【Dark Card】18、The Moon



<オープニング>


●一節
 ねぇ、見てよ。
 今夜も月が綺麗でしょ?

                      ――――小説『月光』より

●討伐依頼
「つー訳でー」
「どーゆー訳だ」
 何て毎度芸も無い。
 突っ込むだけ馬鹿馬鹿しいンだけどね。野暮だ野暮。
「お仕事っす」
「ああ」
「毎度の事ですが、モンスターが現れました」
 ピーカン霊査士・フィオナ(a90255)は言う。
「黒のカードの十八番。混沌と不安定の化生。銀色に輝く悪魔っすよ」
 彼女は、言ってから苦笑いをした。
 或いは、『月』、『銀色』に何か思い入れでもあるのだろうか。それは、少しの自嘲にも見える。
 まぁ、それはそれとしても――
 冷涼と澄み渡った冬の空に、青褪めた月が輝いている。冒険者が抱いたイメージは、ぞっとしない。
「毎度の事ですが、一筋縄じゃいかねぇですよ。
 ヤツは、自身を視認する相手全てに強力な精神異常を誘発します。まぁ、見ずに闘える訳もねぇですから。これは、厄介な事極まりねぇ――不可避の能力と言えるでしょうね」
 フィオナの言葉は、端的でそれから容赦が無い。
 身を切るような寒さに負けぬ、無遠慮な危機だった。

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参加者
求道者・ギー(a00041)
泪月華想・ミア(a00968)
鳳凰の焔剣・オウキ(a08306)
輝銀の胡蝶・ミク(a18077)
光と風のセンリツ・ウィンダム(a19114)
無影・ユーリグ(a20068)
有限と無限のゼロ・マカーブル(a29450)
錦上添花・セロ(a30360)
蝶の傍らで奏でる旅人・ジョアン(a37411)
ふわふわ綿毛のヒヨコ・ネック(a48213)
憩嶺の孤虎・サヤカ(a50175)
落花流水・ソウジュ(a62831)


<リプレイ>

●蒼褪めた月のDark Card
 枯れた丈長の草が広がる冬の草原。
「ふむ、静寂の支配する時か――」
 冷え込んだ辺りには、霜が降り、肌理の細かい粉雪が散り始めていた。
「――この月夜は影を追うには、中々良い」
 低い声で、一人求道者・ギー(a00041)が、溜息に似た声を漏らした。
 立ち向かうべき敵の姿は、時に応じて様々だ。
 冒険者が挑むべき相手は数多く、時にそれは見上げても視界の中に収まり切らぬ竜の巨体であり、暗黒の気配を身に纏った騎士の影である。人間や、半ばまで異形に身を落とした冒険者の成れの果てに出会った事だって、あるだろう。
「前回の太陽モドキと戦った時も思ったのですが、つくづく世の中はバランスが大切ですね」
 無影・ユーリグ(a20068)が、嘯いた。
 今宵、冒険者一同の目の前に在る『それ』は、『前回に似た』球体だった。
 面白い、可笑しいと言ってさえ間違いではないその姿。だが、威圧感は十二分。
「この対極が、上手い洒落なのか、安直なのかは……微妙な所ですけれど」
 季節にしろ、モチーフにしろ、温度にせよ。
 属性は、ユーリグの言う通り、殆ど真逆と言えるそれだったが。
「綺麗な月……
 でも、本物と違って……とても、冷たい……凍える月。
 何故でしょうね? それを、悲しいと、感じます」
 泪月華想・ミア(a00968)の言葉は、半ば独白めいていた。
 淡く光を放つ、冷たい球。冷え冷えとした無感動な悪意を、周囲に撒く似非月光。
「黒のカードの十八番、The Moon。
 どんなに強敵であろうと、人々に害をなすようなモンスターは許せません。お仕置き、ですの」
 落花流水落ちる花は水に流れ・ソウジュ(a62831)の視線の先で、冷然と冒険者達をねめつけている。
「見る者の心を惑わし、その身を凍てつかせるか……
 幻想の中に葬られないように気を付けないとね」
 光と風のセンリツ・ウィンダム(a19114)が、軽く肩を竦めた。
 彼我の距離は数十メートル。戦いには、早いが……出会ってしまったからには、その時は近い。『それ』を倒す心算でここに集ったパーティは退かないし、何よりツキも冒険者を見逃してくれる程、甘くは無いだろうから。
 戦いの前の最後の猶予は、後、何瞬か。
 引き絞られ、蓄えられたエネルギーが爆発する瞬間を待つかのように。
 少しずつ、少しずつ、濃密に死がその濃度を増していく。穏やかな枯れ野を、踏み込み難い死地魔境へと作り変えていく。
「冬の月は青白い透明な光が綺麗で好きなんだけど……
 人を狂わすMoonは空に浮かんで欲しくないねぇ〜」
 だが、爛々と輝きを増すツキにも、気負いは、無い。
 こと、此処に到っては心の準備も十二分。ふわふわ綿毛のヒヨコ・ネック(a48213)の口調は、生来通りののんびりしたそれだった。
「えっと……狂気をやっつけるんですね。打倒まんまるな球、で!」
 邪癖の孤虎・サヤカ(a50175)に頷いて、そんな敵を眺めている。
「……月はやさしく闇を照らすだけでいい」
 防寒具の襟元を正し、鳳凰の焔剣・オウキ(a08306)が言った。
 構えを取る彼や仲間達に応えるかのように、ツキが揺らめき動き出した。
 最早、猶予は無く。留まる事も無く、終着へ向けて加速するばかり……である。
「折角の夜も、月がこうも妖しく煌めいては星が瞬けまい」
 その無粋に、些か辟易し、呆れたような呟きだ。
 その名を裏切るEvanescenceの無骨な白刃を煌かせ、有限と無限のゼロ・マカーブル(a29450)が、薄く笑んだ。
「今宵は、月光をライムライトに死の舞踏を披露しよう」
 そんな気障に、美しく彩られ。禍光に照らされ――幕が開く。

●寒波奔流
 戦いには、セオリーというモノがある。
 高機動を誇る相手への対処、堅牢なる要塞を攻略する為の多角包囲。圧倒的な攻撃力を受け止める防御、各自の任務、役割分担――
 敵は、一見だけすれば、コミカルとも形容出来そうな冷気の球だったが。パーティは、当然、油断しない。
 パーティは、それぞれの職分・能力に合わせて三列の陣形を取っていた。
 前衛が肉薄し、中衛が止め、後衛が攻め守るという寸法である。
「遮る物無き枯れた草原、犠牲者がいないのは僥倖ですが……
 その能力を考えると遮蔽物が無い事が脅威ですね」
 ユーリグの言う通り。幸いにして、かつての熱の球の時と等しく、戦場は開けており、見通しも十分。多数が十分戦うには申し分ない。だが、同時に遮蔽物の無いその空間は、敵の能力を十二分に発揮させるそれであるとも言えた。
 ツキは、自身を視認する者に『狂い』を与えると言う。
 侵略と呼ぶに相応しい精神汚染は、やはり、寄せ手――冒険者を阻む壁となる。
 それは、戦いを始めてすぐに分かった事だった。
「月……その光で……人々を魅了するモノ。時に狂わせ……癒すモノ。
 ですが、かの月(モンスター)が……人を狂わせるだけそれなら……私が癒します……本物の月に……負けないくらい……」
 輝銀の胡蝶・ミク(a18077)の言葉が、満ちた邪気を打ち払う。
 ツキは、輝きの通りに一同の肝胆寒からしめる。真冬の冷涼より尚、凍えさせる。
「では、征くとするかね」
「背筋が凍る思いがするのはきっと寒さの所為ではないですが……
 ……負けません、絶対に!」
 剣風と、ウィンダムの鎧聖を纏い、ギーが動き出す。
 タイミングを合わせるように、枯れ草を蹴り上げ、錦上添花・セロ(a30360)、蝶の傍らで奏でる旅人・ジョアン(a37411)、ミアより、鎧聖付与を受け取ったマカーブル、オウキ等が、続いた。何れも姿勢は、やや低く。速力を意識し、直線で強引に間合いを詰めている。
「行きます――」
 やや後方より、セロの不可視の刃が閃く。
(「どんなに強い敵だろうが俺達が必ず倒す!」)
 内心で吠え、オウキ。更に、マカーブルは、手にした刃を振り切った。
 距離を持ってのサンダークラッシュの一閃だ。
 このツキは、近距離での攻撃者に手痛いしっぺ返しを寄越すのだ。
 だが、多くの場合、モンスターの威力は、歴戦の冒険者達をもあっさりと凌駕する。
 そんな敵を効率良く――正しく撃破するには、多少の危険は想定の内であった。惑わず、戸惑いも無く。ギーが、食い止めんと、電刃の一撃を叩きつけていく。
 余波の威力は小さくなく。そのがっしりとした巨躯が、震える。
「カウンターありはオレみたいな重騎士には遠距離攻撃がない分、厄介な相手なんだよな……」
 気のせいか、辺りの気温まで落ち込んだかのよう。
 近距離全周に強烈に吹き付けた冷気に、ジョアンの表情が少し強張る。
「それでもこのまま放置ってワケにもいかないし――」
 禍光による精神汚染、吹き付ける冷気の反撃を見越して、パーティの編成は、かなり潤沢に回復要員を得ている。短期決戦は一つの手であるが、この場合、パーティは必ずしもそれに拠らない戦略を持っていた。
 ホーリーライトに照らされた戦場に、ネックの癒しの力が降り注ぐ。
「十分気をつけませんとね? こちらが動けなくては困りますもの……」
 ソウジュは、サヤカに鎧聖降臨を施し、
「月は好きですが……貴方は嫌いです」
 邪竜身を展開したサヤカは、得物を振るい、虚無の指先を呼び出した。
 黒く軌跡を残し――爪先が、輝く球体へと伸びる。
 パーティの動きは、事前に用意した戦闘論理に基づいている。動きは迅速。効率的で、隙は無い。だが、そんな攻勢の時間も、決して永続するモノでは無い。
「そろそろ――来るみたいですよ……!」
 中衛のやや後ろ、後衛を庇うような位置で、ミアが警告を発した。
 成る程、飛び退いた前衛達の前に在る薄青の冷気の球は、攻撃に猛りその体躯を膨張していた。
「宜しかろう」
 吹き付ける冷たい威圧の風に、ギーは目を細める。
 そんな彼の口元が、僅かに歪んでいたのは、気のせいだったのか――

●凍結領域
「月の狂気と凍気に囚われないでねぇ〜」
 ネックの祈りを阻むかのように。

 ひゅう――

 軽く、口笛でも吹くかのような音を立てて。
 凍てつき、凍えるツキの魔風が吹き付ける。
 一瞬で体表の熱を奪うそれは、皮膚の水分にすら反応して薄く氷の膜を作り出した。装備の隙間から無遠慮にその中を這い回り、抵抗すら難しい威力を持って、的の生命力を削っていた。
(「……っ、立て直しましょう!」)
 ユーリグは、偏に静謐と祈りを続けている。
 その彼の心に応えるかのように、
「大丈夫〜」
「直ぐに、回復を致します!」
 ネック、ソウジュが支援に回る。
 戦いは、ほぼ想定通りの長期戦の様相を呈していた。
 攻防は、あくまで一進一退。回復は手厚く、冒険者側の落伍もまだ無いが……
 反面、攻め手が十分敵を追い詰めるモノであるとも言い難い。
 ツキの魔力は、タイミングをそれぞれに仲間達を狂わせる。
「……手強いですが、まだ……!」
 ユーリグに加え、このミクも静謐の祈りを紡ぎ続けているが、完全ではない。
 その上、威力と、一瞬の破壊力に勝るモンスターを相手にしようと言うのだから、状況は予断を赦さないそれと言えるだろう。
「月は好きなんだがな……てめぇみてぇのは遠慮しとくぜ!」
 攻め手に加わったジョアンが、護天を従えて上段より斬撃を放つ。
 一閃は、冷気の球を切り裂き、幾らか怯ませた。反撃に吹雪いた冷気に、身を挺した護天が凍てつき剥がれる。殺し切れなかった余波に、彼の表情も自然と強張る。
「その凍てつく身に――この火球は如何かな?」
 幾度か拘束を試みたウィンダムが、ここは好機と攻めに転じる。
 彼が描き出した紋章術が、力を吸い上げ、頭上に火玉を作り出す。オベリスクスピアの指し示す方向――自身と真逆の性質を持つ冷気の玉に、火玉は向かう。

 ごう――

 凍える世界を、赤々と炎が照らす。
 この圧倒的な火力をも、凌ぎ切った凍結の玉に、ウィンダムは軽く苦笑する。
「波状攻撃を――!」
 セロの言葉に応えて、仲間達が続く。
 距離を取っての一撃に終始していたマカーブルが、今度は接近戦の距離へと踊り出す。
「本当を言えばな――お前の様に冷ややかで美しいモノは嫌いじゃないが」
 凍りついた足元の草が、乾いた音を立てる。
「お前の光には、少々品がない」
 真横へ薙いだ切っ先が、彼に僅かな手応えを感じさせた。
 好機に、冒険者は、畳み掛ける。
「行くぞ――!」
 オウキの切っ先が、僅かに後退したツキを掠める。
「止めます。決して、逃がさずに」
 そのツキを縫い止めたのは、構えの姿勢のまま言ったミアだった。
 季節には些かそぐわないが――連なった木の葉の鎖が、ツキの自由を奪っていた。
「この中で非力ですけれども――そんなのでも戦術はあります」
 耐久力に劣る為、完全に距離を取っての攻め手に終始していたサヤカが、今一度、虚無の手を呼び出した。

 ギ――

 何かが軋む音。
 それは、ツキの悲鳴なのか。
 一撃を見舞われた時、ツキの光が奇妙に増した。
 それを縫い止めていた木の葉が、途端に色を失い凍って砕ける。
 その奇妙な全身を確かな怒りに染め、ツキは全周に冷気を噴射した。
「――――っ!?」
 一瞬の出来事。拘束から一瞬で立ち直ったそれは、冒険者が備えるより早く、全員をその威力の内に巻き込んでいた。

●決着
「……大変、だねえ〜」
 回復に努めるネックの呼吸も荒い。
 既に、両者に余力は無い。
 冒険者の攻め手は絶え間無くツキを苛み。
 ツキの度重なる攻撃と、状況の混乱、仲間の落伍はパーティの余裕を失わせていた。
 凍える光にサヤカが崩されたのを皮切りに、一瞬の隙を突かれたミアが倒された。禍光の冷酷は止まる事を知らず、ミクまでもが地に臥している。
 コンビネーションと戦略で戦場を支えるパーティにとって、数を減じる事は、単なる頭数の減少以上に深刻な影響を戦況に及ぼしていた。
 完全な接近戦を果たさざるを得なくなった前衛、中衛の消耗は既に色濃く。回復手の減少は、その状況に拍車をかけていた。
「我祈りを以って平穏を齎さん! 如何なる毒も惑わしも我等を侵す事叶わぬと知れ!」
 ユーリグは、タイラントピラーを従え、凛と叫ぶが。
 もし、彼がツキの魔力に囚われてしまったなら。戦場の天秤は、取り返しのつかない傾きを見せてしまうかも限らない。
 だから――だからこそ、である。
 パーティは、ここで仕掛けた。
 これ以上の消耗が敗北を呼ぶ事が知れていたならば、それは当然の結論である。
「いいようにはさせません!」
 ソウジュの獣の炎が、活路を開く。
「なぜそんな姿になってしまったのか知らんが――いい加減に、眠れ」
 オウキの斬撃が、ツキを切り裂く。吹雪いた凍気にも、彼女は怯まない。
「……僕はそう簡単に惑わされないよ」
 ウィンダムの炎が、今一度空気を焦がし。
「終わりにしましょう……!」
 鋭い刺突と共に、セロが気を吐いた。
「貴方の纏う冷気でも、私達の心までは凍てつかせられない!」
「てめぇの放つ狂気ごと……ブッタ斬ってやるぜ!」
 間髪を入れずに、ジョアンの一撃。
 攻撃が、束ねられている。守勢ではなく、攻勢に。この瞬間、パーティは確かな勝負に出ていた。褪せる銀色が現れるその前に、勝負をつける――方向に。
「汝が魂に幾千万の試練あれ」
 ギーの切っ先に掬われ、氷片が散った。
「さぁ、『希望』という名の星の下、今宵は沈んで貰おうか」
 踏み込んだマカーブルの斬撃と、ツキの揺らめきは、ほぼ同時……。

●ツキノヨル
「……同じ月でもヤッパリ本物の月はとても綺麗ですわ……」
 ソウジュが、白い息と共に呟いた。
 儚くも鮮烈な印象を残したあの冷たいツキ。
 紙一重の戦いは、本当のすんでの所で冒険者に軍配を上げた。
「散りゆくは、美しき幻の夜にかね……魂に安らぎが訪れんが事を」
 平穏を取り戻した草原の夜に、印を切ったギーの呟きが漏れる。
 面々の消耗は色濃く、浅くない傷を負った者も多いが……
 あの凍結のツキを二つに割ったマカーブルの一撃は、そんな彼等に報いるモノにもなっただろう。
「おやすみなさい……凍える月。
 どうか……次は、暖かな月の下、安らかに過ごせますように……」
 何をとは、言わない。オウキの手をぎゅっと握って、ミアは言った。
 そんなミアの手を優しく握り返し、オウキは、穏やかに微笑んだ。
 戦いは、終わった。草原に、もう偽のツキは昇らない。
(「我が君、我が師……もう居ない、もう逢えない。
 なのに夜、月明かりの中にあなたが居る気がしていた……」)
 嘘の月夜の名残は、小さく嘆息したマカーブルに、僅かな感傷を残すばかり。


マスター:YAMIDEITEI 紹介ページ
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