ミッドナーの闇鍋大作戦



<オープニング>


 とある酒場兼宿屋、酒樽亭。
 あんまり客はいないが潰れる程ではない程度の店である。
「相変わらず、お客居ませんね」
「ええ、昔よりはマシなんですけどね」
 夜闇の霊査士・ミッドナー(a90283)と酒樽亭のマスターは、そんな会話をする。
 比較的静かなのが好きなミッドナーとしては大歓迎なのだが、不謹慎なので言う事は無い。
「やっぱり、流行を先取りしていかないと駄目かなあ、とは思うんですがね。やはり美人のメイドとかが要るんですかねえ」
「協力しませんよ」
「あ、期待してません」
「どういう意味ですか?」
「いえ、深い意味は……」
 睨むミッドナーと、目を逸らすマスター。たっぷり5分くらい続けた後、汗だくになったマスターが口を開く。
「えーっとですね。イベントとか催そうと思ってるんですよ。まだ寒いですし、闇鍋……とか」
「無残な結末しか予想できませんが。それでも宜しければ止めはしません」
 トゲトゲしいミッドナーから視線を逸らしつつも、マスターは食い下がる。
「ええ、そこでですね。強靭な冒険者の皆さんを対象にしようかなー、とか思っちゃったわけでして……」
「鍋なだけに、私をダシにしようってわけですね」
「いえ、そんな……」
 明らかにギャグが混ざっているのに、ツッコミすら許されない雰囲気である。
「ミッドナー、そんなに虐めちゃ可哀想なんだよ?」
 さすがに見かねたのか、近くでやり取りを眺めていトレジャーハンター・アルカナ(a90042)が口を出す。
「闇鍋、楽しそうじゃない。ボクは絶対参加しないけど」
「……フォローになってないぞ」
 隅っこで酒を飲んでいた緑色の服の男が突っ込みを入れるが、軽くスルーされる。
「で、ですよね。とりあえず初回なので、食材持込自由という形で色々と可能性を模索してみたいんですよ。それで良くも悪くも話題になれば、お客の増加も……あるかなー、と……」
 そこまで言って酒樽亭のマスターは、ミッドナーに視線を合わせる。
「……まあ、そこまで言うなら協力しますけど。本当に責任持ちませんからね?」
 相変わらずジト目であったが、ミッドナーはため息をつきつつ答えるのだった。

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参加者
NPC:夜闇の霊査士・ミッドナー(a90283)



<リプレイ>

「今年は挑戦の年! という事で、遅ればせながら依頼以外での今年の初挑戦だ!」
 業の刻印・ヴァイス(a06493)の咆哮が響く此処は酒樽亭。今、まさに闇鍋が行われようとしている場所である。
 各人、食材は鍋に放り込むまで隠しているのが今回のルール。それぞれ、持ってきた食材を放り込んでいる。
「なに入れようかな……。そうだ!」
 嵐と共に進みゆく・ヴィナ(a09787)のように直前に酒樽亭の調理場を借りて食材を用意している者もいれば。
「タイラントピラーで如何にかなるかな? なるといいなぁ」
 すでに防御前提の紅瞳の月閃・シェード(a10012)のような者も居る。
「呼ばれて飛び出てミニチュア・アップルパイ! メイヨウ様お誘いのもと、ぐつぐつおいしい鍋パーティーに参加すべく参上仕りましてございます! 鍋っ!」
 蜜柑を手にした妄言箱・ミニチュア(a35310)の声に答えるのは、やはりテンションの高い白銀疾風・メイヨウ(a43559)。
「拙者の心に不退転あり! メイヨウ・クローバー、参るでござる!」
 更にそのメイヨウを誘ったのは堅牢の灰色・キリア(a71164)であったりするのだが。
「楽しみだなぁん」
 何やら企んでいるのか、怪しげに目を光らせている。
「去年食べた闇鍋以来、闇鍋好きになっちゃったのよ。もちろん、今回もすでにこの身は覚悟完了ッ!」
「可哀想に……きっともう戻れませんよ」
 何やら覚悟に水を大量に差す会話をしているのは、神音の旋律・ソカ(a57808)と夜闇の霊査士・ミッドナー(a90283)だ。
 かと思えば、やってきた彩雲追月・ユーセシル(a38825)が何やら真面目な顔で語り始める。
「料理で博打は打たない主義なんだけどね。まぁ美人のメイドがいるって言うし参加するしかないかな」
「初耳ですが」
「え? メイドいないの? いやいや暗くして明るくなったらミッドナーとアルカナがメイドに変わっているサプライズだよね」
「残念ですが」
「信じろ信じれば叶う。ダメなら脳内補完で」
「用意はしてありますよ?」
「脳内補完の?」
「そこでボケますか」
「ミッドナー殿お久し振りなのじゃー!」
 何やらボケの垂れ流しのような会話が光纏う黄金の刃・プラチナ(a41265)の抱きつきで中断された中で、すっかり鍋の用意が出来た様であった。
 部屋の明かりが消され、辺りが真っ暗になる。
 響くのはフクロウの鳴く声と、鍋の煮える音だけ。
「掴んだモノは絶対喰うぜ! ソレが闇鍋の絶対ルールっ! オレが選ぶのは……コレだっ!」
 神ノ手ヲ振リ払イシ・ラキ(a61436)がつかみ出したのは、よく沼とかで見る水棲生物。
「……蛙……が出てきたんだが」
「……頑張ってください」
 話を振られた再生の銀翼・カラン(a71104)は、そう答えるしかない。何しろ次は自分の番だ。
 声無きラキの悲しみの声を耳にカランが引き当てたのはウドン。
 何やら太くて長いが、まともな食材である事は間違いない。
「…うん、美味し……うーん」
 色々なものが混ぜられた出汁が妙な成分でも出したのか、ウドンは何やら妙な味に染まっている。
 苦いような甘いような、何やらクリーミーなような。
 まともな食材を引き当てた事は間違いない。
 しかし、これがウドンの味ではない事も間違いない。
 あえて言うなら、何か新種発見的な何か。
 噛めば噛むほど遠い何処かへ旅立てそうな。
 カランはその日、魂の真理が理解できそうだったと語ったという。
「ランララ祭の翌日に闇鍋ってカオスでいいね。丁度彼女いないし」
「看取ってくれる人もいませんけどね」
 真澄の赤髪・マルフィ(a71102)がそう言って鍋に箸を入れようとすると、我関せずな態度をとる漢・アナボリック(a00210)をグイグイ押し出そうとしていたミッドナーが、そんな不吉な事を口にする。
 非常に余計なお世話極まりないのだが、事実は事実。お互い様だが。
 しかし、その言葉が多少の動揺を招いたか。突っ込まれた箸の選び出したものは油揚げの袋に入った納豆のようなもの。
「いや……待って……何この粘り……」
 そう、袋が破れて出てきたその納豆は納豆にあるまじき強烈な粘りをもって、箸にゾロリネチャリと絡み付いている。
 まさか自分の入れた誤汁が他の具材と合わさって奇妙な物質へと進化したのだろうか。
 そもそも、こんな粘り蜘蛛糸みたいなものが食えるのかどうか。
 いや、それでも食べなければならない。ワイルドファイア育ちの意地がある。
「スープの香りは非常に良いのですが……不安で堪りませんわ。皆様の食材、何やら動いている物もございませんでした?」
「まあ、悪戯心をたっぷり詰め込んだ食材をねじ込んで、引いたやつをノックアウトするのが醍醐味と聞いたことがあるしな」
 暁天の修羅・ユウヤ(a65340)の言葉に樹霊・シフィル(a64372)は不安そうに首を振ると、箸を差し入れる。
 掴みだしたのは……良く煮えた長靴。
「だ、誰ですの……こんな物を入れたのは……」
 そういえば自分だった。自業自得とはこの事か、食材ですらない。
 こっそり土塊の下僕を呼び出そうとして、肩に手が置かれる。
 その手は、キリアと、ヴァイスと……何やら凄くマッチョな手。
「イカサマは駄目なぁ〜ん」
「……だな」
「まあ、そんなわけでして。オシオキ部隊です。野郎ども、出て来い!」
 どうやら、最後の手はオシオキ要因だったらしい。
 何やら暑苦しい気配がゾロゾロ出てくるのが見える。
「そおれ、シフィル殿を胴上げじゃあ!」
「マッチョ、マッチョ!」
「メイド、メイド!」
 よく判らない叫び声が響くが、後日シフィル曰く。
 マッチョの男メイドによる胴上げは、少々精神衛生的に辛かったそうである。
「同盟の文化の一つに闇鍋があるって聞いたなぁ〜ん……食べ物だから、絶対に美味しく食べれる筈なのなぁ〜ん」
「そのはずなんだがな……せめて無事に生還できるといいのだが」
 めざせ鉄壁ノソリン・ニノン(a64531)とピースメーカー・ナサローク(a58851)は、互いに溜息をつく。
 ニノンの掴んだものは青い揚げ出し豆腐。
 ナサロークの掴んだものはエリンギであった。
 一見まともそうだが、油断はできない。
 何しろ、出汁からしてまともではない。
 ナサローク自身、草セットを入れてしまっている。今頃は存分に出汁となって煮えているはずだ。
「ぐっ……ああ……母さんがおいでおいでして……ゲフー」
 何やらどんぐり大の実をこりこりと食べている銀月清吟・ギルバート(a64966)の姿が、更に不安を加速させる。
「……大丈夫か?」
「あ、アナボリックさんだ〜♪ ……なんで5人いるんですか?」
 台詞を聞くに、かなり駄目そうだ。
「作られた食べ物はたとえどんなでも食べるのが礼儀なぁ〜ん!」
「……ここは被害を最小限に抑える事を考えよう」
「……おなかにはいっちゃえば、一緒なのなぁ〜ん」
「かもしれないな」
 意を決したニノンとナサロークは、食材を口に入れて噛む。
 桃源郷へと連れて行かれそうな不可思議な味に頭痛がしつつ、それでも飲み込む。
 どうやら、問題は食材よりもスープにありそうだった。
 そのスープの原因といえば、やはり食材であったりするのだが。
「こちとら腐っても冒険者、一度掴んだもんは潔くキッチリ頂かせてもらおうじゃねえか」
 天魔伏滅・ガイアス(a53625)がつかみ出したものは、カボチャ1個丸ごとであった。
「……なんで中身だけ溶けてんだよ……」
 中身がスカスカで、代わりに出汁のスープがたっぷり詰まったカボチャは、まさにこの闇鍋を象徴しているかのようだった。
「苦甘辛臭酸っぱしょっぱいな……」
 よく判らない感想を漏らし、前のめりに倒れるガイアス。
「でもぉ、このぉ、墨色というぅ、鍋のぉ、出汁はぁ、イカ墨でしょうかぁ」
 吟遊詩人・アカネ(a43373)は、ユウヤを膝枕しているプラチナに何となく目をやりつつ鍋に箸を入れる。
 何やらプラチナに「あーん」で妙なものを食べさせられたようだが……まあ、それはさておき。
 掴みだしたのは色んな色に染まった大根。たぶん、色の染まり方はスープのせいだろう。
 薄めの輪切りが災いしたか、たっぷりスープがしみこんでいる。
 唯一の救いは、食べやすそうな事か。
 声無き悲鳴が響き続け、闇鍋はすでに3周目に突入している。
「オイシー、オイシー。アーオイシー、ゲッゲッゲッ」
 ミニチュアの不気味な笑い声が響き。
「おーけー、おーけー、大丈夫。ぐふう」
 やめておけばいいのに、スープを飲んだシェードが倒れてうわ言を言っている。
 好奇心猫を殺すというが、今回は好奇心シェードを殺したようである。死んでないが。
「馬鹿な……これが……苺だと……」
 床に残された力で「いちご」と書き残すヴァイス、うっかりそれを蹴飛ばしてしまうヴィナ。
「わっ……ごめん!」
「ぐふぁ」
 完全にオチたらしいヴァイスを揺らすヴィナ。たぶん今頃、ヴァイスは酷い船酔いの夢でも見ていることだろう。
「カオスになりすぎた味を軌道修正……できるのかしら?」
「デッドになら出来るんじゃないか?」
 ソカの言葉に答える姫椿の鐘楼守・ウィズ(a65326)。比較的無難な食材を引き当ててきた彼等でさえ、すでにかなりのダメージである。
「しかし、なんて恐ろしい鍋。今日は漢休日(かんきゅうび)していいか」
「いいんじゃないかしら」
 流されて、少しヘコむウィズ。それにしても、死屍累々である。
 下手に動けばマルフィかキリア辺りを蹴飛ばしそうである。
「あ、もう中身がないですね」
 カランの言葉に、酒樽亭がざわめく。やっと終わったか。そんな空気である。
 明かりがつけられると、死屍累々だった者がよろよろと起き上がってくる。
「おつかれさまでした、皆さん……次からはもうちょっと私に被害が及ばないように考えましょうか」
 真顔でロクでもない事を主張するミッドナーに、乾いた笑いが響く。
「で、メイドは?」
「いますよ、ほら」
「男メイドでござる」
 出てきたのは、メイド服のメイヨウ。
 全ての力を使い果たして崩れ落ちるユーセシルと、飛び交う箸。
「痛い、痛いでござる!」
 箸や器で埋もれたメイヨウをそのままに、今日という日を戦った勇者達は、酒樽亭で静かに眠りにつく。
 胃がもたれて苦しむ声を聞くに、あまり良い眠りではなかったようだが。
 ……余談ではあるのだが。ミッドナー用のメイド服は、本当に用意されていたとか。
 しかし、それも今は通り過ぎた過去の事。
 今はただ、勇者達の胃に祝福よ、あれ。


マスター:じぇい 紹介ページ
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作成日:2008/02/17
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シュヴァルツェ・キリア(a71164)  2009年08月31日 00時  通報
時効と思ったので告白をなぁ〜ん…。実は蛙を入れたのは自分ですなぁ〜ん…。