陣形が守り硬くなろうとも、強力な冒険者と、その戦術の前にグドンの数は減り続けた。冒険者側も生傷が絶えなかったが、アイレンの放つ回復光もあり、優勢は崩れようにも無い……誰もがそう思っていた。
「なんにゃ?」
 狙撃に徹していたウィスタリアは、耳に届いた鳴子の音に首を傾げる。そして直後、村から悲鳴が上がった。無警戒だった北森から五匹程のグドンが現れていたのだ。
「別働隊は一つでは無かったのか!」
 今まさに緋色の布を捉えたギーが声を上げた。アイレン、アナトイスが向かうが、グドンは死者を出しバリケードに阻まれながらも、村への侵入に成功した。ギーの剣が緋色の頭を断ち割ったその瞬間の事である。
「友の名を汚した事を冥府で詫びて来るがよい」

●燃ゆるもの
 全てのグドンが骸の山へと姿を変えていた。別働隊が意図して動いていたのか、それても偶然はぐれたグドンがあそこに現れたのか。知る者は既に居ない。将を失ったグドンは壊走するが、ウィスタリアの影縫いの前に足止めされ、一匹残らず殲滅された。
「ミイラの退治までする羽目になるのはご免だ」
 アイレンは誰に言うわけでもなく呟き、火を掛けるとグドンの血を吸って深紅に染まった切り株へ腰を降ろした。死者こそ出なかったが、村の被害は少なくない。誰もが黙って燃える屍を見詰めていた。
「あのグドン昔、母親を冒険者に殺されたんだろうってこの村の人が言ってた」
 タキが言うには、何年か前に赤い布で着飾ったグドンの親子が、冒険者によって征伐されたという事だった。
「復讐を強いて否定する気は有りません。その権利も有りはしませんしね。逆に可能ならば行うべきだとさえ思っています……ですが今の貴方に果たして可能ですか?」
 アナトイスの言葉に、タキは首を振った。
「何かを為すには力が必要です。ただし腕力だけが力ではありません、技術や生活の知識、そして経験も立派な力です。生き抜き状況を乗越える力、それが本当の強さです」
「その通りだ。どんな窮地でも諦めず、生き抜く力を磨け」
 コロッサスに続いて、ゼオが口を開く。
「強くなりな。そしていつかてめえみたいに命を捨てようとしてる奴の代わりに闘ってやるんだ」
 だが……
「俺はあんた達みたいな冒険者にはなりたくない……俺にはこのグドンの屍と、俺の村の……母ちゃん達の屍との差が分からない」
 タキの顔から子供の甘さが抜け落ち、復讐に染まっていた数日前以上に凄惨な色を秘めていた。
「有難う……力の無い俺の復讐に手助けしてくれた事には感謝するよ」
 タキは二枚の緋色の布を頭に巻きつけた。母の血で染まった物とグドンの残した物。そのまま少年は、一度も振り返らず森へ帰って行く。
「復讐に村を襲ったグドンと、そのグドンを皆殺しにした私達の差ですか……グドンもまた一つの命でしたね」
 アナトイスは、ぽつりとそう洩らす。惰弱な人道主義に違い無いのだろうが、誰も二人の言葉を否定出来なかった。


マスター:さいもん 紹介ページ
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作成日:2004/05/30
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